220 / 282
嘆きの聖女編
聖女、裏側を語る
しおりを挟む220-①
「……それから私は、《ボゥ・インレ》を目指しました」
シルエッタの言う《ボゥ・インレ》という街は、アナザワルド王国の北北東……時計の文字盤で例えるならば2時の位置に存在する街であり、三年前の大戦時に武光とイットー・リョーダン、ミト姫とその愛剣、カヤ・ビラキ、そしてナジミの三人と二振もこの街を訪れた事がある。
先の大戦時、この街を訪れた武光一行は、当時この街を占拠し、住民を苦しめていた《幻璽党》と《タイラーファミリー》という二つのならず者集団……そして、この街を狙う魔王軍を相手に死闘を繰り広げた場所でもあった。
「ボゥ・インレの南西にある《ラトップ遺跡》……あの地下には帝国が送り込んできた影魔獣を研究する為の施設が存在しました……私もまさかとは思いましたが、なんとその研究施設は300年経った今もまだ生きていたのです。私はそこで密かに影魔獣に関する研究を今日に至るまで続けてきました……」
シルエッタの口から語られた事実に影光は驚いた。
武光の記憶をコピーされている影光である、記憶の上では、ラトップ遺跡は自身も足を踏み入れ、幻璽党と刃を交えた場所だからだ。まさか自分達が戦っていたそのすぐ足下で影魔獣の研究が行われていたとは。
「……念の為、影魔獣の研究をしておいて正解でした」
不可解な言葉に影光は首を傾げた。影魔獣の研究が念の為とはどういう意味なのか。
「せっかく封印を解いて目覚めさせてやったというのに…………結局、あの役立たずのニセ魔王では、この国を滅ぼせなかったのですから」
「ちょっと待てオイ!? じゃあ、三年前に魔王軍を率いていたアイツは……お前が目覚めさせたってのか!?」
聞き捨てならない台詞に思わず気色ばむ影光に対し、シルエッタは静かに微笑んだ。
「ええ、アレが逆賊共を討ち滅ぼしてくれれば、影魔獣の研究などせずとも良かったのですが……おかげで私自身が動く羽目になりました。まぁ国を滅ぼす事は出来ずとも軍に深い傷を残し、国力を大いに疲弊させた……及第点と言った所でしょう」
「お前……!!」
「戦乱に疲れ果て、大事な者を失い、己の無力を呪う者達に私は力を授けました……この欺瞞に満ちた邪悪な国を滅ぼす為の……影魔獣という力を!!」
影光とマナに戦乱の裏側を語ったシルエッタは、マナに問いかけた。
「ところでマナ、ここはメ・サウゴ・クーの姫の間……ですね?」
「は、はい!!」
「道理で……影転移の際に、咄嗟に『一番安全な場所へ』と念じてこの場所に引っ張られたのも頷けます」
シルエッタは得心が行ったように頷いた。
「三百年の歳月を経て……真の主人を覚えているのが、この忌まわしき城だけとは」
「それは……どういう意味なのですか?」
「マナ、貴女はこの城が建造された理由を知っていますか?」
シルエッタからの問いかけに対し、マナは幼い頃に父から教えられた事を答えた。
「父からは……シャード王国各地で猛威を振るっていた影魔獣を駆逐する為に建造された決戦兵器だと聞いております」
それを聞いたシルエッタは小さく含み笑いをした。
「では……どうして影魔獣と最前線で戦う為の決戦兵器に『姫の間』などという物が存在するのでしょうね?」
「えっ……?」
思いもよらなかった言葉にマナは困惑した。
〔その問いには我が答えてやろう……〕
それまで黙っていた、影光の腰のネキリ・ナ・デギリが言葉を発した。
〔この城が建造された真の目的は、影魔獣と戦う為などではない、万が一の時に、シャード王家の者達と重臣共が逃げ出す為に造られた城だからだ〕
「そんな……」
〔民を見捨てて、自分達だけが助かる為の忌まわしき城ぞ……だからこそ我が主シンが、完成したメ・サウゴ・クーに半ば乗っ取りに近い形で入城し、国民にド派手に披露した時は痛快だった……『シャード王国の国民達よ見るがいい!! これぞ、シャード王家が国民を守る為に密かに建造した決戦兵器……移動要塞メ・サウゴ・クーである!! この決戦兵器の力を持って、影魔獣による帝国の侵攻を跳ね返し、我が祖国に平和と安寧を取り戻してみせようぞ!!』……とな〕
当時まだ子供だったシルエッタは……いや、子供なればこそ、この城に嫌悪感を抱いていたシルエッタは当時を思い出し『ええ、あれは実に痛快でした』と微笑んだ。
「シン殿はこの城の存在を人々にド派手に披露したその足で、父上に拝謁する事も無く、影魔獣殲滅の為に出陣してしまいました。まるで悪戯が露見した子供のようにそそくさと」
まだ自分が物心つく前の父の話を聞いて、マナは思わず苦笑した。
父はとにかく面倒臭がりで、母やゲンヨウに叱られそうになるとよく、この《姫の間》に逃げ込んで来たものだ。自分にとって父は『絶大な力を持つ恐怖の魔王』などではなく、大雑把で、だらしなくて、怒られそうになるとすぐに逃げ出す子供っぽさを持つ、ただの父親だったが……昔からそうだったのか。
苦笑するマナを見て、シルエッタも柔らかな……しかしどこか悲しげな微笑を浮かべた。
「あの頃は良かった……私の周囲には、家族も、大勢の家臣達も、そして……貴女もいました」
「ハイ、家臣からの人質に過ぎない私を、姫様は実の妹のように可愛がって下さいました……」
「数年後……悲しい事に、シン殿が王家に反旗を翻し、シン殿が送り込んで来た救出部隊に貴女が連れて行かれて、もう二度と会う事も無いと思っていましたが……」
「いいえ、あの時、私は連れ去られたのではありません。姫様は私が父上と再会出来るように、黙って私を送り出して下さったのでしょう?」
涙ぐむマナにシルエッタが優しく話しかける。
「マナ……その事を恩義に感じてくれているのなら……私に救いの手を差し伸べて下さい……お願いです、私と共に」
「ひ、姫様──」
「おっと、そこまでだ!!」
「師匠!?」
シルエッタに、影光のアイアンクローが炸裂した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」
***
魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。
王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。
しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。
解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。
ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。
しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。
スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。
何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……?
「今日は野菜の苗植えをします」
「おー!」
「めぇー!!」
友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。
そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。
子育て成長、お仕事ストーリー。
ここに爆誕!
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる