どんなルートでも必ずざまぁされる悪役令息(?)を幸せなルートに導きたいプレイヤーの俺の話

さひこ

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こんなのクソゲー

コマンド▶諦める?

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ハルディオたんに俺が出会ってから、1カ月が経とうとしていた。
最初は近況報告を聞いていた女子たちも、今では諦めがついたのか、俺に『虹と薔薇の下で』の話を出そうとはしなくなった。
単純に「飽きた」のかもしれないが、俺の纏う雰囲気が怖かったのかもしれない。
俺は昨日、ようやくハルディオたんが幸せではなくとも、バッドエンドとまでは言えないルートを探り当てた。
それは、このヌルゲーにしては珍しい、主人公のバッドエンドだった。やり方は意外にも簡単で、主人公と攻略者のフラグが立ったところで、他の攻略者にフラグを立ていき、それを何度か繰り返す。
そう、俗にいうハーレムエンドを狙ったものだった。
今までも何度か試したことがある。しかしこのゲームは主人公にとことん甘い仕様らしく、そういう場合は次第に友情ルートへ切り替わっていた。
それが、何のトリガーを引いたのかはわからないが、昨日はハーレムエンドを狙ったせいなのか、「浮気者」とい攻略対象者たちの罵声を浴びつつ、(その点は主人公よ、許せ)学園を去ることになったのだ。
行きつく先は、修道院で修道士になることだった。

まあ、そこまではいい。主人公は清く正しく、修道士になることを受け入れ、そこにいる仲間たちと慎ましく清廉に生きるというしめくくりだった。

が、一方ハルディオたんはというと、なぜか男ばかりの収容所に入れられ、あろうことか囚人たちの慰み者になってしまったのだ!!
本来主人公であるアクアが担うはずだった、R18要素を一遍に引き受けてしまったのである。
俺は画面の前で愕然とし、ハルディオたんのあられもない姿に興奮してしまった。
そんなことあってはならないのに!!

俺は泣き崩れながら朝を迎えた。もちろん一睡もしていない。
ハルディオたんのあられもない姿に興奮してしまった俺のブツは、朝の生理現象だと思い込みながら抜いた。
しかし解せない。

なんで、主人公のつけを清算するかのように、ハルディオたんが不幸になるんだよ!!

そしてそのまま大学に来て、講義を受け、今怒り心頭の現状なのである。

スマホで見まいと思っていた攻略サイトを見て、どこにもハルディオたんの凌辱のルートが載っていないことを確認して、少しだけホッとする。
あんなものは誰にも見られたくないというか見せたくない。
ハルディオたんで抜いてしまった俺が言うのもなんだが、俺のハルディオたんをこれ以上穢されたくはない。

ん?俺の??

いや、確かにハルディオたんは天使のようにかわいいが、どう考えても二次元。
俺は二次と三次をごっちゃにするタイプの人間ではないはずなのに、これじゃあ、まるで嫁扱いではないか。
俺のオタク度はついにここまで来てしまったのか?
歴代の漫画やゲームを思い浮かべる。…うん、やはり違う。
好きなキャラはもちろんいるが、俺の嫁とまでは思ったことがなかった。
…大丈夫か、俺?昨日の徹夜で頭がバグったか?

とりあえず、部室にいても何も手につかないだろうと思った俺は、家に帰ることにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺は今日も今日とて、ゲームをしていた。
だが、昨日の徹夜で頭が回らなくなってしまった俺には新たな攻略法など見つけれるはずもない。

けれど、その日はなぜか違った。いや、正確に言えば昨日からなのだろうか?
ゲームの画面に出てきたのはいつも婚約者の機嫌をうかがうように後ろに下がっていたハルディオたんだった。

「!!」

これは百合ルートの開放なのか?!
ハルディオたんを幸せにできるのは、アクア!お前だったのか!!
俺は喜び勇んでコントローラーを握った。

「貴方のお名前は何ですか?」
ゲーム画面にその言葉が表示される。
俺はすぐに「アクア」と入力した。
すると、画面の前の彼はやや寂しそうな表情を浮かべ、
「「アクア」君ですね!どうぞよろしくお願いします。僕の名前は「ハルディオ・メルリージュ」と言います。仲良くしてくれると嬉しいです。」
と、にこやかに答えた。

それから先は本当に楽しかった。俺は寝るのを忘れ、ハルディオたんとの学園生活を楽しんだ。

だが、楽しい日々はあっという間に過ぎるもので、学園を卒業する22歳の春…それは急にやってきた。


「ハルディオ・メルリージュを私の婚約者から解消し、新しくアクアを私の婚約者にする!!」

そして、いわれのない罪状がつらつらと読み上げられる。そして最後には、
「お前はこの国の王太子たる私の婚約者でありながら、他の男にうつつを抜かしていたそうじゃないか?これは完全なる国家への反逆だ!!よって、鉱山送りとし、公子の身分もはく奪する!!」
最悪なことに、今迄のバッドエンドをごっちゃにした内容を突き付けられていた。

いや、なんだよ国家反逆って。それにハルディオたんがうつつを抜かしていた男って、お前が婚約者に新しく指名したアクアだよ!!
それに俺たちは何というわけでもなく、普通に学園生活を送っていた。俺は昨日の反省から適切な距離を保ち、ハルディオたんと友情を築いていた。…それがいけなかったのか?

画面の中で黙って捕らえられるハルディオたん…。え~い、コラ、何やってんだよアクア!!何ぼさっとしてんだ!助けろよ!!動けよ!!お前の友達が、謂れなき罪で捕まったんだぞ!!
俺はコントローラーをとにかく押しまくった。隠しコマンドはないか探しまくった。だが、それもむなしく。

「さよなら。「アクア」君…。」

その言葉を残し、ハルディオたんは卒業パーティが行われていた会場から姿を消した。



なんだ、このクソゲーは!!!



エンディングロールが流れ、王子とアクアが仲睦まじそうに描かれた背景が移る。そしてその最後のテロップが流れ終わった後、絵は王子とアクアの2人の結婚式で止まった。

俺はコントローラーを投げかけた。
だが。


最後に、アクアが出てきて、コマンドが現れた。

『▶諦める?
  助ける?」

俺は吃驚した。
喉はからからに乾き、それでも唾を飲みこもうと嚥下する。

画面の中には悲しそうなアクアの顔が映っていた。

…そうか、アクア。お前も…。

俺は、コントローラーを握りしめ、コマンド選択をした。






▶助ける
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