前世魔王だった俺は、前世勇者だった奴に狙われています。

志子

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前世魔王だった俺は、前世勇者だった奴に狙われています。2

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「………最近思ったんだ。俺、一ノ瀬ならいける!」

 何がいけるだ。いくな。やめろ。絶対黒歴史になるぞ。いや、言ってる時点で黒歴史だ。 

「分かる。最初はいけ好かない奴だと思ってたんだけど、こう………なんだろう、エロい……!」

 分かるじゃねぇよ。身長百九十センチ越えの人間に対してエロいってなんだよ。

「ああ、体育の時、裾からちらりと見える脇が………」 

 体育の時やたらみんな挙動不審だと思ったらお前ら……。

「あいつ汗かいても臭くないし、寧ろフローラルな香りしね?」

 洗剤の匂いだから。フローラルな香りの汗なんてしたらもはや人間じゃねぇよ。

「ああ、するする!」

 するするじゃねーよ。てか、何が悲しく同じクラスの野郎どもの黒歴史まっしぐらの会話を聞きながら昼飯食わなきゃなんねーだよ。屋上の出入口の影で。隣に勇者いるし。

 いや、そもそも屋上にクラスメイトと俺と勇者しかいないっておかしくね? 普段はそこそこ賑わっている場所だぞ? なんで最近ガラガラなんだよ。お陰で奴らの声が丸聞こえだよ。絶対俺らがいるの気づいてねーよ。頼むから誰かいるか確認してから話をしてくれ。あとで悶絶するぞ。
 勇者も勇者だ。なんで何事もないような顔で飯食ってんだよ。ハッ! まてよ? まさかクラス全員に魅了スキルをっ!?

「僕の魅了スキルは単体だよ。それに前世でもよく言われてたから今更って感じかな?」

 声を落として勇者が言った。俺の心を読むな。って違うな。表情筋が死んでいるのに、なぜか勇者にだけは駄々洩れなんだよな。何かの呪いかな?

「え?  前世でも?」

 思わず聞くと勇者がにっこりと笑った。まったく目が笑ってません。前世で悪事を働いていた国がどうなかったか聞いた時もこの笑顔でした。もう前世について聞かないことにしよう! そうしよう! 勇者の笑顔怖いっ!

「それよりいいもんだね。恋び「ダチなっ‼」……とこうやってのんびりご飯を食べるのは」

 言わせねーぞ。絶対言わせねぇーぞ。俺は勇者を睨むが勇者はくすくす笑うだけだ。は、腹立つわーこいつ。

 一ヶ月前。
 前世魔王だった俺は前世勇者だった一ノ瀬と衝撃の再会を果たし、勇者から前世の衝撃の事実……世界を脅かす魔王と魔族たちは元はただの人間で、勇者を送り出した国がすべての元凶だったという……を聞かされ、さらに勇者に告白されるという衝撃を受けた。

 最悪なことに俺の「はい!!!???」という驚きを勇者は肯定と受け取ってしまった。
 『うれしいよ!』と言うそれはそれは花が綻ぶような、女子なら間違いなく即落ちするであろう笑顔(俺にとっては恐怖の笑顔)を浮かべた勇者に、俺は真っ青になって『違う! 違う! 違う!』と首がもげる勢いで横に振った。どう聞いてもイントネーションが違うだろっ!! イントネーションがっ!!

『 OKのはい、じゃねぇ!』

『幸せにするよ?』

 きりっとした顔で言うな!

『俺は男っ! 同性っ! え? まさか前世の俺って女…… でしたか?』

『男だったよ?』

『 ちょ、待て。男の俺に一目惚れしたってこと⁉』

『そう。君は僕の運命の人だった。……まさかあんな形で知るなんてね。あの瞬間、僕は世界を呪ったよ』

 怖い。怖い。怖い。怖い。ガチトーンやめて。周りの空気が一瞬で氷点下になったんですけど。
 え?  マジで呪ってないよね?  ね? ……おいっ! 無言の笑顔やめろっ! こえーよっ! 勇者のことはもう怖くないなんて前言撤回だ! やっぱこえーよ!

『勇……一ノ瀬。冷静になれ』

『冷静だよ?』

 再会初日に、野郎に結婚前提のお付き合いを言い放ったお前の一体どこが冷静だと?

『お前も俺も男だ。結婚は無理だ』

『大丈夫。今はいろいろな制度があるから。なんなら海外行っちゃう?』

 行っちゃう? じゃねぇよ。「ちょっとそこのコンビニにでも行ってみる?」みたいなノリで言うな! あと大丈夫じゃねぇ!

『親が許さんだろ』

『僕の両親なら大丈夫だよ? 小さい頃からずっと僕の運命の人は男で、その人以外の人を愛するつもりはありません、って言い続けていたから』

 うおおおおおおいっ! おまっ! 何言っちゃってんの!? 

『だから心配しないで! 君のご両親も説得させる自信はあるからっ!』

 心配しないでじゃねぇよ! 心配の要素しかねぇわ! そして説得すんなっ! どこにそんな自信があるんだよっ! 勇者だから!? 勇者だからなの!?

『あああああああのなっ!  えっと! そのっ!  そう! お、俺じゃあ、お前と釣り合わないと思うんだ!  ほら俺ってチビだし、地味だし、表情死んでるし! なっ!?』
 
 ……自分で言ってて悲しくなったぞ。でも想像してみろ。イケメン勇者の隣に立つ俺を! 公開処刑もんだぞ! 泣くぞっ! 第一女子が敵になるっ! ぼこぼこにされる未来しか見えないっ! 生まれ変わっても魔王のように倒される運命なのかよっ俺はぁぁぁぁぁっ!!!!

『安住君』

『ひょっ!?』

 度アップ顔の勇者に変が声出た。だって勇者の顔が怖いんだもんっ! なんか知らんけどちょっと怒りのオーラ出てるしっ! ひぃぃぃっ!

『君を貶すことは、たとえ君自身でも許さないよ?』

『ひゃ、ひゃい……』

 じ、事実言っただけじゃぁん……。

『それにさっきも言ったけど。君の表情は僕には分かるんだ……凄くね』

 勇者は言いながら俺のデコや目元や頬に唇を押し当ててきやがった! キスじゃない。断じてキスじゃないっ! 俺は勇者の唇が顔に触れるたびに『ぴぇっ!』とか『ひょえっ!』とか『うひゃっ!』とか、もう情け過ぎる声を上げた。泣きたい。いや、いっそう泣いていいですか? 泣いていいよねっ!?

『安住君、凄く可愛い顔してる……』

 頬を染めるな! 目が猛獣のようでこえーよ! ってか可愛いってなんだよっ! 男に可愛いっておかしいだろっ! 眼科行け! 今すぐ行けっ! そして俺を解放してくれっ! 今すぐ!

『安住君、本当に面白いね』

 どこがだよっ! ちっとも面白くねぇよ! 俺の精神はズタボロのボロ雑巾だよっ! はっ! まさか俺をからかって……っ!

『からかってないよ? キスしようか? なんなら今ここで君を抱い……』

 ぎゃあああああああっ!! 俺は両手で勇者の口を塞いだ。おまっ! 今何を言おうとしたっ!? 何を言おうとしたっ!? いや! 言うなっ! 絶対言うな!!

『ダダダダダダ、ダチ! ダチから! ほら! 俺たちってお互いのことまだ何も知らないわけだし! なっ!? なっ!?』

 ダチならそんなこと起きないよなっ!? お互い知らないのは本当だしっ!!

『………………まあ、それでもいいよ?』 

 間がこえーよ。でもなんとか回避でき………ひょえ!!

『今は、ね?』

 俺の頬から唇を離した勇者は笑っていたが、目が完全にハンターの目。

(泣きたい通り越して気絶しかけたな………)

 フッと俺は遠い目をした。…………………いや、今も現在進行形で遠い目してるがな。なぜかって? 勇者が俺の肩に思いっきり頭預けてるからだよっ! 女子だったらドッキドキのシチュエーションだったろうな。俺にとっては誰かに見つかるのではないかという恐怖のドッキドキだけどなっ!

(相変わらず飯食うのはぇぇ………)

 俺なんてまだ弁当の半分も食ってねぇのに。勇者曰く前世の癖が抜けないらしい。

『旅に出てからずっと暗殺だとか色々あったからね。落ち着てゆっくり食べるなんてなかったから』

 なお、寝ているときも微かな気配で目が覚め、咄嗟に身構える癖も抜けないらしい。
 勇者の前世が不憫過ぎる。

(その上、野郎で冴えない俺が運命の相手なんて神様酷すぎね?)

 そこは可愛いお姫様とかだろ。ファンタジーゲームや映画のようにさ。

「安住君」

 勇者が顔を上げて俺を覗き込んできた。おまっ! 勇者っ! ビビらすなっ! 危うく変な声上げるところだったぞっ!

「僕前に言ったよね?」

「ナナナナナ、ナニヲデスカ?」

 なんで勇者は怒ってるんでしょうかねっ!? 怒る要素まったくなかったよねっ!?

「君を貶すことは、たとえ君自身でも許さないよ?……って」

 言ってましたね。………ってちょっと待て。お前、俺の顔見えなかったよな? なんで俺の考えてることが分かったんだよ! 怖いんですけどっ!!

「顔を見なくても何考えてるか分かるよ?」

  え? 嘘? マジで? 

「狡猾で貪欲で腹黒な人間と嫌というほど関わってきたからね」

「………」

「安住君?」

 首を傾げる勇者に俺はハッと我に返った。いや、待て。なんで俺は勇者の頭をわしゃわしゃ撫でてるんだっ!?  滅茶苦茶無意識だったわっ! 自分の行動にびっくりだわっ!

「アハ、アハハハハハ……」

 俺は乾いた笑いを漏らしながら、さりげなぁく手を引っ込め………れないっ! 勇者が俺の手を掴み、掌に唇を押し付けてきた。キスじゃないよ。キスじゃない! ってか何やってんだよ! 勇者っ! 変な声出さなかった俺エラいっ! いや、ちげぇぇっ!!

「おおおおおおおおおおおお、おま………っ!」

「ふふ、安住君顔真っ赤」

 誰のせいだよっ! 誰のっ! そんな蕩けそうな顔でこっち見んなっ! 顔面偏差値高いから破壊力がすげぇぇんだよっ!

 もうほんと、マジで、勘弁してくれ。


























(安住くん気づいてる? 君は男は恋愛対象じゃないって一言も言ってないことを)





完……?












「俺が勇者! お前魔王なっ!」

「ええーっ!! お前、前も勇者だったじゃんっ! 次俺が勇者だぞっ!」

「違うよー! 今度は僕の番!!」

 木の枝を振り回してぎゃんぎゃんと騒いでるガキども。勇者ごっこは人気の遊びだ。………魔王役が大変だが。目の前のガキどもも誰が勇者で、誰が魔王かで争っている。

 しょうがねぇなぁ。いっちょ、ここは俺が一肌脱ぐとするか。

「おい、お前ら。俺が魔王やってやる」

「 ホント⁉ いいの⁉」

「えー! 兄ちゃんチビじゃん。迫力ねぇ」

「あ‶?誰がチビだと?  よーし、お前らまとめてかかってこいや!  魔王の恐ろしさを思い知れー!!」

 ぎゃー!と逃げるチビどもを追い掛け回す俺。

「…………兄ちゃん、体力なくね? へなちょこ魔王じゃん」

「う、うっせー……げほっ………お前らがあり過ぎるんだよ」

 地面に寝そべって、ぜーはーと肩で息をする俺を見下ろすガキども。あんなに走り回ってた癖に、なんで平然としてるんだよ。そのちっさい体のどこにそんなエネルギーがあんだよ。………はぁ、ガキどもの体力舐めてたわ。
 俺がリタイアすると、二人のガキが今度は騎士ごっこし始めた。

「………ねぇお兄ちゃん。もし勇者に会えたら、何したい?」

 一人残ったガキがしゃがみ込んで俺に聞いてた。

「あ? 何って?」

「僕ねぇ、勇者の仲間になって色んな所を旅したいんだぁ」
 
 お、おおう。キラッキラな笑顔だな。この年のガキなら勇者の存在を信じてるだろうなぁ……。俺も実際信じてたし。
 勇者、勇者かぁ……。

「そうだなぁ………」

 俺は青い空を真っ直ぐと見上げた。

「もし勇者に会えたら、俺は……」



 最終形態の魔王が咆哮しながら勇者とその仲間に向けて強力な全体魔法攻撃や物理攻撃を容赦なく繰り出す。

「………ほんと、魔王と言う名は伊達じゃないわね!」

 ポーションを飲んだ白の魔導士が素早く全体回復魔法を唱える。

「ああ! もう! あの叫び声マジでうっさい!!」

 弓士が自分の魔力で作り出した矢を弓に番えて放つ。

「さっきからこいつばかり狙ってやがる!!」

 拳闘士が舌打ちをする。

「寧ろ好都合です! 僕がおとりになります!!」

 勇者が駆け出し、その姿を魔王の目が追った

『ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ジャッァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!』

 魔王が勇者に向けて右腕を振り下ろし、勇者はギリギリのところでそれをかわした。

 勇者ヲ殺セ。勇者ヲ殺セ。勇者ヲ殺セ。勇者ヲ殺セ。勇者ヲ殺セ。

 魔王の頭の中にあるのはただそれだけ。

『ドォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ダ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ヂィ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!!!』 

 魔王は………少年は叫んだ。
 その言葉を。何度も。何度も…。
 だが人間としての記憶を失ってしまった少年は、その言葉の意味を理解することは……もはや出来なくなってしまった。










『そうだなぁ……』

 少年は青い空を真っ直ぐと見上げた。

『もし勇者に会えたら、俺は………』
















 友達になりたいな。

 










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