204 / 282
両雄激闘編
両雄、並び立つ
しおりを挟む204-①
現れた教皇ヴアン=アナザワルドと聖女シルエッタ=シャードに影光は鋭い視線を向けた。
「男と男の真剣勝負に割り込むんじゃねえ、すっこんでろ!! このゲロカス=うん子が!!」
「ちょっと!? 武光様の影魔獣の人!! 女性をそんな渾名で呼ぶのは良くない事ですよ!!」
シルエッタに、勇ましくネキリ・ナ・デギリを向けた影光だったが、ナジミに怒られてしまった。
「…………おいおい本体、お前『うん子』とか……女性をそんな渾名で呼ぶとか最低かよこのヤロー!?」
「お前やお前!! 『うん子』をなすりつけて来んなコラァ!!」
「控えなさい!!」
言い争う両者の頭上から、氷のように冷たく透き通ったシルエッタの声がピシャリと降ってきた。
「崇めなさい!! 讃えなさい!! 貴方達は今、我ら暗黒教団の偉大なる最高指導者……教皇陛下の御前にいるのですよ? 頭を垂れて跪くのです!!」
「ほう……お前が親玉か!! お前しばき倒したるからなアホ!! ボケ!! カス!!」
「降りてきやがれこのクソヤロー!! ボッコボコにブッ飛ばしてやるぜこの耄碌ジジイ!!」
ダミ声猛々しく、悪役感丸出しで狂犬の如く盛大に吠えかかる武光と影光の前に、超武刃団の中からミトがスッと進み出た。
「ん? どないしたミト?」
「アナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルドの名において命じます。二人共、歯を食いしばりなさい…………おらあっ!!」
「うげぇっ!?」
「おぶうっ!?」
ミトは 《王家のダブルボディーブロー》を 繰り出した!!
会心のいちげき!!
武光は もんぜつした!!
影光も もんぜつした!!
「全く……本人が本人なら、影魔獣も影魔獣ね。大叔父上様に……王家の一員に対し何たる口を……二人共、不敬罪ッッッ!!」
ミトは、足元で蹲って悶絶している礼儀知らずと礼儀知らず(影)を一瞥すると、大叔父であるヴアン=アナザワルドに一礼した。
「ご無沙汰しております、大叔父上様」
「ミトか……」
「御機嫌麗しゅうなどという挨拶は割愛させて頂きます。大叔父上様……大叔父上様が暗黒教団の首魁というのは真実なのですか……!?」
「フフ……その通りだ」
「……何故です!! 大叔父上様は、立派にホン・ソウザンを治められ、名君との声も高いというのに……」
「うるさい!! 先王が……兄上が崩御したあの時……私こそがこの国の王位を継ぐはずだったのだ……それを貴様の父は!!」
怒りに震える教皇に武光と影光が抗議した。
「はぁ!? お前そんな下らん理由で国中の人に迷惑かけとったんかアホンダラ!!」
「耄碌してんじゃねーぞ!! このボケ老人が!!」
「不敬罪ッッッ!!」
「ぐへぇっ!?」
「ほげぇっ!?」
再び放たれたミトの《王家のダブルボディブロー》を鳩尾に喰らい、武光と影光はまたしても悶絶した。
「大叔父上様……今すぐにこんな愚かな事は止めて私と共に父の元へ参りましょう。大叔父上様の罪が少しでも軽くなるように、及ばずながら力を尽くさせて頂きます!!」
ミトの必死の懇願に対し、教皇はワナワナと肩を震わせ、憎悪の込もった顔を向けた。
「貴様も……この私を愚かだと嘲笑うのか、貴様の父のように!! そうだミトよ……お前を捕らえてあやつの前で八つ裂きにしてくれよう、あやつの苦悶の表情が目に浮かぶようだ……フハハハハハ!!」
「そんな……大叔父上様……」
拳を強く握り締めて俯くミトを前に、不敬罪ボディブローで悶絶していた武光がゆっくりと立ち上がった。
「……ええ加減にせぇよお前……!!」
「貴様……この国の真の王たる私に何たる無礼!! 何たる不敬!!」
「それがどうした!! さっきから何やねん、だらだらぐだぐだ……しょうもない話しやがって……」
「しょうもないだと……貴様の如き下賤の者に何が分かる!!」
「何が分かるやと……? 分かるわアホンダラ!! その話……オチ無いやろ?」
「は……? オチだと……? 貴様、ふざけているのか!!」
「それはこっちの台詞じゃボケ!! お前のしょうもない話はどうでもええ、そんな事より……何俺の可愛い妹分泣かせてくれとんねんコラァ!!」
「た……武光」
武光の言葉にミトは顔を上げた。
「お前ミトを見てみぃ!! 涙で顔ぐちゃぐちゃになっとるやろがい!! お前親戚やったらな、コイツを見て何とも思わへんのかアホ!? 可哀想に……めちゃくちゃブサイクなってもうてるやんけ!! 死ぬほどブッッッサイクなっとんねんぞ!!」
……武光は、ミトの王家のボディブロー(泣)を喰らい、クレナとミナハとキクチナにボコボコにされた。
「痛てて……マジやんコイツら…………とにかくお前は、『俺の妹泣かせた罪』でボッコボコのめったくそにシバき倒すッッッ!!」
「手伝ってやるぜ、本体」
「分身……?」
イットー・リョーダンの切っ先を教皇に向けた武光の隣に、影光が並び立った。
「シルエッタは俺が相手をしてやるから、お前は奴をぶちのめせ。ブチのめすまでは協力してやる」
「どういう風の吹き回しや、分身?」
「……俺には、ミトと過ごした日々の記憶も複製されている。だからミトを泣かせたアイツが許せん!!」
「そうか……ほんなら頼むぞ、分身」
「ああ……任せろ、本体」
0
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~
紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。
「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。
だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。
誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。
愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる