前世魔王だった俺は、前世勇者だった奴に狙われています。

志子

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前世魔王だった俺は、前世勇者だった奴に狙われています。

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 ども。前世魔王だった俺です。
 おい、やめろ。そんな「うっわ……」みたいな痛い人を見るような目でこっち見んな。

 ひとまず聞け。あ、いや聞いてほしいです。
 今朝、洗面所で歯を磨いていた時に「あ、俺って勇者に倒された魔王じゃん」って思い出したんだよ。
 思い出し方雑とか思うな。俺も思ったけど。

 あ、ご存知かと思うけど魔王とは、ファンタジー系のゲームや映画や小説に出てくる人間の世界を脅かす悪です。主人公……勇者の敵キャラです。ラスボスです。

 え?鏡を見ろって?
 うん、そうだよな。俺の容姿見れば言いたくなるよな。
 安心しろ。俺もそう思っている。

 身長百五十三センチに、もやしのような細っこい身体。そしてモブ顔。
 ちなみに今年の春、高校生になりました。
 
 こんななりで前世魔王でしたなんて言ったって「妄想乙」ってなるよな。

 確かに前世の俺といったら……。
 青い皮膚にぶよぶよの肉だまりのような身体、うごうごと蠢く触手、耳まで大きく裂けた口に鋭い牙。
 あ、ちなみにこれ初期段階の俺ね。
 そこから段階を踏んで肉だまりの身体がムッキムキな巨体になって、しっぽや角が生えたり、蝙蝠のような羽が生えたり、弱点ほぼなしの光属性以外のスキルで全体攻撃しまくり。

 え?想像と違う?ああ、最近のファンタジー世界の魔王ってイケメン多いよね。くっそ羨ましいぞ。ちくしょう。
 だが残念。それが魔王だったときの俺の姿だ。
 まあ、最後は勇者に心臓突かれて死んだけど。
 あの世界は平和になっただろう。
 勇者よ、ヒロインと幸せになってくれ(ヒロイン知らねぇけど)。
 俺は一人の人間として、別世界地球の日本という国で慎ましく暮らしていきます。

「今日からこのクラスの一員になる一ノ瀬だ。みんな仲良くやれよ」
「一ノ瀬ノアと言います。よろしくお願いいたします」

 勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!

 教壇に立っている先生の隣にいる転校生・・・・爽やかな笑顔で自己紹介をする金髪青目のイケメンに俺は心の中で絶叫した。叫ばなかった俺、えらい。

「一ノ瀬、お前の席はあそこだ」
「はい」

 は?嘘?なんで?
 だらだらと冷や汗を滝のように流す俺。
 勇者も転生したのか?
 いや、落ち着け。
 勇者も転生したとは限らない。勇者の空似だ。それに俺は前世とはかけ離れた姿をしてい……。

「……………ナ、ナニ?」

 なんで転校生は俺の所で立ち止まって俺を見下ろしているんですかね?!

「あ、ごめん……。知ってる人に似てたからつい……」
「……ハハ、ソウデスカ」

 「ごめんね」と転校生は再度謝って俺の横を通り過ぎ、そして……俺の後ろの席に座った。
 
 うがぁぁぁ!よりにもよって後ろの席だなんて!
 
 いや、俺の苗字が安住だから順番的に後ろになるのは分かる! 分かるが! 勇者のそっくりさんが来るのならせめて間に! 転校生との間に! 誰かいて欲しかった!安斎とか! 安藤とか! 俺の精神のためにも!
 さっきまで呑気に周りと「どんな奴だろうなぁ」と言っていた俺を殴りたい!
 
 あああああ! どうか! どうか! 転校生が勇者でありませんように!!!!!

 必死に心の中で祈る俺は知らない。
 転校生がじっと俺のことを見ていたことを。

 *****************

 ああ……死んだ。
 精神が。
 転校生……いや、一ノ瀬が次の授業はどこまで進んでいるのとか、校内を案内してほしいとか……。やめろ。頼むから他を当たってくれ。
 ……まあ、校内の案内は女子たちがやってくれた。一ノ瀬がイケメンで助かった。

「安住君、少しだけ付き合ってほしいんだけど……いいかな?」

 放課後、逃げるように席を立とうとしたら一ノ瀬に止められた。ひぃぃぃ!

「……ド、ドコニ?」
「すぐそこだから」

 そう言って一ノ瀬は席を立ち鞄を持つと、不意に俺のほうに屈んできた。

「安住君、魔王だよね?」

 あ、詰んだ。

 一ノ瀬もとい勇者に連れていかれた先は別館の資料室。もう道中俺はドナドナ気分だったよ。……って、なんで転校生のお前が資料室の鍵持ってるの!? 怖いよっ!

「資料室に教材を取りに行きたいですって言ったら貸してくれたんだよ」

 俺の心を読むなっ! ってかそんなすんなり借りれんの!?

「んー……前世のスキルが残っていてね。その一つが魅了なんだ」

 勇者が魅了って!? こわっ! ってかなんでスキル持ってんの!? まさか魔法もっ! あと俺の心を読むな!? はっ! まさか心を読め……。

「魔法は流石にないよ。あと安住君の表情が分かりやすぎるだけ」

 え? まじで? ダチにはよく表情死んでるって言われるんだけど。

「そうなの? じゃあ安住君のこと分かるの僕だけか。嬉しいな」

 そんなキラキラオーラ放ちながら笑うな。なんで嬉しそうなんだよ。怖いわ。

「……よく、俺が魔王だって気付いたな。姿も全然違うし」

 おい、鍵を閉めるな。扉の前に立つな。

「一目ですぐ分かったよ」

「へ?」

 一目でって?はい?

「君に色々話したい事があるんだ。座って」

 近くにあった椅子に腰かけた勇者が、自分の隣にある椅子の座板を軽くぽんぽんと叩いた。
 攻撃してこねぇよなと俺が疑ってると、勇者がふはっと笑った。

「君にそんなことしないよ」

 いや、前世でめっちゃ攻撃してきたじゃん!ってか心……いや、俺の顔に出ていたのか? 分からん……。自分の頬を両手でむにむに触った。うーん自分でも表情ねぇなぁって思っていたんだが。

「それ狙ってやってるの?」

「は?」

 狙ってる? 何が? はっ! 俺が勇者の命を狙ってるって誤解してるっ!? 狙ってません!! 誤解です!

「まじか……。耐えられるかな」

 いや、何怖いこと呟いてんの。やめてよ。怖いよ。逃げたいよ。

「逃げてもいいけど、秒で捕まえる自信あるよ?」

 ごめんなさい。逃げません。そんなさやかな笑顔を浮かべながら獲物を狩るような目でこっちを見ないでください。

「えっと、お邪魔……します」

 俺はびくびくしながら椅子に腰かけた。かなり逃げ腰な体制になってしまったが許せ。

「で、話って?」

「あっちの世界の話。君を倒した後の話なんだけど……」

 そう言って勇者は語り出した。
 そして……。

「まじかぁぁぁ」

 勇者の話を聞いた俺は頭を抱えた。
 まず、魔王だと思っていたは俺は元はただの一人の平民だったという。
 勇者の仲間の白の魔導士が魔王城の地下に刻まれた魔法陣を破壊したら、魔王が支配していた”呪いの大地”一帯が普通の街並みへと変わり、倒した魔族も全員人間の姿に戻ったという。
 もちろん生存者なんていない。

 さらに衝撃的なのが、魔王と”呪いの大地”を生み出したのが、勇者たちに魔王を倒してこい言った王様の祖先、ずっとずっと前の王様だったという。
 いや、正確には王様に仕えたていた魔術師だ。
 その魔術師は禁忌とされている黒魔術で色々やばいこと・・・人体実験など・・・をやっていて、偶然”呪いの大地”を生み出して、そのせいでそこに住んでいた人たちは全員魔物になってしまったという。
 中でも俺は黒魔術と相性が良かったせいで魔王と言う名の怪物になってしまったそうだ。

 そんなやばい状況を知った王様はというと……。
 寧ろラッキーだと思ったらしい。おい。

 なんせその当時は増税による増税で民の不満は限界まできていて、いつ爆発してもおかしくなかったという。
 そんな最中で突如姿を現した俺たちの存在は、民の意識を反らすのに都合が良かったのだ。
 魔術師の精神魔法によって操られた俺たちは、森に出現したり、時には村を襲ったりしていた。
 国はパフォーマンスとして時折、傭兵や騎士団と使って魔物狩りを行った。

 それを代々続けていたらしい。く、腐ってやがる……。

 そんな中神殿に一つの信託が下ったという。

 それが勇者だった。

 その信託を知った人間……王に対して密かに疑念を抱いていた一部の貴族と神殿の一部……が、当時まだ赤子だった勇者を見つけて保護し秘密裏に育てたという。

 ちなみに神殿の大半の人間は国の裏事情を知っていたみたいだ。賄賂か?
 奴らとって勇者はなんとしてでも消したい存在。
 奴らに見つかる前に保護されて良かったな。勇者よ。
 
 で、育った勇者に魔物討伐を行わせ、大体的に世にその存在をアピールしたのだ。
 悪の根源である魔王を倒すことが出来る人間が現れたことに民たちは歓喜。勇者を心から歓迎した。
 勇者の魔王を倒す宣言に国はその必要はないとは言えず、「魔王を倒してこい」と勇者一行を”呪いの大地”へ送り出すことになった。

「旅先で遭遇した魔物より、僕らを消そうとした人間のほうがずっと多かったよ」

 にっこり笑う勇者。笑顔が怖い……。と思ったら勇者の顔がかげった。

「……国が”呪いの大地”と深く関わっていたことは知っていた。でもまさか僕らが倒していた魔物が元々人間だったなんて思いもしなかった……」

 それは……まあ、うん。仕方がないと思う。知らなかったんだから。
 正直あなたは元は人間でしたと今さら言われても、数百年魔物だった俺にはもう人間だった頃の記憶を思い出せない。
 だけど。

「あー……その……だな、お前が生まれてこなければ、俺はきっとその先もずっといいように使われていたと思う」

 ああ、だからか……と俺は勇者に心臓を貫かれたあの時の感情の意味をやっと理解できた。

「お前に心臓を貫かれた時、あの瞬間やっと解放されるって思ったんだ。なんでそう思ったのか分からなったけど、お前の話を聞いてやっと理解できた」

 あの時僅かだかかつて人間だった頃の俺の感情が出てきたんだろ。
 俺は勇者を真っ直ぐと見た。もう勇者が怖いという感情はなかった。

「俺を……いや、俺たちを解放してくれてありがとう。勇者」

 俺はへらりと笑った。笑えているかどうか分からないが勇者には伝わっただろう。
 気づけば勇者に思いっきり抱しめられ……あだだだだだっ!
 しめ過ぎ! しめ過ぎだ! 苦しっ! 骨折れる! 死ぬっ!
 俺はバンバンと勇者の背中を必死に叩いた。

「ごめん……身体が勝手に……」

 勇者の腕から解放された俺はぜーはーと肩で息をした。まじ死ぬかと思った。……って、なんで勇者顔赤いんだよ。あと肩から手を離してほしいんだが。傍から見たら誤解されるぞ。

「えっと、……君が消えてしまいそうで……」

 いやいや、消えねぇから。寧ろ一瞬お前に消されそうになったわ……。

「その、あの時は……この想いを告げられずに終わってしまったから……」

 うん?
 
「だから君を見つけた時、間違いなく運命だと思った」

 はい?

「君のことが好きだ」

「はい??」

「あの時、元の姿に戻った君に一目惚れしたんだ。だから安住君。結婚を前提に僕と付き合ってください」

「はいいいいいいいいいっ!!!????」



完。

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