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10.梢になったこずえ(2)
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もし、空を飛べたら、これよりも気持ちいいんだろうと、こずえは前に乗るスズのお腹に、ガッチリと腕を回しながら思った。
今、『大阪 龍斬院』のレディース、スズのオートバイ──バイク──で、ニケツ──二人乗り──をしている。
顔面に、ダイレクトにぶつかってくる夜の冷えた風は、これを浴びるためだけに、オートバイの免許を取る価値があるんじゃないかと感じるぐらい、ゾクゾクした。
「今からどこ行くん?」
こずえは、スズに尋ねた。
「なんて? 聞こえんかった!」
どうやら、周りを走る車の音や、こずえたちレディースの乗るバイクのマフラー音で、真ん前にいるスズにすら、声が届かなかったようだ。
だからこずえは、お腹に力を入れて、怒鳴っているかのような大きな声で、もう一度尋ねた。
「今から、どこ行くん!?」
「今から、集会や!!」
(集会? ・・・・・・そう言えば、梢が、近いうちにあるって言っとったわ。なんでも、OG──old girlの略。つまり『大阪 龍斬院』を引退した先輩──が来て、現在のメンバーの気合いを確かめる、とかいう全く想像がつかんことをするらしい。)
こずえは気乗りしなかったが、断れそうもなかったので、そのまま大人しくオートバイに乗っていた。
しばらくすると、大きな広場に到着した。そこで聞こえる虫たちの綺麗な鳴き声は、オートバイのマフラー音よりも、大きな音をしていた。
『大阪 龍斬院』のレディースたちは、オートバイから降りて、OGが来るのを、地べたに尻もちを着いて待っていた。
地面に敷き詰められていたタイルが、とても冷たい。さらに、そこには街灯が無く、月の光だけなので、ほぼ何も見えない。ただ、うっすらと噴水のようなものがあるのは見えた。
広場の外にある、マンションや飲食店の黄色い明かりが、普段よりチカチカと眩しく感じる。
その広場で待つこと数分、一台の車がやってきた。
その車から、三人降りてきた。みんな女性で、肩パッドが入ったレディーススーツを着て、膝下まであるスカートを履いているのが特徴的。
すると、一緒に座っていた『大阪 龍斬院』のレディースたちは、バッと立ち上がった。
それを見たこずえは、みんなに合わせるように、慌てて立ち上がった。
すると、隣にいたスズに肘で小突かれた。
「やっぱり、先代たちはカッコええな!」と、スズが小さな声で言った。
「・・・・・・う、うん。そうやな。」
こずえは、目を疑った。
(あれが先代!? 周りに居るコたちの、触れれば切り裂かれてしまうような恐怖感は全くない。ていうか普通のOLさんにしか見えんわ。)
キチッと、横一列に列を作って立っているこずえたちの前に、その三人はやって来た。
すると、こずえたちの列の一番端にいるレディースが一歩前に出た。
「先代方、お忙しい中ありがとうございます! 今から、『大阪 龍斬院』の定期集会を始めます! よろしくお願いします!!」と言って、その三人に頭を下げた。
それに追従して、他のレディースたちも、「よろしくお願いします!!」と、言って頭を下げる。
こずえは、初めての事だったので、訳が分からず、みんなより少し遅れてから、頭を下げた。
すると、三人のうちの一人が、こずえの方にゆっくりと近づいてきた。
──突然、全身に鳥肌が立った。その訳もすぐにわかった。
そのOGは、髪にパーマをかけていて、唇にたっぷりと赤い口紅を塗り、香水の甘い匂いをプンプンと漂わせている。
見た目だけは、普通のOLだった。
(前言撤回! 触れる必要なんかない。あの人たちは、説明出来んけど、とんでもないオーラを放ってる。怖すぎるわ。)
「梢! 先の喧嘩──第二話.梢より、『大阪 龍斬院』の許可なく大阪市内で活動しているレディースとの喧嘩──では、大活躍したんやって? じゃあ、他の不甲斐なかったメンバーに、お前の気合いを見せたれ!!」
そのOGが発した、その怒声にも似た甲高い声は、こずえを縮み上がらせるには、十分すぎるぐらいだった。
こずえは、何とかみんなの前には出たが、それ以上のことはできそうになかった。
「気合い、入ってます。」
だからその、こずえの声は、蚊の鳴くような声だった。さらに震えていた。
するといきなり後頭部に、感じたことの無い鋭い痛みが走った。
そして、こずえはそのOGに、乱暴に胸ぐらを掴まれ、一喝を浴びせられた。
「なんや! そのちっさい声は!! それにさっきも、ほかの連中よりアタシらに頭下げんの遅かったよな! 気合い入っとんのか!! ええ!! 怪我しとるかなんか知らんけど、気合入っとらんのやったら、今すぐ辞めてまえ!!」
三人のOGは、最初にOGたちに挨拶をしたレディースに、こずえの舐めた態度のことを注意しに行った。
こずえはその場にしゃがんで、膝に顔を埋めた。
こずえは、レディースになるということを、軽い気持ちで考えてしまっていた。
しかし、梢が住んでいる世界は、自分が住んでいる世界とは、天と地以上の差があったことを、身をもって体験した。
ここは、とんでもなく怖い世界だ。
こずえは、今すぐにでも逃げ出したいと思いながらも、その場で泣くことしかできなかった。
今、『大阪 龍斬院』のレディース、スズのオートバイ──バイク──で、ニケツ──二人乗り──をしている。
顔面に、ダイレクトにぶつかってくる夜の冷えた風は、これを浴びるためだけに、オートバイの免許を取る価値があるんじゃないかと感じるぐらい、ゾクゾクした。
「今からどこ行くん?」
こずえは、スズに尋ねた。
「なんて? 聞こえんかった!」
どうやら、周りを走る車の音や、こずえたちレディースの乗るバイクのマフラー音で、真ん前にいるスズにすら、声が届かなかったようだ。
だからこずえは、お腹に力を入れて、怒鳴っているかのような大きな声で、もう一度尋ねた。
「今から、どこ行くん!?」
「今から、集会や!!」
(集会? ・・・・・・そう言えば、梢が、近いうちにあるって言っとったわ。なんでも、OG──old girlの略。つまり『大阪 龍斬院』を引退した先輩──が来て、現在のメンバーの気合いを確かめる、とかいう全く想像がつかんことをするらしい。)
こずえは気乗りしなかったが、断れそうもなかったので、そのまま大人しくオートバイに乗っていた。
しばらくすると、大きな広場に到着した。そこで聞こえる虫たちの綺麗な鳴き声は、オートバイのマフラー音よりも、大きな音をしていた。
『大阪 龍斬院』のレディースたちは、オートバイから降りて、OGが来るのを、地べたに尻もちを着いて待っていた。
地面に敷き詰められていたタイルが、とても冷たい。さらに、そこには街灯が無く、月の光だけなので、ほぼ何も見えない。ただ、うっすらと噴水のようなものがあるのは見えた。
広場の外にある、マンションや飲食店の黄色い明かりが、普段よりチカチカと眩しく感じる。
その広場で待つこと数分、一台の車がやってきた。
その車から、三人降りてきた。みんな女性で、肩パッドが入ったレディーススーツを着て、膝下まであるスカートを履いているのが特徴的。
すると、一緒に座っていた『大阪 龍斬院』のレディースたちは、バッと立ち上がった。
それを見たこずえは、みんなに合わせるように、慌てて立ち上がった。
すると、隣にいたスズに肘で小突かれた。
「やっぱり、先代たちはカッコええな!」と、スズが小さな声で言った。
「・・・・・・う、うん。そうやな。」
こずえは、目を疑った。
(あれが先代!? 周りに居るコたちの、触れれば切り裂かれてしまうような恐怖感は全くない。ていうか普通のOLさんにしか見えんわ。)
キチッと、横一列に列を作って立っているこずえたちの前に、その三人はやって来た。
すると、こずえたちの列の一番端にいるレディースが一歩前に出た。
「先代方、お忙しい中ありがとうございます! 今から、『大阪 龍斬院』の定期集会を始めます! よろしくお願いします!!」と言って、その三人に頭を下げた。
それに追従して、他のレディースたちも、「よろしくお願いします!!」と、言って頭を下げる。
こずえは、初めての事だったので、訳が分からず、みんなより少し遅れてから、頭を下げた。
すると、三人のうちの一人が、こずえの方にゆっくりと近づいてきた。
──突然、全身に鳥肌が立った。その訳もすぐにわかった。
そのOGは、髪にパーマをかけていて、唇にたっぷりと赤い口紅を塗り、香水の甘い匂いをプンプンと漂わせている。
見た目だけは、普通のOLだった。
(前言撤回! 触れる必要なんかない。あの人たちは、説明出来んけど、とんでもないオーラを放ってる。怖すぎるわ。)
「梢! 先の喧嘩──第二話.梢より、『大阪 龍斬院』の許可なく大阪市内で活動しているレディースとの喧嘩──では、大活躍したんやって? じゃあ、他の不甲斐なかったメンバーに、お前の気合いを見せたれ!!」
そのOGが発した、その怒声にも似た甲高い声は、こずえを縮み上がらせるには、十分すぎるぐらいだった。
こずえは、何とかみんなの前には出たが、それ以上のことはできそうになかった。
「気合い、入ってます。」
だからその、こずえの声は、蚊の鳴くような声だった。さらに震えていた。
するといきなり後頭部に、感じたことの無い鋭い痛みが走った。
そして、こずえはそのOGに、乱暴に胸ぐらを掴まれ、一喝を浴びせられた。
「なんや! そのちっさい声は!! それにさっきも、ほかの連中よりアタシらに頭下げんの遅かったよな! 気合い入っとんのか!! ええ!! 怪我しとるかなんか知らんけど、気合入っとらんのやったら、今すぐ辞めてまえ!!」
三人のOGは、最初にOGたちに挨拶をしたレディースに、こずえの舐めた態度のことを注意しに行った。
こずえはその場にしゃがんで、膝に顔を埋めた。
こずえは、レディースになるということを、軽い気持ちで考えてしまっていた。
しかし、梢が住んでいる世界は、自分が住んでいる世界とは、天と地以上の差があったことを、身をもって体験した。
ここは、とんでもなく怖い世界だ。
こずえは、今すぐにでも逃げ出したいと思いながらも、その場で泣くことしかできなかった。
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