博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)

02

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「お邪魔します」
「こんにちは、博士!」
「おお、ひみっちゃんにいもっちゃん、よう来たのう!」

 私たちは博士に促されて応接間に通される。相変わらずふかふかの絨毯じゅうたんを足で堪能たんのうしつつ、いつものソファーに腰掛ける。

「ああ、お茶れますね」

 前回はそのせいでもったいないが起きたのだ。だから、先んじて私が言う。すると博士はにっこり笑った。

「ありがとな! しかし、今日は紅茶が届いての! 儂、こっちを淹れようとおもっとったんじゃ!」

 そう言って、博士は奥の棚から何か結構本格的な紅茶セットを持ってきた。
 私は紅茶に関してはちょっとよく解らない。人数分より多くお湯入れるとか、もう忘れてしまったなぁ。

「あー、えっと、淹れ方どうだっけ?」

 私が少し困った様子を見せると、妹が胸を張って前へ出てくる。

「いいわ、あたしが淹れたげる! ……ってか、これ本当にいい茶葉じゃん!?」

 紅茶セットを点検しつつ、妹はさっさと支度すると、嬉々としてポットへ急ぐ。

「お、いもっちゃん紅茶淹れるの好きなんか?」
「うん、部活でちょっとねー」
「部活とはなつかしいのぉ」
「そう? まあ、うちの学校って、何か入らなきゃなのよねー」

 言いながら本当、素人目にも解る手際の良さで紅茶の準備をしている。いつの間にこんな技能を身につけたんだろ?

「ふむ……で、何部に入ってるんじゃ?」
「そこは黙秘もくひでーす」

 ああ、博士が聞いてもだめか?
 本当、なんの部活に入ってるんだろう? 私も聞いた事があるのだが、いまだに流されている。ただ、確信を持って言えるのだが、黙秘と宣言した以上、妹の口から知ることはできない。

 以前の活動で、なぜかイワシハンバーグのタネを作って帰ってきたし、今回は紅茶の素敵な淹れ方ができるようになっている。活動内容が全く想像できない……。
 『お嬢様風おもてなし部』とか? でも、部員は集まらない(決め付け)から同好会を名乗ると思うのだが……うーん?

「ふむ……黙秘部かの? 中々コアな所を攻めるのお」
「え!? ……んー、もう、それでもいいわよ?」

 え? 待って博士!?
 妹も!
 黙秘部って何する部なの!?
 まずさ、黙るために紅茶の淹れ方を上達させるって、疑問が湧きませんか!?
 えっと、大会かなんかで、『黙秘できなきゃ紅茶飲んで良いぞ……』とかやるの?
 いや、うん、考えても意味なさそうだ、これ。

 話の流れを観察かんさつしつつ、一人で勝手に打撃を受けている私の前へ、香りが優しい琥珀色こはくいろの液体で満たされたティーカップを置き、妹が目配せしてきた。
 あ、ネコ耳中止は私が言えって事だろうな。うーむ..なんて切り出そうか?

「えっと……」

 淹れてすぐの紅茶は熱くて飲めない。私は、香りだけ楽しんだのち、優雅ゆうがを気取ってカップをソーサーへと戻し、博士が口をつけるのを待つ。
 というか、博士が紅茶を飲む姿勢は、ハンドル(ティーカップのとってにはこんな名称が付いていたはずです)をまむような感じで傾け、私なんか比べ物にならないくらい、優雅に楽しんでいる。
 もしかして、実は良家の出なのかしらん?

「おおー、おいしいのぉ、いもっちゃん。この紅茶の良さを引き出せるとは、少しびっくりじゃ!」
「んー、でもさ、これ茶器もすごいと思うの。何か有名なやつじゃないの?」
「さあ? そこはよう知らん。もらいもんじゃからの」
「えー、いやいや、そんな簡単にもらえるようなもんじゃないって!」
「そうかの? 儂は、お茶が楽しめれば何でも良いぞ?」
「んー、そっかー」

 もう少しこの会話を聞いてみたい気もするが、私はその流れをぶった切って言った。

「博士……本題、良いですか?」
「ん、ひみっちゃんどうした?」

 博士はカップを受け皿へと優しく置いて、こちらを見る。私は単刀直入に言った。

「私の人体改造を目論もくろんでいる件ですが、やめてもらえません?」
「『たち』の、ね? 一応、付け加えるけど」

 その言葉を受けて、博士は少し首をかしげる。

「改造というのは何じゃ?」
「何じゃって!? 今朝図案を送ってきたじゃないですか!」
「あんな綿密に書かれてたのに、忘れることできるの?」
「ああ、良く出来とったじゃろ!」

 いや、良いとか悪いとか関係ないんですが!?
 
「猫の耳は集音機能に優れとる! よりよく聞こえるために苦心の跡が見えたわ! 聴覚アタッチメントとしても優秀じゃな!」

 何言ってるんだろう?
 アタッチメントって取り外し可能部品のことですよ!?
 そんなんが簡単に出来る感じの設計図じゃなかったでしょ!!
 神経溶着ですよ!?
 というか、人様の体をちょっといじってしまう感じは倫理に反してませんか!?

 そう私が聞く前に、妹が突っ込んだ。

「あれ、付け替えとかできる感じなの?」

 妹の顔色は真っ青になっている。

「付け替えというか、形を変えることはできるぞ! 今のところ、猫耳から象耳までを想定しとる。最も、象耳の機能は体温調節が主となるがな!」

 私は目を見開いた。
 ゾウ耳ってどこから需要が出てきたんですか!?
 百歩譲ってですよ? ネコ耳やウサ耳ならばまだ可愛いとか言われるかもしれません。(もちろん付けないけど!)
 でもね、象さんの耳って、人にサイズあわせても、ビジュアル的に大変なことになってしまうじゃないですか!!
 変な所から精神的ダメージを負いつつ、私は博士をきっとにらみ、はっきりと言った。

「もうずばっと言っちゃいます! その開発、やめてください!」
「うん、無理! てか、もう作っちゃったの?」
「いや設計は済んで、作ったのはちょびっとだけじゃ。しかし、あれは……」

 私たちに詰め寄られ、少し驚いたような博士にかまわず私たちは追撃する。

「なんで私にあんなのをつけようとするんですか!?」
「たちだってば! 博士、マッドも過ぎるとヤバイわよ!?」
「えっと、二人とも何を言うとるんじゃ? ネコ耳・ウサ耳の話じゃないんか?」
「そうです! あれを作らせるわけにはいきません。だから、今日伺ったんですよ!」
「何故作っちゃいかん?」

 本当に、不思議そうにこちらを見つめる博士を、私は何と言って説得するべきか言葉を探す。しかし、切り込んだのは妹だった。

「人体改造はダメでしょ!? あたし、さすがに引いたわ!」
「人体改造ではないといっとろう?」
「あの設計図に、『側頭骨穿孔』とか! 『神経溶着』とか! 書いてあったじゃないですか!!」
「やる気を出しとるのは儂の友人じゃからな。まあ、ちょっと無理が目立っとるかの?」

 そうじゃない! そういう意味じゃないんです!!

「博士は、それでもて作っちゃうんじゃない?」
「しかも、それを私たちに付けようとしてますよね? それだけは、何があっても止めます!」

 私たちの言葉に、博士は紅茶を一口優雅に飲んでソーサーに置き、不思議そうに言った。

「なぜ付けたくないんじゃ?」

 え、博士はなんで解らないんですかね? まず、脳になんやかやするって、めちゃめちゃ恐ろしいでしょ! 障害とか出たらどうする気ですか!?

 あと、付けた後のビジュアル考えてます!? めっちゃ悪目立ちするでしょう!? というか、私の場合は仕事にも影響でちゃうんですよ!?

 あと、妹の場合も問題があります! たしかに、こやつは見栄えの良い顔立ちだし、一週間くらいはみんなの暴力アイドルになってもてはやされるでしょう。でもその後は悲惨じゃないですか!!
 
 おそらく、教員たちから叩かれ、世間から叩かれ、受験とかでもきつい事になってしまうでしょうがっっ!!

 そんな明後日までを考えていた私の表情を読んだのか、妹が勢いよく代弁してくれた。

「脳とか壊れたらどうするのよ!?」

 あ……そうですよ!? そうそう、その通り! 私はそれが言いたかった!!

「そこじゃ!」

 しかし、妹の言葉を受けた博士は立ち上がり、白衣をひるがして胸を張る。

「そう、そこが工夫のしどころなのじゃ! なに、クリアする項目はリスト化かつマニュアル化しとるから問題なかろう!」
「その言葉のどこに安心できる要素があるんですか?」
の話してるんだけど!?」
「なにより、問題出てからああしまったじゃ、すでに手遅れなんですよ!!」

 我々の追及に、しかし、博士は自信ありげだ。

「大丈夫じゃ! 昔ちょちょっとじゃが……んっんーむ」

 なぜか博士は言葉を濁す。そして言った。

「いや、まあ、実績十分なノウハウがあるぞ!」

 今、濁した言葉はなんでしょう? すっごく気になるんですが!?
 突っ込みを飲み込み、私は努めて冷静っぽく聞く。

「その根拠を、教えてください」
「根拠……んー、昔作った発明、引っ張り出してみるかの? 今見せるのはちょっと恥ずかしんじゃがなぁ……」

 うげ、やぶへび!? 私は少し青ざめ、駆け出そうとする博士を手で制する。

「そ、それは遠慮しておきます!」

 ひるんだ私をみて、しかし、妹は果敢に追及を続けた。

「なによりさ、あんなん付けたら目立つじゃん!」
「目立っていいじゃろ? 可愛いぞ!」
「良くないから! 悪目立ちだから!!」
「そうです! 変な目で見られます!!」

 博士がまず自分でつけてみれば良いのにと思う……そうだ、ちょっと前に手へ包帯巻くはめになった私は、買い物行ったときに視線が集まった体験を思い出してしまった。

 包帯ですらあれなのに、今回はネコ耳ですよ!?
 それは、とっても! かなり! やばいくらい! 痛々しい感じに見られるはずだ!

「ふむ……しかし、便利じゃろ? 感覚が鋭敏になり、遠くの声も聞こえるんじゃ。何より危険を避けやすくなる!」
「それさ、陰口とか聞こえちゃうじゃない!?」
「それも、ネコ耳みつけて『うっわぁ』とか『なに、あれ?』とかですよ?」
「気にせんで良かろう?」
「もう! 気になってるのを我慢がまんは無理!」
「それが出来ないから、止めにきたわけです!」

 うーむ、しかし、なんとなく話がかみ合ってない気がする。カウンターとして用意した、『じゃあ博士も付けてみなさい』も、嬉々として付けてしまいそうだ。
 それを考えるとより混乱しそうである。今回は胸の内にとどめざるを得ない。

「えーっと……」

 どうするかなぁ……? 軽く息を吐き、私は次なる手を考える。そして、自分のスマホに目をやり、次はどのような角度で切り込むか、言葉を探すのだった。
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