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私は、バーで働くことになった。
今、開店準備のため、石畳を箒ではいている。思ってた以上に砂や砂利がある。それを綺麗に取り除いたら、モップで乾拭きすれば終わり。
「それじゃあ次は・・・。」
マスターは、テーブルに、お酒や食べ物の運び方を教えてくれた。そして、私は、教えられた通りにやってみた。
「どうですか?」
「すごく上手だよ。完璧だ。」
よかった。初めてやる事だったので、どうなることかと思ったが、上手くできていたらしい。
そして、とうとう開店時間になった──なってしまった。
私は、普段しないような、厚い化粧をしている。
ああ、緊張する・・・。
ドンドンお客さんが入ってくる。
私は、注文された品を次々とテーブルに運んでいく。
「キレイだね! 姉ちゃん。」
テーブルに座っている、おじさんにそう言われた。
「・・・ありがとうございます。」
きっとお世辞だろう。私がキレイだなんて、そんなはずはない。もし本当にそうならば、婚約破棄されなかったかもしれない。
私は、そのおじさんに、作り笑いを返し、また、せっせと注文された品を、各々のテーブルに運んでいく。
すると、ここに来ているお客さんとは、明らかに違う格好をした男が、私の横を通り過ぎて行った。
その男は、カウンター席の横に設置された舞台に上がり、背負っていたギターを弾き始めた。
その音色は、ゆったりしていて優しく、聴き心地がとても良かった。
私の心の傷が少し癒えたような気がした。
「姉ちゃん! 早く持ってきてくれ!」
私は、ハッと我に返って、急いで注文の品を持っていった。
どうやら、そのギターの音色に心酔していたらしい。
その後からは、さっきより比べ物にならないくらい、忙しかったので、その人が、どんな曲を引いていたか、まったく覚えていない。
客足が遠のいていったのは、閉店する少し前くらいだった。
私は、一息つきたくて、持っていたおぼんを脇に抱えて、カウンターにいるマスターの元に向かった。
すると、カウンター席に、あのギターを弾いていた男が、座って酒を飲んでいるのを発見した。
その男を見る限り、年は私と同じぐらい? いや、私より少し上かもしれない。確実に年下ではない。大人な雰囲気を醸し出しているもの。それに、帽子を深く被っていて、顔もよく見えない。
なぜだか分からないけれど、私は無意識の内に、その男に話しかけていた。
「さっきの演奏、とても素晴らしかったですわ。」私は、演奏を聴いた時に思ったことを、正直に男に伝えた。
男は何も言わずに、被っていた帽子を、少しだけ頭から離して、また被り直しただけだった。
私の称賛に対して、お礼をしたのかな?
私は、それ以上何も言わずに、その場を離れることにした。すると、カウンターの角に、持っていたおぼんをぶつけてしまい、取り落としてしまった。
幸い、おぼんが、木でできていたため、大きな音はならずに済んだ。
あ゛あ゛、最悪・・・。私は、柄にもなく、文句を言ってしまった。
普段の私なら、腰を下ろして拾っただろうが、この時は、疲れ果てていたので、立ったまま、腰を曲げておぼんを拾った。
「ふんっ。」勢いをつけて、腰を曲げたので、息が漏れてしまった。
おぼんを拾い上げた私は、さっきと同じように、それを抱えて、歩き出した。
「ちょっと待ってくれ!」
後ろの方から、誰かにそう言われて、手首を掴まれた。
振り返るとそこには、ギターを弾いていたあの男がいた。
「僕の弾く曲を、歌ってくれないだろうか?」
そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
「私が・・・ですか?」
「ああ、そうだ。さっき話しかけてくれた時の、あなたの低い声も好きだったけれど、おぼんを拾う時の『ふんっ』という、艶のある声を聞いた瞬間、あなたの声の虜になってしまってね。」
声を褒められるなんて、考えもしなかった私は、すっかり動揺してしまった。
マスター助けて!
私はマスターの方を見た。すると、笑顔で、「やってみればいいと思うよ。」と言ってくれた。
「でも、私、仕事があります・・・。」
「そんなこと、気にしなくていいんだよ。昨日、君が来る前までは、一人でやっていたんだし。でも、開店準備だけ手伝ってくれれば、嬉しいな。」
「ありがとうございます。」
ああ、あなたは、なんていい人なんだろう。
「それじゃあ、歌ってくれるね?」
私は、しっかりと頷ずいた。
「僕の名前はジョニー。流しをやっているんだ。」
「私はローラ。よろしくお願いします。」
私は、ジョニーと握手を交わした。
すると、マスターが私に、ウイスキーの入ったグラスを手渡してくれた。
なんだろう?
「それじゃあ、歌手ローラの誕生と成功を祈って、乾杯。」
私たちは、グラスを打ち鳴らした。
今、開店準備のため、石畳を箒ではいている。思ってた以上に砂や砂利がある。それを綺麗に取り除いたら、モップで乾拭きすれば終わり。
「それじゃあ次は・・・。」
マスターは、テーブルに、お酒や食べ物の運び方を教えてくれた。そして、私は、教えられた通りにやってみた。
「どうですか?」
「すごく上手だよ。完璧だ。」
よかった。初めてやる事だったので、どうなることかと思ったが、上手くできていたらしい。
そして、とうとう開店時間になった──なってしまった。
私は、普段しないような、厚い化粧をしている。
ああ、緊張する・・・。
ドンドンお客さんが入ってくる。
私は、注文された品を次々とテーブルに運んでいく。
「キレイだね! 姉ちゃん。」
テーブルに座っている、おじさんにそう言われた。
「・・・ありがとうございます。」
きっとお世辞だろう。私がキレイだなんて、そんなはずはない。もし本当にそうならば、婚約破棄されなかったかもしれない。
私は、そのおじさんに、作り笑いを返し、また、せっせと注文された品を、各々のテーブルに運んでいく。
すると、ここに来ているお客さんとは、明らかに違う格好をした男が、私の横を通り過ぎて行った。
その男は、カウンター席の横に設置された舞台に上がり、背負っていたギターを弾き始めた。
その音色は、ゆったりしていて優しく、聴き心地がとても良かった。
私の心の傷が少し癒えたような気がした。
「姉ちゃん! 早く持ってきてくれ!」
私は、ハッと我に返って、急いで注文の品を持っていった。
どうやら、そのギターの音色に心酔していたらしい。
その後からは、さっきより比べ物にならないくらい、忙しかったので、その人が、どんな曲を引いていたか、まったく覚えていない。
客足が遠のいていったのは、閉店する少し前くらいだった。
私は、一息つきたくて、持っていたおぼんを脇に抱えて、カウンターにいるマスターの元に向かった。
すると、カウンター席に、あのギターを弾いていた男が、座って酒を飲んでいるのを発見した。
その男を見る限り、年は私と同じぐらい? いや、私より少し上かもしれない。確実に年下ではない。大人な雰囲気を醸し出しているもの。それに、帽子を深く被っていて、顔もよく見えない。
なぜだか分からないけれど、私は無意識の内に、その男に話しかけていた。
「さっきの演奏、とても素晴らしかったですわ。」私は、演奏を聴いた時に思ったことを、正直に男に伝えた。
男は何も言わずに、被っていた帽子を、少しだけ頭から離して、また被り直しただけだった。
私の称賛に対して、お礼をしたのかな?
私は、それ以上何も言わずに、その場を離れることにした。すると、カウンターの角に、持っていたおぼんをぶつけてしまい、取り落としてしまった。
幸い、おぼんが、木でできていたため、大きな音はならずに済んだ。
あ゛あ゛、最悪・・・。私は、柄にもなく、文句を言ってしまった。
普段の私なら、腰を下ろして拾っただろうが、この時は、疲れ果てていたので、立ったまま、腰を曲げておぼんを拾った。
「ふんっ。」勢いをつけて、腰を曲げたので、息が漏れてしまった。
おぼんを拾い上げた私は、さっきと同じように、それを抱えて、歩き出した。
「ちょっと待ってくれ!」
後ろの方から、誰かにそう言われて、手首を掴まれた。
振り返るとそこには、ギターを弾いていたあの男がいた。
「僕の弾く曲を、歌ってくれないだろうか?」
そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
「私が・・・ですか?」
「ああ、そうだ。さっき話しかけてくれた時の、あなたの低い声も好きだったけれど、おぼんを拾う時の『ふんっ』という、艶のある声を聞いた瞬間、あなたの声の虜になってしまってね。」
声を褒められるなんて、考えもしなかった私は、すっかり動揺してしまった。
マスター助けて!
私はマスターの方を見た。すると、笑顔で、「やってみればいいと思うよ。」と言ってくれた。
「でも、私、仕事があります・・・。」
「そんなこと、気にしなくていいんだよ。昨日、君が来る前までは、一人でやっていたんだし。でも、開店準備だけ手伝ってくれれば、嬉しいな。」
「ありがとうございます。」
ああ、あなたは、なんていい人なんだろう。
「それじゃあ、歌ってくれるね?」
私は、しっかりと頷ずいた。
「僕の名前はジョニー。流しをやっているんだ。」
「私はローラ。よろしくお願いします。」
私は、ジョニーと握手を交わした。
すると、マスターが私に、ウイスキーの入ったグラスを手渡してくれた。
なんだろう?
「それじゃあ、歌手ローラの誕生と成功を祈って、乾杯。」
私たちは、グラスを打ち鳴らした。
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