オオクワガタを探していたら攫われた王女を見つけた話

ままはる

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12.おおおお姉様あぁぁぁ!

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 今朝の襲撃以降あの暗殺者は現れることは無く、予定通りにバルドレイン城へと到着した。
 だがしかし、一行はバルドレイン城の門から先に進む事が出来ず、そこで足止めを食らっていた。

「ふざけるな! そんなどこの馬の骨かもわからん小汚い女が、レティシア王女なわけがないだろうが!」

「やっぱり、そうなるよね」

 顔を紅潮させて怒鳴る門番と、予想通りの展開に笑いを禁じ得ないエヴァン。
 この不潔で不快な姿をした女が王女だと伝えたところで、ただの門番が納得して通してくれるとは思えなかった。だからその格好のままで城に入れるのかと尋ねたのだが、やはり無理そうである。

「ティア様。変身、解いちゃった方がいいんじゃない?」

「そうですね。では、ちょっと全裸になってしまいますので皆様は目を閉じて――」

「全裸になるならやめよう! ってかなんで全裸!?」

「元々着ていた服は、この姿になった時に弾け飛んでしまいました」

「あぁ、そういうこと……」

 しかしそれでは困った。どうすればこの門番を納得させられるだろうかと、ルルは頭を回転させる。ちなみにエヴァンはこの状況も面白いと楽しんでいて、自ら解決の為に動く様子は無い。

「チャッピーは馬の骨ではない。ハリネズミだ」

「はぁ? 何の話だ」

 一歩前に出たノアに、門番は警戒を強めた。

「俺はチャッピーの話をしている! いいか? この女の前腕のこの部分が、俺の可愛いチャッピーだ。左よりも右腕の方が弾力があり、よりチャッピーに近い。しかしまぁ、左腕も決して悪くはない。それ以外の肉の部分、それがお前らの王女だ」

「貴様は何を言っているんだ?」

「お前こそ何を言っている? もう一度説明しろと言うのか? 城の門番というものは、頭が悪くても就けるのか」

「っ! 不審者として全員捕らえ、牢にぶち込んでやる!」

 その一言で、様子を窺っていた他の門番たちが一斉に動き出し、ノアたちを取り囲んだ。

「ちょっと待ってよ! 私たちは本当に――」

「お姉様ぁぁぁぁ!」

 唐突に、金切り声に近い女の声が頭上から降ってきた。
 何事かと城壁を見上げると、煌びやかなドレスに身を包んだ少女が双眼鏡を片手に見張り台に立ち、こちらに向かって手を振っていた。

「まぁ、ルチア」
「ルチアって?」
「妹ですわ」

 尋ねたルルにそう答えて、レティシアはルチアに向かって手を振り返す。
 侍従たちにてんやわんやと見守られながら、見張り台から降りてくるルチア。栗色の柔らかい髪を靡かせ、両目に涙を湛えながら一直線にレティシアへと走って来た。

「おおおお姉様あぁぁぁ! ごぶごぶご無事で何よりですぅぅ!」
「汚いな」
「黙ってて」

 顔面からあらゆる液体を垂れ流すルチアに、ぼそりと呟くノア。その後ろ頭をルルは強めに叩く。

「ルチア。心配してくださっていたのですか? ありがとうございます」

「当たり前じゃないですかぁぁ! 本当に……本当に……っ! 良かったぁぁ!」

 強く抱き合い再会を喜び合う姉妹。その様子を門番たちは、一様に口を開けて眺めている。

「お前たち、王女様の御前で何をしている? 早く道を開けなさい! レティシア様のご帰還をすぐに各所へ通達せよ!」

 ルチアの侍従の1人が言うと、門番たちは我に返り、蜘蛛の子を散らすように各方面へと走って行った。

「お帰りなさいませ、レティシア様。ルチア様は大層心を痛められ、連日のように見張り台に立たれてはレティシア様のご帰還を願っておられたのです」

「そうだったのですか……心労をかけてしまって、ごめんなさいね」

「いいえ! ご苦労をされたのはお姉様の方ですわ! 早くお部屋にお戻りになって、その変身魔法を解いてくださいませ。お父様もきっとお喜びになりますわ」

 レティシアの手を強く引いて門を潜るルチア。その後を侍従たちが追いかけて行く。

「……それで、あなた方は?」

 侍従の女がようやくノアたちの存在に気付き、声を掛けた。

「私たちがティア……あ、レティシア様をお助けした感じ、みたいな?」
「……」

 侍従は胡散臭いものを見るように目を細め、それから目線でついて来るようにと促した。

「感じ悪っ」
「まぁまぁ。お城に入れるなんて、なかなか無い経験だよ?」

 城内に入った頃には、3人はすっかりレティシアとは引き離されてしまっていた。感じの悪い侍従に案内されるまま、広い廊下をひたすら進んで行く。

「では、こちらの部屋でお待ちください。改めて事情を伺いに人が参りますので」

 通された部屋は応接室のようだった。刺繍が見事なカーペットが敷かれ、調度品はどれも高価なものばかり。
 落ち着かない様子で部屋の真ん中に置かれたソファに座ったルルは、上下左右に首を動かしている。

「やっぱりお城って凄いわねぇ。なんだかティア様が、本当に王女だったんだなって実感するわ」

「それにしても、なかなかインパクトのある妹だったよね」

「確か母親は違うのよね?」

「うん。三姉妹、全員腹違いだって話だよ」

 そんなルルとエヴァンの会話には興味の無いノアは、窓から外を覗いてみた。
 この部屋は中庭に面していて、美しく整備された庭園が目に飛び込んできた。

「オオムラサキだ! モンキアゲハ、オオスカシバもいる」

 色とりどりの花が美しい庭園だが、ノアの目に留まるのは虫ばかり。
 更に窓を開けて外に出ようとしたので、さすがにそれはルルが止めた。
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