マリーハルケン王朝建国物語 〜婚約破棄されたのでお祖父様の悲願が達成されそうです〜

魚夢ゴールド

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卒業パーティー前 〜宮殿内でも移動するのに護衛が付く王太子の浮気がバレないなんて物語は存在しない〜

6、長年の西国境軽視政策がドルオ・モスール辺境伯とアンドレーヌ王家の間に見えない溝を作る

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アンドレーヌ王国の西側にはタル草原が広がる。

そのタル草原を支配しているのが騎馬民族タルであった。

タル草原には何もない。草原があるだけだ。その草原に羊や馬を放牧し、羊毛を売り、肉や乳製品で食料を賄ってるが、それだけでは喰えていけない。

その為、騎馬民族タルの主な収入源は他国での略奪となった。

隣接するアンドレーヌ王国にも毎年のように略奪にきている。

その略奪からアンドレーヌ王国を守るのが西国境のハジノス領を任されているドルオ・モスール辺境伯の職責なのだが。

戦うには兵がいる。武器も食糧も。

それなのに、安全圏の王都アンゼルに居る連中は少量の物資しか寄越さずに「騎馬民族タルを追い返せ」と言ってくるのである。

ここ数年は少量の物資だけを送っていた。

それで王都の連中は「義務を果たした」と本気で思ってる。

これでは戦えないのに。

特に昨今では武具の磨耗や矢の少なさ、兵の士気の低さで如実に出ていた。

昨年の戦いでは何人もの優秀な兵がアンドレーヌ王国を守る為に戦い、死んでいった。

ドルオ・モスール辺境伯の父親も弟も昨年の戦いで戦死している。

はっきり言って家族のこの戦死は無為無策なアンゼル宮殿の連中のせいだ。

1000人、いや、せめて500人でも兵を援軍として送ってくれていたら。

いや兵でなくても軍事物資の矢だけでも良かった。それさえあればハジノス城から父親も弟も突撃せずに済み、死ななかったはずだ。

そう思うと怒りすら覚える。

なのでアンゼル宮殿になどすがりたくもないのだが。





西国境の昨年の損害は危険水域である。

戦ってるドルオ・モスール辺境伯には分かる。肌で感じるのだ。

現在の戦力では今年の騎馬民族タルの侵攻を撃退出来ないだろう。

だから、どうしても救援と援軍が必要で、そのハジノス城の窮状を何度も何度もアンゼル宮殿に伝えているのに何の音沙汰もなし。

騎馬民族タルの本格的な侵攻は夏だ。

それまでにどうにかしなければならず・・・

物資を含めた兵の補充を得る為にこの春、ドルオ・モスール辺境伯はアンゼル宮殿に窮状を訴えに向かう破目になったのである。





 ◇





アンドレーヌ王国内の事は王国政府がいち早く情報を得る。

まあ、同じ速度でマリーハルケン公爵家も情報を得るのだが。

それでもアルゼン宮殿に一番に情報が集まった。

アルゼン宮殿で一番に情報が集まるのは国王の許にではない。そんな事になったらどうでもいい下らない情報までもが国王の耳に入る事になり、まともに仕事が出来なくなる。

まずはアルゼン宮殿の情報収集部署に、それから宰相執務室に届けられた。

その日、先代国王の代から宰相職を務めているブラックス・サンドスがいつものように需要書類に目を通していると、文官が慌てた様子で入室してきて、

「閣下、大変です。モスール辺境伯が王都アルゼンに来ているようです」

重要機密のように告げた。

だが、西国境から王都アルゼンまでは馬で15日だ。

その間の移動も目撃されており、既に宰相のブラックス・サンドスもその情報を知っていた。

この時期のドルオ・モスール辺境伯の王都アルゼン入りが「非常に拙い」という事も。

王太子ハミルの婚約者、エルゼーシア・マリーハルケン公爵令嬢の誕生日とモロ被りだったのだから。

それの「何が拙いのか」と言えば、現在、そのエルゼーシア嬢の誕生日を祝う為に祖父のエドモンド・マリーハルケン前公爵が王都アルゼン入りをしている。

それが拙いのだ。

この両者が会い、密約が交わされたらアンドレーヌ王国の歴史を動かしかねない。

それを阻止する為には兵と物資を西国境に送らねばならないのだが。

西国境を毎年のように侵す騎馬民族タルを追い払ってもアンドレーヌ王国が得る物は何もない。

逆にタル草原に打って出ても草原に価値はない。遊牧民なので民も得られないのだから。

正直、西の防衛費は無駄金であった。

なので、ここ数年絞れるだけ絞ってきたが、どうやら西国境は本当に限界らしい。

アルゼン宮殿嫌いのドルオ・モスール辺境伯がわざわざ王都まで出張ってきたところを見ると。

防衛費を無駄に出さなければならない。そんなものに金を使うのならば街道や治水の整備に使う方がどれだけいいか。だが、それでも出さないと。マリーハルケン前公爵がモスール辺境伯の軍事力を取り込むのは拙い。

うんざりしながら宰相のブラックスは防衛費を捻出でした。





ドルオ・モスール辺境伯が国王カミルに謁見を求めたのは到着した当日で、謁見の許可が下りたのは3日後だった。

ドルオは屈強な黒髪の軍人である。タルの血が入っているので宮殿に居る騎士団とは違うタイプの美丈夫だった。

そして相当不機嫌なのが表情に出ていた。

「良くきたな、モスール辺境伯」

そう声を掛けたのは威厳のある国王カミルである。

カミルの能力はアンドレーヌ王国の歴代の王の中では高い方である。

王位を継いだ時にはマリーハルケン公爵家の権勢が強大過ぎてどうする事も出来なかっただけで別に無能ではない。

対して声を掛けられたドルオは、

「はっ」

それだけである。「本日は謁見を許可していただきありがとうございます、陛下」という続く言葉もなし。

ドルオからのその言葉を待っていた国王のカミルが何も言葉を発しなかったので気拙い沈黙が続き、続きの言葉をないと悟った同席していた宰相のブラックスが、

「この度は今年の援助の件で参られたのだよな? これが今年の目録だ」

侍従に合図した。

ドルオに目録が渡される。

今回の西国境への補給物資や補充兵は、ここ10年で最高のものとなっている。

というか、過去10年分を合計しても今回の援助物資よりも下のはずだ。「西国境に無駄金を使うなど馬鹿らしい」というのが国王カミルの本音である。それを宰相のブラックスに説得されて渋々承諾していた。

なので、今回の補給物資や3000の兵の増員は本当に凄かった。

受け取ったドルオも喜ぶに決まってる。

そう思ってその様子を眺めていたら、目録を確認したドルオが憮然と、

「近年にない破格の物資と兵ですが、これはこれまでの物資は役人が着服していたと考えればよろしいのですかな?」

喜ぶどころか不機嫌そうに尋ねてきた。

そのドルオの非礼な態度には「モスール辺境伯を取り込む事が肝要」と事前に説得されていた国王のカミルも、

(何なんだ、こいつは? 国王に対して何という無礼な口の利き方だ)

さすがに眉を動かして嫌悪感を出してしまった。

宰相のブラックスが場を繕うように、

「いや、そのような事実はないぞ」

「つまり、過去の支援物資は『あれで戦える』と陛下も考えておられていたと?」

「現に『ちゃんと追い払った』との報告を受けているが? あれは虚偽報告なのか?」

売り言葉に買い言葉。

国王のカミルがそう嫌味な発言をした瞬間、ドルオが微笑して

「いいえ。聡明な戦術眼を持つ陛下の采配通り勝たせていただきました」

そう礼を言った。

但し、温度は不機嫌そうにしていた時よりも数十倍も冷え切っていたが。

当然である。昨年は父親と弟が戦死しているのだ。この無能な国王が増援や物資を送らなかったせいで。

ドルオの様子を見て「もう取り込むのは無理だ」と宰相のブラックスが断念しながらも、

「辺境伯のこの後のご予定は?」

「この目録通りに援助物資があるのかの確認ですかね? 役人が着服する可能性もありますので」

どこまでも嫌味な男だ、と国王カミルは忌々しげに退室するドルオを玉座から睨んだのだった。
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