【完結】のじゃロリ狐娘に転生した俺。守り神として村人を英雄覚醒させ、邪悪な帝にざまぁします。

アキ・スマイリー

文字の大きさ
35 / 42

第35話 目覚める白金の力。

しおりを挟む
    白金の脳裏に、五体に引き裂かれる銀杏の姿が、何度も繰り返される。

「うあああっ! やめろぉー! 」

 涙を流し、苦しみ悶える白金。幻覚だとはわかっている。だがその光景は、確実に白金の心を蝕んでいった。

(死なないでくれ銀杏!やっと、やっと会えたのに。死んでしまったお前を、また見つける事が出来たのに......銀杏......来人......輝夜(かぐや)......ん? 輝夜って誰だっけ?)

 唐突に心に浮かんだ名前に、白金は戸惑った。

(わしは輝夜。そう言ったのじゃぞ?)

 銀杏の言葉が思い返される。そうだ。あれはあいつが緑爪を倒した時......。

 前世の記憶。そうだ、アイツは前世の記憶を取り戻した、そう言っていた。そして俺の前世が大和という人間の男で、自分は人神だったと。人と神の禁じられた恋をして、罰を受けて殺されてしまったんだと。

(そうだ。お前は大和(やまと)。つまり俺だ)

 白金の心に、男の声が響く。

(大和!? 前世の俺か!?)

(ああ、そうだ。俺はお前の前世の記憶だ。輝夜が危険な状態にあるみたいだからな。自動的に能力が発動した。その名も『必勝祈願』)

(なんか、神社の御守りみたいな名前だな)

(まぁな。とりあえずこの能力が発動している限り、お前は無敵だ。輝夜の為の勇者になる、みたいな感じだな)

(へぇ。じゃあとりあえず、さっきから流れてるこの悪趣味な映像、消せるか?)

(容易い。さぁ、行こうぜ俺。鬼退治だ)

(ああ。俺はお前。お前は俺だ)

 大和の記憶と意識が統一されたのを、白金は感じた。

 目を開き、自分の頭を鷲掴みにしている酒呑童子の腕を掴む。酒呑童子の腕の骨が、ミシミシと軋む。

「うぐぁぁっ! なんだこの力は! 貴様、なぜ絶望しない!」

 白金は答えない。メギョッと音がして、酒呑童子の腕は砕け折れた。

「うぎゃああっ! 腕が、俺の腕がぁー!」

 白金は達観した表情で、泣き叫ぶ酒呑童子の眉間に、人差し指をあてた。

「我が名は大和。愛しき輝夜姫を守る、勇者なり。鬼よ、偉大なる輝夜姫様の名の下に、貴様を封じる」

「くっ、俺を封じる事など、誰にも出来ん! 」

 酒呑童子は涙を流しながらも、虚勢を張った。

「知っているとも。だから別の方法を取る。俺の秘奥義『握手』で、お前の邪心を消滅させる」

 酒呑童子の顔が真っ青になる。

「そんな事、出来るはずない。八雲にだって出来なかった事を、お前なんかに出来るはずが......」

「出来るさ。今の俺にならな。察しのいいお前の事だ。俺が嘘をついていない事ぐらい、お見通しなんだろ?」

「ひぃぃっ! 嫌だ! 嫌だ! うわぁぁー!」

 逃げようと足掻く酒呑童子だが、白金のひと睨みで動けなくなっている。

 白金は動けなくなった酒呑童子にゆっくりと近づき、彼の手を握った。その瞬間、酒呑童子の体が眩しく光り輝く。

「なんだ、この光は......暖かい。まるで、母上に抱きしめられているみたいだ......」

「酒呑童子。お前も本当は優しい心を持っているはず。幼い頃を思い出せ。母親の愛情を思い出すんだ」

   白金の言葉に、涙を流す酒呑童子。

「ああ......母上......」

「ほうら、もうお前は、すっかりいい奴に戻った。さぁ、俺とお前は今日から友達だ。もう悪さはしないよな? 木蓮の力になってやって欲しいんだ」

「うん。俺、約束するよ。もう悪さはしない。白金の友達として、ちゃんと木蓮の力になる。こいつの事、守っていくよ」

   酒呑童子は、嬉しそうに、そして満足そうに微笑んだ。

「ああ、頼んだぜ酒呑童子」

   すーっと、木蓮の体から光が消えていく。そしてがっくりと膝をつく酒呑童子......もとい、木蓮。

「あれ? 俺、どうしてこんな所に......白金、俺、何がなんだか」

 木蓮の姿は、人間に戻っていた。目を白黒させて、周囲を見回している。

「まぁ、説明は後だ。とりあえず一緒に来てもらおう」

 白金は戸惑う木蓮と、気を失ったままの銀杏を両脇に抱え、颯爽と飛翔で飛び立った。

【銀杏視点】

「本当に、すいませんでした!」

  木蓮はそう叫び、頭を床に擦り付けて土下座した。

  ここは亜水の屋敷の一階、大広間だ。主に人が集まった際などに使う為の部屋である。

 屋敷の主人である亜水が中央に座り、その横に葉月、日凛、ドラザエモンの四人。全員が覚醒済みだ。

  その正面に座り、謝罪する木蓮。左横には塁火が寄り添っている。オレは木蓮の右横。オレの右隣には白金がいる。今回の騒動の説明役として、付き添って来たのだ。

  木蓮は全員が着席するなり、即座に謝罪して土下座した。オレは木蓮の気持ちを汲み、そのまま説明をする事にした。

  亜水一家は真剣な表情でオレの説明を聞いていたが、事情を知って、全てを許してくれた。

「顔をあげてくれ、木蓮。私たちは家族も同然。子供のした事は親にも責任がある。君の中の鬼に、すぐ気がついてあげられなかった。すまなかったね。さぁ、もう全て水に流そうじゃないか。なぁ葉月」

「はい、あなた。私ならもう気にしていません。木蓮君、塁火ちゃん、一緒にお昼ご飯、食べましょう」

  亜水も葉月も優しく微笑んでいた。

「早く食おうよ、お母さん。オレ、腹減っちまった。今日は木蓮兄ちゃんの好きな、焼き魚と煮付けだぜ」

「木蓮兄ちゃん旅に出てたからさ、一緒にご飯食べるの久しぶりだね!」

  ドラザエモンと日凛も、満面の笑顔だ。

「みんな......ありがとう」

「良かったね、お兄ちゃん」

  大粒の涙を流す木蓮の背を、塁火がいたわるようにさする。

 ちなみに木蓮がさらった村娘たちには、ここに来る前に謝罪を済ませてある。オレの顔もあるのかも知れないが、みな、快く許してくれた。

  この新都の者たちは、全員心に傷を持つ。だからこそ、人の痛みを自分の事のように思いやれるのだ。

  こんな素晴らしい人々を守る事が出来る。守り神として、こんなに幸せな事はない。

「木蓮、塁火、お言葉に甘えて、亜水たちと一緒に昼食をとるが良い。わしと白金は、少し気になる事があるでな。ここらで失礼するぞよ」

  オレは白金を促し、その場を後にした。みんなは名残おしそうに引き止めてくれたが、どうしても今、白金と話しておきたかった。

  オレと白金の家に帰り、オレは食事を用意した。術を併用しながらではあったけど、なんか奥さんになったみたいで幸せを感じた。元おっさんなのに、変な話だけどさ。でも今のオレの心は、もう完全に狐娘の銀杏になっていた。

「おっ、美味い。料理、上手じゃねぇか銀杏。この味は料亭を超えるぜ」

「ほ、褒めすぎじゃ。術も使ったし......でも、嬉しいぞよ。はい、あーんして」

  白金に肩を抱かれながら、彼の口に料理を運ぶ。

「美味いか? ふふ、良かった。時に白金よ。先程皆にも話したが、わしには気になる事がある。それは木蓮の心を支配した『酒呑童子の邪心』についてじゃ」

  オレは八雲が話してくれた事を、白金に説明した。

「なるほどな。確かに人為的に壊されたんだろう。結界が張られていた以上、自然と石像が壊れる事は無いはずだ。となると、都の奴がやったのか?」

「うむ。それも恐らく、相当な霊力の持ち主じゃろう。わしらと同等か、それ以上じゃろうな。じゃが、紅蓮ではないと思う。そんな事をしても、なんの特にもならぬじゃろうしな。まぁいずれにしれも、目的は分からぬままじゃ。八雲殿に恨みを持つ者の犯行と見るのが、一番有力かのう」

  オレがそう言うと、白金も同意した。

「紅蓮様は、自分の利にならない事はしない方だ。八雲とやらには興味もないだろうよ。俺の事は、なんだか気に入ってくれていたようだけどな」

 白金によると、紅蓮は俺によく似た女で、狼のような姿をしているらしい。それで眷属だった白金も、狼のような姿をしていたのだ。

「まさかお主、紅蓮に惚れられておるのか?」

「うーん、どうだろうな。なんかそれっぽい事は良く言われてたけど......」

  間違いない。紅蓮は白金に惚れている。女の勘だ。元おっさんだけどな!

  って事は、白金が死んだと聞いて、紅蓮はかなり落胆しているはずだ。オレへの恨みも深いはず。

  もしも彼女がこの新都を訪れて来た時は......覚悟を決めなくてはならないだろうな。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...