おてんばプロレスの女神たち ~あばずれ日奈子のチャレンジ魂~

ちひろ

文字の大きさ
1 / 6

プレジデント日奈子の思いつき

しおりを挟む
 「ねぇ、みんな聞いて。いいことを思いついたわ。おてんばプロレスのリングを借りて、メインイベントの前に結婚式を挙げるの。『新郎新婦の入場です』なんていうアナウンスとともに、幸せなふたりが花道を歩いてきて、祝福に包まれながらリングインするでしょ。すると、そこへ牧師さんが現れて『生涯愛することを誓いますか』なんていうのよ。ね、素敵だと思わない? プロレス結婚式なんてさ。わが社の新しいサービスとしてパッケージ化できないかしら」。
 ねぇねぇ――といいながら、おてんば企画の社長を務める日奈子が、事務所内でデスクワークに追われている女子社員らに声をかけた。まるで女子高校の放課後のような雰囲気。それもそのはず、日奈子が代表を務めるおてんば企画は、十二人の社員のうち九人が女子だった。
 日奈子は社長というよりも、さながら女ガキ大将みたいなものか。三人しかいない希少な男子の中には、男の娘(こ)の社員もいて、おてんば企画は、まさに何でもありの女の園なのであった。
 企業や学校などの広報物をメインに手がけ、人口二十万人ほどのおてんば市にある編集プロダクションとしては、老舗のおてんば企画社員の中に、おてんば女子大学の女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスの卒業生-前述の男の娘(こ)である-が加わってからは、社長の日奈子がプロレスに目覚め、おてんばプロレス関連の事業に力を注いでいた。プレジデント日奈子というリングネームで、自ら試合に出る入れ込みよう。
 「美央ちゃんはどう思う?」といい、日奈子はデザイナーのチーフである美央に問いかけた。どちらかというと、かわい子ちゃんタイプの美央は二十代半ばで、それこそ結婚に憧れを抱いている世代でもあった。
 「うーん、プレレスのリングの上での結婚式は勘弁かなぁ」といいながら、美央はグラフィック用パソコンのキーボードを打つ手を停めた。暦の上では春だが、事務所の窓に大写しになっている蔵王山は、まだまだ雪化粧に覆われていた。雪山と青空のコントラストが美しい。
 「プロレスの会場で知らない人たちからウエディング姿を見られるのには抵抗があるし、リング上って汗臭い感じがして、ロマンチックな気分に浸れないです。東京ドームのような大会場なら、すごい演出ができるのかもしれないけど、実際のおてんばプロレスの会場って、ニューおてんば温泉の宴会場とかじゃないですか。畳の上にマットレスを重ねただけのリングで結婚式といわれても、ほとんど見世物でしかないわ。私だったら絶対に嫌です。たぶん一生後悔すると思います」と美央がいい切った。かわいい顔をして、白黒だけははっきりとつける性格。それが美央という人間をつかさどっていた。まぁ、誰に対してもホンネをぶつけてくる一面があったからこそ、日奈子はあえて美央に聞いたのかもしれない。
 「そうね。美央ちゃんのいうことはよくわかるけど、例えば会場はおてんば市の公会堂を借りればいいわけだし、ふたりの夢心地な空間を手助けする以上、もちろんそれなりの演出はするわよ」と応じると、日奈子は「私にもコーヒー頂戴」といい、経理担当の女子社員に笑いかけた。その語り口調からして、日奈子としては実現する気満々だったのである。あと先考えずに即行動が日奈子の信条でもあった。
 きっと昔からイベント好きなのだろう。学生時代からフリーペーパーやタウン誌の編集に興味があったという話はよく聞かされていたが、その一方でイベントという生ものが、どうやら日奈子としては大好物らしい。イベントのテーマが結婚というのもジャストタイムかもしれなかった。
 日奈子自身、四十ン歳にして独身であったが、結婚の二文字は諦めていないと見えて、一時は男の娘(こ)の社員であるジュリーに熱をあげていたこともあった。今はプロレスを通じて知り合ったタイ人ビジネスマンとおつき合いをしており、結婚も近いのではないかと目されていたのである(注:日奈子とタイ人ビジネスマンの出会いについては『おてんばプロレスの女神たち ~プレジデント日奈子の大勝負~』を読んでね)。その名をルークといい、まだ二十代の男子が恋のお相手だったが、そこは移り気な日奈子のこと。一寸先は闇という状況の中での遠距離恋愛であった。
 新事業としてのプロレス結婚式。結論からいうと、「まずはやってみよう」ということになった。しかしながら、実情はというと、予想通り日奈子だけが盛りあがって、あれだけ反対の姿勢を示していた美央が、なんとプロジェクトリーダーに任命されたのだからたまらない。「新事業で儲かったら、みんなに臨時ボーナスを出すわよ」なんて、豪快に笑い飛ばす日奈子の姿に、美央はパソコンの前で深いため息をつくのであった。
 「は~‥‥。また日奈子社長の暴走が始まったわ」。
 その翌日。日奈子はタイのバンコクオフィスにいる男の娘(こ)社員のジュリーと、日奈子の恋人でこれまたバンコク在住のルークとリモートで会議を開いた。会議といっても、それほど堅苦しいものではない。社長の日奈子のたわごとに、ジュリーとルークがつき合っていたようなものであった。
 「おてんばプロレスのリングで、プロレス結婚式という独自のイベントをプロデュースつもり。ふたりも協力してくれるでしょ? まずテストケースとしてバンコクでやってみようと思うの。心当たりがあったら営業してみて」という日奈子に、「それって受けるかも」と食いついたのはジュリーだ。
 「大会自体をウエディングモードにするのはどうかしら? 選手全員がウエディングドレスで入場して、“えい、えい、おめでとう”のひとことで締めくくれば、きっと話題になると思います」。
 女性ホルモンを摂取しているせいか、どんどん女らしくなってきているジュリーを目の当たりにして「カナダにいるトムとは、うまくいっているの? 性別なんて関係ないから、早く結婚しちゃえば――。この際だから本物の女子になって、トムの赤ちゃん産んじゃえ」と日奈子がけしかけたが、どう考えても赤ちゃんを産むのは無理だから。あくまでも♂のジュリー。日奈子からセクハラまがいの言葉の暴力を受けても、清純派のジュリーは頬を赤らめるだけであった(ジュリーとトムの関係については、これまた『おてんばプロレスの女神たち ~プレジデント日奈子の大勝負~』を読んで)。
 「プロレスを軸に、ビジネスの可能性を広げることには、僕も大賛成です。日奈子の勘ピュータは結構正確なので、ぜひやってみましょう」とルークも賛同してくれた。若き実業家のルークにとって、挑戦の二文字は最大の人生訓でもあった。
 「本当はバンコクの有名な寺院で、神前式のプロレス結婚式でもやれればインパクト絶大なんだけど、タイ政府が許してくれないわよね。ダメもとでいいから、ルークの方で交渉してみてよ。市長さんとか国会議員とか、誰か知り合いはいないの」という日奈子に対し、ルークは「オーノ~」と素っとん狂な声をあげるしかなかった。毎日がお祭り騒ぎ状態。日奈子の思いつきには、いつもみんなが振りまわされているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

自由奔放で少しヤンチャな男子高生が清楚なJKへ恋した

MisakiNonagase
青春
自由奔放な男子高生シュン。恋愛の数をこなすことが、もてることだと思っていた。そんなシュンだが、清楚なJKユキへ恋をし、数をこなすことと、一人の人を心から想うこととの違うのだと気づくストーリーです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

処理中です...