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三度目③
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ザァァァ。ザァァァ。
灰色の空から雨が降り注いでいる。
目の前には敗戦後の日本の様子を捉えた写真と似たような、色を失った世界が広がっている。
その中に一人の男が立っていた。
黒髪の男は黒に近い群青色の軍服みたいな服と漆黒のマントを身に纏い、黒い手袋をはめた手には漆黒の大剣が握られていた。
男は顔を俯かせ、前髪から雫が滴り落ちていた。……なんとなく男が泣いているような気がする。
不意に男が剣を持っていないほうの手で自分の顔を覆った。
「……して」
何かを呟いたかを思った、その瞬間。男の周りに黒いモヤのようなものが現れ、それが一瞬にして膨れ上がり辺り一面に広がった。
‟やめてっ!„
黒いモヤが辺り一面に広がった瞬間、耳元で誰かが悲痛の叫び声を上げた。
「……っ‼」
俺はビクッと身体を跳ね上げ目を覚ました。目を覚ました視界の先にあったのは見慣れた俺の家……ではなく、暖炉と大きな古時計、そしてテーブルに三人掛けのソファが置かれたリビングのような部屋だった。一瞬ここどこ? 状態になったが、すぐに魔女の塔の中だと気付いた。
「あ、だ、大丈夫?」
三人掛けのソファに金髪が座っていて、びっくりした様子で声を掛けてきた。
「お、おう。悪い、変な夢を見……っ!」
右手をソファの上に置いた瞬間手首に痛みが走り顔を顰めた。そうだ白髪……オーウェンだっけ? あいつに右手首を思いっきり握りしめられたんだった。そのことを思い出し手首を見ると包帯が巻かれていた。
「……これお前が?」
「あ……うん。その、痣になってたから…えっと、ごめん……勝手に……」
「いや、寧ろあんがとな。あとこれも」
俺はひざ掛けを軽く持ち上げて金髪に礼を言った。
「えっと、具合は……?」
「ん? ああ、すっかり良くなった!」
身体はすっかり軽くなり気分もすっきりしている。
「俺どれくらい寝ていた?」
「え、えっと、じゅ、十分……あ、ちが、ほんの少しだよ?」
金髪が古時計を見上げて言った。
「え? まじで? けっこうがっつり寝たと思った……ん?」
そこで俺は自分の魔力が回復していることに気付いた。戻るのに半日は掛かるはずなのに……。この間は元の場所に戻ったら魔力も回復していた。どういう仕組みだ? ……あ、それよりも。
「白髪……じゃねぇなオーウェンだっけ?あいつは大丈夫だったか?」
「う、うん。先生が眠ってるだけって……言ってた」
「先生?」
俺は首を傾げた。医者も居るのか?
「えっと、先生というのは……その、み、みんなからは魔女って呼ばれていて……、えっと色々教えて……貰ってるから、先生って……呼んでて……」
金髪の声が段々小さくなっていく。金髪の様子からしてなんとなくだが「これ話して大丈夫かな?」って感じだ。なので俺は何も聞かず「ふーん」と頷くだけにした。
「ベッドに寝かせてくれたか?」
「う、うん。先生が!」
頷く金髪に「なら良かった」と俺は安堵の息を吐いた。一先ず風邪を引くことはないだろう。……って、ん?
(気のせいか? 鐘鳴るの遅くね?)
一度目と二度目の滞在時間を考えると、もうとっくに元の場所に戻っていてもおかしくないはず。……いや、爆睡したままの状態で畑に戻されても困る……あ。
「俺の鎌っ⁉」
バッと辺りを見渡したがそれらしき物はない。ここに飛ばされる前、畑で麦刈り作業をしていたから鎌を握っていたのにその鎌が消えていた。よくよく考えてみればオーウェンの所に飛ばされた時点ですでになかった。あのハプニング……ここに飛ばされた瞬間、出会い頭にオーウェンを押し倒してしまった……のせいで、鎌の存在が頭の中から吹っ飛んでいた。
金髪にここに来る前に畑仕事で鎌を使っていたこと、その鎌がないことを説明した。平民にとってとても大切な生活道具の一つだし、そう簡単に手に入る代物じゃない。
「えっとね、先生がここに……危険な物を持ち込まれないように……魔法をかけているって。……だから元の場所に戻れば……あると思う」
危険な物って……。もしかして昔どっかの国が魔女の塔にちょっかいを出したという話……あれマジだったのか?
「戻ればあるんだよな?」
「た、多分……。ご、ごめんね。僕、もうずっとここから出てない……から」
「いや、お前が謝ることじゃねぇから。あ、もし戻っても鎌がなかったら、魔……先生に弁償してもらうから。そう言っといてくれ」
「え?あ……う、うん?」
本当に弁償してくれるかどうか分からんけどな。はぁ、戻った時に手元にあることを願うしかねぇか。
「……ね、ねぇ」
金髪が遠慮がちに声を掛けてきたので、「なんだ?」と返した。
「その……君が具合悪くなったのと、手首の痣って……もしかしてオーウェンが?」
「ん?ああ……、手首のはあいつ急に具合悪くなって、相当辛かったのか強く握られたんだよ。治療魔法かけたらそのまま寝ちまってな。俺のは単なる魔力の使い過ぎ」
「治療……魔法を? ……ね、ねぇその時彼……」
金髪は何かを言おうとしたが「ごめん、なんでもない……」と言うのをやめてしまった。と、そこであの鐘が部屋中に鳴り響いた。一瞬傍にあった古時計かと思ったが違った。時計の針が三時十五分過ぎを指していたし、明らかに頭上のほうで鳴っていた。
「……」
不意に金髪が俺に向かって何かを言った。だがその声は小さく鐘の音でかき消されてしまい、俺の耳に届かなかった。
灰色の空から雨が降り注いでいる。
目の前には敗戦後の日本の様子を捉えた写真と似たような、色を失った世界が広がっている。
その中に一人の男が立っていた。
黒髪の男は黒に近い群青色の軍服みたいな服と漆黒のマントを身に纏い、黒い手袋をはめた手には漆黒の大剣が握られていた。
男は顔を俯かせ、前髪から雫が滴り落ちていた。……なんとなく男が泣いているような気がする。
不意に男が剣を持っていないほうの手で自分の顔を覆った。
「……して」
何かを呟いたかを思った、その瞬間。男の周りに黒いモヤのようなものが現れ、それが一瞬にして膨れ上がり辺り一面に広がった。
‟やめてっ!„
黒いモヤが辺り一面に広がった瞬間、耳元で誰かが悲痛の叫び声を上げた。
「……っ‼」
俺はビクッと身体を跳ね上げ目を覚ました。目を覚ました視界の先にあったのは見慣れた俺の家……ではなく、暖炉と大きな古時計、そしてテーブルに三人掛けのソファが置かれたリビングのような部屋だった。一瞬ここどこ? 状態になったが、すぐに魔女の塔の中だと気付いた。
「あ、だ、大丈夫?」
三人掛けのソファに金髪が座っていて、びっくりした様子で声を掛けてきた。
「お、おう。悪い、変な夢を見……っ!」
右手をソファの上に置いた瞬間手首に痛みが走り顔を顰めた。そうだ白髪……オーウェンだっけ? あいつに右手首を思いっきり握りしめられたんだった。そのことを思い出し手首を見ると包帯が巻かれていた。
「……これお前が?」
「あ……うん。その、痣になってたから…えっと、ごめん……勝手に……」
「いや、寧ろあんがとな。あとこれも」
俺はひざ掛けを軽く持ち上げて金髪に礼を言った。
「えっと、具合は……?」
「ん? ああ、すっかり良くなった!」
身体はすっかり軽くなり気分もすっきりしている。
「俺どれくらい寝ていた?」
「え、えっと、じゅ、十分……あ、ちが、ほんの少しだよ?」
金髪が古時計を見上げて言った。
「え? まじで? けっこうがっつり寝たと思った……ん?」
そこで俺は自分の魔力が回復していることに気付いた。戻るのに半日は掛かるはずなのに……。この間は元の場所に戻ったら魔力も回復していた。どういう仕組みだ? ……あ、それよりも。
「白髪……じゃねぇなオーウェンだっけ?あいつは大丈夫だったか?」
「う、うん。先生が眠ってるだけって……言ってた」
「先生?」
俺は首を傾げた。医者も居るのか?
「えっと、先生というのは……その、み、みんなからは魔女って呼ばれていて……、えっと色々教えて……貰ってるから、先生って……呼んでて……」
金髪の声が段々小さくなっていく。金髪の様子からしてなんとなくだが「これ話して大丈夫かな?」って感じだ。なので俺は何も聞かず「ふーん」と頷くだけにした。
「ベッドに寝かせてくれたか?」
「う、うん。先生が!」
頷く金髪に「なら良かった」と俺は安堵の息を吐いた。一先ず風邪を引くことはないだろう。……って、ん?
(気のせいか? 鐘鳴るの遅くね?)
一度目と二度目の滞在時間を考えると、もうとっくに元の場所に戻っていてもおかしくないはず。……いや、爆睡したままの状態で畑に戻されても困る……あ。
「俺の鎌っ⁉」
バッと辺りを見渡したがそれらしき物はない。ここに飛ばされる前、畑で麦刈り作業をしていたから鎌を握っていたのにその鎌が消えていた。よくよく考えてみればオーウェンの所に飛ばされた時点ですでになかった。あのハプニング……ここに飛ばされた瞬間、出会い頭にオーウェンを押し倒してしまった……のせいで、鎌の存在が頭の中から吹っ飛んでいた。
金髪にここに来る前に畑仕事で鎌を使っていたこと、その鎌がないことを説明した。平民にとってとても大切な生活道具の一つだし、そう簡単に手に入る代物じゃない。
「えっとね、先生がここに……危険な物を持ち込まれないように……魔法をかけているって。……だから元の場所に戻れば……あると思う」
危険な物って……。もしかして昔どっかの国が魔女の塔にちょっかいを出したという話……あれマジだったのか?
「戻ればあるんだよな?」
「た、多分……。ご、ごめんね。僕、もうずっとここから出てない……から」
「いや、お前が謝ることじゃねぇから。あ、もし戻っても鎌がなかったら、魔……先生に弁償してもらうから。そう言っといてくれ」
「え?あ……う、うん?」
本当に弁償してくれるかどうか分からんけどな。はぁ、戻った時に手元にあることを願うしかねぇか。
「……ね、ねぇ」
金髪が遠慮がちに声を掛けてきたので、「なんだ?」と返した。
「その……君が具合悪くなったのと、手首の痣って……もしかしてオーウェンが?」
「ん?ああ……、手首のはあいつ急に具合悪くなって、相当辛かったのか強く握られたんだよ。治療魔法かけたらそのまま寝ちまってな。俺のは単なる魔力の使い過ぎ」
「治療……魔法を? ……ね、ねぇその時彼……」
金髪は何かを言おうとしたが「ごめん、なんでもない……」と言うのをやめてしまった。と、そこであの鐘が部屋中に鳴り響いた。一瞬傍にあった古時計かと思ったが違った。時計の針が三時十五分過ぎを指していたし、明らかに頭上のほうで鳴っていた。
「……」
不意に金髪が俺に向かって何かを言った。だがその声は小さく鐘の音でかき消されてしまい、俺の耳に届かなかった。
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