妹と、ちょっとお話しましょうか?

夏夜やもり

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朝焼けメダリオン

25(終)

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 なんと早い時間に目が覚めってしまったのだろう?
 こないだの雑談のせいなのだろうか、最近は何故だか早起きが続いていたのだ。しかし......今日は特別早くて、朝焼けの時間である。
 ぼんやりした頭で開けた窓の外を見る。その空はもの悲しくも美しい、寝ぼけまなこでお日様を拝見できた。鼠色ねずみいろの千切れ雲達は勢いよく泳いでいき、赤い大空に彩りを添えている。

「............」

 少し頭を掻いてから時計を見るが、起きて行くには早すぎる。二度寝しようかとも考えるのだが、目はさえてしまった。

「まあ、起きるかなぁ」

 つぶやいて、記憶に新しい一番上の引き出しのカギを開け、山吹色のハンカチからメダリオンを取り出して、朝焼けを映してみた。
 ちょっと思い立ち二つに分けてみた。びやだるさんてば二人が仲良くなるように、合わさる構造にしたんだなろうなと、想像してみると感慨かんがい深い。

「あいつとあやつ......元気かなぁ?」

 切れ切れの雲間を縫う朝日の赤い産声が、朝の時間を染めきった。その一欠けを受けたメダリオン達はれて輝く。

「んー......」

 少しだけその姿を見つめた後、私はそれを元の位置へしまった。朝の準備をしなくてはならない。

  ・
  ・
  ・
 
「おはよー。今朝は早かったみたいね?」

 朝から元気な妹が、頭をぐしぐしとさせながら起きてきた。

「はい、おはよう。まあ、眠いから、二度寝しようかなぁ......」
「いや、今寝たら寝坊するわよ」
「大丈夫」
「根拠ないでしょ」
「えー、今回自信あるよ」
「その自信でひどい目にった件さ、あたし数えるのやめてるんだけど?」
「遅刻はしてないよ?」
「何かを犠牲に間に合わせたのに?」
「ぐぬぬ......」

 妹と簡単なやり取りの後、朝食を並べてテレビをつける。ニュースはどのチャンネルでも似た様な事を言っていた。
 私たちは耳障りでないものを選ぶ事が多い。

「降水確率30%......微妙だなぁ。って、そうだ、今日はバイトだっけ?」
「うん、そうねぇ。今日はあたし、遅くなるかもしれないなぁ......」
「じゃさ、夜は食べてくるの?」
「いやあ、たぶん戻れる。うちで食べるわ」
「解ったよ、作っとこうかな? ......あ、遅くなったらごめんね」
「その時は残り物があるわよ」

 朝の時間は進んで行き、朝食が半分くらい減った頃、妹がテレビを見ながら呟いた。

「あれ、なにこの種目? 知ってる?」
「んー? 知らない。こんな競技もあったっんだっけ?」

 あまり興味のない話題でも妹は一言付ける事が多い。
 今画面に映っているのは何かのスポーツらしい。マイナー......ん? 3位に入った自国代表のにっこにことした表情と対照的に、2位の国の選手が、すごい落ち込んだ表情を見せている。
 2位でもすごいのに、珍しいなとみているとその選手が顔を上げた。

「......ぇ!?」

 いや、でも? ええっ!? 何か、その......見覚えのある顔なんですが!?
 ......何といえばいいんでしょうかね? つい最近思い出していた人の面影が、あるんですけど!? えー、マジ? いや、他人の空似ってことも......。

「ん-? どしたの? この競技、好きだったっけ?」
「んっと、いや、え?」

 映像には、ちらりと応援席が映る。

「うわ、まさか、ええ!?」

 少し年を重ねて少しだけすっきりしたびやだるさん、ちょっとだけふっくらしたはりがねさんが......。
 そして、そして! 落ち込んだ選手にそっくり顔のご家族さん!! ......という事は!? あっれえ!? え? ええ!?

 私が驚いていると映像が変わった。あれ? いや、映像これだけ!? マイナーだからですかね!? 私は急いでスマホを取り出しニュースを開く。

「ああ!? なによ急に! ご飯スマホは禁止だって、言いだしたの自分じゃない!?」

 そうだったなぁ。自分で破っちゃいけないなぁ。おかんむりの妹に、かるくひとこと。

「食後スマホは禁止してないよ」

 私の朝食は半分くらい残っている。しかし、私はいてもたってもいられなかった。

「えー!? これ、半分残すの?」
「うん、食欲無いや......帰ってから頂くから、取っといてね」
「もうもう! 本当に片しちゃうからね!」

 妹は不機嫌を隠そうとしない。

「とっといてって! ちゃんと、後で食べるからさ」
「朝食べるのは駄目! 暫くは厳重げんじゅうに保管するからね! ガムテで!!」

 お言葉に対して上の空で返したせいで、妹はお怒りになってしまったらしい。てかさ、それじゃ取り出す時、面倒じゃないかな?
 って、え? ああ、ガムテがすの私だから良いってことかな?

「むぅ、わかったー。ごちそうさま」

 これで朝食もおしまいとなってしまう。後でちょっと後悔するかもしれないけど、緊急時ゆえ仕方無しだ。私はいそいで今のニュースで一瞬現れた競技を検索する。

「ああ......やっぱり、そう、なんだ......」

 スポーツニュースには、昨日行われたあの競技がしっかりと載っている。
 自国の選手が銅メダル。
 つい最近、雑談でよみがえった記憶のあいつと、赤ら顔のびやだるさん。あまり表情の変わらないはりがねさん、あと、あとは、そう。ちょっと日に焼けて元気そうな、あやつの応援写真を見つける事が出来た!

「そか......よかった、よかった」

 皆、元気そうにやっているのだなぁ......うん、うん......心配したんだぞ。

 あ、でも心配したのは一応ですよ、一応! 私はひいおじいさんの形見であるお守り渡したんだからね! 霊験あらたか、無病息災ってやつだから、それほど心配してないんだからね!
 ちなみに私は罰当たりがたたってさ、その後も結構苦しんだけどね! でも、あのメダリオンが守ってくれたよ! 二人分だから、ヤバイときも、なんとかなったさ!

「はい、コーヒー。ねえにやにやしてどうしたの?」

 検索したワードをさらにくわしく検索掛ける。有名人はすぐに知れるのがありがたい。

「ありがと! 私が片付け当番だね!!」
「うん、そうね。てかさ、何があったか教えてよ」

 妹の態度はおだやかにみえる。だが、私の皿はしっかりとタッパへ移行し、ガムテープで固められて冷蔵庫に保存されている。
 こういうとき、手際が良いのが恨めしい。

「えっと、そうだね、何というかな」

 その言葉を背中に受けて返さず、スマホの画面を注視する。
 1位・2位・3位の選手が出したコメントがあった。アクシデントで銀メダルだった選手のコメントを開く。

『《今回は銀だったけど、次は必ず金を取って、約束しているパートナーへ届けます》とても悔しそうな表情でインタビューに答えてくれた』

 ですか? うん、まあ、うん......。

「ねえってば、どうしたのよ?」
「んーたぶんだけど......」

 ご家族皆さんも......うん、うん、大変だったみたいだね。頑張ったんだね。背中さすってくれた事も、手握ってくれた事も、いろいろと迷惑かけちゃったことも、実は時々思い出すんだよ。

「いやあ、びっくりした」
「だから、なにがよ?」

 ありがとねと伝えに行きたい気持ちが半分、金取るまでは会っちゃいけない気持ちが半分である。

「うーん、どうしよっかな?」
「朝からおかしいわね。何があったのさ?」
「あっははははは! まあ、こんな事もあるもんだねえ!!」
「もう、どうしたってのよぉ!」
「んー、まあ、近いうちに教えるね」
「それ絶対忘れるやつよ! というか、何があっただけでも教えてよ!?」
「えっとね、うーんと、そうだ、決めたことがあるよ」
「え、何をよ?」
「それは、ひみつ!」
「ああ! もう! また!」

 そう。氏名、年齢、性別を聞かれた時に、必ずひみつと答える私だが、本日より、注目しているスポーツを聞かれても、ひみつと答えると決めたのであった。

                                 おしまい
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