神亡き世界の破壊論 ~全盛期の力を失った男が、再び世界を蹂躙するまで~

戯言の遊び

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第一章 破壊神復活

第10話『偽りの神威と、原初の鉄拳』

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「グオオオオオオッ!!」

 将軍級ジェネラルゴーレムの咆哮が、遺跡の空気を震わせた。
 それは単なる大声ではない。音圧そのものが物理的な衝撃波となり、周囲の財宝を吹き飛ばし、壁に亀裂を走らせる。

「チッ、うるせぇな」

 マークは顔をしかめ、バックステップで距離を取った。
 その直後。
 ドォォォン!!
 マークが先ほどまで立っていた場所に、ゴーレムの右拳が突き刺さっていた。
 床石が爆散し、クレーターができる。
 ただの岩の塊ではない。『破壊の指輪』によって強化されたその一撃は、城壁をも粉砕する威力を秘めていた。

「逃ゲルカ……弱者ヨ」

 ゴーレムが赤い単眼モノアイを輝かせ、嘲笑うように拳を引き抜く。

「我コソガ……破壊神……。貴様ハ……要ラナイ……」

 ゴーレムは巨体に似合わぬ敏捷さで踏み込み、再び拳を振り上げた。
 速い。
 指輪の力は腕力だけでなく、身体能力そのものを底上げしているようだ。

「くっ……!」

 マークは腕をクロスさせ、防御の構えを取る。
 今の彼には魔力がない。防御障壁も張れない生身の体で、強化された岩の塊を受け止めるしかないのだ。

 ガギィィィンッ!!

 鈍い音が響き、マークの体が砲弾のように弾き飛ばされた。
 背後の柱に激突し、その柱をへし折ってようやく止まる。

「マーク様!!」

 リシアが悲鳴を上げた。
 マークは瓦礫の中からゆっくりと立ち上がったが、口の端からはツーっと血が流れていた。
 腕が痺れている。骨にヒビが入ったかもしれない。

「逃げてくださいマーク様! あれは人間が勝てる相手じゃありません!」

 リシアが駆け寄ろうとするが、マークは手で制した。

「来るな、リシア」

「でも!」

「……おい、ガラクタ」

 マークはリシアではなく、悠然と歩み寄ってくるゴーレムを睨みつけた。
 その瞳には、痛みへの苦悶ではなく、底知れぬ憤怒が渦巻いている。

「テメェ、その指輪を使っておきながら、その程度の出力しか出せねぇのか?」

「……何?」

「破壊ってのはな、ただ力任せに殴ることじゃねぇんだよ」

 マークは血を吐き捨て、ゆらりと構えを取った。

「一番脆い点に、最大の力を一点集中させる。それが破壊の美学だ。
 テメェの使い方は、宝の持ち腐れすぎて見てられねぇ」

「黙レ……!」

 ゴーレムが激昂した。
 創造主からのダメ出しに、プライドが傷ついたのだろう。
 ゴーレムは全力を込め、右拳を大きく振りかぶった。
 単純だが、それゆえに回避困難な最大の一撃。

「死ネェェェッ!!」

 風を切り裂く轟音と共に、死の鉄槌が迫る。
 リシアが顔を覆った。
 だが、マークは避けない。
 真正面から、その巨大な拳に向かって踏み込んだ。

「遅ぇよ」

 激突の瞬間。
 マークは身を低く沈め、ゴーレムの拳を紙一重でかわすと同時に、その懐へと潜り込んでいた。
 狙うは胴体ではない。
 振り下ろされた右腕、その指先だ。

「返せよ。それは俺のモンだ」

 バキィッ!!
 乾いた音が響いた。
 マークの拳が、ゴーレムの人差し指――指輪が嵌まっている関節の隙間を、正確無比に打ち抜いたのだ。
 いかに硬い岩の体でも、関節の接合部は脆い。
 指輪の魔力で強化されていようとも、構造上の弱点は消せない。

「グアァァァァッ!?」

 ゴーレムが絶叫する。
 砕け散った岩の指と共に、黄金の指輪が宙に舞った。
 スローモーションのように回転する指輪。
 マークはそれを空中で掴み取ると、着地と同時に自らの右手の人差し指に滑り込ませた。

 カチリ。
 指輪が主の指に収まる。
 瞬間。
 ドォンッ!!
 マークの足元から、爆発的な赤黒いオーラが噴き出した。

「……ふぅ。やっぱこれだな」

 枯渇していた身体能力が全盛期程ではないものの、跳ね上がっていく感覚を覚える。
 筋肉が軋み、細胞が歓喜の声を上げている。
 マークは手を握り、掌握運動を何度か試す。

「……全盛期には、まだ程遠いが……泥人形ポンコツ如きをぶっ壊すぐらいなら丁度良いぜ」

 マークはニヤリと笑い、右拳を構えた。
 赤黒い光が拳に収束し、周囲の空間が歪むほどの密度に達する。

「ア……アァ……」

 ゴーレムが後ずさった。
 本能が告げている。目の前の男は、さっきまでの「弱者」ではない。
 自分を作った、絶対的な「支配者」であると。

「さて、講義の続きだ」

 マークが地面を蹴った。
 視認不可能。
 リシアの目には、マークが消えたようにしか見えなかった。
 次の瞬間には、マークは既にゴーレムの目の前にいて、その拳をボディに叩き込んでいた。

「見本を見せてやる。これが『破壊デストロイ』だ」

 ――ズドンッ!!
 重苦しい音と共に、ゴーレムの背中から衝撃波が突き抜けた。

「……ガ、ハッ……」

 ゴーレムの動きが止まる。
 その巨体に、ピキピキと亀裂が走った。
 一撃。
 たった一撃で、核となる魔力炉を粉砕されたのだ。

「創造……主……」

 最期にそう呟き、ゴーレムの全身が内側から弾け飛んだ。
 バラバラになった岩石が雨のように降り注ぐ中、マークは指輪の埃を払いながら佇んでいた。

「サイズが少し緩くなってやがる。安物の泥人形で遊ばせやがって」

 マークは不満げに呟くが、その表情は晴れやかだった。
 リシアは呆然と、その圧倒的な勝利を見届けることしかできなかった。
 本当に、物理だけで解決してしまった。

「……どこまでも俺様ですね、あなたは」

 リシアがため息交じりにそう言った、その時だった。

 ゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 突如、遺跡全体が激しく揺れ始めた。
 天井からパラパラと砂が落ちてくる。いや、砂だけではない。巨大な瓦礫が落下し始めた。

「え?」
 リシアが空を見上げる。

 玉座の間の天井に、巨大な亀裂が走っている。
 先ほどのマークの一撃。
 その余波がゴーレムを貫通し、遺跡を支える大黒柱をも粉砕していたのだ。

「あ、あれ? ちょっと待ってください。これって……」

 リシアが顔を引きつらせる。
 マークは「あーあ」と他人事のように天井を見上げ、言った。

「やっぱ張り切りすぎたか。これだから土塊つちくれの建物は困る」

「困るじゃないですよ! 崩れますよ!?」

「おう、崩れるな。あと三十秒くらいで」

「三十秒!?」

 ズドォォン!!

 リシアのすぐ横に、岩塊が落下した。
 もう悠長に話している場合ではない。

 リシアが悲鳴を上げた瞬間、視界が反転した。

「……っえ!  ええぇー、マーク様!?」

 マークがリシアの胴体をひょいと抱え上げ、米俵のように小脇に抱えたのだ。

「うるせぇ! 脱出するぞ!」

「きゃあああああっ! 扱いが雑ですぅぅぅ!!」

 マークはリシアを抱えたまま、崩壊する遺跡の中を猛スピードで駆け出した。

 落ちてくる瓦礫を拳で砕き、塞がった道を蹴り破り、暴風のように突き進む。

 背後で、玉座の間が完全に崩落し、轟音と共に砂煙の中に消えていった。

 破壊神の復活。

 その第一歩は、自らの手による遺跡の破壊という、何とも彼らしい幕切れとなったのだった。
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