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17.悪霊退散!
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「うわぁ……見てよアレ。これじゃあ外に出られないじゃない……」
締め切った部屋のカーテンの隙間から外を覗いたルルは、げんなりとした顔で呟いた。
宿の周りを取り囲む、人、人、人――
昨日の号外を手にした人々が王女を救い出した勇者の居所を特定し、勇者万歳と高らかに謳っているのである。
「やっぱり僕たち、有名人になっちゃったね」
「本当に勘弁してよ……」
せっかく昼間は街中を観光しようと思っていたのに、これでは一歩も外に出られない。
「ずっとこのままだったらどうする? 今夜のクワガタ探し、行けないよ?」
昨夜はまだ問題なく探しに行けたが、七彩角オオクワガタは見つからなかった。しかしクワガタが好む木は沢山あったので、滞在中は探し続ける予定である。
ルルとエヴァンが頭を悩ませていると、バケツを持ったノアが部屋に入ってきた。
ノアは窓を開け放つ。
「あ! 勇者様だ!」
窓辺に現れた青年に沸き立つ人々。
ノアは群衆を見渡すと、バケツに入れた山盛りの塩を鷲掴みにした。
「悪霊退散!」
そして塩を群衆に向かって撒き散らす。
「やめろアホー!」
慌ててノアを窓辺から引き離すルル。エヴァンはポカンとした人々に笑顔で一礼してから、窓とカーテンを閉めた。
「勇者ってだけでも嫌なのに、塩を撒く勇者なんて呼ばれるのはもっと嫌よ!」
「あいつら、うるさい。公園の虫が逃げていく」
「それはそうだけど……!」
ならばやはりと、もう一度塩を撒こうと一歩踏み出したところで部屋のドアがノックされた。
「失礼いたします。お城より使いの方がいらっしゃっています」
「使い?」
エヴァンがドアを開けると、宿の従業員の後ろに女がひとりと、頭をすっぽりと外套で覆った小柄な人物がひとり立っていた。
エヴァンは女の方に見覚えがあった。城門から応接室まで案内した、あの感じの悪い侍女である。
「お邪魔いたします」
軽く頭を下げ部屋の中へと入る侍女。外套を被った人物もその後に続いた。
侍女は部屋のカーテンが閉められていることを確認すると、後ろの人物に頷いてみせる。
「あの……」
恐る恐る外套を脱いだその人物に、ルルたちは覚えが無かった。
短く切り揃えた茶色い髪の少年である。しかしその目は真っ赤に泣き腫らしていて、涙の跡が幾筋も残っている。更に鼻水も垂らしていた。
「汚いな」
呟くノア。
エヴァンはその一言に既視感を覚える。
「違ったらすみません。もしかして、ルチア様ですか?」
「うあぁぁぁん!」
少年の姿に変身したルチアは、情けない声を上げてぼろぼろと涙を流し始めた。
「な、何? どういうこと……ですか?」
「ルチア様、ご説明を」
「あぁぁん! うわぁぁぁん!」
侍女に促されるも、ルチアは大きな泣き声を上げて言葉にならない。
「うるさいな。塩撒くか」
「やめなさいってば」
バケツに手を突っ込んだノアを阻止するルル。
侍女は溜め息をつくと、突然その場に両膝を着き、両手を合わせて頭を下げた。
「どうかルチア様をお助けください、勇者様」
「え、ちょっ、や、やめてください! ルチア様を助けるって、どういうことですか?」
「わた……私、まだ死にたくないよぉぉぉ!」
ルルとエヴァンは顔を見合わせる。
「レティシア様を誘拐したのは、ルチア様なのです」
「…………………………は?」
土下座したままの侍女の言葉に、ルルは間の抜けた声を漏らした。
「このままではルチア様は、国王陛下に八つ裂きにされて吊るし首にされた上街頭に晒されて、四肢は魔物の餌、髑髏は未来永劫稀代の極悪人として博物館に展示されてしまいます」
「随分エスカレートしたわね……でも、どうして誘拐なんて……?」
「うわぁ……見てよアレ。これじゃあ外に出られないじゃない……」
締め切った部屋のカーテンの隙間から外を覗いたルルは、げんなりとした顔で呟いた。
宿の周りを取り囲む、人、人、人――
昨日の号外を手にした人々が王女を救い出した勇者の居所を特定し、勇者万歳と高らかに謳っているのである。
「やっぱり僕たち、有名人になっちゃったね」
「本当に勘弁してよ……」
せっかく昼間は街中を観光しようと思っていたのに、これでは一歩も外に出られない。
「ずっとこのままだったらどうする? 今夜のクワガタ探し、行けないよ?」
昨夜はまだ問題なく探しに行けたが、七彩角オオクワガタは見つからなかった。しかしクワガタが好む木は沢山あったので、滞在中は探し続ける予定である。
ルルとエヴァンが頭を悩ませていると、バケツを持ったノアが部屋に入ってきた。
ノアは窓を開け放つ。
「あ! 勇者様だ!」
窓辺に現れた青年に沸き立つ人々。
ノアは群衆を見渡すと、バケツに入れた山盛りの塩を鷲掴みにした。
「悪霊退散!」
そして塩を群衆に向かって撒き散らす。
「やめろアホー!」
慌ててノアを窓辺から引き離すルル。エヴァンはポカンとした人々に笑顔で一礼してから、窓とカーテンを閉めた。
「勇者ってだけでも嫌なのに、塩を撒く勇者なんて呼ばれるのはもっと嫌よ!」
「あいつら、うるさい。公園の虫が逃げていく」
「それはそうだけど……!」
ならばやはりと、もう一度塩を撒こうと一歩踏み出したところで部屋のドアがノックされた。
「失礼いたします。お城より使いの方がいらっしゃっています」
「使い?」
エヴァンがドアを開けると、宿の従業員の後ろに女がひとりと、頭をすっぽりと外套で覆った小柄な人物がひとり立っていた。
エヴァンは女の方に見覚えがあった。城門から応接室まで案内した、あの感じの悪い侍女である。
「お邪魔いたします」
軽く頭を下げ部屋の中へと入る侍女。外套を被った人物もその後に続いた。
侍女は部屋のカーテンが閉められていることを確認すると、後ろの人物に頷いてみせる。
「あの……」
恐る恐る外套を脱いだその人物に、ルルたちは覚えが無かった。
短く切り揃えた茶色い髪の少年である。しかしその目は真っ赤に泣き腫らしていて、涙の跡が幾筋も残っている。更に鼻水も垂らしていた。
「汚いな」
呟くノア。
エヴァンはその一言に既視感を覚える。
「違ったらすみません。もしかして、ルチア様ですか?」
「うあぁぁぁん!」
少年の姿に変身したルチアは、情けない声を上げてぼろぼろと涙を流し始めた。
「な、何? どういうこと……ですか?」
「ルチア様、ご説明を」
「あぁぁん! うわぁぁぁん!」
侍女に促されるも、ルチアは大きな泣き声を上げて言葉にならない。
「うるさいな。塩撒くか」
「やめなさいってば」
バケツに手を突っ込んだノアを阻止するルル。
侍女は溜め息をつくと、突然その場に両膝を着き、両手を合わせて頭を下げた。
「どうかルチア様をお助けください、勇者様」
「え、ちょっ、や、やめてください! ルチア様を助けるって、どういうことですか?」
「わた……私、まだ死にたくないよぉぉぉ!」
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「レティシア様を誘拐したのは、ルチア様なのです」
「…………………………は?」
土下座したままの侍女の言葉に、ルルは間の抜けた声を漏らした。
「このままではルチア様は、国王陛下に八つ裂きにされて吊るし首にされた上街頭に晒されて、四肢は魔物の餌、髑髏は未来永劫稀代の極悪人として博物館に展示されてしまいます」
「随分エスカレートしたわね……でも、どうして誘拐なんて……?」
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