オオクワガタを探していたら攫われた王女を見つけた話

ままはる

文字の大きさ
18 / 33

18.ニンジャの落とし物

しおりを挟む
「おね……お姉様が、お嫁に行くの、嫌だった、から……っ!」

 しゃくり上げながら、なんとか言葉にするルチア。

「スピナ国との顔合わせにレティシア様が行かなければ、縁談は白紙になるとお考えになったルチア様の実に浅はかな計画でした」

「それは……本当に浅はかだね」

 さすがにエヴァンも呆れる計画である。

「でも2ヶ月も監禁するなんて、少しやり過ぎたのではありませんか?」

「違うのっ! 私、そんなこと命じてない! 私は、数時間だけお姉様の足止めをするようにとお願いしただけなの! それなのに……っ」

 ルチアは力強く否定した。握り締めた拳が、小さく震えている。

「ま……魔王と名乗った人は、本当に、その……死んだのですか?」
「はい」

 エヴァンが頷くと、ルチアは床に崩れ落ちた。両手で顔を覆って、また涙を流す。

「嘘よ……嘘……! アリエッタが死んだなんて……!」

「ん? アリエッタ?」

 ルルは首を傾げた。

「ルチア様。アリエッタとは……」

「私の侍女よ……アリエッタに主導してもらって、ティアお姉様を攫ったの。アリエッタが魔王のフリをして――」

「魔王はおっさんでしたよ?」

「……」

「……?」

「誰?」

 顔を上げ、侍女を見るルチア。侍女も眉を顰めている。

「この計画におっさんは加わっていないわ。どこのおっさんなの? アリエッタは?」

「ちなみに僕たちを襲った暗殺者も、声の感じはおっさんでした」

「暗殺者なんて物騒なもの、私が雇うわけないじゃない!」

 心外だと叫ぶルチア。

「大好きなティアお姉様に危険が及ぶようなことは、絶対にしないわ!」

「つまりルチア様は、利用されたということですか」

「私が、利用された?」

 エヴァンの言葉をおうむ返しに問う。

「ティア様を拉致する計画に、便乗した誰かがいる。アリエッタは、もしかしたら既に……」

 言葉を濁したエヴァンだったが、察したルチアの瞳からはまた涙が溢れてきた。

「どどどどうしよぉぉぉ! 私のせいでアリエッタがぁぁ!」

「昨日の暗殺者なら何か知ってるかもしれないけど……出来ることなら、もう会いたくないなぁ」

「でもティア様はもうお城に帰ったんだし、私たちに会いにくる理由なんてなくない?」

「あいつ『一度殺すと決めた人間は必ず殺す』とか言いそうじゃない? ああいう捨て台詞を吐く奴って、大体厨二病を患ってるからね」

 無茶苦茶なエヴァンの持論だが、ルルは妙に説得力を感じてしまう。

「しかし暗殺者を捕らえたとして、素直に雇い主を教えるでしょうか? そういう輩は、どんな拷問にも耐える訓練を受けていると聞きます」

 と、ルチアの涙をやや乱暴にハンカチで拭きながら侍女が言う。

「だよね。多分自称魔王も、捕まって拷問されるくらいならと思って自害したんだろうし……せめてもう少し情報があればなぁ」

 腕を組み、あの暗殺者の言動に何かヒントはなかっただろうかと思い出すエヴァン。

「ノアも、何か気付いたことは無かった?」

「何も無いが、スピナ国のニンジャだということはわかった」

「やっぱり何もわかんない……………………え?」

 その場の全員の視線がノアに集中する。

「なんであのニンジャが、スピナ国から来たって思ったの?」

「ニンジャの落とし物だ」

 ノアはポケットから1枚のコインを取り出した。

「見たことのないコインだったから、昨夜どこのものか調べてみた。スピナ国の通貨だ」

「スピナ国……お姉様が婚約を結ぶはずだった……?」

「偶然とは思えないね」

 ルチアは、レティシアが誘拐されてからのスピナ国の動向を思い返してみた。
 顔合わせをすっぽかすとは、これまで築き上げてきた関係を無下にする行為だと非難してきたと聞いた。事情を説明しても、スピナ国が小国だからと馬鹿にしていると立腹し、最終的にはレティシアの代わりに第一王女リュミエールが欲しいと言っている、と。

「それって怪し過ぎない?」

 話を聞いたルルが言う。

「絶対スピナ国の仕業よ! 最初からリュミエール様が欲しかった、ってやつよ!」

「ミエールお姉様が有能だからだわ……!」

 許せない、とルチアは眉を吊り上げた。

「実際、ミエールお姉様はお父様よりも外交や政治の手腕に長けていらっしゃるもの。そんなミエールお姉様を手に入れたくなったのね!?」

「王族の中で唯一表舞台に出てくるリュミエール様の評判は、とても良いからね。美しく、聡く、時として冷酷な『氷の王女様』」

「ルチア様。本日、午後からスピナ国との会談があります。フェリクス王子もいらっしゃるようですが」

 侍女の言葉にルチアは拳を突き上げ、踵を返した。

「ぶっ潰す!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...