229 / 282
嘆きの聖女編
聖女、嘆き悲しむ
しおりを挟む229-①
「おい、暗黒樹が制御出来ないってマジか!?」
影光からの問いかけに、シルエッタは苛立たしげに答えた。
「暗黒樹が制御出来ていれば……今頃、城内にいる者達は一人残らずあの世行き──」
「今の話……本当なんですか!!」
「お、おいナジミ!?」
ナジミが物凄い勢いでシルエッタに詰め寄った。
「あの大樹を制御出来ないって……本当なんですか!!」
「……ええ」
「そ、そんな……それじゃあ武光様は!? 武光様はどうなるんですか!?」
ナジミの言葉を聞いたシルエッタは、ニヤリと笑った。
「その様子だと……そうですか、あの男は暗黒樹に捕らえられたのですね」
「何が……何がおかしいんですかッッッ!!」
「ふ……ふふふ……きっと今頃あのクズは、ジワジワと溶かされて骨も残っていないでしょう」
「……そんな!!」
「私の邪魔をした当然の報いです。本当に……本当に良い気味です……ふふふ」
「……っ!!」
ナジミは近くの壁の燭台に手を伸ばした。
「ふふ……それをどうするつもりなのです?」
「…………」
シルエッタからの問いかけに、ナジミは何も答えなかった。ただ両肩を震わせながら、燭台を力一杯握り締めた。
「お、オイ……ナジミ!?」
「ふふふ……もしかして怒っているのかしら? あの虫ケラ程の価値もない穢らわしいゴミクズが死んだ事を?」
乱れた呼吸もそのままに、力一杯燭台を振り上げたナジミに対し、シルエッタは叫んだ。
「さあ……振り下ろすのです!! 私が憎いなら!!」
「……わあああああっ!!」
ナジミは燭台を振り下ろした。眼前に迫る燭台を見ながらシルエッタは満足気に微笑んだ。これで良い、これで──
だが、振り下ろされた燭台はシルエッタの鼻先数cmで止まった。
「……何をしているのです? 早くその燭台で私を殴り殺しなさい!!」
シルエッタは叫んだが、ナジミは震えながら首を左右に振った。
「ハァッ……ハァッ……出来ません」
「何故です……貴女にとって私は憎い仇でしょう!?」
ナジミは嗚咽しながら、声を絞り出した。
「例えどんなに貴女が許せなくても……そんな事をしてしまったらもう二度と武光様の前に……あの人が好きだといってくれた表情をして出られません!! だから……!!」
「何を馬鹿な……暗黒樹に捕らえられて生きていられるはずがありません!! あの男は死んだのです!! 私が作った暗黒樹が殺したのです!! さぁ、早く私を……!!」
ナジミは黙って首を左右に振ると、燭台を元の場所に戻した。
「どうして……どうして……振り下ろしてくれないのです……」
シルエッタの声は今にも消え入りそうに小さくなった。
「振り下ろしてくれれば……私だけではないと……誰もがそうなのだと安心出来るのに……!! これじゃあまるで……神父様を……あの方を殺めてしまったのは、私の心が弱いからみたいではないですか……!! 貴女は……自分の心の強さを見せつけて……私の弱さを嘲笑って……!!」
ナジミは取り乱すシルエッタを落ち着かせるように語りかけた。
「いいえ、シルエッタさん……きっと私も目の前で武光様の命が奪われていたら……貴女にあの燭台を振り下ろしていたと思います」
「ならば──」
ナジミはシルエッタの言葉を遮って首を左右に振った。
「いいえ、武光様はきっと生きてます、絶対に助け出します!!」
「それは不可能です……制御不能に陥った暗黒樹はただひたすらに周囲の生命体を取り込み続けて、あの枝から影魔獣を生み落とし続けます……この地は人間どころか、虫の一匹、草の一本まで残らず死に絶える事でしょう……もはや、シャード王国の再興の夢も露と消えました……だから、もう私を楽にして下さい……お願いですから!!」
シルエッタの口から出た言葉に、影光は怒った。
「勝手な事を抜かすな!!」
「私は…… 多くの人を苦しめ、平穏な暮らしを……財産を……生命すら奪って……全てはシャード王国を再興する為に……それなのに……私は一体何の為に……っ!!」
「そんなもん知るかッッッ!! これだけの事をしでかしておきながら……投げ出す事は絶対に許さんッッッ!!」
嘆き悲しむシルエッタを影光は一喝した。
「どうしろと言うのです!! 私の力では……もはやアレを止める事は不可能──」
「だったら……俺が力を貸してやる」
「私に力を貸す……? 一体どうして……」
「俺は、あのバカ丸出しの大木から本体を救い出すとナジミに約束した」
「し、しかし14号、私と貴方は──」
「許すッッッ!!」
「え……」
戸惑うシルエッタに対し、影光は両腕を組み、仁王立ちで再度言い放った。
「正直、許し難い事もあるが……それでも、今までの事……全て許すッッッ!! 面倒くせーから、細かい事ガタガタ言うんじゃねーぞ?」
「14号……本気で言っているのですか……!?」
「ああ……但し、俺の分だけだ、他の奴らの分は知らん。だからお前を許せないという奴らにお前が半殺しにされようが、凌辱されようが俺は知らん!! お前はそれだけの事をした。まぁ、お前に死なれたら俺まで消えちまうから、命だけは助けてやるがな……」
「14号……本当に私を──」
「くどい!! 俺の分の制裁は、さっきのSTFとアイアンクローで、もう済んだ。だから……つべこべ言わずにとっとと暗黒樹の倒し方を教えろ!!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」
***
魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。
王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。
しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。
解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。
ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。
しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。
スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。
何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……?
「今日は野菜の苗植えをします」
「おー!」
「めぇー!!」
友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。
そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。
子育て成長、お仕事ストーリー。
ここに爆誕!
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる