サムライ異世界に往く ~死に場所を求める最強の剣神、うっかり規格外の無自覚無双をしてしまう~

戯言の遊び

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第一章 サムライ、異世界へ

第3話:間に合わなかった命と、奇妙な耳飾り

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 先ほどの「動く大木トレント」を叩き斬ってから、どれほど歩いただろうか。
 木漏れ日すら落ちない暗い森の奥から、突如として人の悲鳴が響き渡った。

「ば……化物……トレント、どうして森のこんな浅い場所に群れで……ッ!」
「く……くるな!! ぐわあああぁぁぁぁ……ッ!」

 ただの悲鳴ではない。
 骨が砕け、肉が潰れる凄惨な音。

 千代女ちよめが音のした方角へ木々を抜けると、そこには凄惨な光景が広がっていた。
 先ほど千代女ちよめが「薪」にしたのと同じ、気味が悪いこぶを持つ大木――トレントが三体。

 それらが太い蔦を振り回し、武装したみすぼらしい男たちを容赦なく打ち据え、へし折っていたのだ。
 男たちの足元には鉄の首輪が転がり、彼らが「人を拐う奴隷商」であることは明白だったが、この世界に来たばかりの千代女ちよめがそんな事情を知るはずもない。

 そして男たちの背後には、薄汚れた布を纏い、ガタガタと震えながら座り込んでいる小柄な少女の姿があった。

「むむ……あれは襲われておるのかの?」

 千代女は顎に手を当て、小首を傾げた。
 侍たるもの、理不尽な暴力を見過ごすわけにはいかない。
 とはいえ、相手がただの野生の獣(?)であれば、自然の摂理に介入するのも無粋かとも思う。

 しかし、あの震えている小さな影が目に入った瞬間、彼女の身体はすでに動いていた。
 タァンッ!
 地を蹴る音が響いたかと思うと、千代女の姿が掻き消えた。
 三体のトレントが、新たな獲物である少女を潰そうと無数の蔦を振り下ろした、まさにその刹那。

「――シッ」

 短い呼気と共に、銀色の閃光が森の闇を三度、切り裂いた。
 ドスゥンッ! ズズズンッ……!!
 少女に届くはずだった蔦は宙で細切れになり、三体の巨大なトレントは、いずれも綺麗な斜め一文字に両断され、地響きを立てて崩れ落ちた。

 瞬殺である。

 葉擦れの音すら置き去りにする神速の剣。

「ふむ、三匹まとめても大した手応えはないな」

 血振るいすらせず、千代女ちよめはチャキリと『無銘』を鞘に収めた。
 そして、すでに息絶えて無残な姿となっている男たちを一瞥し、ふう、と短くため息をつく。

「すまん……間に合わんかったの」

 悪党が死んだとも知らず、千代女ちよめは助けられなかった命に対して申し訳なさそうに呟いた。
 そして、唯一無傷で生き残った少女へと向き直る。
 少女は、目の前で起きた現実が理解できず、腰を抜かしたままポカンと千代女ちよめを見上げていた。

 頭には、ピンと立った獣の耳。
 腰のあたりからは、怯えたように丸まった細長い尻尾が見える。
 彼女は、この異世界において希少とされる『猫獣人ワーキャット』であった。

「あ……あ、ありがとうございます……」

 少女は震える声で、目の前の美しい剣士に向かって頭を下げた。
 奴隷商から自分を救ってくれた恩人。
 どれほど強い魔法使いか、高名な騎士様だろうか。
 そんなふうに畏怖の念を抱く少女に対し、千代女は屈託のない笑みを浮かべて近づき、こう言った。

「いやいや、礼には及ばん。……しかし、変な耳飾りをしとるの? お主」
「……え?」

 千代女は、本物の猫耳をじっと見つめながら、不思議そうに首を傾げていた。
 日ノ本には獣人など存在しない。彼女にとってそれは、「ちょっと変わった装飾品」にしか見えていなかったのである。



ここからさらに彼女の勘違いと無双が加速していきます!
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