オオクワガタを探していたら攫われた王女を見つけた話

ままはる

文字の大きさ
17 / 33

17.悪霊退散!

しおりを挟む
⭐︎

「うわぁ……見てよアレ。これじゃあ外に出られないじゃない……」

 締め切った部屋のカーテンの隙間から外を覗いたルルは、げんなりとした顔で呟いた。
 宿の周りを取り囲む、人、人、人――
 昨日の号外を手にした人々が王女を救い出した勇者の居所を特定し、勇者万歳と高らかに謳っているのである。

「やっぱり僕たち、有名人になっちゃったね」
「本当に勘弁してよ……」

 せっかく昼間は街中を観光しようと思っていたのに、これでは一歩も外に出られない。

「ずっとこのままだったらどうする? 今夜のクワガタ探し、行けないよ?」

 昨夜はまだ問題なく探しに行けたが、七彩角オオクワガタは見つからなかった。しかしクワガタが好む木は沢山あったので、滞在中は探し続ける予定である。
 ルルとエヴァンが頭を悩ませていると、バケツを持ったノアが部屋に入ってきた。
 ノアは窓を開け放つ。

「あ! 勇者様だ!」

 窓辺に現れた青年に沸き立つ人々。
 ノアは群衆を見渡すと、バケツに入れた山盛りの塩を鷲掴みにした。

「悪霊退散!」

 そして塩を群衆に向かって撒き散らす。

「やめろアホー!」

 慌ててノアを窓辺から引き離すルル。エヴァンはポカンとした人々に笑顔で一礼してから、窓とカーテンを閉めた。

「勇者ってだけでも嫌なのに、塩を撒く勇者なんて呼ばれるのはもっと嫌よ!」

「あいつら、うるさい。公園の虫が逃げていく」

「それはそうだけど……!」

 ならばやはりと、もう一度塩を撒こうと一歩踏み出したところで部屋のドアがノックされた。

「失礼いたします。お城より使いの方がいらっしゃっています」
「使い?」

 エヴァンがドアを開けると、宿の従業員の後ろに女がひとりと、頭をすっぽりと外套で覆った小柄な人物がひとり立っていた。
 エヴァンは女の方に見覚えがあった。城門から応接室まで案内した、あの感じの悪い侍女である。

「お邪魔いたします」

 軽く頭を下げ部屋の中へと入る侍女。外套を被った人物もその後に続いた。
 侍女は部屋のカーテンが閉められていることを確認すると、後ろの人物に頷いてみせる。

「あの……」

 恐る恐る外套を脱いだその人物に、ルルたちは覚えが無かった。
 短く切り揃えた茶色い髪の少年である。しかしその目は真っ赤に泣き腫らしていて、涙の跡が幾筋も残っている。更に鼻水も垂らしていた。

「汚いな」

 呟くノア。
 エヴァンはその一言に既視感を覚える。

「違ったらすみません。もしかして、ルチア様ですか?」

「うあぁぁぁん!」

 少年の姿に変身したルチアは、情けない声を上げてぼろぼろと涙を流し始めた。

「な、何? どういうこと……ですか?」
「ルチア様、ご説明を」
「あぁぁん! うわぁぁぁん!」

 侍女に促されるも、ルチアは大きな泣き声を上げて言葉にならない。

「うるさいな。塩撒くか」
「やめなさいってば」

 バケツに手を突っ込んだノアを阻止するルル。
 侍女は溜め息をつくと、突然その場に両膝を着き、両手を合わせて頭を下げた。

「どうかルチア様をお助けください、勇者様」

「え、ちょっ、や、やめてください! ルチア様を助けるって、どういうことですか?」

「わた……私、まだ死にたくないよぉぉぉ!」

 ルルとエヴァンは顔を見合わせる。

「レティシア様を誘拐したのは、ルチア様なのです」
「…………………………は?」

 土下座したままの侍女の言葉に、ルルは間の抜けた声を漏らした。

「このままではルチア様は、国王陛下に八つ裂きにされて吊るし首にされた上街頭に晒されて、四肢は魔物の餌、髑髏しゃれこうべは未来永劫稀代の極悪人として博物館に展示されてしまいます」

「随分エスカレートしたわね……でも、どうして誘拐なんて……?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...