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緋色、宗次、後始末に追われる

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 翌朝、大也は平常運転でメイドの朝霧光子に起こされて、

「今日も美人だね、光子さん」

「なら、エッチな事しちゃいます、大也様?」

「えっ、もう任務は終わったんだよね? 借金も完済されたって」

「フラられたらフラれたで色々と女は複雑ですから。年下の17歳にフラれたお姉さんの気持ちも考えて貰えると助かります」

「・・・なるほど」

 などと喋りながら着替えて、食堂に出向いた。

 颯太だけだ。宗次と緋色は寝坊したのか居ない。

「おはようございます、当主」

「ああ、おはよう、大也君」

「当主にプレゼントです」

 大也は髪の毛とメモを颯太に渡した。

「何だね、これは?」

「昨夜、風呂から戻ったらベッドの上に置かれてました」

 メモを読んだ颯太が冷淡に、

「出向いたのかね?」

「まさか。今日はの日ですよ」

「それが?」

「いやいや、今月は巳の日が百鬼夜行じゃないですか。百鬼夜行日に丑三つ時なんてロクな事がないに決まってるのに外出なんてしませんよ。土岐影ヒカリさんが死んでたら香典を届けて下さいね、オレからも200万円包みますので」

「その必要はないよ。ちゃんと保護してるから」

「へぇ~。さすがは大鳥忍軍ですね、まともなのもいる訳か。相変わらず屋敷の警備はざるですけど」

 そうひょうする大也を起きたに報告を受けた颯太は意味深に見ていた。





 同時刻、大鳥緋色は封鎖中の忍死の森に来ていた。

 遺体回収の為である。

 大鳥忍軍の、それも『上』150人ーー叢雲、蘆名、柳葉、烏丸、十六夜、長瀬らの氏族の凄腕が全滅。

 緋色の知る限りでは、大鳥忍軍始まって以来の危機である。

 150人全員の死因は地面からの影棘による攻撃。

 そして唯一の生存者で保護されたのが影使い一族の土岐影ヒカリだった。

「どうして捕まっていたんだ?」

「さあ? 実地訓練の報告の為に不知火学園の廊下を歩いていたら背後から何者かに薬品を嗅がされて」

「実地訓練の報告? 内容は?」

「手塚大也の接触と情報収集ですが」

 それだけの問答でこの森で昨夜、何が起こったのか緋色には理解出来た。

 絶対に大也が噛んでる。大也は風使いなので、赤眼の方が。

 そして大也は覚えてない。

 150人も大鳥忍軍の『上』を始末しておいて。

(うんざりだな。いくら強くても厄病神過ぎるだろ)

 内心で緋色はそう思い始めていた。





 ◇





 大鳥宗次の方はヒカリの問答の後、妹の奏子そうこに会いに出向いていた。

 場所は東京。

 但し、小笠原諸島の大鳥島。

 この大鳥島はアメリカ合衆国のウェーク島の事ではない。

 小笠原諸島にある大鳥島だった。大鳥コンツェルンが開発した為にリゾート島としても有名である。

 そんな立地の為、都内からオスプレイで移動しても6時間を要し、宗次はようやく到着していた。

 大鳥コンツェルンが経営するレジャーホテルのスイートルームで寛いだ奏子が宗次を出迎えた。

「あら、二の兄上。本邸を追放された罪人に何の御用かしら?」

 妻子は44歳。茶色に染めた長い髪にパーマを掛け、まだまだ若作りした美女である。纏ってるのは異性の視線を集めようと胸の谷間に布地がないホルターネックドレスだった。宗次としては血の繋がる妹がいい年して男を漁ってるようで嫌だったが。

「もう結果は聞いてるな。全滅だ」

「それが?」

「おまえが裏で尻を叩いたんだろうが。手塚大也にはもう関わるな。妹のおまえが死ぬとさすがに寝覚めが悪いから」

「それはどうも。ってか、影使いなの、赤眼の方って?」

「? 待て。大也は昨夜、一歩も大鳥邸を出ていないぞ。刹那忍軍の冷越我威が襲撃した翌夜だ。警備も万全で抜け出る隙もなかったからな」

「なら遠隔?」

「待て、奏子。大也がやったと思ってるのか、忍死の森の件? 人質の娘の土岐影の忍法が何かのきっかけで暴走したとの見方が有力なんだが」

「そんな偶然ある訳がないでしょうが」

「あるかもしれんぞ。暴走した時間が百鬼夜行の丑三つどきだったからな」

「何それ?」

「何だ、知らないのか、言い伝えを? 百鬼夜行というのは鬼や妖怪達が集まってーー」

 百鬼夜行の説明をしようとした宗次の言葉を遮って奏子が、

「そうじゃなくて、百鬼夜行日に忍法が暴走するなんて話、聞いた事ないわよ?」

「オレもだ。だが『忍法影鰐』の暴走で間違いない。忍死の森の内外に設置された防犯カメラが巨大な影の魚の映像を捕えていたからな」

「へ~、その娘の処罰は?」

「人質にされたのにか? 出来んよ」

「森に居た叢雲以下、上位忍者達は死に損って事?」

「本邸を追放刑になった奏子に騙されたーー騙され損だろ。大鳥忍軍の幹部氏族から怨みを買ったぞ、奏子も。背後から謀殺されないように注意しろよ。今は追放刑の執行中だ。護衛もそれほど付けてないんだから」

 宗次が忠告し、奏子は嫌な顔をしたのだった。
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