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エリカはいいことを思いついた

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4階の倉庫に置かれていた呪文スクロールで《浮遊》と《伝心》を習得したエリカ。 エテルニウム製の剣を求めて5階を探し回ったが、5階でもエテルニムの剣は見つからなかった。

「エテ剣見つからないなー。 依頼人がウソ付いてた可能性が濃厚になってきた」

途方に暮れたエリカは大胆にも、この塔にいる人に話しかけてみることにした。 できれば自分の存在を知られたくなかったが、エテルニムの剣が入手できなければ話にならない。

「さっきの部屋で見かけた女の人にしよう」

男だらけのこの塔にあって、エリカが先ほど足を踏み入れた部屋には女性が1人で居た。 身なりや雰囲気から、特殊な立場にある人物である可能性が濃厚だ。

さっきの部屋のドアの前まで来て、エリカはいいことを思いついた。

「いいこと思いついた! さっき覚えた《伝心》の呪文を使ってみよう」

エリカはドアの前で呪文を唱え始める。 エリカの声は誰にも聞こえないから、詠唱の声を誰かに聞かれることもない。

「トキメキドキドキトルキリティス オトメノハートドキンチャン。 私の思いよ貴方に伝われ。 でんっ、 しんっ!」

《伝心》の準備を終えたエリカはドアを開けて部屋に入った。 室内は書斎といったおもむきで、大きな机と椅子、そしてたくさんの書物が詰まった本棚と小さなソファーが置かれている。

エリカは、机に向かって書き物をしている女性の背後に忍び寄った。 若い女性だ。 カール気味の金髪を胸まで垂らしている。

エリカは前触れ無くいきなり《伝心》で尋ねた。 

『エテルニウムの剣はどこにあるの?』

相手が驚くだろうという計算もあってのことだ。

「あら? 《伝心》の魔法?」

(おっ、伝わった。 《伝心》成功。 でもこの人、驚いてないみたい)

「姿が見えないのは《認識阻害》かしら? でも呪文を同時に2つ使うなんて不可能じゃ...」

(状況を冷静に分析してる。 手強いわね、この女)

『いいから答えなさい。 エテルニウムの剣はどこ?』

「無いわよ、そんなもの」

『嘘おっしゃい!』

エリカは尋問が下手であった。 尋問用のカッコいいセリフが出てこないのだ。

「嘘じゃないわ。 剣を作れるほどの量のエテルニウムを集められるはずないでしょう?」

『じゃあ、えーと、あの金属のモンスターは? あれにエテ剣を守らせてたんじゃないの?』

「あれはセキュリティ・ドール。 私が開発した... 魔道具のようなものね。 警備用の人形よ」

『どうしてハンターを殺したの?』

「凶器を手にした侵入者が自宅に押し入ってきたんだもの。 正当防衛よ。 それよりあなた、もしかしてファントムさん?」

『まあね』

「ファントムさんが、どうして我が家に?」

『ハンター協か... いえ、それは秘密』

女は何も言わないが、何かを理解した様子。

「お帰り願えるかしらファントムさん。 私は忙しいの」

『まだ帰るわけにいかないわ。 証拠...』

「証拠? 」

(あぁん、思考が漏れちゃう。 《伝心》に不慣れなせいね)

「使い慣れてないのね。 覚えたばかり?」

(さっき)

「さっき? 倉庫に置いてあるスクロールを使ったのかしら?」

(くっ)

「それって泥棒よね」

『ごめんなさい』

「《伝心》の他にもスクロールを盗んだんじゃなくって?」

(考えちゃダメよ、エリカ。 心を無にするの。 精神統一、煩悩退散)

「そう、エリカさんというお名前なのね。 ファントムさんにも名前があるんだ?」

(あぅ、私の個人情報まで。 《伝心》の効果はいつ切れるのかしら)

「もうすぐ切れるわ」

(そうなの? よかった)

「それで他にどんなスクロールを盗んだの?」

(《解毒》は習得できなかったから《浮遊》だけ申告すればいいかな?)

「習得できなかったって?」

『3つ目で気分が悪くなって...』

「スクロールを1日に3つも使うなんて、ファントムさんはおバカさんなのかしら?」

(わたしはバカじゃない。 無知だっただけ)

「スクロール以外に盗んだものはある?」

『ありません』

「そう? じゃあ、もう帰っていいわ」

『はい。 すみませんでした』

「いいのよ。 あなたが盗んだスクロールは私からのプレゼントということにしてあげるから、迷惑な依頼を出さないようハンター協会によく言っておいてね。 この塔は私の家なんだから」

『わかりました。 じゃあ失礼します』

エリカは謎の女性の寛容さに感謝しつつ、大人しく塔を去った。
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