博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)

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「ひみっちゃん……その……本っっっ当に申し訳なかった…………そろそろ……許してくれんか?」

 こんこんとお説教をしたためか、博士はげんなりしている。

 その内容ですか?
 えーっと……。
 うん、ひみつです。

 私は言葉を切り、じろっとにらむ。

「許して……ですか? 何を、でしょうか?」
「む、えと……その……」

 その姿を見て、妹が小さくこぼした。

「引くわぁ……久しぶりだけど」
『う……麗しの……おに……いや君、ごめんなさい……もうしないように……心掛けるから……』

 あれ、なんだろう?
 先ほどの件を皮切りに、発明に関してひとつひとつ取り上げ、ちょびーっと欠点を指摘しつつ、非難しただけである。
 何故ここまで愁傷しゅうしょうな態度になるのだ?

 始めからやればよかったのだろうかな?
 あー、でも無理か。

 いつもの発明は、その対象が世界的な何かであり、博士の努力の結晶でもある。だから私も壊した後の罪悪感もあるのだ。

 しかし、今回はターゲットが私と妹であり、人生が捻じ曲がる感じのヤバさがあって、フラストレーションすごい!
 その点に関しては、博士とご友人の努力や工夫がすごくても、寛容ではいられない。

 さらに! 人類の発展を大きく前進させてしまうモノを、この私の手で消去した罪悪感!
 この手に纏わり付いた、人類の発展と希望を打ち砕いた後ろめたさ!
 これらをなんとか拭い、自分の心を守るために、私はいま博士たちを責めているのだ。

 ……自覚はしています。それが、八つ当たりに近い感情だということを! 
 でもね、わかってはいるけど、止められないんです!!
 私、なんか良く解んない恐怖感に駆られているんですよ!!

 私は口をへの字にしたままで、白カラスさんを見つめる。

 あれ、なんかびくってした!?
 てか、ご友人は向こうで正座しているっぽいのかな?
 それはちょっと、見てみたいかも?
 あ、駄目だ全裸っぽいからやっぱ見たくないや。

 しかし、姿勢を正した感じの白カラスさんは、やっぱ可愛い。
 説教モードに入っているから、そういうのは見なかったことにするけどね!

『その、反省したよ。麗しの君、そろそろ許してくれないかい?』
「私たちへの心理的な嫌がらせを、言葉で済ましたいと? 私、そちらが見えてないですよ?」
『そうか!? 僕のこの状態、見てないのかい!?』

 あれ、白カラスさん、なんで片足上げてるの?
 ご友人の表現?
 それ、可愛いだけで意味ありませんが!?
 ちょびーっとだけ、怒りは緩みそうだけど、惑わされてはダメでしょうね。

 私はさらにきりっとした表情を作って、冷たく言う。

「言葉はどうとでもなりますし、態度だって取り繕うことができるんですよ?」
『ど、どうすれば……』
「それを考えるのが、反省でしょう?」

 パワハラワードを盛り込んで追及してみる。

 てかね、こんなん前に進まないし、私もやられたことがあるから嫌いなんですよ!
 だいたいねぇ、こんな説教受けたとしてもお二人とも受け流す能力があるわけですし、意味はないでしょう?

 というか、その能力を私も過分に持っているからわかります!
 それが表にちょびっとでも出ると、余計ににらまれるハメになるってこともね!
 いまのお二人のように!!

「ふぅ……」

 私は怒りのまま、なじりたいだけの言葉をぶつけてきた。だが、そろそろ落ち着いてきた今、できればこれ以上の追及は精神衛生上、避けたい。
 落としどころをどうするか?
 どうやってお終いとするべきか……?
 私は、内心の葛藤をひた隠し、もうちょびっとだけなじってみる。

「こちらは、絵をあげましたよね?」
『あ、ああ……たしかに、とても良い物だったよ!』
「そちらからは、嫌がらせしかもらってません。私たちの怒り、どうすればいいと思います?」

 白カラスさんがシュンとして首を下げる。そこへ、妹が割り込んできた。

「ああ! そうよ、じゃあもう、説教終わらす対価とかも含めてさ! 博士、何かちょうだい!?」

 うお、妹!? なにそれ!?
 それじゃ私が何か請求するために怒ってる感じになるでしょ!?
 私はただ、憤りをぶつけたかっただけだよ!?

『僕は今、手りゅう弾しかもっていんだが……』
「なんでそんなもん持ってんですか!? 爆発しないように捨ててください!!」

 そんなものを妹が手に入れてはいけない。パーンで済んでたいたずらが、ドカーンになって、警察が動く。

「むぅ……残念! でもさ、もういいでしょ? あたしも聞いててつらいわ。てかさ、絵描いたのあたしよ?」
「……誰のために怒ってるとおもうの?」
「自分のためでしょ? あたしはもう大丈夫だからさ、もう終わりにしようよ!」

 妹に詰められ、私は少し首を傾げた。

『うう、絵に関しては幸せなんだ……けど、嬉しさよりも悲しさと切なさで、僕は壊れそうだよ……うう……』
「儂……儂は……。だんごむし……うぬぬ……うう」
「ほら、もう許してあげない? はたで聞いてるあたしも辛いわ」

 私は、『むぅ……言いたいことの4割しか出してないのに……』と、聞こえるようにつぶやいてから、妹の横やりに内心でほっとしている。

 よし、ここを落とし所としよう。

「解りました。博士、ご友人、お説教はここまでです!」
「お、おお! そうか、おしまいか! ありがとな、ひみっちゃん! いもっちゃん! 地獄に仏が見えたぞ!」
『ありがとう! 麗しの君! 僕はしばらく休暇をとって、心を癒すことにするぜ!』

 ちょっと、大げさすぎない!?
 ふと、なんかうつむいて丸まっていた博士が、思い出したように顔をあげた。

「それでじゃ! ひみっちゃん、いもっちゃん! お詫びの品は、発明品をあげようかの?」
「いりません!」
「いらないから!」

 私たちの言葉が強く重なる。そう、私たちは学習したのだ。前回、欲に駆られたせいで、どどめさん(仮)をうちで育てる羽目になったのだ。
 夢に見る頻度ひんどは減ったが、不意打ちしぐさの一つ一つで、私たちの心拍数を上げている。

「およ? ……いらんか? 部品を作るうえで重要な、遠隔ハードディスク消去装置のアタッチメントじゃがのう……」
「……どどめさんのアタッチメントですか?」
「その名前で呼ばないでって……」

 むぅ、どどめさん(仮)に何か増やしたら、悪夢に出てくる回数が増えてしまうのでは?
 そんなことを考え、お断りの言葉を考えていると、ご友人が声を上げる。

『ああ! 金糸のとれる工夫だっけ?』
「そうじゃ! あれは各方面で好評じゃぞ!」
「えっ! マジ!?」
「き、ききっ!? 金でしゅって!?」

 いかん、噛んでしまった。

「金は部品で使うことがあるからの! 大気中に存在する金を集めて糸を作る、あの装置専用のアタッチメントがあるのじゃよ!」
『そう、僕も恩恵にあずかってるぜ!』
「えと……えっと、マジなの!?」

 目を丸くして私を見る妹に、私も目を丸くして、答えた。

「うん、ハカセ、発明ではウソつかない。私知ってる、うん」

 たぶん、きっと、かならず、その発明には欠陥がある!
 しかし、それを私たちは熟知しているのだ!!
 これから、どのような欠陥であるのかを、はっきりしっかり確かめ、その上でもらわなくてはならない!!
 大丈夫だ。私は、冷静である。

 そう、たとえ私が何とかなりそうでも、妹が止めてくれるだろう!
 うん、止めてくれないなら、それはそれで問題はない!
 金が採れる奇跡の装置が手に入るのだから!!

 私は、しっかりと未来を見据えて考えることができるのだ!
 だから、先ほどのいかめしい空気をよそおったままで、私は聞いた。

「ま、まあ、結構な、機能などは、中々だと思います、ので……えーっと、もらう前に説明を、そう、説明をお願いします」
「おや? ひみっちゃん、いるんかの?」
「うんうん、現物をみて、説明だけを受けたとしても……あたしはやぶさかではない気がひしひしと伝わって来てる感じ?」

 何言ってるんだ、妹よ? いや、私も人のこと言えないけどね。
 しかし、二人してこんな状態になるのは久しぶりじゃないかな?

 よしよし、ここは年長者の私が主導権を取りましょう!
 金の分け前も増やす方向でね!

「ふむ、わかったぞい! ちょっとまっとってな! ひみっちゃん!」

 にこやかに言った博士が、転がるように駆けていく。
 その早駆けを、いつもはどんよりと見送る私が、しかし、うきうきと手を振った。そして、妹に向き直って興奮のままに言った。

「どうしよう、金だって! 純金かな?」
「どうだろ? K18とかK24だとうれしいなあ!」
『そりゃ純金だよ。腐食や抵抗があると困るからね』

 おおー!!
 純金ですって!?
 あらあらあらあらあら!!
 もう、どうしたもんでしょうかね!?

 うん、それがどの程度の量できるかは解らない。

 けど、それでも!
 どどめさん(仮)に塩水あげるだけでできるってんだから!
 もうもう! これは、ありですよ!
 ありありです!!

「まって、落ち着いてよ。博士のことだからきっと、落とし穴があるはず! もうちょっと、冷静になりましょ!」
「っ!」

 しまった、どうやら私は、浮ついていたみたいだ。そう、妹が手を押さえたので気が付いた。
 どうやら私はぬるくなった紅茶を、なんかすごい勢いでかき混ぜていたらしい。こんなことするもんじゃない。せっかくの香気が飛んでしまう。

 ……私も、精神修行が足りないな。

「またせたの! ひみっちゃん!!」

 いそいそと戻ってきた博士、その手には何かの箱を持ってきている。

「これじゃ!」

 その、鍵穴のついた半開きの白い箱を机に置きいて、博士は言う。

「これはちと、面倒なもんでの、閉じたら自動でロックが掛るのじゃ。この前、ひみっちゃんにあげたあの鍵で開くぞい!」
「えっ?」
「なんで?」

 大丈夫、まだあの鍵は売っぱらっていない。
 しかし、ちょびーっと、無駄遣いが多かったときには、手が掛っただけで問題はないのだ。私は妹に顔を向けて頷いた。

「なんで、そんな面倒な感じにしたの?」
「たしかに、なんか厳重ですね?」
「まあ、な……見てくれた方が早いわ」

 博士はその蓋をあける。

「げっ!?」
「うえええっっ!?」

 私たちは悲鳴を上げた!

 その中に収められていたのは……小ぶりではあるが、なぜか生き生きとしたご様子の、今にも歩き出しそうな、薄い金色の毛がちょろっとだけ生えた……人の、であった!!
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