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護送車
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「アースキン、移送だ。服装を整えて壁に頭と手を付け。」看守が冷たく言い放った。
「移送って、どこへ。」アースキンは開け放っていた上着のチャックを閉めながら尋ねた。
「伝える義務はない。黙って壁に手を付け。」
アースキンは看守の命令に不満そうに従った。
一人と思っていたが、ドアの向こうにもう一人いたようだ。
看守たちは何も言わずにアースキンの腰に太くて重いベルトを締め上げた。パチンとカギが閉じる音がした。ベルトの前には金具で手錠が取り付けられていた。
「ううっ。ちょっと苦しい。」アースキンは言った。
「ふん。お喋りの罰だ。とっても長い旅になるだろうな。」
「本当に苦しいです。少しだけでも緩めてください。」アースキンは振り返りながら言った。
「アースキン、頭を壁につけろ。」
看守はアースキンの腕を掴んで手錠をつけた。アースキンの視線の先は屈辱的な手錠に向けられていた。
足にも足枷が付けられた。
「こっちを向け。」アースキンは慣れない拘束に戸惑いながら看守の方を向いた。
看守はアースキンの手に硬芯材が入った筒状のミトンを付けた。
アースキンは自分の惨めな格好と悪夢のような現実に直面して胸の辺りが締め付けられるような感じがした。
「じっとしてろ」看守は布でできた大きな名札をアースキンの左胸に貼り付けた
顔写真と罪状とバーコードがついていた。
「ああっ、この服高いのに…」
「黙れ。」
「こんなに厳重に拘束する必要ありますか。」
「そういう決まりだ。」看守はそういうと、アースキンに取り付けられた拘束具の点検を始めた。
「拘束具に異常なし。移送開始」
看守はアースキンの腕を掴んで連れ出した。複数の靴音と拘束具の鎖の耳障りな音が廊下に響き渡った。足枷の鎖は短く歩きにくかった。急かされている気がしてつい急ごうと足取りを早めた。
「アースキン、急がなくていいぞ。」看守の急な優しさに戸惑いながら足を出す速度を緩めた。
後ろの方から別の鎖の足音が聞こえてきた。すすり泣きをしているようだ。
「準備が整うまでここで待機だ。」
今までの独房二つ分ほどの部屋に拘束されたまま1人の看守と共に閉じ込められた。
「いつ出発だ?」
「全員がそろってからだ」
「全員って?」
「教えられない。」
「お願いがあるんです」
「何だ」
「腰のベルトを少し緩めて欲しいんです。」
「すまない。それはできない。拘束に異常はない。」
看守の返事を聞いてアースキンは黙った。
皮や金属など丈夫な素材で作られた拘束具はすでに蒸れて不快感を伴っていた。
アースキンは不快感から逃れようと、拘束具をそっといじった。
「アースキン、何をしてる。逃亡企図と疑われることをするな。」
しばらくすると、他の囚人が連れられてきた。人生の終わりを悟ったかのような表情の表情であった。彼は下を向いたまま、石像のように動かなかった。彼の名札には「殺人」と書かれているようだった。
もう1人きたが引きずられるように歩かされ、啜り泣いていた。拘束具のため涙や鼻水を拭うこともできず、仕立ての良さそうなスーツはジュクジュクに濡れていた。
「外してくれ…何もしないから」彼は何度もそう言っていた。
3人が閉じ込められて数分後、ドアが再び開いた。
「囚人起立。」拘束具のため、うまく立てない囚人を付き添いの看守が補助した。
入ってきた看守は、囚人たちの名札のバーコードをスキャンした。
「アースキン…クラーク……マーストン…本人確認完了。」
「移送準備完了。移送を開始する。」
チャリチャリと不快な音を立てながらアースキンたちは長くない道のりを歩いた。
マーストンはまだ啜り泣いていた。
座席に座らせられると、シートベルトを付けられた。チャイルドシートのようなベルトで股から通された挙句、鍵をかけられ自分では外せない仕様であった。
合図を受け、車が出発した。
「鍵なんて、厳重すぎませんか?そもそも手は使えないようにされてるし。」アースキンは言った。
石像のようなクラークがアースキンの皮肉に笑った。
「お前の口にも鍵をつけてやりたい。」看守はめんどくさそうに言った。
「結局俺たちはどこに連れて行かれるんだ?」
「ブリック重犯罪者矯正センターだ。殺人など凶悪犯用に作られた。建物は新しくて綺麗だ。」
「どこだよ。」
「島だ。最後は船だ。4時間の旅だ。マーストン、4時間のうちに涙はからしとけ、標的にされるぞ。」
「クソ遠いな」
「ああ、付き添わされる俺たちの気持ちも考えてくれ。」
「何人もお付きのものがいて清々しいよ」
「重犯罪者1人につき付き添い1人だってさ…そして若い俺が囚人と同席。先輩は運転と助手席。」
「ジョンソン、囚人にベラベラ話すな。情が湧くぞ。」
「はい。すみません。」
囚人たちはしばらく静かにしていた。
1時間も経たないうちに、看守が飴を食べ始めた。看守は小声で囚人たちに「食べるか?」と聞いた。
囚人たちは頷いた。看守は、自分が食べるふりや拘束具を確認するそぶりをしながら、囚人たちの口に飴玉を入れた。
「水を飲みたいんですが。暑すぎて」クラークが言った。
「休憩は1時間後だ。飲水も喫食も用便もだ。クラーク、我慢できるか?」
「はい。なんとか。」
「お尻が痛い。」マーストンが言った。
「みんな尻と腰が痛いっていうな。我慢しろ。これも罰だろ。」
「それに拘束具が蒸れてかゆい」クラークが言った。
「お前に殺された被害者の苦痛よりましだ。」
「腰のベルトが痛いんです。」アースキンが言った。
「みんないい加減にしろ。何もできない。規則だ。」看守は半ギレになりながら言った。護送車の大きなエンジン音に負けない怒声だったため、前列の看守にも聞こえてしまった。
「何の騒ぎだ?」小窓が開き、声がした。
「こいつらがあまりにもうるさくて」
「いちいち反応するな。無視しろ」
それから1時間苦しい沈黙に耐えなければならなかった。
きつく締め上げられたベルトによって腰は圧迫と擦れから靴づれをした時の様な痛みを感じた。手首も足首も擦れた痛みがあるが、触って労わることすら出来なかった。
筒に入れられて手は手汗で濡れていような不快感を放っていた。ほかの囚人も同じ用に考えているのだろう。すこしでも不快感から逃れようと拘束具された手足をしきりに動かしていた。
車は減速して右に曲がった。
「もうすぐ港だ。」と看守が言った。
車が止まると、看守達は囚人3人を鎖で繋いだ。鎖は大きな錠前で繋がれて、ますます惨めさが増した格好になってしまった。マーストンは何も言わずおとなしく猫背になっていた。彼の目には涙が浮かんでいるようだ。
「マーストン、まだ泣いているのか?男だろ?」と看守はマーストンの肩を叩いた。
鎖は重く気も重く感じられた。
「そこまでしなくても、もう逃げられませんよ。」
「アースキン、口を慎め。」
「はい、すみませんでした」アースキンはうわべだけの謝罪をした。
看守は囚人達の胸に貼り付けられたバーコードを機械で読み取った。宅配便の荷物のような扱いである。
「これから船に乗る。1時間後に出発する。船の中で昼飯だ。」1番偉そうな看守が言った。
囚人達はゾロゾロと車を降りた。歩きにくい手足の拘束に加え、鎖で他人と繋がれてますます歩きにくい。
「あそこまであるくんですか。」乗船ターミナルまで距離がある上に、人通りが多かった。
「ああそうだ。」
「一般市民もいるのに車を横付けすればよかったのに」
「看守に指図するな。それとな、横付けするなと一般市民からの意見だ。」
「もうすでにじろじろ見られてるぞ…」マーストンはボソボソと言った。
「マーストン、しゃんとしろ。違う動きをするな。」
マーストンはため息をついて姿勢を正した。
鎖に繋がれジャラジャラガチャガチャとうるさい集団は注目を集めた。
「ママー、あの人たち……」
「しっ!」
「変だよー!ねえ!ママ!」
表情1つ変えないクラークが子供を睨んだ。
「あのクソガキ……」クラークがつぶやいた。
「移送って、どこへ。」アースキンは開け放っていた上着のチャックを閉めながら尋ねた。
「伝える義務はない。黙って壁に手を付け。」
アースキンは看守の命令に不満そうに従った。
一人と思っていたが、ドアの向こうにもう一人いたようだ。
看守たちは何も言わずにアースキンの腰に太くて重いベルトを締め上げた。パチンとカギが閉じる音がした。ベルトの前には金具で手錠が取り付けられていた。
「ううっ。ちょっと苦しい。」アースキンは言った。
「ふん。お喋りの罰だ。とっても長い旅になるだろうな。」
「本当に苦しいです。少しだけでも緩めてください。」アースキンは振り返りながら言った。
「アースキン、頭を壁につけろ。」
看守はアースキンの腕を掴んで手錠をつけた。アースキンの視線の先は屈辱的な手錠に向けられていた。
足にも足枷が付けられた。
「こっちを向け。」アースキンは慣れない拘束に戸惑いながら看守の方を向いた。
看守はアースキンの手に硬芯材が入った筒状のミトンを付けた。
アースキンは自分の惨めな格好と悪夢のような現実に直面して胸の辺りが締め付けられるような感じがした。
「じっとしてろ」看守は布でできた大きな名札をアースキンの左胸に貼り付けた
顔写真と罪状とバーコードがついていた。
「ああっ、この服高いのに…」
「黙れ。」
「こんなに厳重に拘束する必要ありますか。」
「そういう決まりだ。」看守はそういうと、アースキンに取り付けられた拘束具の点検を始めた。
「拘束具に異常なし。移送開始」
看守はアースキンの腕を掴んで連れ出した。複数の靴音と拘束具の鎖の耳障りな音が廊下に響き渡った。足枷の鎖は短く歩きにくかった。急かされている気がしてつい急ごうと足取りを早めた。
「アースキン、急がなくていいぞ。」看守の急な優しさに戸惑いながら足を出す速度を緩めた。
後ろの方から別の鎖の足音が聞こえてきた。すすり泣きをしているようだ。
「準備が整うまでここで待機だ。」
今までの独房二つ分ほどの部屋に拘束されたまま1人の看守と共に閉じ込められた。
「いつ出発だ?」
「全員がそろってからだ」
「全員って?」
「教えられない。」
「お願いがあるんです」
「何だ」
「腰のベルトを少し緩めて欲しいんです。」
「すまない。それはできない。拘束に異常はない。」
看守の返事を聞いてアースキンは黙った。
皮や金属など丈夫な素材で作られた拘束具はすでに蒸れて不快感を伴っていた。
アースキンは不快感から逃れようと、拘束具をそっといじった。
「アースキン、何をしてる。逃亡企図と疑われることをするな。」
しばらくすると、他の囚人が連れられてきた。人生の終わりを悟ったかのような表情の表情であった。彼は下を向いたまま、石像のように動かなかった。彼の名札には「殺人」と書かれているようだった。
もう1人きたが引きずられるように歩かされ、啜り泣いていた。拘束具のため涙や鼻水を拭うこともできず、仕立ての良さそうなスーツはジュクジュクに濡れていた。
「外してくれ…何もしないから」彼は何度もそう言っていた。
3人が閉じ込められて数分後、ドアが再び開いた。
「囚人起立。」拘束具のため、うまく立てない囚人を付き添いの看守が補助した。
入ってきた看守は、囚人たちの名札のバーコードをスキャンした。
「アースキン…クラーク……マーストン…本人確認完了。」
「移送準備完了。移送を開始する。」
チャリチャリと不快な音を立てながらアースキンたちは長くない道のりを歩いた。
マーストンはまだ啜り泣いていた。
座席に座らせられると、シートベルトを付けられた。チャイルドシートのようなベルトで股から通された挙句、鍵をかけられ自分では外せない仕様であった。
合図を受け、車が出発した。
「鍵なんて、厳重すぎませんか?そもそも手は使えないようにされてるし。」アースキンは言った。
石像のようなクラークがアースキンの皮肉に笑った。
「お前の口にも鍵をつけてやりたい。」看守はめんどくさそうに言った。
「結局俺たちはどこに連れて行かれるんだ?」
「ブリック重犯罪者矯正センターだ。殺人など凶悪犯用に作られた。建物は新しくて綺麗だ。」
「どこだよ。」
「島だ。最後は船だ。4時間の旅だ。マーストン、4時間のうちに涙はからしとけ、標的にされるぞ。」
「クソ遠いな」
「ああ、付き添わされる俺たちの気持ちも考えてくれ。」
「何人もお付きのものがいて清々しいよ」
「重犯罪者1人につき付き添い1人だってさ…そして若い俺が囚人と同席。先輩は運転と助手席。」
「ジョンソン、囚人にベラベラ話すな。情が湧くぞ。」
「はい。すみません。」
囚人たちはしばらく静かにしていた。
1時間も経たないうちに、看守が飴を食べ始めた。看守は小声で囚人たちに「食べるか?」と聞いた。
囚人たちは頷いた。看守は、自分が食べるふりや拘束具を確認するそぶりをしながら、囚人たちの口に飴玉を入れた。
「水を飲みたいんですが。暑すぎて」クラークが言った。
「休憩は1時間後だ。飲水も喫食も用便もだ。クラーク、我慢できるか?」
「はい。なんとか。」
「お尻が痛い。」マーストンが言った。
「みんな尻と腰が痛いっていうな。我慢しろ。これも罰だろ。」
「それに拘束具が蒸れてかゆい」クラークが言った。
「お前に殺された被害者の苦痛よりましだ。」
「腰のベルトが痛いんです。」アースキンが言った。
「みんないい加減にしろ。何もできない。規則だ。」看守は半ギレになりながら言った。護送車の大きなエンジン音に負けない怒声だったため、前列の看守にも聞こえてしまった。
「何の騒ぎだ?」小窓が開き、声がした。
「こいつらがあまりにもうるさくて」
「いちいち反応するな。無視しろ」
それから1時間苦しい沈黙に耐えなければならなかった。
きつく締め上げられたベルトによって腰は圧迫と擦れから靴づれをした時の様な痛みを感じた。手首も足首も擦れた痛みがあるが、触って労わることすら出来なかった。
筒に入れられて手は手汗で濡れていような不快感を放っていた。ほかの囚人も同じ用に考えているのだろう。すこしでも不快感から逃れようと拘束具された手足をしきりに動かしていた。
車は減速して右に曲がった。
「もうすぐ港だ。」と看守が言った。
車が止まると、看守達は囚人3人を鎖で繋いだ。鎖は大きな錠前で繋がれて、ますます惨めさが増した格好になってしまった。マーストンは何も言わずおとなしく猫背になっていた。彼の目には涙が浮かんでいるようだ。
「マーストン、まだ泣いているのか?男だろ?」と看守はマーストンの肩を叩いた。
鎖は重く気も重く感じられた。
「そこまでしなくても、もう逃げられませんよ。」
「アースキン、口を慎め。」
「はい、すみませんでした」アースキンはうわべだけの謝罪をした。
看守は囚人達の胸に貼り付けられたバーコードを機械で読み取った。宅配便の荷物のような扱いである。
「これから船に乗る。1時間後に出発する。船の中で昼飯だ。」1番偉そうな看守が言った。
囚人達はゾロゾロと車を降りた。歩きにくい手足の拘束に加え、鎖で他人と繋がれてますます歩きにくい。
「あそこまであるくんですか。」乗船ターミナルまで距離がある上に、人通りが多かった。
「ああそうだ。」
「一般市民もいるのに車を横付けすればよかったのに」
「看守に指図するな。それとな、横付けするなと一般市民からの意見だ。」
「もうすでにじろじろ見られてるぞ…」マーストンはボソボソと言った。
「マーストン、しゃんとしろ。違う動きをするな。」
マーストンはため息をついて姿勢を正した。
鎖に繋がれジャラジャラガチャガチャとうるさい集団は注目を集めた。
「ママー、あの人たち……」
「しっ!」
「変だよー!ねえ!ママ!」
表情1つ変えないクラークが子供を睨んだ。
「あのクソガキ……」クラークがつぶやいた。
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