オオクワガタを探していたら攫われた王女を見つけた話

ままはる

文字の大きさ
21 / 33

21.氷の王女

しおりを挟む
「ひゃんっ!?」

 口から心臓が飛び出す勢いで、変な声を漏らすルチア。

「な、ななな何を仰っているのですか!? ティアお姉様がいなくなって、私が喜ぶはずがないではないですか!」

 離れの入り口を守る護衛と言葉を交わし、中に入る3人。レティシアもルチアもここに入るのは初めてだった。
 この建物には大きな窓が無く、薄暗い。華やかな飾りや柔らかい絨毯も敷かれておらず、打ちっぱなしの床と壁が酷く冷たい印象を受ける。

「……レティシアが戻らない間のルチアを見て、邪な気持ちがあったわけではないことは理解しました」

「それはどういう……?」

「初めに貴女を攫おうとした犯人は、ルチアです」

「あああああの……そ、それは……その……」

 顔面から止めどなく汗が噴き出てくるルチア。その時になって初めて、彼女はここがどこなのかを理解した。
 ――牢獄だ。

「ミミミミエールお姉様!? わ、私を投獄なさるおつもりですか……!?」

 リュミエールは足を止め、末の妹を振り返った。そして形の良い唇を歪め、笑う。

「ごめんなさいぃぃぃ! 私は、ティアお姉様の立場が欲しいとか、そんなんじゃないんですぅぅ! ただ、ティアお姉様が遠くにお嫁に行ってしまうのが寂しくて……っ!」

「まぁ、ルチア……」

 レティシアにしがみ付き、滝のような涙を流すルチア。

「まだ死にたくないですぅぅぅ!」
「……ルチア」

 泣き喚くルチアに、リュミエールは小さく息を吐く。

「貴女に邪な気持ちがあったわけではないことは理解した、と申し上げたでしょう?」

「じ、じゃあ……?」

 リュミエールは再度歩みを進め、地下室へと入った。衛兵に頑丈な鉄の扉の鍵を開けさせて潜り抜ける。
 この先は、重罪人を収監する独房である。

「『彼女』には少々辛い思いをさせてしまいましたが、本来であれば死罪ですよ」

「彼女……?」

 リュミエールが足を止めた先にいたのは、ルチアのよく知る顔だった。

「アリエッタ!?」
「ルチア様!」

 レティシアの誘拐を実行した、ルチアの侍女だ。

「アリエッタ、生きていたのね!? 良かったぁぁぁ!」

「ルチア様……申し訳ございません! 全てリュミエール様に話してしまいました……!」

 檻の中でアリエッタは、深く頭を下げる。そんな侍女とルチア、そしてリュミエールを交互に見遣り、レティシアは首を傾げた。

「ミエールお姉様? これは一体、どういうことなのですか?」

「レティシアが誘拐されたすぐ後、アリエッタは自首しました。ルチアの本心を窺う為に黙っていましたが、この子は本当にレティシアを慕っていた」

 待てど暮らせど戻らないレティシアに、ルチアは分かりやすく動揺していた。朝晩泣き崩れ、毎日見張り台に立っては姉の帰還を待ち侘びていた。ルチアに悪意が無かったことは明らかだった。

「私たちはそれぞれ異なる母を持つ姉妹。覇権争いを好む臣下が黒幕かと思っていましたが、犯人は私たちが『変身魔法』を使えることを知らないということでした」

 この城の中枢の人間であれば、この姉妹が変身魔法を使えることなど当たり前に知っている。

「ミエールお姉様。あの勇者たちが、お姉様を攫った暗殺者はスピナ国の者だと暴いていましたわ」
「やはり……」

 リュミエールはアリエッタの牢の鍵を開けながら、小さく唸る。

「ミエールお姉様との婚約が目的だったら、犯人確定だったのですが……」

 しかしフェリクス王子は、ルチアとの婚約を快諾した。犯人はスピナ国の誰かで間違いなさそうだが、また動機がわからなくなってしまった。

「アリエッタ、出なさい。真犯人がこの城の人間ではないのなら、もう隠れている必要はありません」

「……しかし、リュミエール様……」

 申し訳なさそうに檻から出るアリエッタ。

「この2ヶ月、十分反省したでしょう? あとは愚かな作戦を立てた貴女の主が責任を取ります」
「……私?」

 リュミエールは氷のような笑みを浮かべる。

「何としても、犯人を見つけなさい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...