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第3話
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7
帰宅するとシャワーを浴びてからソファに横になる。
テーブルに置いたペンダントを取り上げ、中の写真を見る。
二度と撮れない家族みんながそろった写真。時はあの頃で止まっている。
ペンダントを胸において手探りで携帯を取り上げる。
(……また男の話か、使いすぎでお金を貸してくれってところかしら)
仕方ない。
今はもう莉奈は私しかいない。
私だって莉奈だけだ。
過去を乗り越えて今は笑えるようになったのだ。
莉奈がいなかったら私だってどうなってたかもしれない。
高校を卒業してから私は服飾デザインの専門学校に通いアパレルに就職した。
「亜矢ちゃんは学校の成績も良いんだろう。大学にいったらどうだい」
と父の世話になっていたおじさんは援助まで申し出てくれたが、断った。
「大学は莉奈が行きたいといってるので莉奈を助けてあげてください」
「……莉奈ちゃん、成績の方は大丈夫なのかい?」
「莉奈は行きたがってるので。お願いします」
こうして莉奈は都心のミーハーな女子大に通い、私は仕事に打ち込んだ。
学部を卒業してもまだ就職したくないらしく、莉奈は形だけ大学院に所属している。
そっと携帯を発信させて耳にあてる。
もう私の人生は自分だけのものじゃない。私たちは二人でひとつ。
かけがえのない、失えない家族……
8
莉奈がテーブルに置いた写真にしばらく言葉が出なかった。
(……珍しく今回は“当たり”じゃない)
「どう、素敵でしょ」
莉奈は得意そうに胸をそらす。莉奈の電話は泣き言でも愚痴でもなく「会ってほしい人がいるの」との話だった。
「またもめごとじゃないでしょうね」
皮肉っぽく尋ねる私に莉奈は口をとがらせる。
「ちがうの。今度は真剣な付き合いだから……」
(……付き合うたびに同じこと言ってるじゃないの)
そう言いたい気持ちを抑え、莉奈の勢いにのせられるように昼休みに都内のレストランに招く。
「槇岡美津まきおかみつって名前。カッコだけじゃないのよ。やり手のビジネスマン。それにすっごいお金持ちなの。引っ張っていってくれるタイプで……もうメロメロ」
愛しくてたまらないという風に莉奈は笑う。
「はいはい」
一度夢中になると周りが見えない。
誰かに恋に落ちるたびに夢見る乙女の顔になる。しかも今回は瞳の輝きが一段と違う。
「でもいい男なのは確かね」
写真を取り上げて改めて眺め透かす。オールバックにきめた髪。白皙でありながら引き締まった顔立ち。精悍でイケメン俳優として主役をはれるだろう。どこかで見たような気もする。
「でしょ! 美津は会社も経営してるのよ」
胸元までの写真だがスーツがベルサーチなのはみてとれた。
「えらくいい人見つけたわね」
「うふふ」
無邪気に喜んでる莉奈に少し不安もきざす。騙されて遊ばれてる怖れもある。
「……あんたね」
あんまり考えなしだと若い時みたいに痛い目にあうわよ。そう言いたくなるが口をつぐむ。いらぬお説教かもしれない。
手を組みながら莉奈は照れたように言う。
「今回はね、彼氏の紹介だけじゃないのよ」
「……なに?」
「ものすごいサプライズ」
「だからなによ」
莉奈はいたずらっぽい目つきで私を見上げる。両手で私の手をつつんだ。
「あのね……」
思わせ振りに身体をくねらせる。
「気持ち悪いわね。早く言いなさいよ」
頬が赤らんでる。恥らってる? 珍しい。
莉奈はそっと顔を私の耳に近づけた。
「プロポーズされたの」
声をあげて莉奈はテーブルの上で身もだえた。
「プロポーズって……」
絶句する。もうそんなところまで進んでるなんて。
「うーん、ちょっと急すぎない?」
ひまわりのような満面の笑みの莉奈に、水を差すのはためらわれた。
しかし結婚となると冗談ごとでは済まない。たやすくスルーできないわ。
無警戒なお嬢様になっている莉奈……。
「OKしたの?」
「もちろんよ! 式をすぐあげるとかじゃないの。約束だけでもお願いって」
「…………」
全身からこぼれおちるように喜びを発散している。文句をつけるのがためらわれるほど幸せの絶頂だ。
どうすればいい?
反対したら大泣きして大喧嘩になるのは目に見えてる。
「事情は分かったわ。まだ婚約段階なのね?」
「そう」
「ほら、でも結婚って大事なことでしょう? 莉奈はまだ若いし」
遠回しに焦らないように仕向けないといけない。
だいいち大学院に籍だけはある。まだ急ぐまでもない。なんとかしないと……
「……いつか三人で会いたいわ」
「うん。今日はそのことも兼ねて。美津にお姉ちゃん紹介するって言ってある」
見過ごせない。武者震いのような父親になったような錯覚に襲われる。
莉奈には私しかいない。転げ落ちそうになったら私が止めないといけない。
「そうね。どんな人か一回会ってみたいわね……ほら、莉奈。あんたもまだ二十四でしょ。あせることはないわ。じっくり考えればいいの」
「わたしだって考えてる。考えて決めたの」
「…………」
恋に夢中になってる乙女に説教臭いことを言っても無意味だ。特に莉奈には。
爪を噛みたいような焦燥感が背筋を走る。
結婚の話となると私も未経験、すぐに答えは出せない。
誰か頼れる大人のアドバイスが欲しかった。
父さんだったらなんて言うだろう…… 天涯孤独の寂しさが身にしみた。
帰宅するとシャワーを浴びてからソファに横になる。
テーブルに置いたペンダントを取り上げ、中の写真を見る。
二度と撮れない家族みんながそろった写真。時はあの頃で止まっている。
ペンダントを胸において手探りで携帯を取り上げる。
(……また男の話か、使いすぎでお金を貸してくれってところかしら)
仕方ない。
今はもう莉奈は私しかいない。
私だって莉奈だけだ。
過去を乗り越えて今は笑えるようになったのだ。
莉奈がいなかったら私だってどうなってたかもしれない。
高校を卒業してから私は服飾デザインの専門学校に通いアパレルに就職した。
「亜矢ちゃんは学校の成績も良いんだろう。大学にいったらどうだい」
と父の世話になっていたおじさんは援助まで申し出てくれたが、断った。
「大学は莉奈が行きたいといってるので莉奈を助けてあげてください」
「……莉奈ちゃん、成績の方は大丈夫なのかい?」
「莉奈は行きたがってるので。お願いします」
こうして莉奈は都心のミーハーな女子大に通い、私は仕事に打ち込んだ。
学部を卒業してもまだ就職したくないらしく、莉奈は形だけ大学院に所属している。
そっと携帯を発信させて耳にあてる。
もう私の人生は自分だけのものじゃない。私たちは二人でひとつ。
かけがえのない、失えない家族……
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莉奈がテーブルに置いた写真にしばらく言葉が出なかった。
(……珍しく今回は“当たり”じゃない)
「どう、素敵でしょ」
莉奈は得意そうに胸をそらす。莉奈の電話は泣き言でも愚痴でもなく「会ってほしい人がいるの」との話だった。
「またもめごとじゃないでしょうね」
皮肉っぽく尋ねる私に莉奈は口をとがらせる。
「ちがうの。今度は真剣な付き合いだから……」
(……付き合うたびに同じこと言ってるじゃないの)
そう言いたい気持ちを抑え、莉奈の勢いにのせられるように昼休みに都内のレストランに招く。
「槇岡美津まきおかみつって名前。カッコだけじゃないのよ。やり手のビジネスマン。それにすっごいお金持ちなの。引っ張っていってくれるタイプで……もうメロメロ」
愛しくてたまらないという風に莉奈は笑う。
「はいはい」
一度夢中になると周りが見えない。
誰かに恋に落ちるたびに夢見る乙女の顔になる。しかも今回は瞳の輝きが一段と違う。
「でもいい男なのは確かね」
写真を取り上げて改めて眺め透かす。オールバックにきめた髪。白皙でありながら引き締まった顔立ち。精悍でイケメン俳優として主役をはれるだろう。どこかで見たような気もする。
「でしょ! 美津は会社も経営してるのよ」
胸元までの写真だがスーツがベルサーチなのはみてとれた。
「えらくいい人見つけたわね」
「うふふ」
無邪気に喜んでる莉奈に少し不安もきざす。騙されて遊ばれてる怖れもある。
「……あんたね」
あんまり考えなしだと若い時みたいに痛い目にあうわよ。そう言いたくなるが口をつぐむ。いらぬお説教かもしれない。
手を組みながら莉奈は照れたように言う。
「今回はね、彼氏の紹介だけじゃないのよ」
「……なに?」
「ものすごいサプライズ」
「だからなによ」
莉奈はいたずらっぽい目つきで私を見上げる。両手で私の手をつつんだ。
「あのね……」
思わせ振りに身体をくねらせる。
「気持ち悪いわね。早く言いなさいよ」
頬が赤らんでる。恥らってる? 珍しい。
莉奈はそっと顔を私の耳に近づけた。
「プロポーズされたの」
声をあげて莉奈はテーブルの上で身もだえた。
「プロポーズって……」
絶句する。もうそんなところまで進んでるなんて。
「うーん、ちょっと急すぎない?」
ひまわりのような満面の笑みの莉奈に、水を差すのはためらわれた。
しかし結婚となると冗談ごとでは済まない。たやすくスルーできないわ。
無警戒なお嬢様になっている莉奈……。
「OKしたの?」
「もちろんよ! 式をすぐあげるとかじゃないの。約束だけでもお願いって」
「…………」
全身からこぼれおちるように喜びを発散している。文句をつけるのがためらわれるほど幸せの絶頂だ。
どうすればいい?
反対したら大泣きして大喧嘩になるのは目に見えてる。
「事情は分かったわ。まだ婚約段階なのね?」
「そう」
「ほら、でも結婚って大事なことでしょう? 莉奈はまだ若いし」
遠回しに焦らないように仕向けないといけない。
だいいち大学院に籍だけはある。まだ急ぐまでもない。なんとかしないと……
「……いつか三人で会いたいわ」
「うん。今日はそのことも兼ねて。美津にお姉ちゃん紹介するって言ってある」
見過ごせない。武者震いのような父親になったような錯覚に襲われる。
莉奈には私しかいない。転げ落ちそうになったら私が止めないといけない。
「そうね。どんな人か一回会ってみたいわね……ほら、莉奈。あんたもまだ二十四でしょ。あせることはないわ。じっくり考えればいいの」
「わたしだって考えてる。考えて決めたの」
「…………」
恋に夢中になってる乙女に説教臭いことを言っても無意味だ。特に莉奈には。
爪を噛みたいような焦燥感が背筋を走る。
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