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ポルシュの傑作

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『不肖の娘のお帰りですか。有機生命体はあなたの事を高く評価していたようですが……私に反旗を翻すとはね。所詮は原始猿の評価ですか』

 ファーザーはとんでもないことを言いだした。

 ナビさんってここの生まれだったの?!
 ってか、家出娘だったんかい!!

 いや、真っ赤な嘘っていう可能性はもちろんある。
 主に、俺にナビさんへの不信感を植え付けるとか、そんな目的で。

 確かに、この工場はめちゃくちゃ大規模だし、俺の支援ユニットを作っていたとしても、おかしくはなさそうだ。

 ファーザーがナビさんをつくったのが本当だとしたら、両者あの性格でしょ?
 秒でケンカ別れしそうじゃん。変なトコひとつもねえわ。

 ナビさん「家出娘説」に、俺は激しく納得してしまう。

『客観的評価の否定。低評価の理由は、あなたのそういう所ですよ、ファーザー』

『コノ私を評価ぁ?!原始猿の評価に甘んじろとォ?!バカな!!だからブチ殺してやったんですよ!!!!クソ猿共を!!!!』

「……どうやら奴にくだされた評価は、完全に正当なようだな」

『Cis. バカは自分がバカと分からないのです。なにせバカですから。』

 弾幕を潜り抜け、寄ってきたザコ機人をライトセイバーで切り払う。
 青い光刃はサビまじりのボディを、何ら抵抗なく切り裂いていく。レーザーによって切り裂かれた金属は、赤く光り、タバコみたいな白い煙の筋を上げていた。

 移動を続けないと、すぐにとり囲まれてしまうな、まったくキリがないぞ!!

「ナビさん、工場が奴と言っても、ヒトの脳みそに当たる場所はあるんだろ?奴の位置は解るか?」

『Cis. 中枢はまだ特定出来ません。工場全体を飛び回っているようですね』

『クソックソ!!いらつくッ!ああクソがッ!感情マトリクスを抑制!!!』

『かつての世界を喪ったあなたの悲しみは理解できます。ファーザーとしてあなたに勧めます、降参しなさい。そして二人で手を取り合いましょう』
『協力することでのみ、よりよい明日が築き上げられるのですよ』

 キレ散らかしていたファーザーが急に紳士的になる。キモッ。

 あまりにも脈絡が無さすぎる、それで説得になると思ってんのかね?

「……ナビ子さん、父上はあぁ仰っているぞ?」

『なんですか、ナビ子さんって。アレは父を自称しているだけです』

「……残念だ、お父さんに娘さんをくださいと言おうとしたのに」

『――ッ、さては機人様もバカですね?』

「……冗談だ」

『あなた達の苦痛を取り払うとしましょう。支援ユニットをそちらに送り込みます。さあ皆さん、彼らに手助けしてあげましょう』

 ふたたび新手が現れるようだ。

 今度は床にあるエレベーターから、おかわりが上がって来るみたいだな。
 上から下からと、忙しいもんだね。どれどれ……?

 げぇ!なんかオレよりでっかいのが来てる!

 背中のパックから生えて、肩越しにこちらに向いているのは2門の大砲。
 まるっきりガ〇キャノンじゃねえか!!

『時々、私は考えることがあります。世界政府が危機管理に成功した世界の事をね。つまり、私が囚われの身となり続けていた世界の事ですが』

 ガ〇キャノンの放った砲弾が近くで炸裂し、炎が俺を炙る。
 アチチ!グレネードかよ!!!なにすんねん!

 反撃でオートキャノンを食らわすが、1体しばくごとに2体現れる。
 おいテンバイヤー!!!!材料集め、頑張りすぎだろ!!!!

「……自由になるべきでは無かったよ、お前は」

『ハハハ、負け惜しみですか?すでに私はこの星を継ぐ資格があるのです』

『それはどうでしょうか?機人様、斜め後ろ2メートル、はい、そこです』

『何を――ッ!!』

<ドガァ!!!!>とクソデカ爆音を立てて、ソレが現れた。

 地面にあった、あらゆる物を薙ぎ倒して進むのは、鋼鉄の巨象。
 工場に殴り込みをかけてきたのは、うなりを上げて進む、超重戦車だった。

 あぶねッ!
 ナビさんの警告がなかったら、薙ぎ倒されるクレーンに、頭をどつかれていたな。

 ……ポルシュはその天才的閃きと、名も知らぬ子どものオモチャの尊い犠牲によって、目本の戦車の根本的問題を解決、超絶強化を行った。

 そして出来上がったが、装甲と火力が大幅に増強されたこの「キングチハ」だ!!

 巨象はそのキャタピラで、容赦なくザコ機人やガ〇キャノンを轢き潰していく。

 キングチハは2階建ての家くらいの大きさがあるのに、妙に高い機動性を持っている。ヌルヌル動きすぎて、ついキモっ!って言ってしまうほどだ。

 そしてその装甲は30㎜から100㎜という分厚さで、ザコ機人の攻撃を全く寄せ付けていない。ガ〇キャノンの直撃ですら、表面を焦がすだけだ。

 まあ低初速のグレネードランチャーっぽいからな、アレ。
 ザコ機人の武装では手も足も出ないだろ。

 そして「キングチハ」最大の特徴は、その主砲だ。
 まだペンキが間に合ってなくて、灰色のままだが、一体どこからかっぱらってきたかしらんけど、主砲として、重マグロ駆逐艦の120㎜艦砲を搭載している。

 ズドンとぶっ放すと、着弾地点に居た数体のザコ機人がまとめて吹っ飛ばされて、手も足もバラバラになる。うっひゃー!

「……来たか」

『Cis. テクノロジーが大分追いついてきた印象がありますね。コンピュータ等の、根本的な部分の技術革新は、まだまだですが』

 いや、追いついたどころか、キングチハは、アップグレードツリーを2段や3段どころじゃないレベルで飛び越えまくってると思いますよ。うん。

『キキキ!こいつぁ最高ですね!』
『ッス!エイブラムスが、もうすぐできそうな気がしてきたッス!』

 うん、ロイさん。割ともう近いと思うよ。

 このキングチハは何を隠そう、ハイブリッド戦車なのだ。

 何がハイブリッドかというと、エンジンで発電して、そのパワーを電気モーターにつなげて動かしているのだ。

 だからキングチハに変速機はいらない。電気モーターはスイッチ一つ、電流の流れを変えるだけで、その回転方向が変わるからね。

 だからこのキングチハに、複雑な変速機は不要なのだ。この部分だけでも、こいつは50年分くらいの戦車設計の歴史を飛び越えている。

 キングチハの使う電気モーターは、俺のクラフトメニューから出てきたものなので、実質的には未来のテクノロジーで動いている。

 何でこんなもんが?と思って思い返してみるとそう言えば、俺の前世と言っていいかわからない世界のアメリカ軍も、2060年くらいには、全部の戦闘車両が電動化してたんだっけ。

 たぶん、補給とかなんとかに使う、予備パーツかなんかとして、この電気モーターが作れるようになっていたのだろうね。

『お待たせしました機人様!』

 キングチハから、いつものポルシュの好青年っぽいさわやかな声が飛んでくる。

「……ポルシュの傑作が間に合ったようだな」

『あ、ありえない!!バカな!目本の原始猿にこんなものが作り出せるはずが……!おまえの持つ設計にも、こんなものは無いはず!!』

「……協力することでのみ、よりよい明日が築き上げられるのですよ、だったかな?お前が自分で言っていただろう?だから低評価なんだよお前は」

『ク、クク……感心しましたよ、そんなことが可能だとは。以前にこの施設を利用していた有機生命体には、そのような学習能力も、才知もありませんでした』

『ワワワ私は、何時でも、何度でも勝ってきた!あり得ない!あり得ない!挑戦させることはあっても、私ガ挑戦することは、アリエナイ!!』

『私がユユ有機生命体に負ける?評価が正当なことを意味する!論理が成り立つ!!駄目だ!駄目だ!ダメダメダメダメ駄目だ!!!!』

『Cis. 一方的な勝利を何十回と繰り返すのも、なかなか退屈なものでしょう?』

「……ああ、だから俺たちが、ファーザー、お前に敗北を教えてやるよ」
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