博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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1 博士は刻(とき)をみたようです

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 突然の訪問だったのだが、博士はこころよく居間へと案内してくれた。

「お二人さん、どうしたんじゃ?」

 相変わらずなくだけた物言いである。私は妹を紹介することにした。

「とりあえず、被害者の会として妹を連れてきました」
「ほほう、いもっちゃんか、よろしくの」
「はい、うちのダメな人がお世話になってます」

 いもっちゃん呼びに少し眉をしかめる。しかし、そこは妹大ざっぱさん。聞かなかった風に流して話を続けた。

「博士、うちのダメな人の話を聞いたうえで、あたしまで迷惑を被ってしまったので来ました!」

 おや、なにかおかしい言い回しですね。
 全方向敵に回すような物言いは慎んだ方が良いですぞ。

「どういうことじゃ、ひみっちゃん?」
「はい、そもそも博士が原因です」
「なに!? 何があったんじゃ?」
「めざまし、爆発しました」
「巻き込まれて寝不足でーす」

 私と妹が畳み掛けるように言う。博士が少し首を傾ける。

「めざましが爆発した? そんな機能はつけとらんがの?」

 ほう、とぼける気だろうか? いや、おそらく正確ではないからかな? 私は少し考え言い直す。

「部屋全体に凄い音と光があふれたのを、私は爆発と表現しています」
「なぜか近所迷惑になってませんでした。あたし、それが一番怖かった!」

 こういうとき、妹が追撃してくれるから助かるような気がしないでもない。

「めざましも、ダイヤも、全部消えていました」
「ダイヤ? んー……? アタッチメントは付けんかったんか?」

 アタッチメント? あのダイヤのついた変な棒のことだろう。

「え、あの棒のほうですか? つけてないですね」
「ふむ? じゃあ機密保持のために消去されたんじゃな!」
「え!?」

 私が目を丸くしていると、妹が後ろから口をはさむ。

「えっと、それって、説明なしはひどくない?」
「いやいや、いもっちゃん誤解じゃ! ちゃんと説明したぞ!? 本人認証がいるから、それを分けたとな」

 え……なんでそんな機能付けたの!?

「えと、説明!? 本人認証……?」

 そ、そんなこと言ってたのかな? あの時は……あ、ダイヤについていろいろ考えてたから、話が右から左へ抜けていった可能性がちびーっとだけある気がするような……。
 えっと、これ、まずい? もしかして、私が聞いてなかったのが悪いとか!? その場合、どうやって穏便に治めたらいい? え、そんなこと言ってたかなぁ!?

「あのアタッチメントはのぉ、渡した瞬間にひみっちゃんの情報を読みとっとるんじゃ。ええっと」

 そこで、なんかいきなり触れたことによる情報を分析して、塩基配列えんきはいれつ? DNA? がどうとか、瞬時に登録がなんたらとかの説明がだだだーっと始まる。

 私も妹も目を丸くしていた。途中からなんか計算式とか、統計学的なんちゃらら~んが出てきて私はもうお手上げだ。
 しかし、なぜだか妹がふんふんうなずいている。これは、意味も解らずって感じではなく、理解しているっぽい。
 そういったお二人さんを、私は別な生き物を見るような目で見つつも、思考を別に持って行って自分を守る。とかく、妹を怒らせてはいけない。なんとしても!!

「つまり、アタッチメントをつけんかったら適当な時間に蒸発じょうはつするようになっとったんじゃ!」

 いやいや、まず適当な時間に消えてなくなるってひどくないですか? 警告とか、そういうのください! 急に消えるなんて! 怖くて普通に使えませんよ!!

「そ、そんな欠陥品を渡さないでください! 付け忘れたらトラウマになるような、爆発・蒸発・どっかーんって、嫌がらせでしょう!!」
「いや、目覚まし機能とは別じゃよ? 光量・音量設定出来るようにしとる!」
「そんな機構、ありませんでしたよ!」

 あの時、ダイヤ(アタッチメント付き)を入手して戻った私は、小躍りしながら大切なもの入れに収めた。
 しかし、これでも小心な私は危機管理能力をしっかりと有している。めざましの方もいろいろ調べてはいたのだ。
 
「めざましの方はちゃんと隅々まで確認しましたって! でも、調節つまみとかはありませんでしたよ!」

 そう。あのめざましは止めボタン付きのよくある時計といった形だった。
 しかし、裏にあるはずの調節ツマミは無く、ついでに言うなら電池入れもない。
 そこで私は、時計としては動いているから、止まるまでは使ってみようと机に置いたのだ。

 そういったことをまくし立てるように並べ立てて詰め寄る。
 正直スマホのほうが信頼しんらい出来たのだが、そこまでは口には出さない。

「ああー、そのー、音量光量調節は、まずアタッチメントで本人確認が必要なんじゃ……。儂ので実演したげるわ」

 そういって、博士はラボのほうへ駆けて行った。

「ねえ……」
「どうしたの?」
「あたしさ、お小言をどこに向ければいいか悩んでるんだけどさ、言っていい?」

 あ、これ怒りを私へぶつけたくなっている気配がある。回避優先で行こう。

「ダメ」
「ほう、理由は?」
「私が困る、最期まで話を聞いたうえで判断しなくちゃだめだよ」
「むう……まあ、保留にしとくわ」
「いやいや、あくまで加害者は博士にしてほしいんだけど?」
「うーん……でもさ、それを認定前に、確認することがいくつかあるでしょ?」
「いやいやいや、私も被害者なんだよ?」
「あたし、今ちょっと眠くてさ。考えがまとまらないの。ねえ、誰が被害者かしら?」

 おそらく、妹は自分が一番の被害者であると言いたいらしい。

「……えーっと」
「誰かさんが人の話を聞かなくて、さらに不注意で、あたしが爆発の被害に巻き込まれてるわけよね? だれが、加害者で被害者かな?」
「……この埋め合わせは、近々するから」
「その近々ってさ、1年経ってる案件もあるんだけど?」
「ぐ、ぐぬぬ、この件は、今週中におわびする! だから、今回は、その、申し訳ないです! 巻き込んでしまって」
「ん、楽しみにしてる!」

 そんなやり取りをしていると、博士はだかだかと戻ってきた。

「おまたせ! これを見てくれんか」
「はい」

 色違いの目覚ましをもってきた博士は、ダイヤなしの簡素なアタッチメントを差し込む。

『個人認証確認しました。設定をお伝えください』

 うっわーーーー!? しゃべった!? いや、しゃべるだけならたまにあるんだけどさ! めっちゃ流暢りゅうちょうに! しゃべったよ!!?

「なになに!? この、聞き覚えのあるダミ声!」

 ダミ声じゃないですからね! 鈴の音が転がるような変な声です!

「ちょ、ちょっと私の声ですか!? いつのまに録音してたんです!?」
「機械音を調整しただけじゃよ? 儂、ひみっちゃんの声好きじゃから、似てしもうたんじゃ!」
「いや、え、調整!? ここまで流暢にええっっと、ええ!?」

 ど、どど、どこから突っ込めば良いんでしょうか?
 というか、私は自分の声にはコンプレックスがあるんです。
 だってさ、しゃべるたびに男の子か女の子か聞かれるんですよ!?
 それが高じて、秘密です! とのたまう癖をつくってしまったのだから……私もまた、自分の声に踊らされた被害者の一人であるはずだ。

『音量は現在、そこそこの人を目覚めさせる程度に設定されています』

 うう、表現がちょっと私っぽいのがいやだ。

『光量は現在、ちょっとだけしゃれになんないレベルに設定されています』

 うん、これは本気でシャレになんないんだろうなあ……悟ってしまう私も嫌だが、こんな設定を付けた博士にも文句を言いたくなっている。

『追加オプションは現在設定されていません。打撲だぼく程度のリスクを伴う設定が可能です』

 打撲ってどんなオプションだよ!? ちょっとだけ見てみたい気もするが……見たら不幸になると解っている。知らなかったことにするのが吉だ。

「ねね、このオプションってどんなの?」

 うっわ、妹が地雷ふみに言った!? やめた方がいいよ。絶対後悔するから!
 私は心の中で止めた。そう、怖いもの見たさは私も同じである。だから、止めたのは心の中だけだ。

「そうじゃな、見た方が早かろう。時計のひみっちゃん、音量・光量はなしでオプションだけ発動しとくれ、時間は10秒後じゃな」

 あの~、時計にその呼び方はどうかと思いますよ?
 あと、本人目の前にしてるんだから、やめて下さい。

『かしこまりました』

「え、まさかの音声認識!?」

 妹が驚いているのを、私も乾いた笑いで返す。

「はは、だから言ったのだよ……博士の技術だけは本物だと……」
「だけとはなんじゃい!?」

 博士の苦情は無視。
 私は7・6・5……と心の中でカウントダウンを始め、0となった瞬間!時計は勢いは鋭く、されどとても静かに飛びあがり、博士に向かって突進した!?

「うわ、あっぶなっ、あっつつ!」
「ちょっと」

 その速度はかなりのものである! 狙うは博士の頭であり、私は思わず反射で手を出してかばってしまった。
 出したその手の甲に時計はぶつかり、衝撃しょうげきが走ってはじかれ落ちる……。うあ、てか、結構痛いぞこれ、打撲で済むかなあ? ぶつけた辺りがちょっと熱くなっている感覚がある。

『残念、私のミッションは妨害されてしまった!』

 なんだこの時計、小さな私が入っているのか?

『これ、責任案件!? もしかして、自爆ですか? しちゃいましょうか? 自爆! 責任、どうしましょうかね!?』

 ちょっと、やめてほしい。
 さすがにこんなことは、言いません!
 というか、こんな感じで見られてたのかな?
 なんか、異様に恥ずかしい。

「こ、これはひみっちゃんすまんかったの、大丈夫か?」

 かばった博士に気遣われた。私は何とか平静を保とうとする。

「ええ……というか、ひとに大丈夫かって聞くような機能、何でつけるんですか!?」
「こ、このオプションは要望があってつけたんじゃ。儂は使わんからのぉ」
「いや、そういう問題じゃありません!? っていうか要望!?」
「うむ! 儂の友人からじゃよ。なんかの、静かに飛んで行って、あの世まで追跡の後、しっかり激しく起こしてほしいというものじゃ!」

 あの世のひとは起こせません! ってか、何だろう? 変な依頼だなぁ?
 というか、博士ってば、ほかの人にも発明見せてるの!?
 それは、知らないところで世界の危機が起きてるかもってことじゃないか!?
 私は少し動揺しながら、ご友人に関して聞いてみる。

「ご友人は、どんな方なんですか?」
「おお、あやつか? えっと、プログラムのばけもんでな! 世話になったこともあって、儂、あやつの仕事を手伝ったんじゃ!」
「ねえ……これ、ご友人にあげるつもりなの? 博士ってじつはヤバイひとなの!?」

 お、妹が突っ込んだ。
 想像で判断するのは申し訳ないけど、そのご友人もどこか紙一重っぽいよなあ……。

「だれがヤバイんじゃ!?」
「だって……ねえ?」

 私と妹はお互い目で合図して私が切り込む

「ちょっと……今回のは危ないですよ?」
「そうねぇ、しっかり見てなきゃ気づかないほどスムーズに……」
「おどろくほどにサイレント。ぶつかって気付く、悪意の衝撃!」
「それが、博士の!」
「目覚まし爆弾!」
「爆弾じゃないが……まあ。そういうもんかの?」

 人をあおるとき、私と妹は息が合う。
 その責め筋に、精神的タフさなら他の追随ついずいを許さない斉藤さんでも、ときどき白旗を上げるのだ。

「むぅ、しかし……すまんかったの、ひみっちゃん」
「いや、まあ、これは良いんですが……」

 私に謝っていただくのは良いのですが、どっちかというと昨日の世界を危うくした発明の方をもっと反省してほしいです。
 本当、なぜ発明品が壊されてしまうのか、自省してくれませんかね?

 そんな葛藤かっとうを続けていると、妹が素直な疑問を出した。

「ねね、博士のご友人って何の仕事してる人なの」
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