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13.バルドレイン王
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「――大変お待たせいたしました」
メイドが運んできたお茶を飲み干した頃、応接室のドアが開いた。
入ってきたのは、艶やかな金の髪が印象的な美しい女と、それの付き人が数名。
金髪の女の姿形に見覚えは無い。しかしその声には覚えがあった。
「……ティア様?」
「はい」
ふわりと微笑んだ頬は薔薇色で、ルルが思わず赤面するほど愛らしい。
「これは予想以上の美しさだね」
「まぁ、エヴァン様。光栄ですわ」
そう言ってからノアに視線を移したレティシアだったが、ノアは相変わらず窓の方を向いて中庭の虫たちを目で追っている。
「ノア様。あの……」
「ティアァァァァ! ティアはどこだぁぁ!?」
部屋の外、廊下をバタバタと慌ただしく走る音と、の太い男の声が響き渡った。次いで乱暴に部屋のドアが開け放たれ、先ほどのルチアを彷彿とさせる表情の男が入って来た。
「おぉ、私の可愛いティアよ! 息災か!? 大事無いか!?」
「お父様」
「おと……国王陛下!?」
本来ならば精悍で逞しい顔立ちをしているバルドレイン王は、この2ヶ月近くに及んだ愛娘の誘拐事件によって頬は痩け、目の下には濃いクマが浮かび上がっていた。
王は何度もレティシアに触れ、些細な怪我も見落とすまいと入念にチェックする。
「誠に安堵した……2度と会えぬのでは無いかと、父は肝を冷やしたのだぞ!」
「お父様、ごめんなさい……」
「ティアが謝ることではない! 無事に戻った以上、この父が責任を持って犯人を八つ裂きにしてやるからな!」
「あ、その、へ、陛下……」
突然の国のトップの登場にルルは浮き足立ち、ソファから立ち上がったり座ったりを無意味に繰り返す。
「ルル、落ち着きなよ」
「逆になんでエヴァンはそんなに落ち着いていられるの!? 王様よ!? こういう時、どうしたらいいの!? 平伏した方がいい!?」
「黙って座っていたらいいんじゃない?」
小声のやり取りに気付いた王の付き人は、2人に向かって柔和な笑みを浮かべて頭を下げる。
「第一王女リュミエール様もお立ち合いになられますので、もう少々腰掛けてお待ちくださいませ」
ひとしきりレティシアと王が再会を喜び合った頃、第一王女リュミエールが到着した。
長い黒髪の、スラリとした美女である。
「噂通りのすごい美人だね」
「同じ人間とは思えないわ……」
囁き合うエヴァンとルル。
リュミエールは切れ長の目でエヴァンとルル、そして窓辺で中庭を見ているノアを一瞥した後レティシアに向き直った。
「無事で何よりです、レティシア」
ルチアや王とは打って変わり、落ち着いた様子のリュミエール。
「ミエールお姉様。いらぬご心配をおかけいたしました」
「それで、何があったのですか?」
「そうだ! どこの不届者の仕業だ!? 八つ裂きの上吊るし首にしてやるわ!」
「……はい」
応接室のソファには、ノア、ルル、エヴァンが並び、その向かいに王、レティシア、リュミエールが腰を下ろした。室内の壁際には護衛と思われる兵士が3名、更に数名の侍女が控えている。その中に、ここへ案内してきた、あの妙に感じの悪い侍従の姿もあった。
レティシアは攫われた日の記憶を手繰り寄せながら、少しずつ語り始めた。
「あの日私は、スピナ国のフェリクス様とお会いする為に港へと向かっておりました」
「……スピナ国のフェリクス様って?」
「この国の南にある島国だね。フェリクス様はその国の第二王子だよ」
ルルの疑問に澱み無く答えるエヴァン。しかしあまりピンときていないルルを察して、レティシアは補足する。
「私と婚約を結ぶはずだった方です。正式な婚約の前の、大切な顔合わせだったのです」
「婚約……」
そう言えば馬車の中でそんな噂を聞いたな、とルルは思い出した。
「あと少しで港に到着するという時に馬が暴れ出したので、馬車を降りて歩いて向かうことにしたのです。しばらくすると、どこからか女性の悲鳴が聞こえました。護衛の方が様子を見てくるので、その場で待機するよう言われました」
そこまでは報告と一致している為、王とリュミエールは黙って頷く。
「待機していると今度は別の方向からまた悲鳴が上がり、別の護衛の方がそちらへ向かわれました。更に今度はもっと近くで声がして――私を守ろうと、数名の侍女が私の手を引いて走り出しました」
あの時の得体の知れないものが迫ってくる恐怖を思い出し、レティシアは無意識に体を強張らせる。
「気付くと私の周りは侍女がひとりだけになっていて……とにかく元の場所に戻らなければと思った時に気を失い、目が覚めた時には牢の中におりました」
その後ノアたちに救出され、ここに至る――と、話を結んだ。
メイドが運んできたお茶を飲み干した頃、応接室のドアが開いた。
入ってきたのは、艶やかな金の髪が印象的な美しい女と、それの付き人が数名。
金髪の女の姿形に見覚えは無い。しかしその声には覚えがあった。
「……ティア様?」
「はい」
ふわりと微笑んだ頬は薔薇色で、ルルが思わず赤面するほど愛らしい。
「これは予想以上の美しさだね」
「まぁ、エヴァン様。光栄ですわ」
そう言ってからノアに視線を移したレティシアだったが、ノアは相変わらず窓の方を向いて中庭の虫たちを目で追っている。
「ノア様。あの……」
「ティアァァァァ! ティアはどこだぁぁ!?」
部屋の外、廊下をバタバタと慌ただしく走る音と、の太い男の声が響き渡った。次いで乱暴に部屋のドアが開け放たれ、先ほどのルチアを彷彿とさせる表情の男が入って来た。
「おぉ、私の可愛いティアよ! 息災か!? 大事無いか!?」
「お父様」
「おと……国王陛下!?」
本来ならば精悍で逞しい顔立ちをしているバルドレイン王は、この2ヶ月近くに及んだ愛娘の誘拐事件によって頬は痩け、目の下には濃いクマが浮かび上がっていた。
王は何度もレティシアに触れ、些細な怪我も見落とすまいと入念にチェックする。
「誠に安堵した……2度と会えぬのでは無いかと、父は肝を冷やしたのだぞ!」
「お父様、ごめんなさい……」
「ティアが謝ることではない! 無事に戻った以上、この父が責任を持って犯人を八つ裂きにしてやるからな!」
「あ、その、へ、陛下……」
突然の国のトップの登場にルルは浮き足立ち、ソファから立ち上がったり座ったりを無意味に繰り返す。
「ルル、落ち着きなよ」
「逆になんでエヴァンはそんなに落ち着いていられるの!? 王様よ!? こういう時、どうしたらいいの!? 平伏した方がいい!?」
「黙って座っていたらいいんじゃない?」
小声のやり取りに気付いた王の付き人は、2人に向かって柔和な笑みを浮かべて頭を下げる。
「第一王女リュミエール様もお立ち合いになられますので、もう少々腰掛けてお待ちくださいませ」
ひとしきりレティシアと王が再会を喜び合った頃、第一王女リュミエールが到着した。
長い黒髪の、スラリとした美女である。
「噂通りのすごい美人だね」
「同じ人間とは思えないわ……」
囁き合うエヴァンとルル。
リュミエールは切れ長の目でエヴァンとルル、そして窓辺で中庭を見ているノアを一瞥した後レティシアに向き直った。
「無事で何よりです、レティシア」
ルチアや王とは打って変わり、落ち着いた様子のリュミエール。
「ミエールお姉様。いらぬご心配をおかけいたしました」
「それで、何があったのですか?」
「そうだ! どこの不届者の仕業だ!? 八つ裂きの上吊るし首にしてやるわ!」
「……はい」
応接室のソファには、ノア、ルル、エヴァンが並び、その向かいに王、レティシア、リュミエールが腰を下ろした。室内の壁際には護衛と思われる兵士が3名、更に数名の侍女が控えている。その中に、ここへ案内してきた、あの妙に感じの悪い侍従の姿もあった。
レティシアは攫われた日の記憶を手繰り寄せながら、少しずつ語り始めた。
「あの日私は、スピナ国のフェリクス様とお会いする為に港へと向かっておりました」
「……スピナ国のフェリクス様って?」
「この国の南にある島国だね。フェリクス様はその国の第二王子だよ」
ルルの疑問に澱み無く答えるエヴァン。しかしあまりピンときていないルルを察して、レティシアは補足する。
「私と婚約を結ぶはずだった方です。正式な婚約の前の、大切な顔合わせだったのです」
「婚約……」
そう言えば馬車の中でそんな噂を聞いたな、とルルは思い出した。
「あと少しで港に到着するという時に馬が暴れ出したので、馬車を降りて歩いて向かうことにしたのです。しばらくすると、どこからか女性の悲鳴が聞こえました。護衛の方が様子を見てくるので、その場で待機するよう言われました」
そこまでは報告と一致している為、王とリュミエールは黙って頷く。
「待機していると今度は別の方向からまた悲鳴が上がり、別の護衛の方がそちらへ向かわれました。更に今度はもっと近くで声がして――私を守ろうと、数名の侍女が私の手を引いて走り出しました」
あの時の得体の知れないものが迫ってくる恐怖を思い出し、レティシアは無意識に体を強張らせる。
「気付くと私の周りは侍女がひとりだけになっていて……とにかく元の場所に戻らなければと思った時に気を失い、目が覚めた時には牢の中におりました」
その後ノアたちに救出され、ここに至る――と、話を結んだ。
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