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卒業パーティー前 〜宮殿内でも移動するのに護衛が付く王太子の浮気がバレないなんて物語は存在しない〜
37、ブルーウッド公爵の養女の噂
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マリーハルケン公爵陣営の動きは素早かった。
国王誕生日の翌日には王都アンゼルの貴族界に噂が広がったのだから。
噂の内容は、
「王太子が御注進の子爵令嬢が近々ブルーウッド公爵家の養女になる」
である。
噂の出所は調べるとすぐに分かった。
マリーハルケン公爵陣営の貴婦人達がお茶会で、息の掛かった訪問販売する商人が貴族の家で面白おかしく喋ったのだから。
◇
そして、その噂はその日の午後にはアンゼル宮殿の国王カミルの耳にも届き、
「はあ? どうしてそんな噂をマリーハルケン公爵陣営は流しているんだ?」
「夜の部で殿下がやたらとブルーウッド公爵を見ていたのが原因かと」
報告を上げた宰相のブラックスがそう答えた。
初耳の国王カミルがピクリと眉を動かし、
「見ていたのか?」
「はい、私が見ても分かるくらいに分かりやすく。夜の部に参加した目敏い貴族ならば気付いた事でしょう」
普段は王都アンゼルに滞在していないが国王の誕生祝いに駆け付けた地方の貴族達との情報交換の為に、ダンスはしなかったが舞踏会に参加していた宰相のブラックスは答えた。
「どうしてハミルはブルーウッド公爵を見ていたと思う?」
「意図もないのに見る訳がないかと。案外その噂は的を射ていると思いますが」
「『子爵令嬢を殺す』と伝えたのにまるで分かっておらんようだな、ハミルは。だが困ったな。昨日ラリー子爵に『殺さずとも良い』と言ったところでこの騒ぎとは」
「どうされますか?」
「まだ視線だけだ。怒るのも・・・そう言えば、新たにハミルの側近となった男爵令息がいたな。呼び出して話を聞くか」
こうしてキロス・ワイドム男爵令息は呼び出されて、
貴族学校の授業が終わり、放課後に生徒会での会計業務をしていたら近衛騎士に名指しされて、
「えっ、私がですか?」
「そうだ、ついてくるように」
と馬車に乗せられてアンゼル宮殿に出向けば、そのまま国王執務室に呼び出され、
うわ、国王様が眼の前に。姿絵よりも本物は少し太い?
眼の前に国王が居るのだからキロスは素直に驚いていた訳が、そんな不謹慎な感想も思ってしまったのだった。
同時に舞い上がっている。
アンドレーヌ王国の国王の御前に居るキロスは木端貴族の令息なのだから。
そしてキロスは緊張するとドモる癖があり、
「キキキ、キロス・ワイドム、へ、へ、陛下に拝謁いたします」
完全に緊張してカチコチである。
その初々しい若さは、国王カミルにも好印象だったが、
「最近ハミルの側近となったと聞いた。それで率直に問うが、ハミルはブルーウッド公爵と接触しているのか?」
「せ、接触はしておりませんが、き、昨日の昼間、きゅ、宮殿の廊下で公爵から殿下に意味不明な伝言を預かりました」
「意味不明な伝言? 内容は?」
「『ブルーウッド家ならば養子を受け入れる』です」
と言った瞬間、国王カミルがピクンと片眉を跳ね上げた。
あっ、怒った。
政治に疎くて伝言の意味すら分からないキロスでも、初対面の国王が怒った事くらいは分かった。
その後、数回呼吸を整えてから国王カミルは、
「それを聞いてハミルは何と言っていた?」
「なな、何の事か分からないと」
そこまでハミルは能力は低くないだろう。
理解しておきながらトボけた訳か。
「それだけか?」
「後は・・・そうだ、ブルーウッド公爵家はその歴史から接触した事が露見すると憶測を呼ぶから他言せぬように、と。あっ、陛下に問われたら答えていいとも」
ちゃんと口止めしているのだから「理解していながらトポけた」で決定か。
「そうか、御苦労だったな。これからもハミルを支えてやってくれ」
「はっ、身命を賭しましても」
キロスが退室した後、
残された国王カミルが、
「ふ~、マリーハルケン公爵陣営が噂を流す訳だな。だが、それ以上に今回の問題はブルーウッド公爵か。おのれ、お情けで生かしておいてやっているとも分からんとは。それとも『王家は手を出さぬ』と侮っておるのか? これはそろそろ本当に爵位を落とす必要が出てきたな」
「サバルス商会の会頭のすげ替えの調整に入っているところですが、そちらはどうしましょう?」
同盟国サラット王国の貿易利権を握るサバルス商会。
四公爵の降格、並びに初代国王の遺言問題を抱えるブルーウッド公爵。
両方の問題を同時に解決するのは政治的にも危険である。
サバルト商会の方の貿易ルートの街道所有の貴族達が干渉してくるに決まってるし、ブルーウッド公爵の爵位降格はもっと危険だ。
何せ、ブルーウッド公爵の爵位降格は同時にアンドレーヌ王国が建国以来維持してきた四公爵体制を三公爵体制にするか、もしくは侯爵9家の1つを公爵に昇格させて四公爵体制を維持するかの議論に発展するのだから。
当然、四公爵体制の維持が支持されるだろう。
何故ならば、四公爵体制が維持されれば、侯爵9家の1つが公爵に昇格する事になるのだから。
公爵になれるのだ。侯爵9家が暗躍するのは眼に見えてる。
残る三公爵も自分に有利になる侯爵家を推薦するに決まっている。
もうハチャメチャな展開が予想されて、両方を同時に進行しようなどとすればサバルト商会の会頭の後任人事の問題にも無関係な高位貴族達が公爵昇格の為の取引材料にしようと口を挟んでくるのは眼に見えている。
下手すれば両方がおジャンになる可能性まであった。
現在のサバルス商会の会頭のコンドルは認知していない娘の婿なので正直代えたくないのが本音の宰相ブラックスが問うと、
「おっと、そうだった。そっちもあったな。両方同時はさすがに拙いか。ブルーウッド公爵の方は後回しとするか。まずはサバルス商会だな」
そう国王カミルが答え、ブラックスは残念がったのだった。
国王誕生日の翌日には王都アンゼルの貴族界に噂が広がったのだから。
噂の内容は、
「王太子が御注進の子爵令嬢が近々ブルーウッド公爵家の養女になる」
である。
噂の出所は調べるとすぐに分かった。
マリーハルケン公爵陣営の貴婦人達がお茶会で、息の掛かった訪問販売する商人が貴族の家で面白おかしく喋ったのだから。
◇
そして、その噂はその日の午後にはアンゼル宮殿の国王カミルの耳にも届き、
「はあ? どうしてそんな噂をマリーハルケン公爵陣営は流しているんだ?」
「夜の部で殿下がやたらとブルーウッド公爵を見ていたのが原因かと」
報告を上げた宰相のブラックスがそう答えた。
初耳の国王カミルがピクリと眉を動かし、
「見ていたのか?」
「はい、私が見ても分かるくらいに分かりやすく。夜の部に参加した目敏い貴族ならば気付いた事でしょう」
普段は王都アンゼルに滞在していないが国王の誕生祝いに駆け付けた地方の貴族達との情報交換の為に、ダンスはしなかったが舞踏会に参加していた宰相のブラックスは答えた。
「どうしてハミルはブルーウッド公爵を見ていたと思う?」
「意図もないのに見る訳がないかと。案外その噂は的を射ていると思いますが」
「『子爵令嬢を殺す』と伝えたのにまるで分かっておらんようだな、ハミルは。だが困ったな。昨日ラリー子爵に『殺さずとも良い』と言ったところでこの騒ぎとは」
「どうされますか?」
「まだ視線だけだ。怒るのも・・・そう言えば、新たにハミルの側近となった男爵令息がいたな。呼び出して話を聞くか」
こうしてキロス・ワイドム男爵令息は呼び出されて、
貴族学校の授業が終わり、放課後に生徒会での会計業務をしていたら近衛騎士に名指しされて、
「えっ、私がですか?」
「そうだ、ついてくるように」
と馬車に乗せられてアンゼル宮殿に出向けば、そのまま国王執務室に呼び出され、
うわ、国王様が眼の前に。姿絵よりも本物は少し太い?
眼の前に国王が居るのだからキロスは素直に驚いていた訳が、そんな不謹慎な感想も思ってしまったのだった。
同時に舞い上がっている。
アンドレーヌ王国の国王の御前に居るキロスは木端貴族の令息なのだから。
そしてキロスは緊張するとドモる癖があり、
「キキキ、キロス・ワイドム、へ、へ、陛下に拝謁いたします」
完全に緊張してカチコチである。
その初々しい若さは、国王カミルにも好印象だったが、
「最近ハミルの側近となったと聞いた。それで率直に問うが、ハミルはブルーウッド公爵と接触しているのか?」
「せ、接触はしておりませんが、き、昨日の昼間、きゅ、宮殿の廊下で公爵から殿下に意味不明な伝言を預かりました」
「意味不明な伝言? 内容は?」
「『ブルーウッド家ならば養子を受け入れる』です」
と言った瞬間、国王カミルがピクンと片眉を跳ね上げた。
あっ、怒った。
政治に疎くて伝言の意味すら分からないキロスでも、初対面の国王が怒った事くらいは分かった。
その後、数回呼吸を整えてから国王カミルは、
「それを聞いてハミルは何と言っていた?」
「なな、何の事か分からないと」
そこまでハミルは能力は低くないだろう。
理解しておきながらトボけた訳か。
「それだけか?」
「後は・・・そうだ、ブルーウッド公爵家はその歴史から接触した事が露見すると憶測を呼ぶから他言せぬように、と。あっ、陛下に問われたら答えていいとも」
ちゃんと口止めしているのだから「理解していながらトポけた」で決定か。
「そうか、御苦労だったな。これからもハミルを支えてやってくれ」
「はっ、身命を賭しましても」
キロスが退室した後、
残された国王カミルが、
「ふ~、マリーハルケン公爵陣営が噂を流す訳だな。だが、それ以上に今回の問題はブルーウッド公爵か。おのれ、お情けで生かしておいてやっているとも分からんとは。それとも『王家は手を出さぬ』と侮っておるのか? これはそろそろ本当に爵位を落とす必要が出てきたな」
「サバルス商会の会頭のすげ替えの調整に入っているところですが、そちらはどうしましょう?」
同盟国サラット王国の貿易利権を握るサバルス商会。
四公爵の降格、並びに初代国王の遺言問題を抱えるブルーウッド公爵。
両方の問題を同時に解決するのは政治的にも危険である。
サバルト商会の方の貿易ルートの街道所有の貴族達が干渉してくるに決まってるし、ブルーウッド公爵の爵位降格はもっと危険だ。
何せ、ブルーウッド公爵の爵位降格は同時にアンドレーヌ王国が建国以来維持してきた四公爵体制を三公爵体制にするか、もしくは侯爵9家の1つを公爵に昇格させて四公爵体制を維持するかの議論に発展するのだから。
当然、四公爵体制の維持が支持されるだろう。
何故ならば、四公爵体制が維持されれば、侯爵9家の1つが公爵に昇格する事になるのだから。
公爵になれるのだ。侯爵9家が暗躍するのは眼に見えてる。
残る三公爵も自分に有利になる侯爵家を推薦するに決まっている。
もうハチャメチャな展開が予想されて、両方を同時に進行しようなどとすればサバルト商会の会頭の後任人事の問題にも無関係な高位貴族達が公爵昇格の為の取引材料にしようと口を挟んでくるのは眼に見えている。
下手すれば両方がおジャンになる可能性まであった。
現在のサバルス商会の会頭のコンドルは認知していない娘の婿なので正直代えたくないのが本音の宰相ブラックスが問うと、
「おっと、そうだった。そっちもあったな。両方同時はさすがに拙いか。ブルーウッド公爵の方は後回しとするか。まずはサバルス商会だな」
そう国王カミルが答え、ブラックスは残念がったのだった。
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