マリーハルケン王朝建国物語 〜婚約破棄されたのでお祖父様の悲願が達成されそうです〜

魚夢ゴールド

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卒業パーティー前 〜宮殿内でも移動するのに護衛が付く王太子の浮気がバレないなんて物語は存在しない〜

5、王族のお買い物

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王族や大物貴族は店にまで出向いて買い物などはしない。

御用達の商人に商品を宮殿や屋敷に運ばせて、そこで購入するのだから。





そんな訳でアルゼン宮殿の一室では王家御用達のサバルス商会の会頭コンドルが自ら商品を運んで、

「殿下には息子がいつもお世話になっており、ありがとうございまする」

王太子ハミルに礼を言った。

因みに「自ら運んで」とは言っても商品を部屋に運んでるのはサバルス商会の人員ではない。アンゼン宮殿で雇われている力仕事担当の雑用係の役人である。

これは警備上の理由だ。

アルゼン宮殿内に商品を運ぶだけの為に人を入れる? あり得ない。

その中にもし暗殺者が1人紛れ込んで居て、移動中に姿を消して、アルゼン宮殿内に隠れて夜を待ち「王族を暗殺」なんて事になったら洒落にならないので。

そんな訳で、会頭のコンドルと商品のみがアルゼン宮殿に入り、商品を運ぶのは運搬専用の役人の仕事となった。

とはいえ、その力仕事担当の雑用係達も戦々恐々である。

王族が購入する品だ。

一級品揃いに決まっている。落としておジャンにして弁償になったら下級役人の給料では一生掛かっても弁償出来ないのだから。





そして、会頭コンドルが率いるサバルス商会はアンドレーヌ王国の諸事情から故意に太らせた殆ど政府企業みたいなモノだった。

アンドレーヌ王国の経済を牛耳るのはカードレート貿易港を支配し、カフス海沿岸諸国のアラプト王室の血を引くカス公爵家と結託しているマリーハルケン公爵家。

その強大過ぎる公爵家の経済力を少しでも削ろうと、アンドレーヌ王家や宰相や経済官僚達が必死に絞り出した方策が「カフス海の貿易利権をマリーハルケン公爵家が握るのならば、東隣国サラット王国との貿易利権はアンドレーヌ王国政府が握るぞ」である。

現在のアンドレーヌ王国のミラリー王妃が東隣国のサラット王室出身なのもそのせいだった。

婚姻によってサラット王国との同盟を強化して関税を引き下げまくった事でサラット王国との貿易が活性化させたのだ。

それによってカフス海の利権の減少を狙った訳だ。

どういう事かを大雑把に説明するならば、アンドレーヌ王国の上限の財力が100として、これまではカフス海の貿易に60の財力が使われていたのが、東隣国との新たな貿易ルートの開拓によりサラット王国との貿易が台頭した事でそちらにもアンドレーヌ王国の財力が使われて、カフス海の貿易に使われる財力が40に減るという考え方だ。

まあ、それでも全盛期から考えれば確かに多少は目減りしたがカフス海の利権はびくともしなかったのだが。

そのアンドレーヌ王国政府とマリーハルケン公爵家の経済戦争に巻き込まれる形で白羽の矢が刺さったのが王都アンゼルで商いをしていたサバルス商会だった。

王都アンゼルで中堅どころだったサバルス商会はアンドレーヌ王国の政府方針によって、 新たに開拓されるサラット王国の貿易ルートを独占する事となった。

それから22年。

現在のサバルス商会は王都圏では断トツの巨大財閥に成長していた。

王都アンゼルから東国境へと続く街道筋では地方の木っ端貴族達もサバルス商会の顔色を窺うくらいの勢力を誇った。

現在のサバルス商会の会頭コンドルはアンドレーヌ王国の庇護を受けてから2代目となる。そのコンドルの妻に至っては宰相ブラックス・サンドスが若い頃に愛人に産ませた認知していない庶子というあり様だった。

そうなのだ。もう完全にアンドレーヌ王国政府と巨大財閥サバルス商会はズブズブの関係だった。

サバルス商会を邪魔する者ももういない。王国政府が潰してくれたので。それが例え「金を持ってるらしいな? 商人の癖に生意気な。タカってやれ」との浅慮で恐喝してきたバカな貴族であったとしても早々に御退場する事になるのだから。

サバルス商会の勢いは留まるところを知らなかった。

よって、商品が運ばれた部屋で会頭のコンドルに声を掛けられた王太子ハミルも「平民が気軽に話し掛けるな」とはならない。

気を使っているからではない。生まれた時からの顔見知りだったからだ。

「うむ。イーグルは貴族学校で頑張っておるぞ」

「何かございましたら、いつでも息子をお使い下さい。そう言えばその息子から、殿下に『このようなもの』を渡すように頼まれておりますが」

そう言って会頭コンドルが王太子のハミルに渡したのは厚めの紙箱である。

「おお、これが欲しかったのだ」

ハミルが破顔して蓋を開けた。

中には純白の制服に合う白色のハイヒールが入っていた。

それを見て喜ぶハミルとは対照的にコンドルが少し困った顔をしながら、

「殿下、恐れながらそちらの商品は王族の方や婚約者様が使うにしては格が低うございますが」

「(子爵令嬢が使うにしては上質なのだよな?)」

小声でハミルが尋ねたので、コンドルも心得たもので小声で、

「(子爵令嬢? ああ、確か生徒会の書記の女生徒が・・・)」

「(下らぬ詮索はせずに問われた事だけを答えよ)」

「(はっ、子爵家の令嬢には上等過ぎるかと。そちらの品は伯爵家の令嬢が愛用されるラインの工房の作ですので)」

「(その程度の誤差なら問題無かろう。他言は無用だぞ)」

「(ははっ)」

そう小声で密談してから、王太子のハミルは近衛騎士のように斜め後方に控えていたチャック・アリストンに無言で渡した。

チャックは王太子ハミルと同年代だが、王子然とする線の細いハミルよりも屈強だった。髪は長く、その色は「異世界あるある」のオレンジ色。瞳もだ。母方が騎馬民族タルの血を引いてるからか右横髪の一房を編んでおり、異文化の香りがする青年でもあった。

チャックは何も言わずに紙箱を小脇に抱えた。

「さて、エルゼには何を贈るかな。どうせ何でも持っているだろうからな」

「サラット産のサファイアなどがよろしいかと」

それが本日持ってきた中で一番高価な品だからコンドルは勧めた訳だが、

「16の時に贈ったではないか。それにエルゼは青より赤を好む。サラット産のサファイアなら母上がその内、手に取るであろう。母上に相応しい品を夏までに用意しておけ」

「ははっ」

「ふむ、今回はこのルビーが散りばめられた象牙の小箱を貰うとするか」

「ご購入ありがとうございます」

そうは言ったが、実際の決済は「サバルス商会から王家への献上品扱い」となった。

1銅貨も王家からは貰っていない。

まあ、それでもサラット王国の貿易ルートを独占させて貰っているのでお釣りが出るのだが。

こうして王太子ハミルは婚約者エルゼーシアの誕生日プレゼントを用意したのだった。
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