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勇者(?)帰還編
少年、加わる
しおりを挟む聖女、シルエッタ=シャードを撃退した武光は、フリード=ティンダルスを正座させていた。
「なぁ、フリティン……知ってる事を話してくれへんか?」
「……」
フリードは俯いたまま一言も発しない。無理もない、自分が信頼していた……いや、崇拝していたと言っても過言ではない相手が、自分を実験動物程度にしか見ていなかったのだ、落ち込むなと言う方が無理というものだ。
「うーん、まぁ……確かにあれはヘコむわな。ちょっとジッとしとけよ?」
そう言いながら、武光はしゃがみ込み、魔穿鉄剣でフリードの手足を縛り付けている縄を切った。解放されたフリードは意外そうな面持ちで武光を見た。
「……どうして、僕を助けた?」
「うん? どうしてって……ち◯ちん付いてるからな。一人の男として……アイツの言動に腹が立った!! だからガーッっていって、バーンってやって、ガツーンとかましたった……ま、それだけやな」
「た、たったそれだけの理由で……?」
「ふふ……アホみたいやろ? 自分でもそう思うわ」
フリードは何気なく武光の足元に視線を向けた。武光の両足は恐怖からなのか、プルプルと震えていた。
「くっ……」
俯くフリードを見た武光は、魔穿鉄剣を鞘に納めて帯から抜くと、ナジミにぽんと手渡した。
「武光様……?」
〔ご主人様……?〕
「悪いな、女子はちょっとあっち行っててくれ」
「え……でも……」
武光はナジミの肩を抱くようにして、フリードに背を向けると、小声で話しかけた。
「まーまー、あの年頃の男子はな……女子に絶対見られたくないんや」
「え? 何がです?」
「ええからええから、ここから先はち◯ちん付いてない人はご遠慮下さい」
「むー……分かりました、そこまで言うなら。行きましょ、魔っつん」
少し不満げなナジミであったが、しばらくして戻ってきた二人の目の周りが少し赤くなっているのを見て、ナジミは全てを理解した。
別に恥ずかしい事なんてないし、カッコ悪いなんてこれっぽっちも思わないのに。全く、男の人って……
苦笑するナジミを見て、怪訝な顔をする武光であった。
「すまん、待たせたな。二人で何話しとったん?」
「ふふふ、それは……男子禁制です。ね、魔っつん?」
〔ハイ、男子はお断りです!! 聞いたら生命の保証は出来ません!!〕
「どんな話やねん……ところでフリティン、ナジミに言う事あるやろ?」
武光の少し後ろに立っていたフリードはおずおずとナジミの前に立った。
「あの……その……すみませんでしたっっっ!!」
フリードは深々と頭を下げた。
「……フリード君、だったわね?」
「は、ハイ!!」
「貴方を許すかどうかは……これから決めます、正直に答えて下さい……!!」
頭を上げたフリードに対し、ナジミは厳しい視線を向けていた。
「この街をこんなにしたのは……君なの?」
ナジミの問いに対し、フリードは首を左右に振った。
「いいえ……違います。この街を壊滅させたのは聖女様……いえ、シルエッタ=シャードです。僕は彼女に呼び出されて『この街にアスタトの巫女が向かっている。待ち受けて始末しろ』と命令されていました」
「……では、他の街や人々を襲った事は?」
「実は……その……今回が初めての仕事で、詳しい事は何も聞かされてないんです……」
「じゃあ私が『どうしてこんな酷い真似を!?』って聞いた時に『知る必要は無い』って言ってたのは……」
「本当は、何にも知らなかっただけなんです、ごめんなさい……」
「本当ですね!? 嘘だったら承知しませんよ!!」
「は、はい!!」
「…………ぷふっ」
二人のやり取りを聞いていた武光が堪えきれずに噴き出した。ナジミは眉間に皺を寄せたまま、武光に厳しい視線を向けた。
「……何ですか、武光様?」
「お前……相変わらず芝居ヘッッッタクソやな!!」
「もう!! これでも私、頑張って怖い顔作ってるんですからね!? って…………あっ」
「え……?」
キョトンとするフリードを尻目に、武光は苦笑しながらナジミに言った。
「ホンマはもう……許したってるんやろ?」
「ええ、だって武光様は……もう許してあげてるんでしょう?」
そう言ってナジミはニコリと笑った。
「でもねフリード君、君は怪しい組織の口車に乗っかって、力に溺れ、欲望のおもむくままに、その力を他人に向けようとしました……そこは大いに反省しなくてはなりません」
「……はい」
「この国の至る所でシルエッタのような悪意を持つ者によって苦しめられている罪無き人々がいます。この混乱を終わらせない事には……」
「おちおちイチャイチャもしてられへん!!」
「そうです!! 武光様とイチャイチャ……って何言わせるんですかーーーーーっ!? もう武光様のバカーーー!!」
「フリティン……俺達に力を貸してくれ!!」
プンスコと怒るナジミを背に、武光は右手を差し出した。
「一つだけ、条件があります……」
「うん?」
「…………僕の事『フリティン』って呼ぶのやめてくれません!? 響きがイヤ過ぎます!!」
「よっしゃ分かった!! よろしくな……フリード!!」
「ハイ!!」
フリードは差し出された手を力強く握った。
フリードが 仲間に加わった!
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