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卒業パーティー前 〜宮殿内でも移動するのに護衛が付く王太子の浮気がバレないなんて物語は存在しない〜
12、謹慎10日
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貴族学校の保健室前の廊下では普段はない椅子が用意され、それに座って生徒会の面々はまだ貴族学校に残っていた。
正直言って、階段から落ちて気絶している保健室内のアンヌの事を心から心配しているのは王太子のハミルだけである。
他の生徒達は外の風景が夜になりつつあるのを見てウンザリしていた。
さっさと帰りたい。
それがハミル以外の率直な気持ちだ。
だが王太子のハミルが残っているので言いだせず帰れないのだ。
アンゼル宮殿からは既に2度、呼び出しがあったのにハミルが固辞して貴族学校に残っているので。
唯一の例外はプレゼントを持って誕生日パーティーに向かったフイトミーだが、あちらもあちらで大変である事は容易に想像が付いた。何せ、王太子ハミルの欠席を伝えねばならないのだから。確か本日は王太后、王妃、側妃が揃い踏みで出席してるはずだ。その場に欠席の報告を伝えるなど冗談ではなく、他の者達はマリーハルケン公爵家のフイトミーに押し付けたのだが。
保健室前の廊下にハミルの護衛の近衛騎士とは別の近衛騎士が現れたのは夜6時を回った頃である。
通常の貴族学校でも下校の時間だが、今回は校内で負傷して意識不明になった女生徒がいる。特例で学校側も校内に残る事を許していたのだが。
アンゼル宮殿から3度目の呼び出しの使者は信じられない事に騎士団長のカークス・アリストン本人だった。
「ゲッ、父上。どうして、ここに?」
息子のチャックが声に出して驚いたが、他も同様に驚いている。
まさか、使者ごときの役をアンドレーヌ王国の重鎮の騎士団長がさせられてるとは。
これだけで何かがアンゼル宮殿内で起きてる事が窺い知れた。
ハミルが物を問いたげに視線を向ける中、カークスが、
「陛下より『捕縛してでも殿下を連れ戻せ』との御命令です」
「意味が分からんな? どうして騎士団長が自ら出向く?」
「殿下が浮気をされてると皆が心配されておりますので」
「ん? エルゼが騒いでるのか? エルゼには『欠席する』とフイト伝えに行かせたが」
「『伝えに行かせた』ですか。なるほど、周囲が心配するはずです。さあ、お立ち下さい。アンゼル宮殿に帰りますよ」
「断らせて貰おう。まだアンヌが目覚めていないのだからな」
ハミルは堂々と断ったのに対してカークスはハミルから背を向けただけだった。
それを合図にカークスの背後に居た近衛騎士4人が一斉にハミルに飛びかかる。
「なっ、貴様ら、私は王太子だぞ? 騎士団長、止めさせよ」
カークスは背を向けたままだ。飛びかかった近衛騎士の1人が、
「陛下よりの捕縛命令が出ておりますので。これ以上の我がままはお立場を悪くされますので抵抗されないで下さい」
「陛下が? 本当にここまでしていいと許されたのか?」
「はい」
「では帰る。こら待て。『帰る』と言っているであろう。本当に縄で縛る奴があるか。私は王太子だぞ?」
帰還を承諾したが近衛騎士達によって本当にハミルは縄で捕縛されてしまった。
まるで罪人扱いである。
王太子なのに。
「連れていけ」
騎士団長のカークスの命令で近衛騎士達が王太子ハミルを連れていった。
廊下に残ったカークスは生徒会の面々に視線を向けて、
「おまえ達にも聞きたい事がある。一緒にアンゼル宮殿に来て貰おう」
「えっと、父上。怒られたりはしませんよね?」
それに対するカークスの返事は頭にゴツンとの拳骨1発だった。
◇
アンゼル宮殿の謁見室では縄で捕縛された王太子ハミルが下座で控えさせられていた。
ハミルの顔は完全に恥辱に塗れている。当然だ。馬車を下りた後、アンゼル宮殿の玄関から謁見室まで廊下を移動させられたのだから。縄で捕縛されたこの状態で。
何人の人間が縄で捕縛されたハミルを見た事か。
ハミルは王太子なのに。
そして謁見室の下座で待たされる事10分。
ようやく国王カミルと王妃ミラリーが現れた。
「陛下、いい加減、この縄を・・・」
ハミルが縄を解くよう頼もうとしたが、
「この痴れ者が」
「ああ~、どうしてこんな風に育ってしまったのかしら? 子爵令嬢に誑かされたのよね、そうよね、ハミル?」
怒るカミルと嘆くミラリーの2人によって遮られた。
この捕縛も含め、随分と大袈裟な事になってるな。
国王カイルと王妃ミラリーの様子を見たハミルの感想はそれである。
「あのですね~」
「ハミル、どうしてエルゼーシア嬢の誕生日に出席しなかった?」
またか?
騎士団長にも問われたが?
「ですから生徒会の女生徒が気絶して・・・」
「ハミル、アナタね~。婚約者の誕生日パーティーを他の令嬢と一緒に居て欠席なんて浮気していると言ってるようなものじゃないの」
「そんな訳が・・・エルゼなら分かってくれます」
「表向きは『理解を示す』でしょうよ。でも欠席理由がそれではあの子も裏では『 大切に扱われなくて』どう思ってるか」
「貴族全員に今回のハミルの非を示す意味もある。ハミルは謹慎10日だ。よいな」
王太后ムーラが決定した罰を宣言した。
「えっ、嘘ですよね? パーティーを欠席しただけで?」
あり得ない。
意味が分からないのだが。
「『欠席しただけ?』 そんなズレた考えだからこんな大それた事が出来るのだ。自室で反省せよ。今からだからな。明日が1日目だ。さあ部屋で謹慎していろ。連れていけ。縄を解くのは部屋に戻ってからだ」
国王カミルの言葉で捕縛されたハミルは更に謁見室から私室まで廊下を歩かされる事になったのだった。
正直言って、階段から落ちて気絶している保健室内のアンヌの事を心から心配しているのは王太子のハミルだけである。
他の生徒達は外の風景が夜になりつつあるのを見てウンザリしていた。
さっさと帰りたい。
それがハミル以外の率直な気持ちだ。
だが王太子のハミルが残っているので言いだせず帰れないのだ。
アンゼル宮殿からは既に2度、呼び出しがあったのにハミルが固辞して貴族学校に残っているので。
唯一の例外はプレゼントを持って誕生日パーティーに向かったフイトミーだが、あちらもあちらで大変である事は容易に想像が付いた。何せ、王太子ハミルの欠席を伝えねばならないのだから。確か本日は王太后、王妃、側妃が揃い踏みで出席してるはずだ。その場に欠席の報告を伝えるなど冗談ではなく、他の者達はマリーハルケン公爵家のフイトミーに押し付けたのだが。
保健室前の廊下にハミルの護衛の近衛騎士とは別の近衛騎士が現れたのは夜6時を回った頃である。
通常の貴族学校でも下校の時間だが、今回は校内で負傷して意識不明になった女生徒がいる。特例で学校側も校内に残る事を許していたのだが。
アンゼル宮殿から3度目の呼び出しの使者は信じられない事に騎士団長のカークス・アリストン本人だった。
「ゲッ、父上。どうして、ここに?」
息子のチャックが声に出して驚いたが、他も同様に驚いている。
まさか、使者ごときの役をアンドレーヌ王国の重鎮の騎士団長がさせられてるとは。
これだけで何かがアンゼル宮殿内で起きてる事が窺い知れた。
ハミルが物を問いたげに視線を向ける中、カークスが、
「陛下より『捕縛してでも殿下を連れ戻せ』との御命令です」
「意味が分からんな? どうして騎士団長が自ら出向く?」
「殿下が浮気をされてると皆が心配されておりますので」
「ん? エルゼが騒いでるのか? エルゼには『欠席する』とフイト伝えに行かせたが」
「『伝えに行かせた』ですか。なるほど、周囲が心配するはずです。さあ、お立ち下さい。アンゼル宮殿に帰りますよ」
「断らせて貰おう。まだアンヌが目覚めていないのだからな」
ハミルは堂々と断ったのに対してカークスはハミルから背を向けただけだった。
それを合図にカークスの背後に居た近衛騎士4人が一斉にハミルに飛びかかる。
「なっ、貴様ら、私は王太子だぞ? 騎士団長、止めさせよ」
カークスは背を向けたままだ。飛びかかった近衛騎士の1人が、
「陛下よりの捕縛命令が出ておりますので。これ以上の我がままはお立場を悪くされますので抵抗されないで下さい」
「陛下が? 本当にここまでしていいと許されたのか?」
「はい」
「では帰る。こら待て。『帰る』と言っているであろう。本当に縄で縛る奴があるか。私は王太子だぞ?」
帰還を承諾したが近衛騎士達によって本当にハミルは縄で捕縛されてしまった。
まるで罪人扱いである。
王太子なのに。
「連れていけ」
騎士団長のカークスの命令で近衛騎士達が王太子ハミルを連れていった。
廊下に残ったカークスは生徒会の面々に視線を向けて、
「おまえ達にも聞きたい事がある。一緒にアンゼル宮殿に来て貰おう」
「えっと、父上。怒られたりはしませんよね?」
それに対するカークスの返事は頭にゴツンとの拳骨1発だった。
◇
アンゼル宮殿の謁見室では縄で捕縛された王太子ハミルが下座で控えさせられていた。
ハミルの顔は完全に恥辱に塗れている。当然だ。馬車を下りた後、アンゼル宮殿の玄関から謁見室まで廊下を移動させられたのだから。縄で捕縛されたこの状態で。
何人の人間が縄で捕縛されたハミルを見た事か。
ハミルは王太子なのに。
そして謁見室の下座で待たされる事10分。
ようやく国王カミルと王妃ミラリーが現れた。
「陛下、いい加減、この縄を・・・」
ハミルが縄を解くよう頼もうとしたが、
「この痴れ者が」
「ああ~、どうしてこんな風に育ってしまったのかしら? 子爵令嬢に誑かされたのよね、そうよね、ハミル?」
怒るカミルと嘆くミラリーの2人によって遮られた。
この捕縛も含め、随分と大袈裟な事になってるな。
国王カイルと王妃ミラリーの様子を見たハミルの感想はそれである。
「あのですね~」
「ハミル、どうしてエルゼーシア嬢の誕生日に出席しなかった?」
またか?
騎士団長にも問われたが?
「ですから生徒会の女生徒が気絶して・・・」
「ハミル、アナタね~。婚約者の誕生日パーティーを他の令嬢と一緒に居て欠席なんて浮気していると言ってるようなものじゃないの」
「そんな訳が・・・エルゼなら分かってくれます」
「表向きは『理解を示す』でしょうよ。でも欠席理由がそれではあの子も裏では『 大切に扱われなくて』どう思ってるか」
「貴族全員に今回のハミルの非を示す意味もある。ハミルは謹慎10日だ。よいな」
王太后ムーラが決定した罰を宣言した。
「えっ、嘘ですよね? パーティーを欠席しただけで?」
あり得ない。
意味が分からないのだが。
「『欠席しただけ?』 そんなズレた考えだからこんな大それた事が出来るのだ。自室で反省せよ。今からだからな。明日が1日目だ。さあ部屋で謹慎していろ。連れていけ。縄を解くのは部屋に戻ってからだ」
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