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20.婚約
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(予想通りの展開だわ!)
来客時用のドレスに着替えたルチアは、ハイヒールを高らかに鳴らしながら応接室の前で立ち止まり、ひとつ息を吐く。
(フェリクス王子は、絶対にミエールお姉様じゃないと嫌だと言うはず。そうなれば一連の真相を暴露してやる!)
証拠は何ひとつ無いのが不安ではあるけれど、怒りに突き動かされているルチアにはそこまで考える余裕が無かった。
応接室のドアを潜り、フェリクスの前まで進んだルチアはドレスの裾を摘んで礼を取る。
「お初にお目にかかります、フェリクス様。バルドレインの第三王女、ルチア=アウローラ=バルドレインと申します」
「うん。いいよ」
ルチアが顔を上げるや否や、フェリクスは満面の笑顔で即答した。
「婚約はルチア様といたします」
「は? ……え? いや、待ってください?」
「ルチア様は確かまだ15歳でしたね。では婚約を結び、18になられましたら結婚という事で――」
ルチアの予想は大きく外れ、婚約の話がとんとん拍子に進んでいく。
「我が国の国王陛下にも報告せねばなりませんので、正式な婚約は後日改めてということにいたしましょう」
来訪時とは一転、和やかな空気で城を後にするフェリクス王子とスピナ国の使者たち。ルチアはあれから一言も発することが出来ず、ただポカンと口を開けて彼らを見送った。
「――ルチア」
妹の名を呼んだリュミエールの声は小さく、そしてどこか冷たくて、ルチアの肩がびくりと揺れた。
「は、はい……ミエールお姉様……」
「これは貴女が望む形ですか?」
「えっとぉ……」
リュミエールは時々、こうやって氷のように冷たい目を向ける。それが敵意や悪意では無いことはわかっているけれど、それでも心の中を見透かされているような気持ちになって、ルチアは怖かった。
「予想外……って言うか、こんなはずじゃなかったって言うか……」
ゴニョゴニョと口の中で言い淀むルチアの目を、リュミエールは真っ直ぐに見つめる。
「どうした、ルチア? フェリクス王子が気に入らなかったのか? 確かに偉そうな態度が鼻についたが、お前を見る目は優しそうであったし、悪くはないと思うが」
「お父様……そういうわけでは……」
スピナ国がリュミエールを手に入れる為の策略だった――その推理がガラガラと音を立てて崩れた今、ルチアは何も考えることが出来ない。
「ルチア!」
別室で待機していたレティシアが、小走りでルチアの元へとやって来た。
「どうしましょう……私の代わりにルチアが……」
「ティアお姉様……」
レティシアの優しい声を聞いて、ルチアの涙腺が一気に緩む。
「ティアお姉様ぁぁ……!」
「まぁ、大変! 泣くほど嫌だなんて……やはり私、フェリクス様を追って直談判を――」
「おやめなさい、レティシア」
ハイヒールを脱いで走り出そうとしたレティシアを、鋭い声で制止するリュミエール。それから彼女は王へと向き直った。
「お父様。愚妹たちを暫くお借りいたしますわ」
「ああ。それは構わないが……?」
「城内におりますので、付き人は不要です」
リュミエールは妹たちに視線を配ると、廊下を歩き出した。ルチアとレティシアは顔を見合わせ、その後に続く。
「ミエールお姉様……こんな事を申し上げるのは憚られるのですが、城内に私を快く思っていない者がいるやもしれません……」
「そのような者はおりません」
真っ直ぐに前を見据えたリュミエールは、レティシアの言葉をばっさりと切り捨てた。
「私も最初はそうかと疑っていました」
長い廊下をひたすら進む。渡り廊下を抜け、普段は立ち入る事のない離れへと向かいながら、リュミエールは言葉を紡いだ。
「第二王女のレティシアがいなくなって得をする人物――例えば……そうね。第三王女であるルチアとか」
来客時用のドレスに着替えたルチアは、ハイヒールを高らかに鳴らしながら応接室の前で立ち止まり、ひとつ息を吐く。
(フェリクス王子は、絶対にミエールお姉様じゃないと嫌だと言うはず。そうなれば一連の真相を暴露してやる!)
証拠は何ひとつ無いのが不安ではあるけれど、怒りに突き動かされているルチアにはそこまで考える余裕が無かった。
応接室のドアを潜り、フェリクスの前まで進んだルチアはドレスの裾を摘んで礼を取る。
「お初にお目にかかります、フェリクス様。バルドレインの第三王女、ルチア=アウローラ=バルドレインと申します」
「うん。いいよ」
ルチアが顔を上げるや否や、フェリクスは満面の笑顔で即答した。
「婚約はルチア様といたします」
「は? ……え? いや、待ってください?」
「ルチア様は確かまだ15歳でしたね。では婚約を結び、18になられましたら結婚という事で――」
ルチアの予想は大きく外れ、婚約の話がとんとん拍子に進んでいく。
「我が国の国王陛下にも報告せねばなりませんので、正式な婚約は後日改めてということにいたしましょう」
来訪時とは一転、和やかな空気で城を後にするフェリクス王子とスピナ国の使者たち。ルチアはあれから一言も発することが出来ず、ただポカンと口を開けて彼らを見送った。
「――ルチア」
妹の名を呼んだリュミエールの声は小さく、そしてどこか冷たくて、ルチアの肩がびくりと揺れた。
「は、はい……ミエールお姉様……」
「これは貴女が望む形ですか?」
「えっとぉ……」
リュミエールは時々、こうやって氷のように冷たい目を向ける。それが敵意や悪意では無いことはわかっているけれど、それでも心の中を見透かされているような気持ちになって、ルチアは怖かった。
「予想外……って言うか、こんなはずじゃなかったって言うか……」
ゴニョゴニョと口の中で言い淀むルチアの目を、リュミエールは真っ直ぐに見つめる。
「どうした、ルチア? フェリクス王子が気に入らなかったのか? 確かに偉そうな態度が鼻についたが、お前を見る目は優しそうであったし、悪くはないと思うが」
「お父様……そういうわけでは……」
スピナ国がリュミエールを手に入れる為の策略だった――その推理がガラガラと音を立てて崩れた今、ルチアは何も考えることが出来ない。
「ルチア!」
別室で待機していたレティシアが、小走りでルチアの元へとやって来た。
「どうしましょう……私の代わりにルチアが……」
「ティアお姉様……」
レティシアの優しい声を聞いて、ルチアの涙腺が一気に緩む。
「ティアお姉様ぁぁ……!」
「まぁ、大変! 泣くほど嫌だなんて……やはり私、フェリクス様を追って直談判を――」
「おやめなさい、レティシア」
ハイヒールを脱いで走り出そうとしたレティシアを、鋭い声で制止するリュミエール。それから彼女は王へと向き直った。
「お父様。愚妹たちを暫くお借りいたしますわ」
「ああ。それは構わないが……?」
「城内におりますので、付き人は不要です」
リュミエールは妹たちに視線を配ると、廊下を歩き出した。ルチアとレティシアは顔を見合わせ、その後に続く。
「ミエールお姉様……こんな事を申し上げるのは憚られるのですが、城内に私を快く思っていない者がいるやもしれません……」
「そのような者はおりません」
真っ直ぐに前を見据えたリュミエールは、レティシアの言葉をばっさりと切り捨てた。
「私も最初はそうかと疑っていました」
長い廊下をひたすら進む。渡り廊下を抜け、普段は立ち入る事のない離れへと向かいながら、リュミエールは言葉を紡いだ。
「第二王女のレティシアがいなくなって得をする人物――例えば……そうね。第三王女であるルチアとか」
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