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第2話
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4
思ったより私たち「家族」は上手くいった。
世間では義母による虐待やネグレクトの話も珍しくないみたいだけど、私たちの間ではそうしたことはなかった。
ただそれでも乗り越えられない小さな溝のようなものは心のどこかに感じていた。
物心つかない時に一緒になってれば別だったかもしれない。しかし義母さんも私も成長してしまってる。仕方なかった。
お互いにそれを感じていながら私たちはそれを意識しないよう振舞ったし、それは
大きなわだかまりとはならなかった。
なによりそれは莉奈の存在があったからかもしれない。
どこか遠慮があった私と違い、いつもあけっぴろげで感情を丸出しにする妹。
「パパー、お土産買ってきてくれるって言ったじゃない!」
「すまん、忙しくてな」
義理の間柄でも関係ない。
すぐに「パパ」になじんだ莉奈は、はたから見たら本当の親子のようになっていた。
天真爛漫で裏表もない性格。全力で本音で相手にぶつかる妹。
それがかえって本物の家族のふれあいとなった。
どこか私たちは莉奈が中心に回ってるようなところもあった。
同居する前に父から言われたこと。
「おまえがお姉ちゃんなんだから。守ってやるんだぞ」
義母さんも同じことを言った。
「莉奈を守ってあげてね」
家族……
つながっていない部分をつなげるように、私の人生は莉奈と二人で一つになった気がした。
5
「おねーちゃん、聞いて! ひどいのよあの子」
「なに、櫂君のこと?」
明るく人懐っこく、誰にでもオープン。お人形のように愛らしい顔立ち。
妹は成長するにつれ男の子から人気となり、デートの相手にも不足しない。しかしあけっぴろげで感情を隠さない性格は時に周りを振り回す嵐ともなる。
ボーイフレンドができたかと思うと喧嘩別れ。デートまでこぎつけてもトラブル続き。気分次第で付き合う相手も変える。振り回される男の子もかわいそうだった。
「あいつ最低! もう別れるから」
「別れるって、あんた、付き合ってまだ三日目でしょうが」
「だって~私服もダサいし、ぜんぜん気がきかないし、いっつもモタモタしてる頭来ちゃって。あんなのパス」
「長く付き合えばね、相手のいい所だって見えてくるのよ」
「無理。ねっ、だからお願い」
莉奈は拝むまねをして、ここで私にお鉢がまわってくるのだ。
別れを告げるのは誰でも気まずい。もめる。
だから嫌なことは「お姉ちゃん」にやってもらうというわけだ。
若い学生ばかりだから別れを告げる時にはややこしい。
ショックで泣きそうになる男の子や、パニックになって莉奈を出してくれと叫ぶ子。
交際経験が豊富ではなかった私が、別れ話だけは巧みになったのは皮肉としか言いようがない。
恋、お金、服、下宿……
大人になっても莉奈は変わらなかった。時には自分が振られたといって泣きついてくる。
私が仕事に出るようになってからも厄介ごとは全部私に放り投げられる。
むしろ大人になってからがトラブルのスケールが大きくなっていき、うんざりしつつもひたすら受け入れた。
本物の姉妹だったら「自分でやりなさい」「知っちゃこっちゃないわよ」とむしろ突き離したかも知れない。
でも私は「お姉ちゃん」としてひたすら埋められないものを埋めようとしていた。
それは本当に私たちが「家族」として在るしかなくなったからもあった。
6
はじまりは五回目の結婚記念日の旅行だった。
驚いたことに父と母は自分たちだけで記念旅行に出かけると言い張った。
それまでは家族の距離を埋めるためにもむしろ積極的に皆で出かけることが多かったのだ。
「なんで~、わたしも行く」
駄々をこねる莉奈に父は幸せそうに笑ってさとした。
「今回だけは二人水入らずで行かせてくれ」
義母さんも笑って賛同した。
「結婚記念日なのよ、おねがい」
私は反対しなかった。
こんな風に私たちを放っておけるのももう家族になった証だった。
そうして二人は出会った思い出のある逗子海岸に向かっていった。
親戚のおじさんから「お父さんたちが事故に遭った」と連絡がきたのは翌日夜遅く。
莉奈はとうにベットに入っており、私は夜更かししてリビングで洋画のDVDを見ていた。
普段はおっとりした性格のおじさんが切羽詰まった声だったのが、切迫した状況を感じさせた。
「父さんたち、大丈夫ですよね?」
問う私におじさんは声を濁して答えない。
「……とにかく早く病院に来てくれ」
とただ繰り返すだけだった。
病室に並んだ激しく傷付けられた身体を見て一瞬で私は理解した。
新しい家族は失われたのだと。二度と取り戻せないものが増えたのだと。
泣き崩れる私に、おじさんと救助にあたった消防団員の人は説明してくれた。
二人が車ごとがけ下に落下したこと、現場は地盤がゆるく、たびたびがけ崩れなどが起きていた場所、役所も何度も陳情されていたが、予算や人員の関係で看板やガードレールなどを設けるだけで済ませていたという。
父さんたちは崖のガードレールぎりぎりまで車を寄せて景色を見ようとしていたとの話だった。
危険なので地元では近付く者が少ない場所で、「警告の看板はあったんだが、曇り空と景色に気を取られたんだろう」とおじは言った。
元の地盤の悪さに先月の台風で土地は荒れ、車の重みは記念日の二人を奈落に引きずり込んだと。
腕の中で泣く莉奈を抱えて私はただただ現実を受け入れられなかった。
思ったより私たち「家族」は上手くいった。
世間では義母による虐待やネグレクトの話も珍しくないみたいだけど、私たちの間ではそうしたことはなかった。
ただそれでも乗り越えられない小さな溝のようなものは心のどこかに感じていた。
物心つかない時に一緒になってれば別だったかもしれない。しかし義母さんも私も成長してしまってる。仕方なかった。
お互いにそれを感じていながら私たちはそれを意識しないよう振舞ったし、それは
大きなわだかまりとはならなかった。
なによりそれは莉奈の存在があったからかもしれない。
どこか遠慮があった私と違い、いつもあけっぴろげで感情を丸出しにする妹。
「パパー、お土産買ってきてくれるって言ったじゃない!」
「すまん、忙しくてな」
義理の間柄でも関係ない。
すぐに「パパ」になじんだ莉奈は、はたから見たら本当の親子のようになっていた。
天真爛漫で裏表もない性格。全力で本音で相手にぶつかる妹。
それがかえって本物の家族のふれあいとなった。
どこか私たちは莉奈が中心に回ってるようなところもあった。
同居する前に父から言われたこと。
「おまえがお姉ちゃんなんだから。守ってやるんだぞ」
義母さんも同じことを言った。
「莉奈を守ってあげてね」
家族……
つながっていない部分をつなげるように、私の人生は莉奈と二人で一つになった気がした。
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「おねーちゃん、聞いて! ひどいのよあの子」
「なに、櫂君のこと?」
明るく人懐っこく、誰にでもオープン。お人形のように愛らしい顔立ち。
妹は成長するにつれ男の子から人気となり、デートの相手にも不足しない。しかしあけっぴろげで感情を隠さない性格は時に周りを振り回す嵐ともなる。
ボーイフレンドができたかと思うと喧嘩別れ。デートまでこぎつけてもトラブル続き。気分次第で付き合う相手も変える。振り回される男の子もかわいそうだった。
「あいつ最低! もう別れるから」
「別れるって、あんた、付き合ってまだ三日目でしょうが」
「だって~私服もダサいし、ぜんぜん気がきかないし、いっつもモタモタしてる頭来ちゃって。あんなのパス」
「長く付き合えばね、相手のいい所だって見えてくるのよ」
「無理。ねっ、だからお願い」
莉奈は拝むまねをして、ここで私にお鉢がまわってくるのだ。
別れを告げるのは誰でも気まずい。もめる。
だから嫌なことは「お姉ちゃん」にやってもらうというわけだ。
若い学生ばかりだから別れを告げる時にはややこしい。
ショックで泣きそうになる男の子や、パニックになって莉奈を出してくれと叫ぶ子。
交際経験が豊富ではなかった私が、別れ話だけは巧みになったのは皮肉としか言いようがない。
恋、お金、服、下宿……
大人になっても莉奈は変わらなかった。時には自分が振られたといって泣きついてくる。
私が仕事に出るようになってからも厄介ごとは全部私に放り投げられる。
むしろ大人になってからがトラブルのスケールが大きくなっていき、うんざりしつつもひたすら受け入れた。
本物の姉妹だったら「自分でやりなさい」「知っちゃこっちゃないわよ」とむしろ突き離したかも知れない。
でも私は「お姉ちゃん」としてひたすら埋められないものを埋めようとしていた。
それは本当に私たちが「家族」として在るしかなくなったからもあった。
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はじまりは五回目の結婚記念日の旅行だった。
驚いたことに父と母は自分たちだけで記念旅行に出かけると言い張った。
それまでは家族の距離を埋めるためにもむしろ積極的に皆で出かけることが多かったのだ。
「なんで~、わたしも行く」
駄々をこねる莉奈に父は幸せそうに笑ってさとした。
「今回だけは二人水入らずで行かせてくれ」
義母さんも笑って賛同した。
「結婚記念日なのよ、おねがい」
私は反対しなかった。
こんな風に私たちを放っておけるのももう家族になった証だった。
そうして二人は出会った思い出のある逗子海岸に向かっていった。
親戚のおじさんから「お父さんたちが事故に遭った」と連絡がきたのは翌日夜遅く。
莉奈はとうにベットに入っており、私は夜更かししてリビングで洋画のDVDを見ていた。
普段はおっとりした性格のおじさんが切羽詰まった声だったのが、切迫した状況を感じさせた。
「父さんたち、大丈夫ですよね?」
問う私におじさんは声を濁して答えない。
「……とにかく早く病院に来てくれ」
とただ繰り返すだけだった。
病室に並んだ激しく傷付けられた身体を見て一瞬で私は理解した。
新しい家族は失われたのだと。二度と取り戻せないものが増えたのだと。
泣き崩れる私に、おじさんと救助にあたった消防団員の人は説明してくれた。
二人が車ごとがけ下に落下したこと、現場は地盤がゆるく、たびたびがけ崩れなどが起きていた場所、役所も何度も陳情されていたが、予算や人員の関係で看板やガードレールなどを設けるだけで済ませていたという。
父さんたちは崖のガードレールぎりぎりまで車を寄せて景色を見ようとしていたとの話だった。
危険なので地元では近付く者が少ない場所で、「警告の看板はあったんだが、曇り空と景色に気を取られたんだろう」とおじは言った。
元の地盤の悪さに先月の台風で土地は荒れ、車の重みは記念日の二人を奈落に引きずり込んだと。
腕の中で泣く莉奈を抱えて私はただただ現実を受け入れられなかった。
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