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聖剣士強襲編
少年、立ち向かう
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フリードの操る恐竜型影魔獣、《黒王》はインサンの人型影魔獣を相手に苦戦していた。
流石は六幹部の生み出した影魔獣である。動きの素早さや滑らかさ、正確さが段違いである。
インサンの影魔獣は攻撃をことごとく回避し、肘から先が剣へと変化した右腕で黒王の体を徐々に削り、削ぎ落としてゆく。
「くっ……つ、強い!!」
手も足も出ない……これが、暗黒教団の幹部であるインサンと捨て駒の実験動物でしかなかった自分との力の差なのか……!?
焦るフリードを嘲笑うかのように、インサンの影魔獣が黒王をズタズタに斬り刻んでゆく……フリードの眼前で、両足首を斬り刻まれた黒王が倒れ伏した。
インサンの影魔獣は倒れた黒王の顔を踏みつけると、剣状の右腕を振り下ろして黒王の頭部を斬り落とした。
首を刎ねられた黒王が、核のあった頭部を残して消滅する。
インサンの影魔獣は『次はお前の番だ』と言わんばかりに、バスケットボール大に縮んでしまった首だけの黒王をフリードの足下に蹴飛ばした。
フリードは、目も鼻も口も無いはずのインサンの影魔獣が凶笑を浮かべているような気がした。
(だ、ダメだ……か、勝てない!!)
一歩……また一歩と影魔獣が近付いてくる。
フリードは絶望した。やはり、僕みたいな何の力も持たない凡人が暗黒教団の幹部に立ち向かおうなどと考える事自体が無謀だったのだ。
影魔獣が駆け出した。影魔獣は、恐怖に身が竦み、硬直してしまっているフリード目掛けて、刃と化した右腕を振り上げた。
「……ひっ!?」
殺される!! フリードは思わず目を閉じたが、自分に死をもたらすはずの一撃はいつまでたっても襲ってこない。
「ふ、フリード君……諦めちゃダメ……!!」
「ナジミさん!?」
フリード目掛けて繰り出された影魔獣の攻撃を、ナジミが右手に出現させた光の剣で受け止めていた。
「ナジミさん!! 僕なんかに構わず逃げて下さい!!」
「そんなの……絶対に……嫌ですっっっ……君は……私が……守ります……くうぅぅっ……!!」
ナジミは顔を真っ赤にして必死に踏ん張っているが、女性の腕力では影魔獣に抵抗しきれるはずもなく、ジリジリと押されている。
「ど、どうして……どうして僕みたいな無力な役立たずを……!!」
「そ……そんなの関係ありません!! 力があるかどうか……役に立つかどうかで人を救うか決めるなんて……そんなの傲慢過ぎます……っ!! 私は……目の前で苦しんでいる人や、困っている人がいたら……力になり……たい……それだけですっ!!」
「で……でも!!」
「例え特別な力や才能が無かったとしても……っ!! 君が思っているほど……君は弱くなんかないし……それに……君は一人じゃありませんっっっ!!」
「な、ナジミさん……僕は…………僕は………………オレはぁぁぁぁぁッッッ!!」
フリードは雄叫びを上げると足元に転がっていた黒王の首の断面に右の拳をねじ込んだ!!
熱い、尋常じゃなく熱い……だが、それ以上に熱い血の滾りに任せ、フリードはインサンの影魔獣を殴り飛ばした!!
「あああああああああああああああああああああっ!!」
フリードは仰向けに倒れた影魔獣に馬乗りになり、黒王の頭部と一体化した右拳で敵を殴った、ひたすらに殴った。
“ガアアアアアッッッ!!”
主に呼応するかのように、右手の黒王が荒ぶる雄叫びを上げ、敵の身体を食いちぎってゆく……そしてとうとう黒王の牙がインサンの影魔獣の核に突き立った!!
核を破壊されたインサンの影魔獣は、もがき苦しむように地面を転がった後、煙のように消えてしまった。
「はぁっ……はぁっ……や、やった……!! やったぞぉぉぉぉぉっ!!」
少年は雄叫びを上げながら、天に向かって右の拳を高々と突き上げた。
直後、異変が起きた。フリードの右手にブッ刺さっていた黒王の頭部がどろりと溶けてフリードの右手に吸い込まれるように消えてしまったのだ。
先程までの高揚感も一瞬で失せたフリードは慌てふためいた。
「ゲェーッ!? え、影魔獣が右腕の中に入って来たーーーーー!? ナジミさん、どどどどうしましょう!?」
「おおお、落ち着くのよフリード君!! ええっと……ええっと……考えるのよ、私!! むむむむむっ……!!」
ナジミは考えた末に、両手を揃えてフリードの右前腕部を掴んだ。
「……えいっ!!」
「痛だだだだだ!? 絞っても出ませんから!! 雑巾じゃあるまいし!!」
「ご、ごめん!! 右手に痛みはある!?」
「絞られて痛いです……」
「おぅふ……」
ナジミとフリードは 困り果てた!
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