オオクワガタを探していたら攫われた王女を見つけた話

ままはる

文字の大きさ
20 / 33

20.婚約

しおりを挟む
(予想通りの展開だわ!)

 来客時用のドレスに着替えたルチアは、ハイヒールを高らかに鳴らしながら応接室の前で立ち止まり、ひとつ息を吐く。

(フェリクス王子は、絶対にミエールお姉様じゃないと嫌だと言うはず。そうなれば一連の真相を暴露してやる!)

 証拠は何ひとつ無いのが不安ではあるけれど、怒りに突き動かされているルチアにはそこまで考える余裕が無かった。
 応接室のドアを潜り、フェリクスの前まで進んだルチアはドレスの裾を摘んで礼を取る。

「お初にお目にかかります、フェリクス様。バルドレインの第三王女、ルチア=アウローラ=バルドレインと申します」

「うん。いいよ」

 ルチアが顔を上げるや否や、フェリクスは満面の笑顔で即答した。

「婚約はルチア様といたします」

「は? ……え? いや、待ってください?」

「ルチア様は確かまだ15歳でしたね。では婚約を結び、18になられましたら結婚という事で――」

 ルチアの予想は大きく外れ、婚約の話がとんとん拍子に進んでいく。

「我が国の国王陛下にも報告せねばなりませんので、正式な婚約は後日改めてということにいたしましょう」

 来訪時とは一転、和やかな空気で城を後にするフェリクス王子とスピナ国の使者たち。ルチアはあれから一言も発することが出来ず、ただポカンと口を開けて彼らを見送った。

「――ルチア」

 妹の名を呼んだリュミエールの声は小さく、そしてどこか冷たくて、ルチアの肩がびくりと揺れた。

「は、はい……ミエールお姉様……」
「これは貴女が望む形ですか?」
「えっとぉ……」

 リュミエールは時々、こうやって氷のように冷たい目を向ける。それが敵意や悪意では無いことはわかっているけれど、それでも心の中を見透かされているような気持ちになって、ルチアは怖かった。

「予想外……って言うか、こんなはずじゃなかったって言うか……」

 ゴニョゴニョと口の中で言い淀むルチアの目を、リュミエールは真っ直ぐに見つめる。

「どうした、ルチア? フェリクス王子が気に入らなかったのか? 確かに偉そうな態度が鼻についたが、お前を見る目は優しそうであったし、悪くはないと思うが」

「お父様……そういうわけでは……」

 スピナ国がリュミエールを手に入れる為の策略だった――その推理がガラガラと音を立てて崩れた今、ルチアは何も考えることが出来ない。

「ルチア!」

 別室で待機していたレティシアが、小走りでルチアの元へとやって来た。

「どうしましょう……私の代わりにルチアが……」
「ティアお姉様……」

 レティシアの優しい声を聞いて、ルチアの涙腺が一気に緩む。

「ティアお姉様ぁぁ……!」

「まぁ、大変! 泣くほど嫌だなんて……やはり私、フェリクス様を追って直談判を――」

「おやめなさい、レティシア」

 ハイヒールを脱いで走り出そうとしたレティシアを、鋭い声で制止するリュミエール。それから彼女は王へと向き直った。

「お父様。愚妹たちを暫くお借りいたしますわ」

「ああ。それは構わないが……?」

「城内におりますので、付き人は不要です」

 リュミエールは妹たちに視線を配ると、廊下を歩き出した。ルチアとレティシアは顔を見合わせ、その後に続く。

「ミエールお姉様……こんな事を申し上げるのは憚られるのですが、城内に私を快く思っていない者がいるやもしれません……」

「そのような者はおりません」

 真っ直ぐに前を見据えたリュミエールは、レティシアの言葉をばっさりと切り捨てた。

「私も最初はそうかと疑っていました」

 長い廊下をひたすら進む。渡り廊下を抜け、普段は立ち入る事のない離れへと向かいながら、リュミエールは言葉を紡いだ。

「第二王女のレティシアがいなくなって得をする人物――例えば……そうね。第三王女であるルチアとか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

婚約者が多すぎる

あんど もあ
ファンタジー
器量も知力も魔力も平凡な第三王女アネット。もうじき16歳になるというのに、政略結婚の話も無い。私ってモテないから、と本人は思っているけど、彼女は無自覚しごでき王女だった。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...