もっと明日へ、跳んでみーお、美央の恋 ~おてんばプロレスの女神たち 超・番外編~

ちひろ

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恋する美央のフォーチュン焼き鳥

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 ナオキと会える、会えない、会える、会えない、会える‥‥と思ったら、会えないなんて。嘘・嘘・嘘・嘘。「会えないのかよー」といい、美央は舌打ちを始めた。
 少なく見積もっても週に三回、いや四回は顔を出している行きつけの店でのこと、お通しとして出された枝豆の殻の数をカウントしながら、勝手に恋占いをしていたのである。
 「んもうっ、私が何のために残業していると思っているの。一日の終わりはナオキに会える。それがあるからに決まっているでしょ」と心の中で雄叫びならぬ雌叫びをあげると、目の前の生ビールを手に、のん兵衛の美央がひとりイッキを始めた。
 イッキ、イッキ、イッキ、イッキ。ナオキがこないんじゃ、飲むしかないじゃん。イッキ、イッキ、イッキ。ゴホッ、ゴホゴホ。あっ、苦しい。飲みすぎというよりも、急ぎすぎ。
 有限会社おてんば企画でデザイナーを務める美央が、残業を終えてから立ち寄ったのは、駅前にある鳥クイーンという店であった。地元ではおなじみの焼き鳥屋さん。時計の針は夜の十一時五十分を示していた。
 二十代の女性がひとりでも立ち寄れるような、そんな気さくさこそが、この店の魅力だ。が、今の美央にとって、さらに大きな魅力、それは田中直樹という学生アルバイトの存在だった。
 たしか月・火・木・金曜日がナオキの出勤日。今日は木曜日だから、当然いるはずと思ってきてみたのに、いないなんてさ(泣)。最近はゼミのレポートで忙しいらしいから、しゃーないっていうのはあるんだけど。そろそろ就活の準備もあるのかなぁ。ナオキったら、まさか東京の会社へ入る気じゃないでしょうね。ナオキが東京へ行くなら、私も行くわよ。恋心が渦巻くメガロポリスへ。こう見えても学生時代は、一応東京で暮らしていたわけだし。大都会のことなら私に任せて。ナオキのためなら火の中、水の中。たとえ東京という砂漠の中だって、ナオキのために頑張るわん。
 わんわん。なんて、気がついてみれば、お店の外で野良犬が泣いているじゃないのよ。ああ、泣きたいのは、私の方だわ。残業を終えて、寒い中せっかくきたのに、お目当ての王子様がいないとは――。徒歩できたのにいない。トホホなんてダジャレをいう気にもなれないわ。
 それにしても二十代の乙女が、毎晩のように焼き鳥屋さんで晩酌だなんて。自分でも嫌になっちゃうわん。
 デザインそのものは楽しいんだけど、仕事が束になってこられると、どうしようもないのよね。自分自身、二十ン歳。その昔「女はクリスマスまで」といわれていたようだけど、果たして自分はどうなるんだろう。大みそかまで働くのかな。せめて大台になる前には、結婚も考えたいところだわ。残業後の空腹には、ちょいときつめの生ビールを飲みながら、美央はあれこれ思うのであった。
 「おっ、美央ちぉん。連日連夜ありがとうね。あいにく今夜は(ナオキ)いないんだけど、ゆっくりしていってね。オジさんでいいんだったら、俺が何時間でもつき合うよ」といい、親方が声をかけてくれた。
 今年あたり親方は還暦だって聞いたけど、若いのなんのって。三十代で脱サラを果たし、一国一城の主として歩みを続けてきただけあって、やはり感覚が若いのだ。
 以前、「鳥クイーンのクイーンって誰のことですか?」と尋ねたことがあるが、そのときは「お客さんに決まっているじゃない。美央ちゃんのような子だよ」なんて照れまくっていたけど、ほかのお客さんがいうには、一緒にお店を立ちあげて苦楽をともにしている奥さんのことをイメージしているとかいないとか。
 会える、会えない、会える、会えない‥‥。今度は、食べ終えた焼き鳥の櫛(くし)の本数をカウントしてみたら、会えるだってさ。
 自分とは親子ほど年齢が違う、親方に会えてもなぁ。百パーセント片想いの美央のフォーチュン焼き鳥は、今夜も“ぼっち”の味がした。
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