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勇者(?)帰還編
少年、解説する
しおりを挟む8-①
翌朝、無人となった宿屋で一晩を過ごした武光一行はフリードに話を聞いていた。
テーブルを挟んで、フリードと武光達が向かい合う。
「フリード、まずはお前を利用してた連中について教えてくれ」
「はい……奴らは《暗黒教団》を名乗っていました」
「うっわー、厨二臭っ!! で……規模は?」
「えっと……分かりません」
「ボスは?」
「その……知りません」
「じゃ……じゃあ拠点の場所は?」
「……不明です」
「マジで何も知らんやん!?」
「す……すみません」
「ねぇフリード君?」
俯くフリードにナジミが声をかけた。
「君はどこから来たの? この国の人達の髪って栗色か金色が圧倒的に多いから、君やシルエッタみたいな銀色の髪ってかなり珍しいと思うんだけど……」
「僕は隣村の出身です。髪の色も元々は栗色だったんですけど……これを使い始めてから色が変わり始めました」
「何やコレ? 木彫りの……人形……?」
「……影魔獣の元になる物です」
「うぇぇぇっ!?」
「わーっ!? ちょっ、武光様!? 私の袖で指を拭かないで下さいっ!!」
フリードが取り出したウ◯トラマンのソフビ人形サイズの木彫りの怪獣を触っていた武光だったが、『影魔獣の素』と聞いて武光は思わず手を離した。
「だ、大丈夫です!! コレはただの木彫りの人形ですから」
「そ、そうなん……?」
「ちょっと、外に出て下さい」
フリードは木彫りの怪獣人形を手に取ると、武光とナジミを外に連れ出した。空を見上げてフリードが呟く。
「よし、太陽は……出てるな」
フリードは、地面に怪獣人形を置いた。日の光を浴びて、地面に怪獣の影が出来た。
「影が出来たら……影にコレを打ち込みます」
そう言って、フリードは刃渡り三寸(=約9cm)程の小刀を取り出した。何の変哲も無い、シンプルなデザインの小刀だ。強いて言えば、柄頭の辺りにビー玉サイズの紫の玉が嵌められているという事くらいか。
「この《操影刀》に力を込めるんですが、これは……特殊な才能を持つ人間でなければ出来ません」
「……はっ!? フリード君、その小刀を捨てるのよ!!」
手にした操影刀を自慢気に頭上に掲げたフリードだったが、ナジミはそれを制止した。
「……急にどうしたんです?」
「その小刀は……君の生命力を無理矢理に吸い取っているわ!!」
「そんな……あの人は『操影刀に力を込められるのは特別な才能を持つ人間だけだ』って……」
「いいえ、それは君がその小刀に力を込めているんじゃなくて……その小刀が君の生命力を強制的に吸い取っているだけよ。その小刀を使ってはダメ!!」
「くっ、やはりあの人は……僕を実験動物としか思っていなかったのか……!!」
「さぁ、その小刀は危険です。こちらに渡して下さい」
「……はい」
フリードが操影刀をナジミに手渡したその時だった。
「ふぁっ…………くしゅんっっっっっ!!」
ナジミは くしゃみをした!
操影刀がナジミの手からポロリと落ち、地面に突き立った。そして、操影刀が突き刺さったのは……怪獣人形の影の上だった。
「……あっ」
「ちょっ、おまっ……」
「……まずい!! 影が!!」
“ガオオオオオーーーーーーーーー!!”
影魔獣が あらわれた!
8-②
怪獣の影が実体を持ち、ゆっくりと起き上がった。起き上がった影魔獣は操影刀がフリードから吸い取った生命力が微量だったせいなのか、頭頂高は武光の胸くらいの高さだったが、それでも暴れ出せば危険なのは間違いない。
「ふ……フリード、コイツちゃんと制御出来るやんな……?」
「もちろんです……伏せろ」
フリードは影魔獣に『伏せろ』と命じたが、影魔獣は何の反応も示さない。フリードが再度『伏せろ』と命令しようとしたその時だった。
“ガァァァァァッッッ!!”
突如として、影魔獣が牙を剥いた。ナイフのような鋭い歯が並ぶ口を広げ、影魔獣がナジミに襲いかかる。
「危ない!!」
武光はナジミの前に飛び出すと、咄嗟に左逆手で魔穿鉄剣を抜き放ち、馬に枚を噛ませるかのように、影魔獣の上顎と下顎の間に刀身を水平に捻じ込んだ。
「ぐうっっっ……!!」
二、三歩と後退りしたものの、何とか影魔獣を押し留めた武光は、魔穿鉄剣を握る左手に右手を添えて力を込めた。
“ズッ……ズズズズッ……” と魔穿鉄剣の刃が食い込んでゆく。
「行くぞ魔っつん……おぉぉぉあああああッッッ!!」
〔ハイ!! ヒャッハァァァァァーーーーー!!〕
渾身の力を込めて魔穿鉄剣を振り抜いた武光は、小さく息を吐いた。
「フッ、またつまらぬ物を斬ってしまった……」
そう言って、武光は悠然と振り返ったが……
「ゲェーッ!? くっついとるーーーーー!?」
〔そんな、確かに斬ったのに!!〕
何と、ぶった斬ったはずの影魔獣の頭部の切断面がくっついてしまっていた。
……これこそが、影魔獣を倒す事が困難とされる最大の理由であった。
影魔獣は単純な硬度で言えば『生身の人間の肉体よりやや硬い』程度の硬さしかないので、矢も刺されば剣の刃も通るし、槍も深々と突き刺さる。
……だがしかし、影魔獣の体はまるでスライムのように切断面が簡単にくっついてしまうという恐るべき特性を持っていた。
要するに、剣で切断しようとしても刀身が通過した後の切断面同士がペタリとくっついて再生してしまい、結果的に斬る事が出来ないのだ……剣のように攻撃が『線』ではなく『点』である槍や矢は言わずもがなである。
影魔獣を倒す為には、優れた……いや、『優れた』ではとても足りない、凄まじいまでの……いや、『凄まじい』でも不十分である……『凄まじい』を遥かに超えて、『もはや変態』と呼べる域……まさに敵を一撃で真っ二つに出来るほどの斬れ味を誇る剣が必要なのだ。
そして、その『変態的な斬れ味』を持つ剣を武光は持っていた。力を引き出す事が出来れば、ありとあらゆる物を一刀両断する事が出来る、超聖剣イットー・リョーダンである。
武光は後方に飛び下がって距離を取りつつ、魔穿鉄剣を鞘に納めると、イットー・リョーダンを鞘から抜いた。
「行くぞ、イットー!!」
〔応ッッッ!!〕
“すん!!”
白刃一閃、イットー・リョーダンによる逆袈裟の一撃は影魔獣の頭部を斬り飛ばした。だが、首から上が無くなったというのに、影魔獣は何事も無かったかのように武光に襲いかかった。
「嘘やろ……首から上が無くなってるのに!?」
尻尾による横殴りの一撃をしゃがんで躱しながら武光は冷や汗をかいた。
武光と影魔獣の戦いを見ていたフリードが叫ぶ。
「武光さん!! 左肘です!! そこに奴の弱点が!!」
「はぁ!? 左肘!?」
〔武光、とにかくフリードの言う通りにしよう!!〕
「よ、よっしゃ!!」
主役の欲しい位置に、欲しいタイミングで正確に攻撃を繰り出せるのが良い斬られ役の条件である。
七年半もの間、舞台上でひたすらに斬られ続けてきた男は、鍛錬の賜物である正確無比な剣さばきで影魔獣の左肘を斬り落とした。
“グアアアアアッ!?”
頭部を斬り飛ばされても平然としていた影魔獣が突如として苦しみだし、倒れた。そして、倒れた影魔獣はまるで煙のように、文字通り雲散霧消してしまった。
「し、死んだ……? フリード、影魔獣って左肘が弱点なんか?」
「いえ、影魔獣の核に決った場所はありません。お二人とも……これを見て下さい」
フリードに呼ばれて武光とナジミは怪獣人形の所まで行った。
「操影刀の刺さった位置をよく見て下さい」
「これは……!!」
操影刀が突き刺さっていたのは、怪獣人形の影の……左肘の部分だった。
「影魔獣の核は操影刀が刺さった位置によって決まるんです。だから……影魔獣の核は一体一体違う場所にあるんです」
「うっわ……弱点が決まった場所にあらへんとか、めちゃくちゃ厄介やんソレ……って言うかお前、全然制御出来てへんやんけ!!」
「ご、ごめんなさい……でも、それには心当たりがあります。シルエッタは言っていました……『影魔獣は、十分な力を与えなければ言うことを聞かない。エサをきちんと与えて世話をしてあげないと仔犬がなかなか懐いてくれないのと同じ』だと」
いや、仔犬とか可愛いもんとちゃうやんか。しかもエサって術者の命やんか……と、ドン引きする武光とナジミであった。
「それと……影魔獣の元になっている影を消すという方法もあるみたいです」
それを聞いたナジミはフリードに質問した。
「それじゃあ雨の日とか、夜になっちゃったらどうするんです?」
「僕には雨の日に影魔獣を呼び出す事が出来ませんし、日が沈んだら影魔獣は消えてしまいます。でも……どうやっているのかは分かりませんが、シルエッタは雨の日だろうと夜だろうと影魔獣を呼び出していました」
「よっしゃ!! とにかく分かった事だけでも王国軍に伝えに行くぞーーー!!」
「ハイ!! 武光様!!」
「分かりました」
勢いよく駆け出した武光達だったが……!!
「で……ドコ行ったらええんや?」
ナジミと フリードは ズッコケた!!
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