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第一章 サムライ、異世界へ
第4話:猫獣人のミアと、相容れぬ種族
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「……え? みみかざり……?」
千代女の突拍子もない言葉に、少女は目を丸くした。
自分の頭頂部に生えている二つの耳を両手で包み込むように押さえ、戸惑ったように千代女を見上げる。
「あの、これ、本物です。私、猫獣人ですから……」
「ほう、本物。……獣と人が混じった一族とな。日ノ本には天狗や狐の妖がおるが、それに近いものか」
千代女は興味深そうに少女に近づくと、遠慮なくそのふさふさとした猫耳を指でふにふにと摘まんだ。
「ひゃんっ!?」
「ふむ、柔らかい。作り物ではないようだな。……して、童、名は何と申す」
ビクンと肩を揺らした少女は、耳を真っ赤にしながらも、恐る恐る口を開いた。
「ミ、ミアです。今年で十二になります」
「ミアか。某は千代女。しがない侍だ」
千代女は周囲の凄惨な状況――トレントの残骸と、へし折られた男たちの死体――を見渡し、首を傾げた。
「しかしミアよ、お主、なぜあのようなむさ苦しい男たちと一緒にいたのだ? 身なりからして、親族ではあるまい」
「あの人たちは……奴隷商です。私、集落のすぐ外に薬草を摘みに出た時に、運悪くあの人たちに見つかって、捕まってしまって……」
ミアの視線が、男たちの足元に転がっている鉄の首輪へと落ちる。
恐怖を思い出したのか、彼女の細長い尻尾が怯えたように足に巻き付いた。
「……なるほど、人攫いであったか」
千代女の瞳から、スッと感情が消えた。
先ほどまでは「間に合わなかった」と少しばかりの哀れみを感じていた死体だが、事情が分かれば話は別だ。
「ならば、あの大木どもに潰されたのも自業自得、天罰というやつだな。斬る手間が省けたというものだ」
「えっ……」
悪党の死に対して微塵も同情を見せない千代女の冷徹な側面に、ミアは思わず息を呑む。
だが、千代女はすぐにいつもの飄々とした態度に戻り、ミアに手を差し伸べた。
「立てるか、ミア。よければ、お主の集落とやらまで送り届けよう。こんな化物ばかりの森を、十二の童が独りで歩くものではない」
「お、送ってくれるんですか……? でも……」
ミアは千代女の手を取ろうとして、ハッと躊躇い、手を引っ込めてしまった。
その顔には、深い葛藤と恐れが浮かんでいる。
「千代女お姉ちゃんは、人間……ですよね?」
「いかにも」
「ダメです! 人間の大人が私たちの集落に近づいたら、殺されてしまいます!」
ミアの悲痛な叫びに、千代女は目を瞬かせた。
現在、この大陸において人間と獣人は激しく対立している。人間は獣人を「野蛮な亜人」「絶好の奴隷の弾」と見下し、獣人は人間を「森を荒らす卑劣な侵略者」として憎悪していた。
ましてやミアは、猫獣人族の『族長の娘』なのだ。
彼女を連れた人間の剣士など、集落の戦士たちからすれば「娘を人質に取った卑劣漢」にしか見えないだろう。
「私たちは、人間とは相容れないんです……。だから、せっかく助けてもらったのに、千代女お姉ちゃんまで危険な目に遭わせるわけには……」
ポロポロと涙をこぼし始めるミア。
種族の壁という、深く重い事情。
普通の人間であれば、ここで面倒を避けて立ち去るか、森の出口まで案内して別れるのが定石だろう。
しかし、千代女の考えは、異世界の常識とは根本から違っていた。
「……はて?」
千代女はきょとんとした顔で、ミアの頭をポンと撫でた。
「なぜ某が殺される前提なのだ?」
「え……? だ、だから、獣人の戦士は人間を憎んでいて……」
「なんの。もしお主の同胞が某に刃を向けるというのなら、それはそれで構わん」
千代女の唇が、三日月のように弧を描く。
その瞳の奥には、死に場所と強敵を求める『剣神』としての昏い歓喜が、チロリと燃え上がっていた。
「骨のある強者がおるのなら、立ち合いを所望するまで。某は一向に構わんぞ?」
「えええええ……!?」
怯えるミアの手を強引に引き、千代女は意気揚々と歩き出す。
人間と獣人の深い確執など、剣の道に生きる狂人にとっては、知ったことではなかった。
ここからさらに彼女の勘違いと無双が加速していきます!
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千代女の突拍子もない言葉に、少女は目を丸くした。
自分の頭頂部に生えている二つの耳を両手で包み込むように押さえ、戸惑ったように千代女を見上げる。
「あの、これ、本物です。私、猫獣人ですから……」
「ほう、本物。……獣と人が混じった一族とな。日ノ本には天狗や狐の妖がおるが、それに近いものか」
千代女は興味深そうに少女に近づくと、遠慮なくそのふさふさとした猫耳を指でふにふにと摘まんだ。
「ひゃんっ!?」
「ふむ、柔らかい。作り物ではないようだな。……して、童、名は何と申す」
ビクンと肩を揺らした少女は、耳を真っ赤にしながらも、恐る恐る口を開いた。
「ミ、ミアです。今年で十二になります」
「ミアか。某は千代女。しがない侍だ」
千代女は周囲の凄惨な状況――トレントの残骸と、へし折られた男たちの死体――を見渡し、首を傾げた。
「しかしミアよ、お主、なぜあのようなむさ苦しい男たちと一緒にいたのだ? 身なりからして、親族ではあるまい」
「あの人たちは……奴隷商です。私、集落のすぐ外に薬草を摘みに出た時に、運悪くあの人たちに見つかって、捕まってしまって……」
ミアの視線が、男たちの足元に転がっている鉄の首輪へと落ちる。
恐怖を思い出したのか、彼女の細長い尻尾が怯えたように足に巻き付いた。
「……なるほど、人攫いであったか」
千代女の瞳から、スッと感情が消えた。
先ほどまでは「間に合わなかった」と少しばかりの哀れみを感じていた死体だが、事情が分かれば話は別だ。
「ならば、あの大木どもに潰されたのも自業自得、天罰というやつだな。斬る手間が省けたというものだ」
「えっ……」
悪党の死に対して微塵も同情を見せない千代女の冷徹な側面に、ミアは思わず息を呑む。
だが、千代女はすぐにいつもの飄々とした態度に戻り、ミアに手を差し伸べた。
「立てるか、ミア。よければ、お主の集落とやらまで送り届けよう。こんな化物ばかりの森を、十二の童が独りで歩くものではない」
「お、送ってくれるんですか……? でも……」
ミアは千代女の手を取ろうとして、ハッと躊躇い、手を引っ込めてしまった。
その顔には、深い葛藤と恐れが浮かんでいる。
「千代女お姉ちゃんは、人間……ですよね?」
「いかにも」
「ダメです! 人間の大人が私たちの集落に近づいたら、殺されてしまいます!」
ミアの悲痛な叫びに、千代女は目を瞬かせた。
現在、この大陸において人間と獣人は激しく対立している。人間は獣人を「野蛮な亜人」「絶好の奴隷の弾」と見下し、獣人は人間を「森を荒らす卑劣な侵略者」として憎悪していた。
ましてやミアは、猫獣人族の『族長の娘』なのだ。
彼女を連れた人間の剣士など、集落の戦士たちからすれば「娘を人質に取った卑劣漢」にしか見えないだろう。
「私たちは、人間とは相容れないんです……。だから、せっかく助けてもらったのに、千代女お姉ちゃんまで危険な目に遭わせるわけには……」
ポロポロと涙をこぼし始めるミア。
種族の壁という、深く重い事情。
普通の人間であれば、ここで面倒を避けて立ち去るか、森の出口まで案内して別れるのが定石だろう。
しかし、千代女の考えは、異世界の常識とは根本から違っていた。
「……はて?」
千代女はきょとんとした顔で、ミアの頭をポンと撫でた。
「なぜ某が殺される前提なのだ?」
「え……? だ、だから、獣人の戦士は人間を憎んでいて……」
「なんの。もしお主の同胞が某に刃を向けるというのなら、それはそれで構わん」
千代女の唇が、三日月のように弧を描く。
その瞳の奥には、死に場所と強敵を求める『剣神』としての昏い歓喜が、チロリと燃え上がっていた。
「骨のある強者がおるのなら、立ち合いを所望するまで。某は一向に構わんぞ?」
「えええええ……!?」
怯えるミアの手を強引に引き、千代女は意気揚々と歩き出す。
人間と獣人の深い確執など、剣の道に生きる狂人にとっては、知ったことではなかった。
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