2 / 4
2
しおりを挟む
私は、バーで働くことになった。
今、開店準備のため、石畳を箒ではいている。思ってた以上に砂や砂利がある。それを綺麗に取り除いたら、モップで乾拭きすれば終わり。
「それじゃあ次は・・・。」
マスターは、テーブルに、お酒や食べ物の運び方を教えてくれた。そして、私は、教えられた通りにやってみた。
「どうですか?」
「すごく上手だよ。完璧だ。」
よかった。初めてやる事だったので、どうなることかと思ったが、上手くできていたらしい。
そして、とうとう開店時間になった──なってしまった。
私は、普段しないような、厚い化粧をしている。
ああ、緊張する・・・。
ドンドンお客さんが入ってくる。
私は、注文された品を次々とテーブルに運んでいく。
「キレイだね! 姉ちゃん。」
テーブルに座っている、おじさんにそう言われた。
「・・・ありがとうございます。」
きっとお世辞だろう。私がキレイだなんて、そんなはずはない。もし本当にそうならば、婚約破棄されなかったかもしれない。
私は、そのおじさんに、作り笑いを返し、また、せっせと注文された品を、各々のテーブルに運んでいく。
すると、ここに来ているお客さんとは、明らかに違う格好をした男が、私の横を通り過ぎて行った。
その男は、カウンター席の横に設置された舞台に上がり、背負っていたギターを弾き始めた。
その音色は、ゆったりしていて優しく、聴き心地がとても良かった。
私の心の傷が少し癒えたような気がした。
「姉ちゃん! 早く持ってきてくれ!」
私は、ハッと我に返って、急いで注文の品を持っていった。
どうやら、そのギターの音色に心酔していたらしい。
その後からは、さっきより比べ物にならないくらい、忙しかったので、その人が、どんな曲を引いていたか、まったく覚えていない。
客足が遠のいていったのは、閉店する少し前くらいだった。
私は、一息つきたくて、持っていたおぼんを脇に抱えて、カウンターにいるマスターの元に向かった。
すると、カウンター席に、あのギターを弾いていた男が、座って酒を飲んでいるのを発見した。
その男を見る限り、年は私と同じぐらい? いや、私より少し上かもしれない。確実に年下ではない。大人な雰囲気を醸し出しているもの。それに、帽子を深く被っていて、顔もよく見えない。
なぜだか分からないけれど、私は無意識の内に、その男に話しかけていた。
「さっきの演奏、とても素晴らしかったですわ。」私は、演奏を聴いた時に思ったことを、正直に男に伝えた。
男は何も言わずに、被っていた帽子を、少しだけ頭から離して、また被り直しただけだった。
私の称賛に対して、お礼をしたのかな?
私は、それ以上何も言わずに、その場を離れることにした。すると、カウンターの角に、持っていたおぼんをぶつけてしまい、取り落としてしまった。
幸い、おぼんが、木でできていたため、大きな音はならずに済んだ。
あ゛あ゛、最悪・・・。私は、柄にもなく、文句を言ってしまった。
普段の私なら、腰を下ろして拾っただろうが、この時は、疲れ果てていたので、立ったまま、腰を曲げておぼんを拾った。
「ふんっ。」勢いをつけて、腰を曲げたので、息が漏れてしまった。
おぼんを拾い上げた私は、さっきと同じように、それを抱えて、歩き出した。
「ちょっと待ってくれ!」
後ろの方から、誰かにそう言われて、手首を掴まれた。
振り返るとそこには、ギターを弾いていたあの男がいた。
「僕の弾く曲を、歌ってくれないだろうか?」
そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
「私が・・・ですか?」
「ああ、そうだ。さっき話しかけてくれた時の、あなたの低い声も好きだったけれど、おぼんを拾う時の『ふんっ』という、艶のある声を聞いた瞬間、あなたの声の虜になってしまってね。」
声を褒められるなんて、考えもしなかった私は、すっかり動揺してしまった。
マスター助けて!
私はマスターの方を見た。すると、笑顔で、「やってみればいいと思うよ。」と言ってくれた。
「でも、私、仕事があります・・・。」
「そんなこと、気にしなくていいんだよ。昨日、君が来る前までは、一人でやっていたんだし。でも、開店準備だけ手伝ってくれれば、嬉しいな。」
「ありがとうございます。」
ああ、あなたは、なんていい人なんだろう。
「それじゃあ、歌ってくれるね?」
私は、しっかりと頷ずいた。
「僕の名前はジョニー。流しをやっているんだ。」
「私はローラ。よろしくお願いします。」
私は、ジョニーと握手を交わした。
すると、マスターが私に、ウイスキーの入ったグラスを手渡してくれた。
なんだろう?
「それじゃあ、歌手ローラの誕生と成功を祈って、乾杯。」
私たちは、グラスを打ち鳴らした。
今、開店準備のため、石畳を箒ではいている。思ってた以上に砂や砂利がある。それを綺麗に取り除いたら、モップで乾拭きすれば終わり。
「それじゃあ次は・・・。」
マスターは、テーブルに、お酒や食べ物の運び方を教えてくれた。そして、私は、教えられた通りにやってみた。
「どうですか?」
「すごく上手だよ。完璧だ。」
よかった。初めてやる事だったので、どうなることかと思ったが、上手くできていたらしい。
そして、とうとう開店時間になった──なってしまった。
私は、普段しないような、厚い化粧をしている。
ああ、緊張する・・・。
ドンドンお客さんが入ってくる。
私は、注文された品を次々とテーブルに運んでいく。
「キレイだね! 姉ちゃん。」
テーブルに座っている、おじさんにそう言われた。
「・・・ありがとうございます。」
きっとお世辞だろう。私がキレイだなんて、そんなはずはない。もし本当にそうならば、婚約破棄されなかったかもしれない。
私は、そのおじさんに、作り笑いを返し、また、せっせと注文された品を、各々のテーブルに運んでいく。
すると、ここに来ているお客さんとは、明らかに違う格好をした男が、私の横を通り過ぎて行った。
その男は、カウンター席の横に設置された舞台に上がり、背負っていたギターを弾き始めた。
その音色は、ゆったりしていて優しく、聴き心地がとても良かった。
私の心の傷が少し癒えたような気がした。
「姉ちゃん! 早く持ってきてくれ!」
私は、ハッと我に返って、急いで注文の品を持っていった。
どうやら、そのギターの音色に心酔していたらしい。
その後からは、さっきより比べ物にならないくらい、忙しかったので、その人が、どんな曲を引いていたか、まったく覚えていない。
客足が遠のいていったのは、閉店する少し前くらいだった。
私は、一息つきたくて、持っていたおぼんを脇に抱えて、カウンターにいるマスターの元に向かった。
すると、カウンター席に、あのギターを弾いていた男が、座って酒を飲んでいるのを発見した。
その男を見る限り、年は私と同じぐらい? いや、私より少し上かもしれない。確実に年下ではない。大人な雰囲気を醸し出しているもの。それに、帽子を深く被っていて、顔もよく見えない。
なぜだか分からないけれど、私は無意識の内に、その男に話しかけていた。
「さっきの演奏、とても素晴らしかったですわ。」私は、演奏を聴いた時に思ったことを、正直に男に伝えた。
男は何も言わずに、被っていた帽子を、少しだけ頭から離して、また被り直しただけだった。
私の称賛に対して、お礼をしたのかな?
私は、それ以上何も言わずに、その場を離れることにした。すると、カウンターの角に、持っていたおぼんをぶつけてしまい、取り落としてしまった。
幸い、おぼんが、木でできていたため、大きな音はならずに済んだ。
あ゛あ゛、最悪・・・。私は、柄にもなく、文句を言ってしまった。
普段の私なら、腰を下ろして拾っただろうが、この時は、疲れ果てていたので、立ったまま、腰を曲げておぼんを拾った。
「ふんっ。」勢いをつけて、腰を曲げたので、息が漏れてしまった。
おぼんを拾い上げた私は、さっきと同じように、それを抱えて、歩き出した。
「ちょっと待ってくれ!」
後ろの方から、誰かにそう言われて、手首を掴まれた。
振り返るとそこには、ギターを弾いていたあの男がいた。
「僕の弾く曲を、歌ってくれないだろうか?」
そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
「私が・・・ですか?」
「ああ、そうだ。さっき話しかけてくれた時の、あなたの低い声も好きだったけれど、おぼんを拾う時の『ふんっ』という、艶のある声を聞いた瞬間、あなたの声の虜になってしまってね。」
声を褒められるなんて、考えもしなかった私は、すっかり動揺してしまった。
マスター助けて!
私はマスターの方を見た。すると、笑顔で、「やってみればいいと思うよ。」と言ってくれた。
「でも、私、仕事があります・・・。」
「そんなこと、気にしなくていいんだよ。昨日、君が来る前までは、一人でやっていたんだし。でも、開店準備だけ手伝ってくれれば、嬉しいな。」
「ありがとうございます。」
ああ、あなたは、なんていい人なんだろう。
「それじゃあ、歌ってくれるね?」
私は、しっかりと頷ずいた。
「僕の名前はジョニー。流しをやっているんだ。」
「私はローラ。よろしくお願いします。」
私は、ジョニーと握手を交わした。
すると、マスターが私に、ウイスキーの入ったグラスを手渡してくれた。
なんだろう?
「それじゃあ、歌手ローラの誕生と成功を祈って、乾杯。」
私たちは、グラスを打ち鳴らした。
0
あなたにおすすめの小説
感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました
九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」
悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。
公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。
「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」
――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。
いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。
ただし、後のことはどうなっても知りませんよ?
* 他サイトでも投稿
* ショートショートです。あっさり終わります
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
酔って婚約破棄されましたが本望です!
神々廻
恋愛
「こ...んやく破棄する..........」
偶然、婚約者が友達と一緒にお酒を飲んでいる所に偶然居合わせると何と、私と婚約破棄するなどと言っているではありませんか!
それなら婚約破棄してやりますよ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる