斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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最後の決着編

映像、製作される(中編)

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 276-①

 魔王城・軍議の間に集まったのは総勢三十一名。

 魔王軍側は、影光と四天王、それにフォルトゥナと『ヨミ様を愛でる会』の三人、更に、マナ、オサナ、リュウカク、ゲンヨウ、そして最後につばめとすずめの計十五人。

 王国軍側は、武光を初めとする元祖武刃団の四人と天照武刃団の四人、更にはロイとアルジェ、ミトの親衛隊長のベン、そしてリヴァル戦士団の四名の計十五人。

 そして……シルエッタ=シャード。

 影光の計画を知っている者はここにいる者で全てである。『敵を騙すにはまず味方から』……秘密を知っている者は少ない方が良い。

 計画の概要はこうだ。

 実はもう一枚存在した、鏡面に映した映像をこの国中の空に投影する事が出来る魔王シンの秘宝、《天映魔鏡》を使い、国中の人々が見ている前でニセモノのシルエッタを処刑して、彼女の死を偽装する。

 概要を説明し終えた影光は、一同を見回すと、配役の話を切り出した。

「それじゃあ、今回の舞台の配役だが……まずシルエッタの役は俺がやる。そして、俺の役は──」
「ま、俺しかおらんやろな」
「レムのすけ、頼んだ!!」
「待てや!? 俺がおるやろがい!?」
「冗談だ冗談……つばめとすずめにやってもらおう!!」
「待て待て!?」
「だってめちゃくちゃ可愛いし」
「いや、可愛いけども!! 二人おるやん!?」
「影光っちゃんもまさちゃんも……ええかげんにしぃ!!」
「「お、オサナ……」」
「……ウチがやるわ!!」
「「お前がやるんかーい!?」」

 武光と影光は椅子からずり落ちた……が、周囲のリアクションはイマイチである。武光、影光、オサナの三人は部屋の隅に集合した。

「くっ……場を和ませようと思ったのに、思ったより反応が良くない……!!」
「いや、今の即興そっきょうにしてはおもろかったやろ!? ちゃんとオサナがオチもつけたし……」
「思いっきりスベったし……うわ、あの骸骨の仮面の人、うつむいてプルプルしてはるやん、めちゃくちゃ怒ってはるでアレ!!」

 そのロイの隣に座っていたアルジェは、ロイの様子を見て……

(ろ……ロイ将軍、めちゃくちゃき出すのをこらえてるでねぇか!?)

 と、いうことに気付いたのだが、当然それを口にする事は出来なかった。

 そんな事を知る由もない三人は、ヘタに挽回を狙わず、しれっと打ち合わせを再開する事にした。

 三人は再び着席し、しれっと打ち合わせを再開した。

 流す映像の内容や、各々の役割が次々と決まってゆく。そして、打ち合わせ開始から約2時間が経過し、おおよその方針が固まった頃、武光がふと疑問を口にした。

「ところで影光、お前が肉体の形状を変化させられるんは知ってるけど、そんなに上手いことシルエッタに化けられるんかいな?」
「あたり前だろ!! よーし、見てろよ………………どうだ。バッチリだろ?」
「いや……全然似てへんやん!?」
「嘘ぉっ!?」

 影光は周囲の仲間達にも聞いたが、満場一致で『全然似てない』という結論になってしまった。
 
「師匠、顎の輪郭はもっとこう……細いのではないでしょうか?」

 立ち上がったマナは、影光のもとへ行き、影光の顎に手を添えると、粘土をねるかのようにムニムニと形を変形させた。
 そしてそれを見た仲間達が影光のところに集まり、『目と目の幅はもう少し狭い』『いや鼻の形が……』『いやいや、おでこの広さが……』『つばめもやる!!』『すずめもやるの!!』と、こねくりにこねくり回し、弄りに弄り倒した結果……

(・3・)〈いや……誰だコレ!?

 まさに『船頭多くして船山に登る』である。そんな影光を見て……

「ふっふっふ……私達の出番のようですね、ロイ将軍!!」
「うむ……行くぞ、アスタトの巫女よ……!!」
「却下っっっ!!」

 席から立ち上がったナジミとロイ=デストを、武光が即座に座らせた。

「えー!! どうしてですか武光様!!」
「そうだ、我々にもやらせろ」
「死ぬほど手先が不器用な奴と、死ぬほど絵心無い奴の地獄の2○00万パワーズやんけ!!」
「はぁぁぁ!? ふふん、武光様……私達の作品を見てもそんな事が言えますか?」

 ナジミは、正体を隠す為に使っていた自作の猫(?)の仮面を、ロイはパン屋に偽装して潜伏するにあたって、自分でデザインしたウサギ(?)のイラスト入りエプロンを、自信満々に武光に突き付けた。

 二つの品を受け取った武光は盛大に溜め息を吐いた。

「お前らなぁ……ん? 待てよ……その手があったか!!」

 武光はポンと手を打つと、ロイに言った。

「シュワルツェネッ太、お前ちょっとパン生地捏ねてこいや」
「む……? 何故だ……?」
「ええから」
「ロイ将軍!! 私も是非お供させて下さい!!」
「う、うむ……」

 恋する乙女は凄まじい。話を聞き付けたミナハによって王国軍最強の将は半ば拉致同然に調理場へと連行され、しばらくすると、二人はパンの生地を持って戻ってきた。

「作ったが……こんな物をどうしようと?」
「ふふーん、まぁ見とけって。おーい、シルエッターーー」

 武光はシルエッタを呼ぶと、机の上に置かれた、スイカ一玉くらいありそうなパン生地の塊の前に立たせた。

「はい、床に両膝を着いて!! 目を閉じて!! 息を大きく吸いこんで……どーん!!」

 武光はシルエッタの後頭部を掴むと、シルエッタの顔面を思いっきりパン生地に押し付けた。

「むぐっ!? むぐぐぐぐ……!?」
「よし、こんなもんかな……?」

 武光がゆっくりとシルエッタの顔を持ち上げると……そこには、シルエッタの顔の形にヘコんだパン生地があった。

「おーい、影光!! ここに顔を押し当ててみ?」
「な、なるほど……!!」

 影光は、顔の表面を限界まで柔らかくすると、慎重にパン生地に押し当て、そして、再び持ち上げた顔は……シルエッタそっくりに変形していた。


 ……ちなみに、この時使用したパン生地は、顔を押し付けた部分を取り除いて焼き上げ、スタッフ一同で美味しく頂きましたのであった。

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