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 「ローラ、お前とは・・・もうこれでお終しまいだ。」

 婚約者に、こんな言葉を投げられた。

 それも当然かもしれない。婚約破棄を突きつけた彼は、私とは、十歳以上も年齢が離れている。

 彼と婚約できたのは、奇跡だったのかもしれない。

 「新しく好きな人でもできたのですか?」

 「ああ、そうだ。その子はお前とは違って、私と同じ貴族だし、私より年下なのだ。」

 やっぱり、こんな三十四歳にもなった女が、こんな若くて、お金持ちの貴族と、結婚できるなんて、ただの夢に過ぎなかったのかもしれない。

 私は、荷物をまとめ、侍女にさよならを告げ、屋敷から出て行った。

 どこかで、働かなくてはならない。両親がいなくて住む家もない私は、住み込みの仕事を探すことにした。

 色々な店を転々としたが、住み込みとなると、なかなか見つからない。

 すっかり夜になってしまったので、朝まで時間を潰すために、私はとあるバーに入った。

 私は、持っていた残り少ないお金で、ウイスキーを一杯注文した。

 白い髭を生やしたバーのマスターらしい人が、カウンター席に座っている私の前に、グラスに入ったウイスキーを置いてくれた。

 私は、そのウイスキーを一口飲んだ。

 すると、突然、涙が出てきて、頬を伝った。

 私は、ひとりぼっちになってしまったのだ。それも、死ぬまで、ひとりぼっちかもしれない。

 「何か、辛いことがあったのかい?」

 目の前にいる、バーのマスターらしい人が、声をかけてくれた。

 私は、ついさっきあったことを話した。

 「それはつらかったね。・・・仕事を探しているなら、うちで働くかい?」

 「私、住み込みじゃないと働けません。」

 「いいよ。住み込みでも。この家に住んでいるのは私一人だし、気にしないで暮らせるはずだよ。」

 「本当にいいんですか!?」

 その人は、笑顔で頷いてくれた。

 「一生懸命働きます。」

 さっきよりもたくさん、涙が溢れてきた。

 

 
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