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聖剣士強襲編
斬られ役(影)、爆誕する
しおりを挟む22-①
シルエッタは一人、誰も知らない秘密の実験室で、恍惚の表情を浮かべていた。
その手の中にあるのは、武光を刺した蟲が変化した、操影刀・黒蟲である。
「フフフ……今まで沢山の人間で実験してきたけれど……異界人で実験するのは初めてですね」
床に木彫りの人形を置き、人形の頭上に手を翳す。
「…………はぁぁぁぁぁっ!!」
シルエッタが念を込めると、人形の頭上に光の玉が出現した。妖しくも眩く煌めく光の玉は、人形の足元に黒く、暗く、濃い影を作り出した。
「ふふふ……」
純粋なる好奇心、そして何より……これから自分に狼藉を働いた愚か者を徹底的に痛めつけるのだと思うと、思わず頰が緩む。
まぁ本物ではないが、今は色々と忙しい……今は影魔獣で我慢するとしよう。
テンションが上がったシルエッタは一応、念の為に周囲を見回して人がいないか確認してから、戯れに、インサンがよくやっているように、凶悪な笑みを浮かべて操影刀の刀身をペロリと舐めてみた。
「………………」
シルエッタは実験ノートに『操影刀は舐めちゃダメ!! 苦い!!』と記した後、コホンと咳払いをすると、改めて人形の影と向かい合った。
「さぁ……目覚めるのです!!」
シルエッタの投げた黒蟲が人形の影に突き立った!!
「…………?」
シルエッタは首を傾げた。
何も起こらない……?
シルエッタが影に近付いたその時だった。
突如として、影から物凄い量の煙が噴き出した。噴き出した白煙が一瞬で実験室を覆い尽くす。
「くっ……何が起きたというの!?」
視界を奪われたシルエッタが困惑していると、爆音と共に突然煙が吹き飛んだ。
シルエッタは音のした方へ目を凝らした。
……いる。あの異界人がそこにいる。髪こそ銀色だが、姿形も本物と寸分違わない。
黒蟲が、刺した相手から読み取った記憶を元に、対象の外見を再現したのだ。
「ふふふ……どうやら実験は成功したようですね。さぁ、こっちに来なさい……」
「…………」
武光の影魔獣は言われた通りに、ゆっくりとシルエッタの前まで歩いて来た。
制御も完璧のようだ。シルエッタは優しく微笑みながら言った。
「……跪きなさい」
「…………………………断るッッッ!!」
「うぶっ!?」
越◯詩郎ばりのヒップアタックが再びシルエッタに炸裂した!!
ヒップアタックを喰らって床に倒れ込んだシルエッタは、武光型影魔獣を睨みつけた。
「お前如きが、俺に命令するな……」
「なっ!? え……影魔獣の分際で……!!」
「ふぅん……俺、影魔獣なのか」
武光型影魔獣は手を開いたり握ったりしている。
「じゅ……13号ォォォォォォォォォッ!!」
シルエッタは自分の影を通じて実験体13号……インサン=マリートを召喚した。
「な、何だ!? ここはどこだ!? せ、聖女様!?」
「13号……あの失敗作を葬りなさい!!」
「あ、あれは……唐観武光!?」
「ズタズタに斬り裂き、暗黒教団の聖女に狼藉を働いた罪を……死をもって償わせるのです!!」
「へへへ…………お任せを!! オイ、テメェ!! 覚悟し……ガハァァァッ!?」
インサンは教皇から下賜された剣の柄を取り出した瞬間、瞬時に間合いを詰めた武光型影魔獣に顔面を鷲掴みにされ、後頭部を思いっきり床に叩きつけられた。
「グゥッ……て、テメェ……俺は……俺は143人殺しの……」
叫びを上げるインサンを武光型影魔獣は鼻で嗤った。
「フン、何が143人殺しだ……殺したと言っても雑魚ばかりだろう? 俺は……勇者と魔王をブッ飛ばしたぞ?」
「なっ!?」
聖剣士を強襲した武光型影魔獣は、インサンから暗黒教団の聖剣士の証しである黒聖剣の柄を奪った。
武光型影魔獣が力を込めると、黒聖剣の柄から瞬時に漆黒の刀身が伸びた。
「おおー!! ラ◯トセーバーっぽい!! いや……光じゃなくて影だから……シャドーセーバーか? うん……いいな、ソレ!! 今日からコイツは《影醒刃》だ!!」
「ふざけるんじゃねぇ!! そいつは俺様の剣……グハァッ!?」
インサンは横腹を蹴り飛ばされて石壁に叩きつけられた。
「うるさいよ、お前」
「ぐぐ……テメェ……もう許さねぇ!!」
「……失せろ」
「ギャアアアッ!?」
インサンは右腕の肘から先を剣状に変化させ、武光型影魔獣に飛び掛かったが、武光型影魔獣は影醒刃を振るい、インサンを真っ向から斬り下げた。
「い……嫌だ!! 死にたくねぇ!! 死にたく……死にたく……死に……たく……」
核を体ごと真っ二つに両断されたインサンは消えてしまった。
「ふ~んふ~んふ~ん、ふふふ~んふふふ~ん~♪」
ダ◯ス=ベイダーのテーマを鼻歌で歌いながら、武光型影魔獣はゆっくりとシルエッタの方を向いた。
「あのインサン=マリートから生み出した実験体13号がこうも容易く倒されるなんて!? か、影を……きゃあっ!?」
シルエッタは影魔獣を生み出している光の球を消そうとしたが、床に押し倒され、取り押さえられてしまった。
「おっと、俺を消そうったってそうはいかねえ!! そうなる前に……」
「私を殺そうというのですか? 私が死ねばあの光は消え、貴方は消滅します」
「何だとぉ!?」
「さぁ、そこをおどきなさい!! 私に服従するか、消えるか……貴方には二つの道しか無いのです!!」
それを聞いて武光型影魔獣は笑った。
「フフフ……そいつはどうかな!!」
「な、何を……んむぅっ!?」
シルエッタは唇を奪われた。熱く、ドロリとしたものが流れ込んでくる。何とか逃れようともがくものの、腕力の差があり過ぎた。
窒息寸前でようやく解放されたシルエッタは、四つん這いになって体内に流し込まれたものを吐き出そうとした。
「ゴホッ……カハッ……な……何をしたの!?」
「俺の体の一部をお前の体内に流し込んだ。今頃、お前の心臓に大穴を開けている事だろうさ」
「な……何ですって!? ううっ!?」
武光型影魔獣の言葉を裏付けるかのように、突然胸を襲った激痛に、シルエッタは左胸を押さえて蹲った。
「フフフ、安心しろ。お前の心臓に空いた穴は俺の肉体の一部がしっかりと塞いでる……だが、俺を消してしまったら……分かるな? まぁ、つまらない事は考えないこったな」
そう言って、武光型影魔獣はシルエッタに背を向けて歩き始めた。
「ま、待ちなさい実験体14号!!」
「誰が実験体14号だバカヤロー!! 俺は……唐観武光だ!!」
「それは違います。貴方はあの男の影から生み出された影魔獣にすぎません」
「影……か、武光の影……そうだなじゃあ俺は……《影光》とでも名乗るとするか!!」
「ど、どこへ行こうと言うのです!!」
「さぁな? でも俺の邪魔をする奴はお前らだろうと王国軍だろうと……本物の俺だろうとブチのめす!! 分かったら俺をどうにかしようなんて下らん事は考えない事だ、心臓破裂で死にたくなかったらな!!」
そう言うと、武光型影魔獣……《影光》はシルエッタのもとから走り去った。
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