斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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聖道化師襲来編

聖道化師、号泣する

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 75-①

「うう……ん……ハッ!?」

 京三は目を覚ました。体を動かそうとしたが、両手両足を縛られて動く事が出来なかった。いつの間にか元の肉体に戻っている。

「よう、気ぃついたか?」
「唐観武光……!!」

 京三は、仮面越しに武光をにらみ付けた。

「そうか……ボクが気を失っている間に、奪った双頭蛇で……」
「おう、元に戻しといたったぞ……ったく、手間かけさせんなや」
「クソッ!! 何でだよ……何で異世界に来てまでこんな……こんな屈辱を……こんなの……こんなのオカシイだろ!!」

 叫びを上げた京三を前に天照武刃団の面々は困惑した。

「ボクは聖女から力を授かったのに……チートを得たはずなのに……!!」

 フリードは歯噛みする京三に声をかけた。

「いやいやいや、あんたはシルエッタ達に騙されてるんだって!!」
「だ……黙れ!! お前みたいなモブに何が分かるって言──」

「……貴方には特別な才能がある」

「うっ……!?」

 フリードは、京三の言葉をさえぎった。言葉を失う京三に対し、フリードは続ける。

「……貴方は選ばれし人間です」
「くっ……」
「……貴方に力を授けましょう、選ばれし者にふさわしき力を」
「うぐぐ……な、何故それを!?」

 愕然とする京三にフリードが告げる。

「なあ、『お前なんかに何が分かる』だって……? 分かるわ!! 全く同じ事言われてんだよ、俺も!! 今思い出しただけでもムカついてきた……あああああああああ !! ちくしょおおおおおーーーぅ!!」
「うるさい、落ち着け」

 武光は、怒りの雄叫びをあげるフリードをなだめると、京三に話しかけた。

「なあ、何で暗黒教団なんかに手ぇ貸したんや?」
「暗黒教団はボクに力を与えてくれた!! 影魔獣の力があれば……元の世界で、ボクをバカにした奴らに復讐する事が出来るんだ!!」
「はぁ……しょーもな」

 自分の言葉を『しょうもない』の一言でバッサリと切り捨てられ、京三は怒りの込もった声を絞り出した。

「何が悪いんだよ……周りからバカにされて!! さげすまれて!! イジメられ続けてきたボクが……力を求めて何が悪いんだよっっっ!!」
「格好が悪いッッッ!!」

 憎しみのこもった京三の叫びに、武光はピシャリと即答した。

「力を得たからって言うて、お前をイジメてた奴らと同じマネしてどないすんねん、カッコ悪っ!!」
「……」
「ええか? 性根の腐った奴ってのは、例え力ずくで土下座させたとしても、内心では舌出しとるねんて」
「だったら……どうしろって言うんだよ!!」
「うーん……よし、じゃあ人助けしよう」
「はぁ!?」

 思いもよらない答えに京三は素っ頓狂な声を上げた。

「その力で人助けしまくって、皆に愛されて、尊敬されるようになったったらええねん。そんでその姿を相手に見せつけたるんや!! 自分がイジメてた相手が、自分より遥かに愛され、尊敬されてるって知ったら──」
「なるほど、京三さんをイジメてた人達も、京三さんを見直して改心してくれる……そういう事ですね、武光様?」
「うんにゃ、相手に与える屈辱ダメージがデカイ!!」

 武光の答えを聞いて、天照武刃団の面々はズッコケた。

「ええか、どうせイキリ倒すんやったらやな、そこまで持っていってからや。そっちの方が直接ぶん殴るよりズッと気持ちええで、きっと。脳汁ドッバドバのドゥルンドゥルンや……ケケケ」

 “ごんっ!!” 

「おぶっ!?」

 悪役丸出しの顔で京三に話しかけていた武光は、ナジミにゲンコツを喰らわされた。

「何がケケケですかっ、そんな不純な動機で人助けを勧めるなんて……良くありません!!」
「痛てて……細かい事言うなやー、結果的に誰かの助けになるんやったら、偽善でもなんでもガンガンやったったらええやん。善は善やろ!?」
「不純な目的の善行なんて……この人の為になりません!! ダメです!!」
「ダメじゃないですぅぅぅー!! 人間、全部が全部、正しさだけじゃ動かないんですぅぅぅー!!」
「うわ、何ですかその表情!? 腹立つなぁ!!」
「わっ!? お前、指折り固めはやめろ、指折り固めは!! 痛だだだだだだだ!?」
「……プッ」

 ……何でボクの事でお前らが喧嘩するんだよ。

 ギャースカボコスコと喧嘩を繰り広げる武光とナジミを見て、京三は思わず笑ってしまった。

「ふふ……人助けも悪くないかもね」
「おお……よっしゃ!! ほんなら縄をほどいたるわ」

 何の躊躇ちゅうちょも無く、鼻唄混じりで縄を解き始めた武光を京三はいぶかしんだ。

「あのさぁ……ボクが裏切るとか思わないわけ!?」
「裏切る気がある奴はそんな質問はせぇへん、怪しまれへんように、ずっと改心したフリするわ」
「ボクは……暗黒教団の幹部として、この国の人達を苦しめたんだよ?」
「……ほんなら尚更なおさら罪滅ぼしせなあかんな」
「何でそこまで……」
「ま、『罪を憎んで人を憎まず』『武士の情け』って奴やな。日本人同士やしな、解説は要らんやろ……よし、ほどけたで」

 拘束を解かれた京三は地面に突っ伏した。

「おい、どないした? 大丈夫か?」

「…………うっ……うっ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 他人から優しくされた事があまり無い京三である。武光の優しさに触れて、京三は号泣した。しばらくして、落ち着いた京三は改めて武光と向かい合った。

「唐観さん、ボク……やってみようと思います、人助け」
「おお!! そうか」
「で、まずは第一歩として天照武刃団の手助けをさせてもらえたらと思うんですけど……ダメですか?」
「もちろん!! 大歓迎や!!」
「ありがとうございます!! で、ボクに何が出来るか考えたんですけど……」
「おう」

「ボクの《アルホ》……返してくれませんか?」

「……ん?」

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