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第19話
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41
助手席で揺られながら私は現実を受け入れられずにいた。
槇岡はなぐさめるように私の手を握る。
「これでいい。仕方なかったんだ。いつかはやらないといけなかったんだ」
「いいわけないじゃないでしょう! なんでばらすのよ」
「おまえに任せてたらいつまでたっても言えないだろう」
「それは……」
「ずるずる先延ばしにしても無駄だ。どのみちいつかはケリをつける時が来る。とりあえず今は時間を置くんだ」
「でも……」
「莉奈を縛っておくほうがよっぽど悪い。そうじゃないか?」
「……これからどうすればいいの」
莉奈を失いたくない。失えない。
「……この世でたった一人の家族なのよ」
涙がとどめなくあふれた。
血じゃない。血のつながりがじゃない。
求めているのはあの子の……あの子の……
槇岡は大きく息を吐いた。
車を止めて手のひらで私の頬をぬぐう。
「亜矢、苦しいのは分かる。だが自分の幸せを選べ」
私の手をたたいた後でぎゅっと握り締める。
隣に座るたくましい槇岡の姿。もはや槇岡の愛もかけがえない。
私の目の前に手の平を突き出して見せる。
「何かをつかんでるのに、別の何かはつかめない。別のものがほしいなら、今つかんでる手を開け」
「……莉奈のことをあきらめろって?」
「そうは言ってない。自分が一番大切な愛をつかんでおけ」
何かを得たいなら何かを失わないといけないのだろうか。
槇岡は私を抱き寄せた。
「莉奈だけじゃない。おまえにだって自分の人生がある。おまえも不幸になるな」
「ダメよ、無理だわ。ずっと家族だったんだから……」
莉奈を失った世界は考えられない。槇岡の身体をそばに感じながら孤独と寂寥感で涙が止まらない。
「莉奈にはよくしてやる。今は受け入れられなくても時が解決する。莉奈が幸せになれるよう全力でバックアップするから。その時からまたみんなで家族なれる。莉奈を失うなんて思うな」
42
槇岡は私を車の外に連れ出した。厚い夜のカーテンの中で道沿いに大きな街灯が瞬く。
壁の向こうに海岸が遠く見えていた。
私の肩を抱きながら槇岡は夜空に目をやる。あの時の月がまた私たちを見下ろしていた。
「亜矢」
深く心にしみいるような声だった。
「亜矢、顔をあげて」
涙の中で槇岡の顔がにじむ。今の槇岡の瞳はしっかりと私を支えてくれていた。
「考え方を変えるんだ」
「……考えって」
「もう一度言う。莉奈を手離せ」
息が止まる。槇岡は私の唇に指をあてて言葉をさえぎる。
「何もそれは捨てろって意味じゃない」
槇岡の表情はいつになく真剣で、漆黒の瞳はいたわりの色さえ帯びていた。
「おまえは潔癖すぎるんだよ。だから迷ってる。俺か莉奈か、二つの愛を同時に得られないみたいに思ってるんだろう?」
「…………」
私を強く引き寄せる。頬に槇岡の熱い吐息がかかる。
「いいか、一番大切な愛をつかめ。そして決して離すな。そうすれば他のも捨て去る必要ない」
「………?」
両肩をつかんでまっすぐに私を見据える。
「誰だって愛の対象はたった一人じゃない。それが人間だろう? 愛する相手への思いはかけがえない。それは確かだ。
だけど他の誰かに愛情をそそぐこともできる。それは恋じゃなくてもいいんだ」
温かく大きな両手で私の頬をはさんで上向かせる。
「愛ってのはたった一つっきりじゃない。おまえは家族を失って余計に莉奈を愛そうとしてる。
それで周りが見えなくなってるんだよ。俺を愛しながら莉奈も愛せばいい」
助手席で揺られながら私は現実を受け入れられずにいた。
槇岡はなぐさめるように私の手を握る。
「これでいい。仕方なかったんだ。いつかはやらないといけなかったんだ」
「いいわけないじゃないでしょう! なんでばらすのよ」
「おまえに任せてたらいつまでたっても言えないだろう」
「それは……」
「ずるずる先延ばしにしても無駄だ。どのみちいつかはケリをつける時が来る。とりあえず今は時間を置くんだ」
「でも……」
「莉奈を縛っておくほうがよっぽど悪い。そうじゃないか?」
「……これからどうすればいいの」
莉奈を失いたくない。失えない。
「……この世でたった一人の家族なのよ」
涙がとどめなくあふれた。
血じゃない。血のつながりがじゃない。
求めているのはあの子の……あの子の……
槇岡は大きく息を吐いた。
車を止めて手のひらで私の頬をぬぐう。
「亜矢、苦しいのは分かる。だが自分の幸せを選べ」
私の手をたたいた後でぎゅっと握り締める。
隣に座るたくましい槇岡の姿。もはや槇岡の愛もかけがえない。
私の目の前に手の平を突き出して見せる。
「何かをつかんでるのに、別の何かはつかめない。別のものがほしいなら、今つかんでる手を開け」
「……莉奈のことをあきらめろって?」
「そうは言ってない。自分が一番大切な愛をつかんでおけ」
何かを得たいなら何かを失わないといけないのだろうか。
槇岡は私を抱き寄せた。
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「ダメよ、無理だわ。ずっと家族だったんだから……」
莉奈を失った世界は考えられない。槇岡の身体をそばに感じながら孤独と寂寥感で涙が止まらない。
「莉奈にはよくしてやる。今は受け入れられなくても時が解決する。莉奈が幸せになれるよう全力でバックアップするから。その時からまたみんなで家族なれる。莉奈を失うなんて思うな」
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槇岡は私を車の外に連れ出した。厚い夜のカーテンの中で道沿いに大きな街灯が瞬く。
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私の肩を抱きながら槇岡は夜空に目をやる。あの時の月がまた私たちを見下ろしていた。
「亜矢」
深く心にしみいるような声だった。
「亜矢、顔をあげて」
涙の中で槇岡の顔がにじむ。今の槇岡の瞳はしっかりと私を支えてくれていた。
「考え方を変えるんだ」
「……考えって」
「もう一度言う。莉奈を手離せ」
息が止まる。槇岡は私の唇に指をあてて言葉をさえぎる。
「何もそれは捨てろって意味じゃない」
槇岡の表情はいつになく真剣で、漆黒の瞳はいたわりの色さえ帯びていた。
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「…………」
私を強く引き寄せる。頬に槇岡の熱い吐息がかかる。
「いいか、一番大切な愛をつかめ。そして決して離すな。そうすれば他のも捨て去る必要ない」
「………?」
両肩をつかんでまっすぐに私を見据える。
「誰だって愛の対象はたった一人じゃない。それが人間だろう? 愛する相手への思いはかけがえない。それは確かだ。
だけど他の誰かに愛情をそそぐこともできる。それは恋じゃなくてもいいんだ」
温かく大きな両手で私の頬をはさんで上向かせる。
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