神亡き世界の破壊論 ~全盛期の力を失った男が、再び世界を蹂躙するまで~

戯言の遊び

文字の大きさ
6 / 13
第一章 破壊神復活

第6話『略奪という名の正義と、朽ちた鍵』

しおりを挟む
王都を出てから三日。

 西へ向かう街道を、奇妙な二人連れが歩いていた。

「はぁ……はぁ……、ま、マーク様……少し、休憩しませんか……?」

 聖女リシアは、膝に手をついて荒い息を吐いていた。

 聖職者用のローブは裾が汚れ、整っていた銀髪も砂埃まみれになっている。

 聖女とはいえ、彼女は深窓の令嬢のような育ちだ。

 舗装されていない荒野の道を、三日三晩歩き通しというのは過酷すぎる。

「あぁ? もうバテたのか?」

 先を行くマークが、心底不思議そうに振り返った。

 彼は悠々と歩いているだけに見えるが、その歩幅は大きく、リシアが小走りでやっと追いつける速度だ。

「……あのですね。一般人は、魔力で身体強化して歩いたりしないんです」

「軟弱だな。もう少し頑丈にできてろ」

「私はモノじゃありません! 人間です!」

 リシアは涙目で抗議した。

 この男、伝説の破壊神のくせに、旅の常識がなさすぎる上に、自分を完全に「モノ」扱いしてくる。

 そもそも、目的地が遠い。

「あとどのくらいなんですか、その『起動の指輪』がある場所は」

「もうすぐだ。この先にある宿場町の手前、古いほこらに隠してある」

 マークは懐から地図を取り出し、指で弾いた。

「いいか、リシア。これから向かう砂漠の遺跡には、俺が配置した防衛システム――『殺戮ゴーレム』どもがウジャウジャいる。
 奴らは融通が利かねぇ。指輪なしで入れば、俺だろうがテメェだろうがミンチにされる」

「ミ、ミンチ……!?」

「だが、その『起動の指輪』があれば、奴らは俺を主人と認識して平伏す。無駄な戦闘を避けるための必須アイテムだ」

 なるほど、とリシアは頷いた。

 魔力が回復しきっていない今のマークにとって、無用な消耗は避けたいところだ。

「なら、急がないと……きゃっ!」

 リシアが歩き出そうとした瞬間、足がもつれて転びかけた。
 限界だ。足のマメが潰れ、もう一歩も歩けそうにない。

「……チッ。面倒くせぇな」

 マークが舌打ちをした、その時だった。

 背後から、ガラガラという車輪の音と、馬の嘶きが聞こえてきた。

「おい、そこを退け! 邪魔だ!」

 振り返ると、豪奢な装飾が施された馬車が、砂煙を上げて迫ってきていた。

 御者台にはガラの悪い男たち。

 そして窓からは、見るからに裕福そうな太った商人が顔を出し、葉巻をふかしながらこちらを睨んでいる。

「チッ、薄汚い巡礼者か。貧乏人が道の真ん中を歩くんじゃねぇ! 轢き殺されてぇのか!」

 商人が怒鳴ると、御者たちがゲラゲラと下卑た笑い声を上げた。

 馬車の荷台には、鎖に繋がれた亜人デミ・ヒューマンたちが詰め込まれているのが見える。奴隷商だ。

「ひっ……! す、すみません!」

 リシアは慌てて道脇へ避けようとした。

 だが、マークは動かない。

 むしろ、道の真ん中に仁王立ちになり、興味深そうに馬車を見つめていた。

「……へぇ。 悪くねぇ造りをしてやがる」

「ちょっと、マーク様!? 轢かれますよ!」

「おい、デブ」

 マークは商人を指差し、ニヤリと笑った。

「その馬車、俺によこせ」

 一瞬、場が静まり返った。

 次の瞬間、商人の顔が真っ赤に染まる。

「な、なんだと貴様ァ!? 誰に向かって口を利いている!
 私は王都でも有数の豪商、バルバロス様だぞ! 衛兵! やれ! この無礼者を八つ裂きにしろ!」

 商人の命令で、護衛の傭兵たちが剣を抜いて馬車から飛び降りてきた。

 五、六人の屈強な男たち。リシアが悲鳴を上げる。

「ま、マーク様! 逃げましょう!」

「逃げる? なんでだ?」

 マークは心底不思議そうに首を傾げ、一番最初に斬りかかってきた傭兵の剣を――素手で掴んだ。

「――ッ!?」

「遅ぇ」

 バキッ!

 剣ごと傭兵の腕をへし折り、そのまま襟首を掴んで馬車の方へと投げ飛ばす。

 人間が飛んでくるとは思わなかった馬たちがパニックを起こし、馬車が大きく傾いた。

「ひぃっ!?」

「な、なんだコイツは!?」

 残りの傭兵たちが怯むが、マークは止まらない。

 あくびをするような軽い動作で、次々と男たちを殴り飛ばし、蹴り飛ばし、わずか数秒で全員を砂の上に這いつくばらせてしまった。

「ば、バケモノ……!」

「おい、降りろ」

 マークが商人の襟首を掴み、窓から引きずり出す。

 商人は地面に転がり、高そうな服が泥だらけになった。

「こ、金か!? 金ならやる! だから命だけは……!」

「いらねぇよ、そんな端金はしたがね。俺が欲しいのは足だ」

 マークはリシアの方を向き、顎で馬車をしゃくった。

「乗れ、リシア。これなら砂漠まで楽に行ける」

「ええっ……!?」

 リシアは、気絶している傭兵たちと、震え上がっている商人、そして強奪された馬車を交互に見た。

「マ、マーク様……こ……これって、良いんですかぁ~?」

 リシアは半泣きだった。

 聖女として、盗みは罪だ。

 しかも公衆の面前での強盗である。

「あぁ? 何が良いんだ?」

「だ、だって、泥棒じゃないですか!」

「泥棒?」

 マークは鼻で笑った。

 そして、荷台に積まれていた鎖を引きちぎり、捕らえられていた亜人たちを解放しながら言った。

「見ろ、こいつらを。人をモノ扱いして肥え太った豚だぞ?
 世界がこんなに荒廃してるってのに、自分だけ贅沢三昧とはな。
 ――こんな奴らに使われるにゃ、この馬車は勿体ねぇ!」

「え……」

「俺が有効活用してやるのが、この馬車にとっても、世界にとっても一番の『論理的解決』だ。
 テメェの足を休ませるためだ、感謝して乗れ」

 マークの言葉に、解放された亜人たちが涙を流して感謝し、一目散に逃げていく。

 商人は腰を抜かして失禁していた。

 確かに、結果だけ見れば「悪党を成敗し、奴隷を解放した」ことになる……のだろうか?

「うぅ……論理が滅茶苦茶です……」

 リシアはガックリと項垂れながらも、疲労には勝てず、恐る恐る馬車のふかふかなシートに座った。

 罪悪感はある。あるが……正直、めちゃくちゃ快適だった。
 
 快適な馬車の旅で、数時間の道のりはあっという間だった。

 宿場町の手前。

 街道から少し外れた荒れ地に、ぽつんと小さな石造りの祠があった。

「ここだ」

 マークは馬車を止め、祠の前で降りた。

 6000年の風雪に耐えたその石組みは、今にも崩れそうだ。

「ここに、『起動の指輪』が?」

「あぁ。俺が封印される直前、一番信頼できる結界魔法をかけて埋めた」

 マークは自信満々に祠の中に入り、祭壇の下を蹴り飛ばした。

 ガコン、と音がして隠し扉が開き、中から古びた金属製の小箱が出てくる。

「あったぞ。俺の魔力にしか反応しない特注品だ」

「す、すごいですマーク様! これがあれば、次の砂漠の遺跡も安全なんですね!」

「おうよ。あの殺人ゴーレムどもをペットみたいに侍らせてやるぜ」 

 マークはニヤリと笑い、小箱の留め金を外した。

 パカッ。

 蓋が開く。

「さぁ、6000年ぶりのご対面だ――」

 マークの言葉が止まった。

 リシアもまた、箱の中を覗き込み、絶句した。

 そこにあったのは、指輪ではなかった。

 指輪の形をしていたであろう、赤茶色の「粉」だった。

「…………は?」

 マークの間抜けな声が響く。

 乾燥と経年劣化、そして6000年という絶望的な時間の経過が、金属さえもむしばみ、土へと還していたのだ。

 風が吹き、箱の中の粉がサラサラと舞い上がって消えていく。

「……あ」

 リシアが小さな声を漏らす。

 マークは空になった箱を持ったまま、微動だにしない。

「……嘘、ですよね?」

「…………」

 沈黙。

 しかし、その静寂を破るように、リシアの背後から「ズズズ……」という、重たい岩石が擦れるような音が響いた。

 同時に、巨大な影がリシアをすっぽりと覆い隠す。

「え……?」

 リシアが恐る恐る振り返る。

 そこには、祠の岩壁と同化していたはずの岩塊が、人の形を成して立ち上がっていた。

 身長3メートル。全身が堅牢な岩でできた、自動防衛人形。
 その単眼モノアイが、不気味な赤い光を放ち、侵入者であるリシアを見下ろしている。

「あ、あ、あの……マーク様? 後ろに……」

「あぁ、そういえば忘れてた」

 マークは箱の塵をパンパンと払いながら、さも日常会話のように言った。

「ここにも、泥棒除けのゴーレムが一体配置済みだ」

 ギギギ、とゴーレムが拳を振り上げる。

 指輪を持たぬ者は、すべて排除対象だと言わんばかりに。

「いやぁぁぁぁぁッ!!」

 リシアの絶叫が、夕暮れの荒野に虚しく吸い込まれていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最弱スキル《リサイクル》で世界を覆す ~クラス追放された俺は仲間と共に成り上がる~

KABU.
ファンタジー
平凡な高校生・篠原蓮は、クラスメイトと共に突如異世界へ召喚される。 女神から与えられた使命は「魔王討伐」。 しかし、蓮に与えられたスキルは――《リサイクル》。 戦闘にも回復にも使えない「ゴミスキル」と嘲笑され、勇者候補であるクラスメイトから追放されてしまう。 だが《リサイクル》には、誰も知らない世界の理を覆す秘密が隠されていた……。 獣人、エルフ、精霊など異種族の仲間を集め、蓮は虐げられた者たちと共に逆襲を開始する。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。 王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。 なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。 自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。 11月14日にHOT男性向け1位になりました。 応援、ありがとうございます!

処理中です...