博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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2 博士は次元の壁に挑むようです

05

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「でさでさ、異世界に行けたの!?」

 話の途中で妹が入ってくる。目が輝いているのはなぜだろうか? 少しだけ眉を上げ、私は言った。

「行くわけないよ? 問題が山ほどあるし」

 そもそも博士の発明品であることに、危機感をもってほしい。そう思ってしまうのは傲慢ごうまんだろうか?

「えー?」

 私の言葉に妹は唇をとがらせる。

「そりゃぁ、問題は多いと思うけどさあ、あたしすぐに思いつかない。たとえば、どんなのがあるの?」
「異世界とやらへ穴をあけた先に、海があったらどうするの?」

 博士のニュアンス的になるが、この発明は自分の世界の壁に穴を空け、別の世界のどこかにつなげるものだ。
 そのために危惧きぐすべきことは結構ある。もちろん、博士にも聞いたし対策も聞いたし、確かめた所だ。
 私の指摘してきを受け、妹は何やら考えている表情。そして、あせった様子で目を丸くした。

「ど……どうすんのよ!? 際限さいげんなく水が流れ込んで来たら!!」

 妹の大きな声にびっくりしたのか、どどめさん(仮)がこちらを見るようなうごめきを見せる。

「まあ、そこはね。説明聞いて、一言で言うけど、一方通行っぽい仕様らしいよ……うん」
「らしいって、なによ? 歯切れが悪いわね」
「んー、博士の説明が結構な数字付きでさ、記憶にとどめるのを拒否きょひしたのさね」
「頭が?」

 そう脳が拒否した。しかし以前の自分で言った言葉だが、妹に言われると少し嫌だなぁ。
 少し眉を曲げつつ、私は頷く。

「そだね。脳が拒否したね」
「んーじゃあさ、それは置いといてよ。一方通行って異世界行ったら帰ってこれないんじゃないの?」
「うん、戻ってこれないよ」
「それこそ、どうするのよ!?」
「さあ?」

 妹が黙る。あ、会話が止まってしまった。何かないか考えていると、妹は少しわくわくした表情で、手を打った。

「でもさ、異次元・異世界ってあれでしょ? 剣と魔法と転生の世界!!」

 え……ああ、そうだね。妹は好きだったね。というか、もう少し幼かったときには、み名とか魂のなんちゃらとか考えてたよね。
 ……うん、いみなって本来はもうちょっと違う意味があることも教えたし、魂のなんたらは……まあ、今回は触れないでおくけどさ。

「えっと、どうなんだろうね?」

 そういった話にはあまり興味が向かない私は、つぶしたいちごの欠片を中心に、一すくいの牛乳と溶けそこなった砂糖をまとめて口に運んでからつぶやく。

「まあ、間違っても使う気は起きないなぁ」
「やっぱ……壊しちゃったの?」

 妹は察しが良い。ただ、楽しい雑談遊びのお時間に、結末がどうなったかは急ぐべきではないよなぁ。

「んー、話は続くのだよ」
「え、壊さなかったの?どっちなのよ?」
「それは、まあ置いといてね」
「えぇ……」

 歯切れ悪いなぁなど呟きつつ、妹もいちごをちょびっと口へと運ぶ。私とは趣向しゅこうが違うようで、丸のいちごをスプーンで突き刺して分断し、酸っぱいままを砂糖を全部溶かして甘くなった牛乳で食べるのが好みらしい。

「地図を持ってきてから説明してくれたのはまあ良いんだけど、実は博士、装置を間違って起動させちゃったのだよ」
「は!?」

 すっごい表情が見えた。驚き6割、恐怖2割、そしてあと何らかの思いが1割って感じの大口で、私はおもわず、そも顔写真をってあげた。

「ちょ!? いきなり撮らないでよ」
「いいや、油断するのがわるい」

 からっと笑った私に、とてもつり目の妹が自分のスマホを見せてくる。

「ふん、じゃあ、こっちの油断はどうなのよ?」
「うえっ!?」

 うっわ!? こっれはまっずいやつじゃん!?
 え、いつ撮ったの!? てか、記憶にないってことは、まあ、そういうことなんだろうけどさ!!

「よし、これは取引しましょう」
「うん、聞くだけならオッケーよ」

 含み笑いってやっぱ怖いよね。私は下手に出ざるを得なかった。

「これらの写真、同時にぜんぶ、消していただけませんか?」
「んー、まあ一考するにやぶさかではないけどなぁ?」

 妹め、調子に乗りおって……と心内では思うのだが、今の私はまな板の上の鯉である。まあ、写真一枚では済まない事も考えられるので、それらすべて一緒くたに抹消せねばなるまい。

「おそらくそれに類するもの含めて全部をだね。一緒に消してみてはいかがでしょうか!?」
「えー……一枚なら良いけどなぁ?」
「ぜ、全部で! どどめさんの観察記録SCPレポートも消したげるから!」

 掲示したどどめさん(仮)のつややかな姿をその目にし、妹がどんびき顔を見せた。

「うっわぁ……本当、なに考えてこんなん撮ったのよ!?」

 いや、本当なんでこんなに撮っちゃったかなとも思う。
 ただ、人に見せたら大変なことになるので、いつも妹に見せるのだが、最近は見せようとすると逃げ出す。今回の不意打ちはうまくいったね! ただ、私も見返すとダメージをうけてしまうのだが。

「ていうか、勝手に名前つけないで! こっちは見られたら人が卒倒しちゃうから、自主的に消して!」
「うん、消すから! 私の姿も消そうね! だれかさんのすっごい表情特集もまとめて消したげるから!」
「んー!? ちょっと今、気になるワードがあったんですけど?」

 といった感じでしばしにらみ合い、私と妹はスマホを交換して、お互いにひどいのを消していった。ときどき、悲鳴が上がったり、真っ青になったりしていたのは、妹も私も同じぐらいの数なので、今回は引き分けだろう。

「もう、話ずれたじゃない!そのあとどうなったの?」
「えっと、博士は地図を広げて、説明をはじめたのだよ」
「うんうん」


**――――――
「またせたの、ひみっちゃん!」

 転がるように駆け戻る博士の姿は、なんかかわいらしい。その手にある地図は、精巧せいこうな市街路地マップであった。
 ああっ、私はこれ見たことがある! たしか警察さんで道を尋ねた時に持ってきてくれるたぐいのものでしょ!
 ちょっとだけ、どこで手に入れたのかなど聞いてみたい衝動を抑え、私は博士の様子を伺う。

「この地図を見とくれ。例えば儂の家から、この商店街へ最短で行く道順はどうなると思う?」

 なんだろう。私にそんなことを聞いちゃいますか?
 これでも地図は苦手なんですよ? 『体内磁石が常にまわっている人』とか言われたことありますか?
 内心のネガティブを隠しつつ、私はとても自信満々で道をたどっていく。

「たしか、ここが……こういって、えーっと」
「え? なんで、そんな行かんでもええ方向へ行くんじゃ?」
「え、そんなことはないと……」
「というか、方向が逆なんじゃが……」
「あれ、でも商店街ってこの地図に載ってませんね!?」
「ひ、ひみっちゃん……? ここまででかでかと書かれた商店街の文字、読めんの?」
「あ、こっちでしたか……」
「いや、だから……ああ、なんでぐるぐる!? ……うん、もうええわ!」

 博士が早々にさじを投げた。解せぬ。

「まあ、儂が辿たどるとじゃの、こういってこういって……」

 たどっていく感じをみると、道って実はとっても簡単につくように思える。
 あ、いやっ! そうですよ。私もそのようにたどるつもりでした! 地図をたどるという経験が圧倒的に足りなかっただけです! 引き分け! ここは引き分けにしてください!
 ……内心での負け惜しみは表に出さず、私はしげしげと地図を見入った。

「……結構、近いんですね」
「うむ、まあ、の、でな、ここからが重要なんじゃ」
「はい」
「もっとも最短はこうじゃ」

 博士は地図を曲げて、博士の家と商店街を合わせようとして、何かがやぶける音を出してしまったが、聞かなかったことにしましょう。

 というか、これって漫画か何かで見たことあるワープって奴で、Aの座標とBの座標を直接つなぐってやつでしょ? 漫画やアニメで見た覚えがあります!
 さすがにそれは口に出さず、私は冷静を装って言った。

「つまり、移動が一瞬になるんですか?」
「う……うむ。家の次元壁に穴を空け、異次元を極短期間介したのち、商店街の次元壁に穴をあけるという工程により、速やかな移動が可能となるのじゃ!」
「ふむ……」
「最も、座標関連はまだ開発中じゃがの!」
「できそう、ってことなんですか?」
「……おそらく、可能じゃとは思う」
「ほお!?」

 私は頬に手を当てて考える。様々な疑問がわいてきた。しかし、これは……本当に言葉どおりの装置であれば、世紀の大発明と言えるだろう。

 多くの人が渇望かつぼうし、同時に、多くの人を絶望ぜつぼうさせるものとなりうる。
 具体的には楽な荷物やヒトの移動が可能となり、その反面で運送業うんそうぎょう運輸業うんゆぎょう生業なりわいとしている方々の8割以上の方が職を失ってしまうだろう。
 それ以外にも多くのさまざまな変化が起きてしまうだろう。
 ……まあ、この発明が想像通りのものであればの話ですがね。

「もっとも、今の段階では次元壁に穴を空けることしかできんがの」

 得意満面の博士を見て、私は、少しだけ息をのみつつ、疑問を並べていくことにした。
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