斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
7 / 282
勇者(?)帰還編

少年、加わる

しおりを挟む

 聖女、シルエッタ=シャードを撃退した武光は、フリード=ティンダルスを正座させていた。

「なぁ、フリティン……知ってる事を話してくれへんか?」
「……」

 フリードはうつむいたまま一言も発しない。無理もない、自分が信頼していた……いや、崇拝すうはいしていたと言っても過言ではない相手が、自分を実験動物程度にしか見ていなかったのだ、落ち込むなと言う方が無理というものだ。

「うーん、まぁ……確かにあれはヘコむわな。ちょっとジッとしとけよ?」

 そう言いながら、武光はしゃがみ込み、魔穿鉄剣でフリードの手足を縛り付けている縄を切った。解放されたフリードは意外そうな面持ちで武光を見た。

「……どうして、僕を助けた?」
「うん? どうしてって……ち◯ちん付いてるからな。一人の男として……アイツの言動に腹が立った!! だからガーッっていって、バーンってやって、ガツーンとかましたった……ま、それだけやな」
「た、たったそれだけの理由で……?」
「ふふ……アホみたいやろ? 自分でもそう思うわ」

 フリードは何気なく武光の足元に視線を向けた。武光の両足は恐怖からなのか、プルプルと震えていた。

「くっ……」

 俯くフリードを見た武光は、魔穿鉄剣を鞘に納めて帯から抜くと、ナジミにぽんと手渡した。

「武光様……?」
〔ご主人様……?〕
「悪いな、女子はちょっとあっち行っててくれ」
「え……でも……」

 武光はナジミの肩を抱くようにして、フリードに背を向けると、小声で話しかけた。

「まーまー、あの年頃の男子はな……女子に絶対見られたくないんや」
「え? 何がです?」
「ええからええから、ここから先はち◯ちん付いてない人はご遠慮下さい」
「むー……分かりました、そこまで言うなら。行きましょ、魔っつん」

 少し不満げなナジミであったが、しばらくして戻ってきた二人の目の周りが少し赤くなっているのを見て、ナジミは全てを理解した。
 別に恥ずかしい事なんてないし、カッコ悪いなんてこれっぽっちも思わないのに。全く、男の人って……
 苦笑するナジミを見て、怪訝けげんな顔をする武光であった。

「すまん、待たせたな。二人で何話しとったん?」
「ふふふ、それは……男子禁制です。ね、魔っつん?」
〔ハイ、男子はお断りです!! 聞いたら生命の保証は出来ません!!〕
「どんな話やねん……ところでフリティン、ナジミに言う事あるやろ?」

 武光の少し後ろに立っていたフリードはおずおずとナジミの前に立った。

「あの……その……すみませんでしたっっっ!!」

 フリードは深々と頭を下げた。

「……フリード君、だったわね?」
「は、ハイ!!」
「貴方を許すかどうかは……これから決めます、正直に答えて下さい……!!」

 頭を上げたフリードに対し、ナジミは厳しい視線を向けていた。

「この街をこんなにしたのは……君なの?」

 ナジミの問いに対し、フリードは首を左右に振った。

「いいえ……違います。この街を壊滅させたのは聖女様……いえ、シルエッタ=シャードです。僕は彼女に呼び出されて『この街にアスタトの巫女が向かっている。待ち受けて始末しろ』と命令されていました」
「……では、他の街や人々を襲った事は?」
「実は……その……今回が初めての仕事で、詳しい事は何も聞かされてないんです……」
「じゃあ私が『どうしてこんな酷い真似を!?』って聞いた時に『知る必要は無い』って言ってたのは……」
「本当は、何にも知らなかっただけなんです、ごめんなさい……」
「本当ですね!? 嘘だったら承知しませんよ!!」
「は、はい!!」

「…………ぷふっ」

 二人のやり取りを聞いていた武光がこらえきれずにき出した。ナジミは眉間みけんしわを寄せたまま、武光に厳しい視線を向けた。

「……何ですか、武光様?」
「お前……相変わらず芝居ヘッッッタクソやな!!」
「もう!! これでも私、頑張って怖い顔作ってるんですからね!? って…………あっ」
「え……?」

 キョトンとするフリードを尻目に、武光は苦笑しながらナジミに言った。

「ホンマはもう……許したってるんやろ?」
「ええ、だって武光様は……もう許してあげてるんでしょう?」

 そう言ってナジミはニコリと笑った。

「でもねフリード君、君は怪しい組織の口車に乗っかって、力に溺れ、欲望のおもむくままに、その力を他人に向けようとしました……そこは大いに反省しなくてはなりません」
「……はい」
「この国の至る所でシルエッタのような悪意を持つ者によって苦しめられている罪無き人々がいます。この混乱を終わらせない事には……」
「おちおちイチャイチャもしてられへん!!」
「そうです!! 武光様とイチャイチャ……って何言わせるんですかーーーーーっ!? もう武光様のバカーーー!!」
「フリティン……俺達に力を貸してくれ!!」

 プンスコと怒るナジミを背に、武光は右手を差し出した。

「一つだけ、条件があります……」
「うん?」
「…………僕の事『フリティン』って呼ぶのやめてくれません!? 響きがイヤ過ぎます!!」
「よっしゃ分かった!! よろしくな……フリード!!」
「ハイ!!」

 フリードは差し出された手を力強く握った。


 フリードが 仲間に加わった!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...