博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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2 博士は次元の壁に挑むようです

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「うむ! 天使の翼はひみっちゃんに似合っておる! 素敵じゃ!」

 博士の笑顔はとても素敵であった。しかし、私には悪魔が見せる無邪気な笑いに見える。

 うん。ちょっと待ってほしい! 治すついでに天使の翼ってどういうこと!?
 えと……正気!? なんで、そんな発想になるの!?
 対象って私ですよ? この世で最も似合わない感じでしょ!!

「ちょ、博士、なにを言っているんですか!?」
「いや、元に戻すってのはつまらんじゃろ? それにひみっちゃんに天使の翼はぴったりじゃ!!」

 どこを見たらそんな感じになるんですか!!
 私が言葉を挟む前に博士は立ち上がり、白衣をひるがしてから構想を語る。

「他にもじゃ! 角とかしっぽとか、カワイイとやらを生やしても良い!」
「はいっ!?」

 一瞬だが、面食らってしまった。そして言葉の意味を考える。博士は、何を、言ってるの!?

「天使の翼に、角や、しっぽ?」

 そして、私は自分の出来の悪いコスプレ姿を想像し、それが二度と外す事のできないであろう未来まで想像して、青ざめて立ち上がり、強く否定した!

「や、やややや、やめてください!!」
「おや? 急に元気になったの? しかしひみっちゃんにとても似合うぞ? おし、ならば……」

 博士は、自分の言葉でインスピレーションが湧き続けているっぽい。

 急いでホワイトボード駆け寄り、何かぶつぶつと数字の羅列を始めたっ!? その呟きには、ニューロンがどうとか、錘体路すいたいろがなんたらとかが含まれている!!

 うげげげげっ、なんか、キーワードが人体改造っぽいんですがっっ!? しかも対象ターゲットは私ですよね!?
 ヤダヤダ! ムリだって! 絶対にお断りです!! というか、本当、そっち方面に振り切らないでっっ!!

「も、ももももっ、もしもっ、そんなことが現実になったら! 私、二度とここには訪れません!」

 私の言葉に博士は目を見張った。勢い込んで言ったが、背中に怖気が走っている。

「むぅ……それは嫌じゃな。しかし、面白そうだし、研究だけでもしてみたいが、駄目かの?」

 良いわけないだろっ!? 博士ってば、自動じどう追尾機能ついびきのうとか付けるでしょうがっ!!

「博士、そういったたぐいの研究をしていると知ったら、問答無用で壊します。研究所ごとですよ!」

 強く言ったおどしに、しかし、博士は何故かにこにこと笑ってから、お茶をすする。

「そりゃこわいのぉ。じゃあ気を付けるわ!」
「絶対に! 研究とか! しないでくださいね!!」
「わかったぞ! じゃあひみっちゃんも、絶対に大怪我・大病はせんでくれな!」

 なんだか真摯な瞳で言って来る。あのですね、私は博士のお体の方が心配なんですが?

「むー……はい、気を付けます。命にかけて……博士も、ご自愛ください!」

 博士の言葉に軽ーく返して、ふと気が付く。
 あっれー!? 私ってもしかして、下手に怪我とかできなくなってない!?

「そうじゃ! 儂の友人が『いちばんカワイイのはネコミミだ!』とか言っとったぞ!」
「えっ!?」
「儂はネコミミとやらが何か知らん、じゃがこれは研究しちゃ駄目か?」

 おそらくくだんの友人さんですよね? 本当いいかげんにしてください!! 博士をおかしくしたのって、たぶんご友人の影響も少しはあるんでしょう!?
 ま、まぁ、ちょびーっとだけ、私も入っているかもですが、それは忘れました!

「あの、ネコミミって、ヒトに猫さんの耳が余計についてる感じです。それも駄目ですからね!」
「ほほう……猫の耳か? ありゃ集音機能があって便利じゃな!? しかも、可愛いぞ? 駄目なんか?」
「カワイイとかそういう問題じゃありません!!」

 博士がにこにこと楽しそうにお茶をすするのにあわせ、私もぬるくなってきたお茶をいただく。

 お茶の香気を楽しみ、ほっとした一瞬の後、脳裏に閃きが走る。

 それは、嫌な未来の予想図だった。
 そう……これから数か月後に私は大事故を起こしてしまい、意識不明の重体とかになってしまった状況である。
 そこで博士が今日の話を思い出し、本気を出してしまうのだ!

 私って結構しぶといもんで、ひっどいことになっても息はあると思う。
 しかし、損傷そんしょうってのが、じつは大変なものであり、復帰には普通のリハビリでは難しかったとしよう。
 その場合、妹は博士に一縷いちるの望みをたくしてしまうかもしれない!

 『いもっちゃん、儂に任せるのじゃ!』

 胸を張り、白衣をはためかせて強く言った博士の暴走は実を結び、ようやく意識を取り戻した私が鏡をみると……。

 そこには、病衣来ている私であるが、見た感じは天使で、しかも猫耳をはじめとした、博士とご友人の趣味的何かがいろいろ生えてしまったおぞまましい……。

『ヤダー!!!』

 私はお茶をすする外面だけは崩さないまま、心の中で大きく叫んだ。

 そして、精神的な疲労が激しい私は、呆然としながらおいとまの挨拶をし、ふりゃふりゃしながら帰路へと着いたのである。


**――――
「それが一週間前の話なのね?」
「そう……だからさ、次の呼び出しがこわくてね……」
「良いじゃん! 絶対需要あるよ!」

 需要ってなんだよ? 妹がにっこにことしている。
 くそぅ、他人事だと思ってからに……。

「何の需要!? というか、なして私が供給にならなきゃなの!?」
「でもさ、猫耳はありじゃない?」
「ない。耳は二つで良い」
「むぅ、あ、そうね。もともと地獄耳だもんね」

 そうだね。聞こえすぎてたまにふさぎたくなる。妹の歌とか楽器は特に辛い。

「じゃ翼は? 飛べるかもよ?」
「飛ぶのはいや。何があってもいらない。というか邪魔じゃま
「むう、贅沢ねえ」
「そういう問題じゃないやい!」

 ついに私は駄々っ子になってしまった。

「あらあら、すねちゃってさ」
「だって、私、これから怪我とか怖くてできないんだよ!」
「いいじゃん。これから気をつければ?」
「あーもう、どうしよう?」

 もういちごミルクも残り少なくなっているな。ぼんやり見つめてから軽く息を吐き、私は言った。

「あー、でも私が帰る直前に、『いもっちゃんはウサミミとやらが良いのじゃな?』って言ってたよ」

 その言葉で、妹は表情は一気に変わり、顔面蒼白になった。

「はぁーっ!? なんであたし巻き込んだの!?」
「私は別に巻き込んでないよ。博士が言い出したのさ」
「ウソだ! そっちに話を向けたでしょ!!」

 さすがに察しが良いな。

「まあ、私も仲間イケニエが欲しかったからね。助言してあげたのさ……」
「何してんの! 本当、何してんのよ!!」
「ああっ! そうだ! 『妹は六つに分かれた黒い翼を欲していました』って助言しちゃったよ!?」

 妹がそういったモノに憧れていたのは本当である。ちょっと前の、呟やきを覚えてて、ぽろっと出てしまった。
 伝える気はなかったが、動揺からか口が滑ってしまったのである。

「あの、ごめん! 本当に言う気はなかったけど、私も動揺してて……反省してる! 許して!!」
「うっわー!? もうもう! 最悪!」

 『本当に悪かった』系の表情を浮かべる私に、妹は真っ赤な顔して厳しくにらんできた。

「どうすんのよ! あたしまで巻き込んでさ!!」
「おっきな怪我しなきゃいいのさ。私も気をつけるからさ、学校とかで気をつけてね」

 しれっと放つ私の言葉に、妹は頭を抱えた。

「あー、もうもう! そんなもん、気をつけるけどさ! もし、万が一事故ったら、一生恨むからね!」
「大丈夫。その場合は物理的に仕返ししてくれて構わないからね。……博士に」

 私の言葉に、妹は眉を上げた。

「そうね。じゃあたしは、のうのうとしている人を昏倒こんとうさせるわ」

 え!?

「んで、『おそろにして! それが贖罪しょくざいよ!』って、博士に頼むからね!!」

 な、ちょ、ええ!?

「え、なななな、なしてそんなことすんの!?」
「良いじゃん。あたし一人で痛い目でみられるより、二人で痛々しく生きていこうよ」

 えー!? いや、まあこうなるのは見えてたけどさ! しかし、おっそろしい未来が生えてきたなぁ……。こんな感じでの一蓮托生いちれんたくしょうはいやだぞ?

「……あれ?」

 ふと、首をひねる。私たちってさ、なんで改造されること前提で考えているのだ?

「あのさ……博士を先にどうにかしない?」
「出来るの?」

 ……うん、どうなんだろう? 少し私は考える。博士は、倫理や俗欲では動かない。ただ、面白そうって感覚と、作る事の困難さを楽しむために動いているようだ。
 もし、私達への人体改造が楽しくも苦しい道のりであれば……。きっと、やる気を出してしまう!?
 私たちが本気で止めるとしたら、博士をどうにかしなきゃならない。それが、できるだろうかといった話になってしまうだろう……。

 そして私は結論を言葉にした。

「無理だ……」
「ねー」

 こうして一瞬会話が止まる。
 私は、いちごミルクももうおしまいである事に気付き、お皿を重ねはじめた。同時に遅い朝ごはんの雑談も、終わりとなったらしい。

「ああ、いろいろと悩むことが増えちゃったなぁ……」
「余計な一言さえなきゃね」
「それって、私に息するなっていってるようなもんだよ?」
「知ってる。もうもう……」

 二人の嘆息ためいきが重なった時、ふと、視界から外していたはずのどどめさん(仮)が、急に活発な動きを始めた。

「あれ? どどめさん、どうしたの?」
「その名前はやめてって!」

 いつも通り妹に否定されたが、どどめさん(仮)はうねうねとうごめき、ホラー映画でもなかなか見ることのできないような、絶妙の気持ち悪さを付加して、窓へといずって行く。

「んー? どうしたのかな?」
「あら? あれ……」

 妹が窓を指差し、私がその方向を見た。その窓から、コンコンと、くちばしでつつく音がする。

「あれ……は……博士の!?」
「みたいねぇ」

 そう、そこに居たのは白カラスさんだった。その端正な顔に渋い微笑みを浮かべ、悠々と舞い降りてくる。

「えーっと、どうしよう?」

 妹が聞いてくる。

「私は行くよ……一緒に来る?」
「今日は、大丈夫……まあ、たぶん止めないとね」

 こうして、私たちのもとへ、科学の深淵への招待が届いた。
 その内容はタイムリーなものであり、2人とも避けることができないものとなりそうだった。

                            第二部 おしまい
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