斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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魔刃団結成編

魔狼、吼える

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 35-①

 ここで、マイク・ターミスタに現れた《天驚魔刃団》について語らねばなるまい。

 話は少しさかのぼり、アナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルドのめいにより、暗黒教団特別調査隊、《天照武刃団》が結成されていたのと同時刻……聖女シルエッタによって、武光の影から武光の人格と記憶を(成功しているかどうかはともかく)コピーして生み出された武光型影魔獣、《影光》はあてもなく彷徨さまよっていた。

 とりあえず、自分を服従させようとしたシルエッタに越◯詩郎ばりのヒップアタックを一発喰らわせてアジトを飛び出したは良いものの、何をすれば良いのか。

「うーーーん、どうすっかなぁ……むむむ……そうだ、天下をろう!!」

 この男、『そうだ、京都に行こう』くらいのノリでとんでもない事を言い出した。

「よーし、じゃあまずは……仲間探しだな!! よし、とりあえず四天王を作ろう!!」

 影光はウキウキで歩き始めた。影魔獣の肉体は疲れを知らない、丸一日ぶっ続けで歩き続けてたどり着いた荒野で……影光は見つけた。

「おっ、第一魔族発見!!」

 影光の視線の先では三体の剣影兵と、何か狼男みたいなのが戦っている。

「四天王、ゲットだぜ!! どりゃーーーーー!!」

 影光は、影醒刃シャドーセーバーをのつかを取り出すと、漆黒の刀身を形成し、戦いの真っ只中に突撃した。

 35-②

 《魔狼まろう族》……その強靭な脚で戦場を風の如く駆け抜け、研ぎ澄まされた刃の如き牙と爪で敵を引き裂き、月夜に吼える、狼と人の姿を併せ持つ魔族である。

 全身を蒼い毛に覆われた魔狼族の歴戦の戦士、ガロウは三体の剣影兵を相手に苦戦していた。

 戦闘開始からおよそ20分、単純な戦闘力ではガロウの方が遥かに上だったが、疲れも痛みも知らぬ影魔獣を相手にガロウは徐々に追い詰められていた。

「グォアアアアアッ!!」

 ガロウは刃物のように鋭い爪の生えた指を揃えて、右の貫手ぬきてを繰り出した。今まで幾多の敵を屠ってきた必殺の一撃である。ガロウの一撃は剣影兵の腹部を貫いた。

「ハァ……ハァ……どうだっ!!」

 そのあまりの威力に、ガロウの右腕はひじまで深々と突き刺さっていたが、核を破壊しない限り、影魔獣にダメージを与える事は出来ない。
 腹を貫かれながらも、何事も無かったように、剣影兵は肘から先が剣と化した右腕を振り上げた。ガロウは慌てて右腕を抜こうとしたが……

「ぬ、抜けん!?」

 自身の腹部を貫いた右腕を締めつけて剣影兵はガロウの動きを封じた。

「くっ!?」

 ガロウは咄嗟に相手の肘を掴んで振り下ろされた剣腕を止めたが、両手が封じられてしまった。そして、その隙を突いて、残りの二体の剣影兵が背後から襲いかかる。

「し、しまっ──」

「おっと……四天王候補その1(仮)は……殺らせねぇっ!!」

 影光が戦いの場に乱入し、ガロウに背後から襲いかかろうとしていた二体の剣影兵の背を影醒刃で斬りつけた。
 背中からそれぞれ袈裟懸けと逆袈裟に斬りつけられた剣影兵は真っ二つに両断された後、もがき苦しみ消えた。
 影光の影醒刃による一撃は、剣影兵の核を正確に捉え、両断していた。影醒刃を見ながら影光が呟く。

「フフン、イットー程じゃないが、なかなか良く斬れる……気に入った!!」

 突然の乱入者に対し、呆気に取られるガロウを影光は叱咤激励した。
 
「頑張れ狼男!! そいつに勝てたら……お前は晴れて四天王オーデイション合格だッッッ!!」
「し、四天王!? おーでぃしょん? 一体何の事だ!? いや、そもそもお前は一体何者だ!!」
「諦めるなッッッ!! 前を見ろッッッ!! 限界を……超えろーーーーーッ!!」
「いや、話聞けよ!?」

 全く話を聞かずに盛り上がる影光にガロウは苛立いらだった。

「人間風情が……言わせておけば……!!」

 『諦めるな』だと……このガロウ、戦において勝利を諦めた事など一度たりとも無い!!
 『前を見ろ』だと……このガロウ、敵から目を背けた事など一度たりとも無い!!
 『限界を超えろ』だと…………!!

「人間如きに……言われるまでも無いわぁぁぁっ!!」

 怒りに任せて右腕を引き抜き、剣影兵を殴り飛ばしたガロウを見て、影光は拍手喝采した。

「良いぞー!! 頑張れ狼男ーーー!! 奴の弱点は右のふくらはぎだぞー!!」
「何……!?」
「油断すんな!! 敵が来てるぞ!!」
「チッ!?」

 再び斬りかかって来た剣影兵のボディーに、ガロウは強烈な蹴りを叩き込んで吹っ飛ばした。

「人間の言いなりになるなど気に食わんが、試す価値はあるか……ガァウッッッ!!」

 強靭な脚力でガロウは瞬時に敵との間合いを詰め、起き上がろうとしていた剣影兵の右の足首を掴んで、逆さ吊りに持ち上げると、研ぎ澄まされたナイフの如きその牙を影魔獣のふくらはぎに突き立て、食らいついた。
 腹をブチ抜かれても平然としていた影魔獣がもがき苦しむのを見たガロウは首を左右に激しく振り、遂には剣影兵のふくらはぎを噛み千切った。
 その瞬間、暴れていた剣影兵は糸の切れた操り人形の如く動きを止め、そして消滅した。

 影魔獣を屠った魔狼族の戦士は、口の中の肉片を吐き捨て、踏み潰すと、天に向かって猛々しく吼えた。

「おおーい!! 狼男ーーー!!」

 勝利の雄叫びを上げるガロウに、影光は笑顔で走り寄ったが……

「次はお前の番だ……覚悟しろ、人間!!」

 ガロウが、影光に襲い掛かった!!
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