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23.ベチャベチャでペラペラ
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(くそっ! くそ! くそがっ!)
宿の裏口から外へ飛び出し、群衆に紛れ込む暗殺者。その内心は煮えくりかえっている。
暗殺者として生きてきて数十年、一度ならず二度も失敗するなど、これまでにはあり得ないことだった。
「ふざけるなっ!」
ノアたちが追ってこない事を確認してから、人気の無い路地に入る。そして堪え切れず言葉を吐き出し、固く握った拳を壁に打ちつけた。
雇い主からは、既に依頼の終了を告げられている。そもそも依頼は、レティシア王女を攫うことだ。一度目の襲撃で奪還し損ねたが、依頼人からはそれを咎められることは無かった。
このまま立ち去ればいい。依頼は完了している。
だが。
「絶対に殺してやる……っ!」
この暗殺者は、重度の厨二病患者である。
――一方、暗殺者に逃げられたノアたち。
「あ、あのぉ……勇者様……? お料理がお口に合わなかったのでしょうか……?」
キッチンにいたシェフが恐る恐るやって来て、及び腰でノアたちに尋ねた。
デザートを提供したものの、それが気に入らなくてノアが禍々しい魔法をぶっ放した――という状況だとシェフは理解したのである。
「合わない」
「も……! 申し訳ございませんっ! 差し支えなければ、どこが至らなかったのかご教授願えますでしょうか!?」
ノアの一言にシェフは顔色を変え、深く頭を下げる。
「ケチャップでベチャベチャのチキンライスに、卵がペラペラのオムライスがいい」
「ベチャベチャでペラペラの……!?」
「あ、こいつの戯言は気にしないでください。お料理、とっても美味しかったです。でもデザートは毒が入っているので、このまま破棄してくださいね」
そう言ってルルは、シェフに皿を渡して下げてもらう。
「まったく、照れ屋なニンジャだな……」
ノアはまたしてもニンジャのサインを得られなかった事に、肩を落とした。
「ちょっとノア……さっきの魔法剣、何なの? 知らない間にレベルアップしてるじゃない……」
今まで一振りの剣の形しか見た事の無かったルルは、信じられないといった顔でノアを見る。エヴァンも同様で、だからこそ逃げる暗殺者を追う事を忘れていた。
「『暗黒無限剣』と名付けようと思う」
「……ネーミングセンスが終わってるわね」
大きなあくびをするノアに、呆れるルル。
いつも眠たそうな目をしているノアだが、更に瞼が落ちてきている。
「あれだけの魔法剣を一度に出したんだし、大分眠たくなったんじゃない?」
「んー……それなりに」
体が少し重たくなった。頭の中もぼんやりとしていて、今ベッドに入って眠れたら気持ちがいいかもしれない、と思う。
「一度チャレンジしてみる?」
「……うん」
食堂を後にして、ノアたちは部屋に戻る。
「七彩角オオクワガタは――」
「時間になったらちゃんと起こすわよ」
ノアをベッドに押し込んで、部屋の明かりを消すルル。
「ここのベッドの寝心地は最高だから、もしかしたら眠れるかもしれないわね」
淡い期待を抱きながら、ルルとエヴァンはノアの部屋から出て行った。
「……」
真っ暗になった部屋で、ノアは目を閉じてみる。
部屋の中が静寂で満ちると、窓の外の群衆たちの声がやけに耳につくようになった。
ザワザワ、ザワザワ。
あまりにも耳障りで、ノアは薄い掛け布団を頭まで被せる。
僅かに話し声は遠くなったが、それでもやはり気になって仕方がない。それに布団から漂うこのフローラルな匂いも、嗅ぎ慣れていなくて不快だ。
(働きアリを数えよう)
頭の中で、巣から出てくるアリをイメージしてみる。
(1匹、2匹、3匹……――)
「眠れない」
約1時間でギブアップしたノアが、リビングのルルとエヴァンのところへとやって来た。
「頭の中で働きアリを数えてみたが、途中から働かないアリが出て来て、働きアリが1576匹、働かないアリが313匹……さすがに混乱してきたからやめた」
「想像の中に働かないアリを出す必要ある?」
「やっぱりダメだったか」
ソファでうたた寝をしていたルルと、本を読んでいたエヴァンは苦笑する。
「さっきまでルルと相談していたんだけど、やっぱり今夜はクワガタ探しは諦めた方がいいかもしれないね」
「……なんで」
露骨に不機嫌な声で問うノア。
「夜中になれば外の人たちも減るとは思うけど、多分ゼロにはならないよ。僕たちが出て行けば騒ぎになるし、公園まで付いてくるかもしれない。そんなの、ノアだって嫌だろ?」
「……」
ノアは子供のように頬を膨らませ、エヴァンを睨む。睨むだけで反論しないのは、エヴァンが正しいのが分かっているから。
やがてルルとエヴァンに背中を向けると、ノアは自室へと引き返していった。
「フラストレーション、溜まってきてるね」
「……大丈夫かな?」
顔を見合わせるルルとエヴァン。
「昨日も寝ていないし、今夜も眠れなかったら、明日あたりに『アレ』が始まるわよね?」
眠いのに眠れない――そんなノアが不機嫌を撒き散らす『癇癪』のことである。
「いつも通りならいいけど、大分ストレス溜まってそうだから怖いなぁ。さっきの食堂での大技も、ストレスからきてたんじゃないかな」
慣れない食事に、外の騒音。部屋の匂い。憧れのニンジャには逃げられ、クワガタ探しどころか外にも出られない。加えて不眠2日目である。ノアが抱えているストレスの大きさは、想像に難く無い。
「……ティア様、呼んでくる?」
「たまたまティア様が気さくな方だっただけで、本来僕たちが気安く会いに行けるような方じゃないでしょ」
「だよねー……」
たったの1日行動を共にしただけなのに、この寂しさは何だろうかとルルは思う。
「友達になりたかったなぁ」
宿の裏口から外へ飛び出し、群衆に紛れ込む暗殺者。その内心は煮えくりかえっている。
暗殺者として生きてきて数十年、一度ならず二度も失敗するなど、これまでにはあり得ないことだった。
「ふざけるなっ!」
ノアたちが追ってこない事を確認してから、人気の無い路地に入る。そして堪え切れず言葉を吐き出し、固く握った拳を壁に打ちつけた。
雇い主からは、既に依頼の終了を告げられている。そもそも依頼は、レティシア王女を攫うことだ。一度目の襲撃で奪還し損ねたが、依頼人からはそれを咎められることは無かった。
このまま立ち去ればいい。依頼は完了している。
だが。
「絶対に殺してやる……っ!」
この暗殺者は、重度の厨二病患者である。
――一方、暗殺者に逃げられたノアたち。
「あ、あのぉ……勇者様……? お料理がお口に合わなかったのでしょうか……?」
キッチンにいたシェフが恐る恐るやって来て、及び腰でノアたちに尋ねた。
デザートを提供したものの、それが気に入らなくてノアが禍々しい魔法をぶっ放した――という状況だとシェフは理解したのである。
「合わない」
「も……! 申し訳ございませんっ! 差し支えなければ、どこが至らなかったのかご教授願えますでしょうか!?」
ノアの一言にシェフは顔色を変え、深く頭を下げる。
「ケチャップでベチャベチャのチキンライスに、卵がペラペラのオムライスがいい」
「ベチャベチャでペラペラの……!?」
「あ、こいつの戯言は気にしないでください。お料理、とっても美味しかったです。でもデザートは毒が入っているので、このまま破棄してくださいね」
そう言ってルルは、シェフに皿を渡して下げてもらう。
「まったく、照れ屋なニンジャだな……」
ノアはまたしてもニンジャのサインを得られなかった事に、肩を落とした。
「ちょっとノア……さっきの魔法剣、何なの? 知らない間にレベルアップしてるじゃない……」
今まで一振りの剣の形しか見た事の無かったルルは、信じられないといった顔でノアを見る。エヴァンも同様で、だからこそ逃げる暗殺者を追う事を忘れていた。
「『暗黒無限剣』と名付けようと思う」
「……ネーミングセンスが終わってるわね」
大きなあくびをするノアに、呆れるルル。
いつも眠たそうな目をしているノアだが、更に瞼が落ちてきている。
「あれだけの魔法剣を一度に出したんだし、大分眠たくなったんじゃない?」
「んー……それなりに」
体が少し重たくなった。頭の中もぼんやりとしていて、今ベッドに入って眠れたら気持ちがいいかもしれない、と思う。
「一度チャレンジしてみる?」
「……うん」
食堂を後にして、ノアたちは部屋に戻る。
「七彩角オオクワガタは――」
「時間になったらちゃんと起こすわよ」
ノアをベッドに押し込んで、部屋の明かりを消すルル。
「ここのベッドの寝心地は最高だから、もしかしたら眠れるかもしれないわね」
淡い期待を抱きながら、ルルとエヴァンはノアの部屋から出て行った。
「……」
真っ暗になった部屋で、ノアは目を閉じてみる。
部屋の中が静寂で満ちると、窓の外の群衆たちの声がやけに耳につくようになった。
ザワザワ、ザワザワ。
あまりにも耳障りで、ノアは薄い掛け布団を頭まで被せる。
僅かに話し声は遠くなったが、それでもやはり気になって仕方がない。それに布団から漂うこのフローラルな匂いも、嗅ぎ慣れていなくて不快だ。
(働きアリを数えよう)
頭の中で、巣から出てくるアリをイメージしてみる。
(1匹、2匹、3匹……――)
「眠れない」
約1時間でギブアップしたノアが、リビングのルルとエヴァンのところへとやって来た。
「頭の中で働きアリを数えてみたが、途中から働かないアリが出て来て、働きアリが1576匹、働かないアリが313匹……さすがに混乱してきたからやめた」
「想像の中に働かないアリを出す必要ある?」
「やっぱりダメだったか」
ソファでうたた寝をしていたルルと、本を読んでいたエヴァンは苦笑する。
「さっきまでルルと相談していたんだけど、やっぱり今夜はクワガタ探しは諦めた方がいいかもしれないね」
「……なんで」
露骨に不機嫌な声で問うノア。
「夜中になれば外の人たちも減るとは思うけど、多分ゼロにはならないよ。僕たちが出て行けば騒ぎになるし、公園まで付いてくるかもしれない。そんなの、ノアだって嫌だろ?」
「……」
ノアは子供のように頬を膨らませ、エヴァンを睨む。睨むだけで反論しないのは、エヴァンが正しいのが分かっているから。
やがてルルとエヴァンに背中を向けると、ノアは自室へと引き返していった。
「フラストレーション、溜まってきてるね」
「……大丈夫かな?」
顔を見合わせるルルとエヴァン。
「昨日も寝ていないし、今夜も眠れなかったら、明日あたりに『アレ』が始まるわよね?」
眠いのに眠れない――そんなノアが不機嫌を撒き散らす『癇癪』のことである。
「いつも通りならいいけど、大分ストレス溜まってそうだから怖いなぁ。さっきの食堂での大技も、ストレスからきてたんじゃないかな」
慣れない食事に、外の騒音。部屋の匂い。憧れのニンジャには逃げられ、クワガタ探しどころか外にも出られない。加えて不眠2日目である。ノアが抱えているストレスの大きさは、想像に難く無い。
「……ティア様、呼んでくる?」
「たまたまティア様が気さくな方だっただけで、本来僕たちが気安く会いに行けるような方じゃないでしょ」
「だよねー……」
たったの1日行動を共にしただけなのに、この寂しさは何だろうかとルルは思う。
「友達になりたかったなぁ」
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