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卒業パーティー前 〜宮殿内でも移動するのに護衛が付く王太子の浮気がバレないなんて物語は存在しない〜
18、アンゼル宮殿の秘密の隠し通路
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謹慎中に抜け出した事で20日追加されて北の塔の最上室に入れられて王太子ハミルは罰せられたが。
それで一件落着とはならない。
アンゼル宮殿からの王太子ハミルの脱出は1人ではさすがに不可能だったのだから。
ハミルの脱出を助けた者が居る。
つまりはその脱出した当日に王太子ハミルの自室を訪ねた記録が残ってる、
チャック・アリストン。
ジョン・サンドス。
イーグル。
この3人だが、3人ともが宰相ブラックスの孫や騎士団長カークスの令息という始末だった。
国王カミルの前で(貴族学校の授業中に近衛騎士がやってきて、そのままアンゼル宮殿の国王カミルの前まで連行された)青ざめる3人から直接、事情を聞けばその時の様子が明らかとなった。
イーグルが王太子ハミルに噴水事件の事を伝え、積極的にハミルの脱出に加担。
残る2人も嫌々ながらも手伝い、「ハミルは見事、アンゼル宮殿からの脱出に成功した」という顛末っぽい。
正直、謹慎中の王太子の抜け出しなど国王が真面目に対応する事案ではなく、完全に気を抜いて国王カミルは王太子の脱出の経緯を聞いていた訳だが、
「カーテンをロープのようにして庭に出た後、何故か殿下が東棟に向かわれて外庭の扉の方から廊下に入って二つ目の部屋の壁に設置された燭台を殿下が右側に動かすと壁がガコッと開き・・・」
チャックがそれを説明した瞬間、弾かれたように同席していた騎士団長のカークスが、
「待てい。それ以上喋るな」
チャックの言葉を遮った。
直後に室内は沈黙に包まれる。
嫌な沈黙だ。
気を抜いていた国王カミルも真剣な顔になってる。
同席していた宰相ブラックスと騎士団長カークスは渋い顔だ。
最重要機密「アンゼル宮殿の秘密の隠し通路」の事を話したのだから。
というか、宰相のブラックスですら知らない王家の秘密情報だった。騎士団長のカークスも今聞いたのが初めてだ。
だから呑気に「壁が動くまで」説明を聞いてしまうという失態を犯している訳だが。
この室内には国王カミル、宰相ブラックス、騎士団長カークス、王太子の側近候補のチャック、ジョン、イーグル。
それに扉の傍に警備の近衛騎士4人が控えてる。
聞こえたか、今の?
いえ。聞こえませんでした。
大人達が無言で視線を交わし、嫌な沈黙が5秒間続いた後、国王のカミルが、
「通ったのか、おまえ達はその隠し通路の中を?」
「・・・はい。王族しか知らぬ宮殿の隠し通路だと殿下は仰っていました」
チャックが代表し、拙いと分かっていながらも正直に白状した。
それを聞いて頭痛を覚えた国王カミルが額に手を当てながら、
「何をやっておるのだ、ハミルは? 他国に攻められてアンゼル宮殿が陥落した時以外には使うな、と教えたであろうが。王家の秘中の秘だぞ」
そもそもあの隠し通路は「王族しか知らぬのではない」。
「王族の直系しか知らぬ」隠し通路なのだ。
カミルでさえ、即位前に父王に教えられて初めて知ったくらいなのだから。
弟で大公に臣籍降下したニヒルも知らないはずだ。
同盟国とはいえ他国出身の王妃ミラリーも当然、知らない。
それくらい重要なアンドレーヌ王家の秘密なのだ。
「おまえ達、誰かに喋ったか、それを?」
しばらく苦悩していた国王カミルの冷たい一睨みに、
「いいえ、殿下に他言無用と言われましたので」
「決して」
「部屋に残っていたので今初めて知りました」
3人は背筋を正して答えた。
その弁に嘘はないだろう。
だが、国王カミルは真剣に「隠し通路の秘密を守る為に全員を殺すか?」と考えていた。
「どこに出たかは説明しなくて良い。その後は?」
その後、巡回の騎士をチャックが世間話で足止めして、馬車に上手く乗った経緯が語られた。
騎士団の警備体制も見直さねばならんな。
騎士団長のカークスは心底そう思ったくらいだったが。
その後は無事にマリーハルケン公爵邸に到着して、屋敷内で待ってられず、中庭のお茶会に王太子ハミルが突撃した事が側近達によって語られた。その内容は国王カミルが把握しているものと同じものだった。
「宰相、騎士団長、どう裁く」
国王カミルが丸投げすると、隠し通路を通った説明あたりから眼光を鋭くしていた宰相ブラックスが、
「ハミル殿下をそそのかし、脱出に積極的に加担したイーグルは法で厳格に裁くべきかと」
えっ、嘘だろ。殿下がしでかした事なのにどうして巻き添えで私が裁かれなければならないのだ?
祖父ブラックスの言葉にイーグルは心底驚いた。
もしかして国王の手前、ポーズだけでも罰せないと駄目だからか。
自称切れ者のイーグルは祖父の思惑を深読みする。
同じく息子を冷めた眼で見ていた騎士団長カークスの方も、
「チャックも側近から外すべきかと。殿下を止められなかった咎がありますので」
チャックの方は覚悟が出来ていたのか異論はなかった。
ふむ。
イーグルを法で裁き、側近から外すのに国王カミルも異存はない。「宰相ブラックスの孫」とは言っても貴族ではないのだから。本人の反応を見た限り、自分がしでかした事の重要性が何も分かっていない様子だ。ずる賢く何かを考えてる。
この様子では罰を下せば王家に恨みを抱くであろうな。隠し通路には通っていないらしいが、「今聞いて知ってしまった」し、宰相の許可を得てから後腐れなく殺すか。
サバルス商会の会頭のコンドルも文句は言わぬであろう。確か他にも息子が居たはずだからな。
問題はチャックの方だ。
騎士団長カークスの男子はチャック1人だけ。難産だったらしく、夫人はもう子供は産めないらしいので。
チャックをハミルの側近から外してもアリストン伯爵家は継承する。
「宰相の言を採用してサバルス商会の息子は裁くとしよう。罪状は何になる?」
別に国王は法律に詳しくなくてもやれる。
外交とか財政の分配とかが出来れば。
それが国王だ。
但し、宰相の方は法律に詳しくないとやってられない。
なので宰相ブラックスが事前に調べたのか、さらりと、
「王族の王命違反の幇助の罪が妥当かと」
「その罪だと何年になる?」
「労役5年ほどかと」
「では、そのように」
「罪人を引っ立てよ」
今の会話だけであっさりとイーグルの処罰が決まった。
絶対王制だから出来る事である。
本当に今の会話だけで処罰が決まり、宰相ブラックスの言葉で室内に居た近衛騎士2人がイーグルを左右から抑えて部屋の外へと連行していく。
ええっと、どっちだ? 本当に罰せられる? それとも国王の前だけのポーズ?
展開の早さに付いていけないイーグルが、
「さ、宰相閣下、ええっと」
「気軽に話しかけるな、罪人めが」
その言葉を受けてイーグルは「あれ、もしかして本当に裁かれてる?」との考えに遅蒔きに行きつく中、挽回する事も出来ず退室させられていった。
イーグルと同じく裁かれる立場のチャックとジョンは顔面蒼白である。
貴族は平民とは違う。それ以上の罪も考えられる。
脱出の罪以前に、王家の秘密であるあの宮殿の隠し通路の存在を知ってしまったのが、やっぱりかなり拙い。
アンゼル宮殿の秘密を知ったのだ。秘密を守る為に毒杯を飲まされる可能性だってある。
イーグルが退室した後、国王カミルが青ざめる2人を見て、内心で「脅かし過ぎたか?」と笑いながらも素知らぬ顔で、
「チャックとジョンの罰は・・・貴族籍なのを鑑み、今回は保留とする。次はないからな。ハミルの暴走は例え不興を買おうともちゃんと止めよ。よいな」
そう断を下した。
「処罰される」と思っていたのに、まさかの御咎めなし。
平民は裁いたのに貴族というだけで無罪。
貴族特権と言えばそれまでだが。
ジャックとジョンは「助かった~」と心底思い、
「はっ、一命に変えましても」
「寛大なご処置ありがとうございます」
それぞれが深々と頭を下げて国王に温情の裁定の礼を言い、
「当然、通路の事は忘れよ」
「はい、生涯誰にも言いません。父にもです」
「口を滑らせぬ為、生涯酒を口にしない事をここで陛下に誓います」
「私も」
更に王家の秘密を喋らぬ事を誓ったのだった。
さあ、これで一件落着。
「王太子ハミルによるマリーハルケン公爵邸のお茶会乱入事件」の総てが清算された。
◇
――訳では当然ない。
「アンドレーヌ王家とマリーハルケン公爵家の政略結婚」に横槍を入れた女生徒が裁かれていないのだから。
そう、アンヌ・ラリー子爵令嬢の事だ。
アンヌ本人の意思の有無などは関係ない。
この少女がアンドレーヌ王国の政略に干渉した事で「王太子ハミルと公爵令嬢エルゼーシアの仲にヒビが入った」のは事実なのだから。
アンドレーヌ王国首脳部の中でも「排除」の意見が出たが、本人が無自覚で瑕疵がなかった事から「最後の警告」という事で話は落ち着いた。
つまり、どういう事かというと、
それで一件落着とはならない。
アンゼル宮殿からの王太子ハミルの脱出は1人ではさすがに不可能だったのだから。
ハミルの脱出を助けた者が居る。
つまりはその脱出した当日に王太子ハミルの自室を訪ねた記録が残ってる、
チャック・アリストン。
ジョン・サンドス。
イーグル。
この3人だが、3人ともが宰相ブラックスの孫や騎士団長カークスの令息という始末だった。
国王カミルの前で(貴族学校の授業中に近衛騎士がやってきて、そのままアンゼル宮殿の国王カミルの前まで連行された)青ざめる3人から直接、事情を聞けばその時の様子が明らかとなった。
イーグルが王太子ハミルに噴水事件の事を伝え、積極的にハミルの脱出に加担。
残る2人も嫌々ながらも手伝い、「ハミルは見事、アンゼル宮殿からの脱出に成功した」という顛末っぽい。
正直、謹慎中の王太子の抜け出しなど国王が真面目に対応する事案ではなく、完全に気を抜いて国王カミルは王太子の脱出の経緯を聞いていた訳だが、
「カーテンをロープのようにして庭に出た後、何故か殿下が東棟に向かわれて外庭の扉の方から廊下に入って二つ目の部屋の壁に設置された燭台を殿下が右側に動かすと壁がガコッと開き・・・」
チャックがそれを説明した瞬間、弾かれたように同席していた騎士団長のカークスが、
「待てい。それ以上喋るな」
チャックの言葉を遮った。
直後に室内は沈黙に包まれる。
嫌な沈黙だ。
気を抜いていた国王カミルも真剣な顔になってる。
同席していた宰相ブラックスと騎士団長カークスは渋い顔だ。
最重要機密「アンゼル宮殿の秘密の隠し通路」の事を話したのだから。
というか、宰相のブラックスですら知らない王家の秘密情報だった。騎士団長のカークスも今聞いたのが初めてだ。
だから呑気に「壁が動くまで」説明を聞いてしまうという失態を犯している訳だが。
この室内には国王カミル、宰相ブラックス、騎士団長カークス、王太子の側近候補のチャック、ジョン、イーグル。
それに扉の傍に警備の近衛騎士4人が控えてる。
聞こえたか、今の?
いえ。聞こえませんでした。
大人達が無言で視線を交わし、嫌な沈黙が5秒間続いた後、国王のカミルが、
「通ったのか、おまえ達はその隠し通路の中を?」
「・・・はい。王族しか知らぬ宮殿の隠し通路だと殿下は仰っていました」
チャックが代表し、拙いと分かっていながらも正直に白状した。
それを聞いて頭痛を覚えた国王カミルが額に手を当てながら、
「何をやっておるのだ、ハミルは? 他国に攻められてアンゼル宮殿が陥落した時以外には使うな、と教えたであろうが。王家の秘中の秘だぞ」
そもそもあの隠し通路は「王族しか知らぬのではない」。
「王族の直系しか知らぬ」隠し通路なのだ。
カミルでさえ、即位前に父王に教えられて初めて知ったくらいなのだから。
弟で大公に臣籍降下したニヒルも知らないはずだ。
同盟国とはいえ他国出身の王妃ミラリーも当然、知らない。
それくらい重要なアンドレーヌ王家の秘密なのだ。
「おまえ達、誰かに喋ったか、それを?」
しばらく苦悩していた国王カミルの冷たい一睨みに、
「いいえ、殿下に他言無用と言われましたので」
「決して」
「部屋に残っていたので今初めて知りました」
3人は背筋を正して答えた。
その弁に嘘はないだろう。
だが、国王カミルは真剣に「隠し通路の秘密を守る為に全員を殺すか?」と考えていた。
「どこに出たかは説明しなくて良い。その後は?」
その後、巡回の騎士をチャックが世間話で足止めして、馬車に上手く乗った経緯が語られた。
騎士団の警備体制も見直さねばならんな。
騎士団長のカークスは心底そう思ったくらいだったが。
その後は無事にマリーハルケン公爵邸に到着して、屋敷内で待ってられず、中庭のお茶会に王太子ハミルが突撃した事が側近達によって語られた。その内容は国王カミルが把握しているものと同じものだった。
「宰相、騎士団長、どう裁く」
国王カミルが丸投げすると、隠し通路を通った説明あたりから眼光を鋭くしていた宰相ブラックスが、
「ハミル殿下をそそのかし、脱出に積極的に加担したイーグルは法で厳格に裁くべきかと」
えっ、嘘だろ。殿下がしでかした事なのにどうして巻き添えで私が裁かれなければならないのだ?
祖父ブラックスの言葉にイーグルは心底驚いた。
もしかして国王の手前、ポーズだけでも罰せないと駄目だからか。
自称切れ者のイーグルは祖父の思惑を深読みする。
同じく息子を冷めた眼で見ていた騎士団長カークスの方も、
「チャックも側近から外すべきかと。殿下を止められなかった咎がありますので」
チャックの方は覚悟が出来ていたのか異論はなかった。
ふむ。
イーグルを法で裁き、側近から外すのに国王カミルも異存はない。「宰相ブラックスの孫」とは言っても貴族ではないのだから。本人の反応を見た限り、自分がしでかした事の重要性が何も分かっていない様子だ。ずる賢く何かを考えてる。
この様子では罰を下せば王家に恨みを抱くであろうな。隠し通路には通っていないらしいが、「今聞いて知ってしまった」し、宰相の許可を得てから後腐れなく殺すか。
サバルス商会の会頭のコンドルも文句は言わぬであろう。確か他にも息子が居たはずだからな。
問題はチャックの方だ。
騎士団長カークスの男子はチャック1人だけ。難産だったらしく、夫人はもう子供は産めないらしいので。
チャックをハミルの側近から外してもアリストン伯爵家は継承する。
「宰相の言を採用してサバルス商会の息子は裁くとしよう。罪状は何になる?」
別に国王は法律に詳しくなくてもやれる。
外交とか財政の分配とかが出来れば。
それが国王だ。
但し、宰相の方は法律に詳しくないとやってられない。
なので宰相ブラックスが事前に調べたのか、さらりと、
「王族の王命違反の幇助の罪が妥当かと」
「その罪だと何年になる?」
「労役5年ほどかと」
「では、そのように」
「罪人を引っ立てよ」
今の会話だけであっさりとイーグルの処罰が決まった。
絶対王制だから出来る事である。
本当に今の会話だけで処罰が決まり、宰相ブラックスの言葉で室内に居た近衛騎士2人がイーグルを左右から抑えて部屋の外へと連行していく。
ええっと、どっちだ? 本当に罰せられる? それとも国王の前だけのポーズ?
展開の早さに付いていけないイーグルが、
「さ、宰相閣下、ええっと」
「気軽に話しかけるな、罪人めが」
その言葉を受けてイーグルは「あれ、もしかして本当に裁かれてる?」との考えに遅蒔きに行きつく中、挽回する事も出来ず退室させられていった。
イーグルと同じく裁かれる立場のチャックとジョンは顔面蒼白である。
貴族は平民とは違う。それ以上の罪も考えられる。
脱出の罪以前に、王家の秘密であるあの宮殿の隠し通路の存在を知ってしまったのが、やっぱりかなり拙い。
アンゼル宮殿の秘密を知ったのだ。秘密を守る為に毒杯を飲まされる可能性だってある。
イーグルが退室した後、国王カミルが青ざめる2人を見て、内心で「脅かし過ぎたか?」と笑いながらも素知らぬ顔で、
「チャックとジョンの罰は・・・貴族籍なのを鑑み、今回は保留とする。次はないからな。ハミルの暴走は例え不興を買おうともちゃんと止めよ。よいな」
そう断を下した。
「処罰される」と思っていたのに、まさかの御咎めなし。
平民は裁いたのに貴族というだけで無罪。
貴族特権と言えばそれまでだが。
ジャックとジョンは「助かった~」と心底思い、
「はっ、一命に変えましても」
「寛大なご処置ありがとうございます」
それぞれが深々と頭を下げて国王に温情の裁定の礼を言い、
「当然、通路の事は忘れよ」
「はい、生涯誰にも言いません。父にもです」
「口を滑らせぬ為、生涯酒を口にしない事をここで陛下に誓います」
「私も」
更に王家の秘密を喋らぬ事を誓ったのだった。
さあ、これで一件落着。
「王太子ハミルによるマリーハルケン公爵邸のお茶会乱入事件」の総てが清算された。
◇
――訳では当然ない。
「アンドレーヌ王家とマリーハルケン公爵家の政略結婚」に横槍を入れた女生徒が裁かれていないのだから。
そう、アンヌ・ラリー子爵令嬢の事だ。
アンヌ本人の意思の有無などは関係ない。
この少女がアンドレーヌ王国の政略に干渉した事で「王太子ハミルと公爵令嬢エルゼーシアの仲にヒビが入った」のは事実なのだから。
アンドレーヌ王国首脳部の中でも「排除」の意見が出たが、本人が無自覚で瑕疵がなかった事から「最後の警告」という事で話は落ち着いた。
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