ヤバイ秀吉

魚夢ゴールド

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永禄4年(1561年) ねねを娶る

6、マムシの美濃譲り状

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清洲の城下にある足軽組頭の長屋では祝言が執り行われていた。

木下秀吉。

「浅野ねね」。

両者の祝言である。

ねねは元々は杉原姓で「杉原ねね」といった。

杉原定利と妻こひの次女である。

だが、この「実母のこひ」が秀吉との祝言に反対していた。

まあ、反対するわな。

秀吉はいくら足軽組頭とは言っても百姓あがりなのだから。

「武士の娘が百姓の男に嫁ぐ? あり得ない」という訳だ。

そんな訳で、ねねは実母の妹で浅野長勝の後妻として嫁いでいた浅野ふくに泣き付いて、浅野家の養女となって「浅野ねね」として秀吉と結婚していた。

これが浅野家からしたら大当たりで、秀吉の出世のおこぼれで浅野家も出世する訳である。

まあ、ねねの実家の杉原家も出世するのだが、秀吉は御存知、冷酷な一面がある。

そりゃあ、若い頃の祝言にケチを付けた杉原家に思うところがあるに決まってる訳で、 天下人になった後に盛大にお返ししていた。

結果は「後世に名が残っていない」のだから、そういう事である。





それはともかく二人の祝言は決行された。

出席者は、

長屋のお隣の前田利家、まつ。

ねねの妹のやや。

ねねを養女にしてくれた浅野長勝、ふく。

秀吉の弟の木下小一郎。

蜂須賀小六の名代にとして弟の蜂須賀又十郎。

他は名もなき足軽の末端達だ。

何せ、秀吉は末端の足軽からすれば稼がせてくれる気前が良い組頭なのだから。

そして、何故か前田利家の実弟で佐脇良之が来ていた。

「どうしているんだ? 秀吉と知り合いだったのか?」

利家が問うと、良之が皮肉げに、

「殿が持って行けと」

連れてきた下男が持つ酒樽を中に置かせた。

「おお、殿からでござるか、ありがとうございまする」

秀吉は大層喜んだのだった。





そして秀吉は図々しい性格をしている。

ちゃんと御祝儀を織田家の重臣達にせびっていた。

祝い事だ。

「祝言祝いをやらないケチな奴」と思われたくなかったのか、重臣達は渋々と秀吉に銭や品を贈ったのだった。

贈られた品の贈り主を見て、利家は驚いた。

何故ならばケチで有名な佐久間信盛からも贈られてきていたからだ。

「秀吉、やり過ぎだろう。渋ちんの佐久間殿から貰うのは?」

「佐久間殿は渋ちんではないぞ、又左殿。佐久間殿は立派なお方なのだからな、ギャハハハ」





 ◇





永禄4年。

この年、日本中の大名の眼を引いている出来事と言えば「関東管領の地位」と「上杉の名跡」を継いだ越後軍による関東成敗である。

北条だけでなく三国同盟の領国を上杉が総て飲み込んだ日には「大国上杉」の出来上がりで呆気なく戦国時代は終焉を迎える。

犬山城の離反を抱えた信長も正直興味があり、逐一情報を集めていた訳だが。





 ◇





秀吉は結婚したてだ。

ずっと妻のねねとイチャイチャした。

女好きなので。

「秀吉殿、少しは又左殿を見習って鍛錬をなされませ。そんな事では又左殿に勝てませぬぞ」

「いやいや、又左殿の槍は天下無双。どんなに頑張っても凡人のワシには勝てぬから」

「では、清洲に出てお役目を貰ってきて下さい」

「寝転んでいても組頭の禄高が貰えるのだから、いいではないか」

「いいえ、駄目です。もっと稼いできてくだされ」

長屋から追い出されたのだった。





秀吉は仕方なく清洲城に上がった。

「何かお役目はございませんでしょうか?」

秀吉が信長の許に辿り付けたのは信長が百姓の秀吉から見た考えを知りたかったからだ。

「関東の話は知っておるか、サル?」

「上杉ですか。はい、聞いておりますが」

「どっちが勝つと思う?」

「小田原城は難攻不落。城を落とせずに撤退するのでは?」

新婚ボケで頭が回っていない秀吉は適当に誰かの受け売りをそのまま答えた。

しかし、その通りになるのだから世の中は怖い。

「ふむ。織田が進む道は?」

「美濃よりも伊勢は取られませんので?」

秀吉から言わせれば伊勢の方が簡単に切り取れる。

それをしないのだから「殿はやはりうつけだ」と思っていた。

「美濃が清洲に近過ぎるわ。伊勢の出兵中に尾張を襲われたら何とする? そうでなくても信清のうつけが寝返ったというのに」

「・・・なるほど、さすがは殿ですな」

もっともらしく秀吉は頷いていた。

「サルならどうやって犬山と美濃を取る?」

そう信長が尋ねたのはきまぐれであったが、

「そうですな~。清洲城と犬山城の間に出城を築き、その城に移って圧力を掛けますかな」

「何故、清洲から移る必要がある?」

「清洲から兵を率いて出発しても犬山城からだと清洲の様子が一望出来てバレバレですからな~」

ピクリ。

一理ある。

信長は扇を持つ手を一瞬止めた。

「ふむ、美濃の方は?」

「そうですな、ワシが殿ならマムシ様が敗死の折、『美濃を婿に譲る』との遺言を預かったと嘘をついて戦わずして美濃を相続しますかな~」

ピクリ。

信長は新婚ボケの秀吉をマジマジと見た。

自分でも「口元がニヤ付いているな」と思いながら、

「どうしてワシはそれを今まで黙っていたのだ?」

「マムシの毒にてられたからでは? 『美濃くらいに実力で取れるわ。マムシめ、死んでまでワシに指図する気か』と読んだ際に怒り任せに書状を破り捨てたのかと」

「・・・さがれ、サル。祝言祝いだ。5貫文と馬廻り格をくれてやろう。銭は勘定方に言っておいてやる」

「ほへ? 馬廻り格? それって馬に乗っても・・・」

秀吉が眼を輝かせたが、信長が冷徹に、

「駄目に決まっておろうが、サルが。ワシに会える側近というだけじゃ」

「ははっ、ありがたき幸せにございまする」

秀吉は銭5貫文を貰って、馬廻り格になった事を伝えるべくねねの許に飛んで帰っていったのだが、





その直後、清洲城では重臣を集めての評定が開かれた。

重臣達が急遽集められて「何事だ」といぶかしんでいると、信長が素知らぬ顔で、

「実はのう、今まで皆にも黙っていたのだが、マムシが殺された時にマムシの息子を二人預かったであろう。その息子がマムシがワシに宛てた書状を持っておってな。その書状に『美濃を尾張の婿に譲る』と書かれてあったのよ。まあ、『美濃ぐらい自力で切り取れるわ』と怒ってその場で破り捨てたのだが」

「ど、どど、どうしてそんな重要な事を今まで黙っておられたのですか? というか、その破いた書状は今どこに?」

林秀貞が真剣な顔で信長に質問したのを見て、信長が、

「アハハハ、信じるなよ、ジイ。そんなサルが思い付いた戯言を」

大笑いしたのだった。

サル?

織田家でサルと言えば秀吉の蔑称である。

それ以外にサルはいない。

なるほど、図々しい百姓が考えそうな事だ。

偽の遺言書の作るとはあの悪党サルらしい。

重臣達が納得する中、信長が真顔になって、

「だが、それでいく。噂を美濃に広めろ。それがワシが美濃を取る大義名分よ」

「他には何と書かれていた事にしましょう?」

丹羽長秀が真顔で尋ねた。

「・・・美濃を継承したら息子2人に10万石くれるようマムシ殿が殿に頼んでいた事にされては?」

そう案を出したのは佐久間信盛である。

ケチなだけで信盛は出来る男なのである。ケチなだけで。

「ほう、『美濃は譲るが息子に10万石を残す』か。マムシらしい抜け目の無さよ。信憑性が否が応にも増すのう」

その後も重臣達は真顔で存在しない「マムシの美濃譲り状」を如何に本物に見せるか議論を重ねたのだった。
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